096.ガンツへ
それから出発までの二日間はあっという間に過ぎ去った。
翌日にゲルトナー大司教への出発の挨拶に行くと領地に派遣してもらえる司祭を紹介された。
急な決定にもかかわらず志願してくれた司祭とシスターが居たとの事で、同行してもらえる話となったのだ。
「彼が『イサク』だ 司祭の中では優秀でゆくゆくは私の後を継いでもらいたいと思っていたが、今回志願して参加することとなった」
「イサクと申します、今年二十二歳になります。コリント卿の開拓の話を聞き是非にと希望させていただきました。新しく建立される教会でお勤めができるなど女神さまの思し召しです」
「よろしく、イサク。まずはルミナス様の像を作ることが最初の仕事になる
職人たちとよく打合せして立派なものになるように頼む」
「わかりました。この身に代えても通して見せます」
「続いてシスターはこちらの五人です」
『ソフィア』黒髪のおかっぱ、丸い顔
『ミア』 茶髪で左分け、そばかすあり
『アメリア』細身で背が高く黒髪ボブ
『ハーパー』赤髪、長身、モデルスタイル
『エブリン』教育係40代
「シスターたちには少し苦労を掛けますが、午前中は子供たちに読み書き算数を教えていただきたい
わが領地では識字と四則演算は最低限必要と考えております」
「「「「「判りました、コリント卿の開拓に協力できるなど最高です」」」」」
ここ最近の王都での評判もあって志願してもらえたようだ、ありがたい。
イーリスにはすでに教会の建設を依頼してあるので問題はないだろう。
流石に女神像だけは汎用ボットに作らせるのはどうかと思い職人に作らせるつもりで準備していない。
宿に戻ると留守の間にユリアンが手紙を持って来て待っていた。
話した感じでは聡いので、少し悩んでカトルの配下にした。
近からず遠からず目の届くところなので丁度いい。
宰相の方はエルヴィンと連絡が取れなくなり混乱しているようなので、出発までに何かちょっかいを出される事はないだろう。
出発時に混乱させられることは避けたかったので丁度いい。
さらにはガンツ伯へ渋々挨拶に向かう。
いけ好かない感じだったがこれも付き合い仕方ないと諦めて愛想笑いで乗りきった。
翌々日には職人ギルドと孤児の方も予定通り準備が済んだと連絡があり、先行隊の到着に合わせて二日目の夜に王都正門前の広場に集合するよう手配する。
ロベルトの先行隊計一千五十二名
職人とその家族に文官他九百五十名
孤児五百名
冒険者達百五十名
合計計二千六百五十二名
王都前の広場は先行隊に物資を渡す商人、ちゃっかり屋台を出す奴や物売りを含めてごった返している。
守備隊に通達を出してあったため、王都の外だというのに警備が強化されており治安に問題はない。
まぁそもそも怪しいやつらはほぼ捕まえてしまっているので。
◇◇◇◇◇◇◇
出発日早朝、王都前の広場に向かう。これだけ集まるとさすがに壮観だ。
と広場を見渡しているとクレリアとエルナが近寄って来た。
「アラン、出発の挨拶をしてね」
「え? リアがやらないのか?」
「辺境伯の先行隊だけならともかく多くはアランの領地に入植するメンバーでしょ? アランがやるべきだ」
うむむ、そう言われればそうか。
サテライトのメンバーに命令し、集合してもらうよう連絡する。
集まったところで馬車の荷台の上で演説することになったが、後ろのほうは聞こえないよなこれ?
まあ良いか、こう言うのは雰囲気が大事だからな。
「皆の者、コリント卿より御言葉がある。傾聴せよ!」
ダルシム副官の言葉で皆が跪く。
「シャイニングスターのアランだ。みんなよく集まってくれた。感謝する。
途中慣れない旅路に困難することもあるかと思うが準備は万全だ。安心してくれ。
予定通りまずは職人とその家族から出発する。サテライト一班の指示に従って遅れれることの無いように。
これよりわが領地に向かう、出発!」
うおぉぉぉ!
