ひと目見た印象で言えばデニスさんはその立場に見合う大変有能そうな人であった。
イーリスの評価も上々だった。
サイラスさんの手配で商業ギルドの特別応接室でデニスさんと挨拶を行っている。
「はじめまして アラン・コリントです
こちらは、クラン次席のセリーナです
もう一人は三席のシャロンです
よろしくお願いします」
「デニスです よろしくお願いしますコリント卿、セリーナ嬢、シャロン譲
噂のドラゴンスレイヤー様にお会い出来て幸せです
お二人も噂通り本当にそっくりですね」
「ありがとうございます、ドラゴンに関しては運が良かったですから」
「アラン様は見ての通り若いが、ガンツに来て半年も経たずに叙爵されるほどの逸材ですぞ
しかも陛下の覚えもいい」
サイラスさんが余所行きモードで丁寧な言葉になっているのはちょっと慣れないなと苦笑する。
「そして魔の大樹海を領地にしたのはご存知だろうが、数日後には大勢の開拓民がガンツに来るそうだ」
開拓ではないがここはあえて訂正はしないでおく。
「なんと、領地を魔の大樹海にしたとは聞いておりましたが、そこまでとは」
「そうですね、何とか来てくれそうな方々を集められたのでほっとしています」
「アラン様は簡単に言ってますが、教会の司祭とシスターも派遣されていらっしゃると聞けば、デニス様も驚くと思いますよ!」
「なんと、いやまさか、開拓前に派遣されるとは本当ですか いや、嘘をつく必要もないですね」
やはり教会が開拓中の土地に司祭を派遣するのは珍しいようだ。
「何千人も集めて実は!ってなると稀代の大ぼら吹きになれそうですけどね」
苦笑しながらそれもそうかと返す。
「いえ、サイラス様がこれだけ目をかけておられる方だ、それはないでしょう」
「司祭とシスターについても偶々です
実は王都で縁あってゲルトナー大司教と懇意になれまして
ダメもとでお願いをしたところ、大司教が支援している孤児院出身の孤児五百人を面倒見ることで、司祭とシスターを派遣してくださりました」
王都では話題になっていたことなのでここは隠さないでおこう。
「なんと大司教様とも懇意になされているとは……」
さすがにちょっと驚いてくれたようだ。
「ええ、まあでもそのために少々予算が厳しくなりましてね
大司教様からは多少ひもじい思いをさせてもいいからとは言われましたがそうもいきません
頑張って食い扶持を稼がないとと思う次第です
もしデニス様の方で樹海の素材等で必要なものがあればおっしゃってください
護衛なども受けます、元騎士なども居りますのでそれなりの方でも恥ずかしくありませんよ」
「なるほど、分かりました、それでは何かあればギルドへ依頼しておきます」
「是非よろしくお願いします」
「そういえば王都ではユルゲン様にお会いしましたか?」
「ええガンツ伯には、こちらに戻る前に王都で挨拶させていただきました」
「それは良かった、何しろ数年に一度しかこちらには戻らず、私でも滅多に会う機会がないぐらいですから」
「帰り間際ですが、アポイントが取れたのは良かったです」
「何か特別なお話はありましたか?何分私の方には連絡が来ておりませんのでしたので」
「いえ、本当にご挨拶をしたくらいで、特段話題にも触れられませんでした」
「そうですか、変なことを聞いて失礼しました」
おそらくどれくらい誠実かを確認しているのだろう。
ガンツ伯が連絡してきたことを黙っていたり、言われてないことを言われた事にしているかなら信用しないのだと思う。
ガンツ伯は盗賊狩りで迷惑を受けているとのエルヴィンの話だったが、さすがにそれまでは伝えてないようだ。
「ところで幾つかガンツ伯にお願いしないといけないことがありますが、聞いていただけるでしょうか?」
「何でしょうか?」
「一つは街の北門を再整備して開けてほしいのです」
過去魔の樹海に挑戦した貴族たちが失敗した後は閉鎖されているので、今は正門から出て引き返すように魔の大樹海へ向かっており余分に時間がかかる。
「確かに北門は締め切ったままですね、分かりましたその程度であれば私で対応が可能です」
サイラスさんが『殆ど家令のデニス様がガンツを治めているような感じだ』と言っていたのはこういうことか。
「ありがとうございます
それで北門から魔の大樹海の領地に続く道のなですが、一旦私の方で整備を終えております
このまま整備を続けるのはやぶさかでないのですが、ただガンツ領にあたる場所なので整備していいのか?と思っている次第です」
「なるほど、確かにそうですね
通常領地の境は川や峠などになることが多いので、峠を境とする旨ユルゲン様に報告しておきます
そのうえで、ガンツまでの街道の整備に関しては奥地にあるコリント領側の負担で整備する覚書を交わしましょう
これでいかがですか?」
道の整備はコストやメンツ、縄張りがかかることなので簡単には調整が利かないだろうと思っていたのだが、あっさりだった。
「我々としましては利用するのが領に関係する者たちだけなのでそれで問題ありません
ただもし今後ガンツ領内に新しい村などが出来るなら、その村の端までにするのでいかがでしょう?」
「分かりました、それでは書面を作成し後日お届けに上がります」
「ありがとうございます、クランのホームに誰かは詰めて居ますのでそちらにお願いできれば」
通行に関する依頼はこれでいいと。
「我々の領地はガンツ無くして成り立ちませんので今後ともよろしく頼みます」
「分かりました、私の力が及ぶ限りご協力します」
その後恒例のドラゴンの話と王都での話をして顔