おっとものすごい歓声だ! とはいってもこの後は粛々と出発するだけなのだが。
まずはシャロンとサテライト一班と各種手配を商人部隊が先行し、それに職人とその家族が続いていく。
それぞれのグループの間にサテライト二班から五班と冒険者達がパーティ単位で入り、魔物などが出た場合は対処を行う手はずだ。
セリーナとシャロンを分けることにするのは随分悩んだが、迅速に対応を行うためには通信できる二人を配置せざるを得なかった。
(ディー・ワン、先行して問題になりそうな魔物は全てシャロンに報告しろ)
(ディー・ツー、中間地点の上空で監視、問題になりそうな魔物で街道から見えないものはすべて始末しろ)
(ディー・スリー、先行隊の上空で監視、同様に問題になりそうな魔物はすべて始末しろ)
[[[了解しました、隊長]]]
「イーリス、夜間はディー・イレブンからサーティーンで交代するように頼む」
「了解しました 艦長」
「セリーナ、シャロン、よろしく頼む」
「「まかしてください」」
職人に続いて出発するのは孤児たちだ。このグループは最後に決まったため馬車の手配がギリギリとなりかなり無理をして馬車に詰めている。
ぎゅうぎゅう詰めで馬車から零れ落ちそうなのはどうかと思うが、歩かせるわけにはいかないので仕方ない。
孤児たちの出発を見送った後に、見送りに来てくれていたヘルマンと守備隊のメンバーに挨拶して
「よしじゃぁ俺たちも出発するか」
と声をかけクレリアとエルナ、それにサテライト六班で出発する。
その後はロベルトたち辺境伯軍の先行隊だ。こちらは連日の移動の疲れの回復と物資の補給のため最後の出発とした。
サテライト七班と八班が間に入り、セリーナとサテライト九班がしんがりで進むことなっている。
早朝からの出発を始めたが何せ二千六百名からの移動だ、最後尾のセリーナから出発したと連絡が来た頃にはもうかなり日が昇っていた。
「行程は無理なく組んでいるとはいえ、途中遅れるメンバーもいるはずだから注意しないとな」
ガンツから王都に向かった時は二十七日の予定だったが、三十日でガンツに着く予定とした。
移住者たちは人数も多く一度に移動するのは難しいところもあるため余裕を見て三十五日~三十七日と設定している。
途中の宿泊や野宿の場所を考え最終的には数日かけて領地にたどり着く計画にした。
「アランが立てた計画は完璧なのだからもっとゆったり構えてほしいわね」
「そうですよ」
クレリアとエルナは無事出発まで漕ぎ着けたことですっかり安心しきっている。
そこから先ガンツまでの行程で不確定要素なのは天候、魔物、盗賊、宰相による襲撃だ。
体調不良や馬車の故障なども考慮する必要があるので、俺は安心できないんだよなぁ。
結論から言うとその後の行程は恐ろしく順調だった。
盗賊に関して言えばこれだけ途切れなく移動していれば襲撃をためらうのだろう。ドローンが探知したのは街道から離れたアジトと思われる場所だけであったので仕方なく放置した。
また襲撃に関してはエルヴィンがうまく抑えたようで私兵の動きがありそうで止まったとイーリスから報告を受けている。
そしてカトル達商人組の手配は本当に見事で、道中食事の手配が漏れることも、飼葉が足りなくなることもなかった。
さすがに王都への移動のような食事は無理だったが、魚を釣って食べるくらいは楽しめた。
セリーナとシャロンが悔しがるだろうから内緒だ。
移動中、夜はクレリアやエルナに統治体制を相談する。
エルナは領地経営については知識がないことは早々に判明したので、騎士団系の話を聞いている。
この世界では女性でしかも騎士であれば一般的な教育を受ける機会はほぼ無いようだ。
クレリアは王族としての教育を受けているようで基本的なことは理解しているが、王族視点なので細かいことまでは判らない。
統治体制の大枠は決めたのでガンツに着いたらライスター卿も交えて問題ないか検討しよう。
シャイニングスターは基本騎士の集まりなので、文官の組織立ち上げについては苦労しそうだ。
シャロンとクレリアを中心にしてロベルトライスター卿を補佐に組織していく感じだろうか。
それ以外ではセリーナ、シャロン、イーリスとAR会議で孤児の対応と教育については検討を行う。
こちらの問題も待ったなしだ。
孤児と職人の子供を合わせると今回の三分の一が対象になる。
ああ、あそこで折れたのは失敗だった。本当に参ったなぁ。
何はともあれ最低限読み書きと足し算引き算は出来ないとどうにもならない。
教師については辺境伯軍の中からの選抜とシスターに役割を依頼する事とする。
可能であればガンツでも人を集められないかサイラスさんに相談しよう。
出発してから二十日目が過ぎたところで、しんがりのセリーナがロベルト男爵と数名の文官を連れて合流してきた。
予定ではそのまま隊列を追い越して、ガンツへ先入りすることにしている。
馬車の追い越しには少し気を使うが、まだ街道は狭くないので追い越しには可能だ。
その日の夕方に先頭の野営地へ到着した。
「ダルシム副官、順調そうだな」
「アラン様の立てた計画は完璧でしたからね
ここまで天候も持ったのも大きいです ルミナス様の祝福でしょう」
野営地で馬を止めると早速トイレ作りだ。
別行動だったセリーナとシャロンは土魔法に関してはまだ思うようにならないらしく、かなりストレスだったようだ。
その間に四人は釣りを楽しんでいる。
放っておくと日が暮れるまでやるので、五匹釣ったところで切り上げるように伝えてあるが楽しそうな歓声が聴こえてきた。
夕食の後でダルシム副官やカトル達とこの後の日程について確認するが順調なのであまり話すことはなかった。
明日から隊列を率いるのが六班になるため一班からの引継ぎを行ってこの日は終わった。
◇◇◇◇◇◇◇
夜は定例の航宙軍会議をおこなう。クレリアから得た情報とイーリスが収集した情報とすり合わせて大まかな構想を立てる。
セリーナとシャロンは学校の運営に関して議論をしている。
後は先遣隊の文官たちと打合せて細かい組織を構築する必要があり、作業の多さに頭を抱えたくなった。
三年後には納税も始まる。王都での文官経験者の募集も手配しておかないとな…………
などと会議後に別途そのあたりの指示をイーリスに行っていると
[艦長 領主として組織の体制については慎重にかつ明確に決定されなければなりません]
とイーリスから話が出た。
(何だ?)
[領地の為政者としての艦長の立場と、今後のクレリアの立場と地位が明確でないと、新しい領民と元スターヴェークの領民の間で対立と混乱が予想されるからです]
(ん? スターヴェークの方はリアが居るなら大丈夫じゃないのか?)
[領地の住民は為政者としての艦長=コリント男爵に従う義務がありますし、クラン内ではすでに艦長とクレリアがスターヴェーク王国の共同統治者となることは共通の認識ですので問題はありません
しかしその事を現時点で公にすることは王国に盾突く宣言なので領民にそれを示す事は不可能です
そうなるとクレリアの立場は単にシャイニングスターパーティーメンバーでクランの四番手以降という立場にしかなりません]
(確かにそうか、クランの次席はセリーナだし、その次はシャロンだ、ダルシム副官もいるし……)
[人が集まれば領主としての艦長を慕う民と、スターヴァイン王家のクレリアを慕う民で派閥が生まれます
さらにクレリアを慕う民はスターヴェークの元国民と辺境伯の領民に分かれますので必ず対立が起こります
クレリアを慕う民たちは従うべきなのはアランではなくクレリアなのに、領民としての明確な地位はなくクランとしては四番手以降にあることに不満を持つでしょう
それを防ぐため領内でのクレリアの立場が明確化する必要があります]
イーリスに一気にまくしたてられたが反論する余地はなく頭を抱えるしかない……
(……あまりに難題過ぎないか?)
[そうでしょうね。しかしこれは領地運営をするには避けて通れない第一歩です
現時点ではシャイニングスターとしての統治が効いていますので、具体的にはスターヴェークからの移民が来るまでの、おおよそ三ケ月から半年以内に領内でのクレリアの明確な立場を決定してください]
(…………分かった、その件は優先度の高い検討課題にする)
[一番簡単な方法はありますが、オフレコとして提案を聞いていただけますか? ]
イーリスがとニヤニヤと笑っているような顔で言う。
オフレコって記録に残したく無い提案て何だ、
その表情からは嫌な予感しかしないが、聞くしかない。
(…………オフレコの提案を了承する その方法とは?)
[それは艦長が正式にクレリアを婚約者とすることを宣言することです]
その言葉を脳が理解するのに一息必要だった。
(…………婚約って!!! 俺がクレリアと結婚するってことか!!!?)
[そうです セリーナとシャロンには可哀そうですが、現時点でクレリアの立場を明確にする一番の解決案です]
(待て待て待て、クレリアは妹みたいなものだし、そもそも相手の同意が必要なことだぞ!)
頭が混乱している。そして何故セリーナとシャロンが出てくる!?
[艦長は全く気づいてませんが、クレリアはそのつもりですよ]
(え! 何時そんなことになったんだ!? そんな話したこともないぞ!)
[やはり艦長は男性として問題がありますね、共同統治を申し込んだときのクレリアの反応を覚えてますか? ]
あの時はたしか宿で共同統治を提案して、そういえばクレリアは急に顔を真っ赤にしてあたふたしはじめたことを思い出した。
(…………まさか『ア、アランは私でも構わないの?』ってそう言うことなのか!)
[立派なプロポーズでしたよ、艦長が意識していないこと以外は]
イーリスがとニヤニヤとものすごく嬉しそうな顔でおもいっきり弄ってくる。
(…………なんて言うことだ)
自分のうかつさと恥ずかしさに通信を切りたくなる。
穴があったら入りたいとはこういうことか。
[と言う事で婚約発表さえしてしまえばクレリアの立場は解決可能です
艦長はクレリアを相手として受け入れれないとお考えですか? ]
(いやいやそんなこと考えたことないぞ)
[ちなみにセリーナとシャロンに帝国軍の方針を伝えた時の話も覚えてますか? ]
(…………何のことだ?)
[帝国軍の増員についての質問に艦長は『俺と君達の息子や娘は、きっと帝国軍を引っ張っていく人材になるに違いない』と伝えました]
(…………言った記憶がある)
[『俺【と】君達の息子や娘』はどう解釈しても艦長と二人の間に生まれた子供たちの事です]
(…………いや流石にそれはない、部下を口説くとかそんなつもりはないぞ)
[二人はその言葉を意識して了承していますよ
今更『俺【や】君たち』だったなんて言い訳は難しいでしょう]
(…………そんな馬鹿な)
[幸いこの惑星の文化では一夫多妻は認められていますから本人たちが納得していれば大丈夫です]
(…………いや帝国法ではダメだろ!)
[セリーナとシャロンはクローンのため帝国籍は微妙ですし、クレリアには帝国籍はありません
それに通常帝国編入の過渡期では現地のルール適用が認められます]
(なんてこった……)
[というわけですので艦長はもっと女性の機微に注意を払ってくださいね
セリーナとシャロンは私の可愛い娘ですから、ないがしろにしない様にお願いします]
イーリスの満面の笑顔が怖い。
(……色々納得できないことだらけだが、イーリスの言い分は理解できたよ……)
[なお鈍感な艦長のために補足しますと、この惑星では十八歳で結婚し二十歳で第一子を授かることは普通です
二十歳を過ぎて結婚していない場合は何らかの問題があるとみなされる可能性があります
帝国の様に三十代で結婚するとかありませんので、ダラダラ引き伸ばしたりしないよう、彼女たちには十分配慮してください]
(……なんてこった)
[更に補足ですが、クレリアはスターヴァイン家とルドヴィーク家の両方を再興する必要があります
そのため少なくとも複数人の子供を生む義務があると思われる事は意識しておいて下さい]
(………)
[私からの話は以上です 今の会話は記録されません]
最後までニヤニヤした顔でイーリスが告げる。
(……サインアウト)
通信を切ってから激しく落ち込む。過去の自分のうかつさを呪いたい。
そして誰だよ、戦艦のAIに近所のゴシップおばさんみたいなロジック組み込んだ奴は…………
ああ自業自得とは言え全くひどい話だ。
いや、ひどいのは自分の態度だ。女性目線だと知らない間に口説きまくってたことになるじゃないか。
時々冷たい目で見られると思ってたのはこのせいか。
それからしばらくの間、彼女たちを見るたびぎこちなくなったのは言うまでもない。
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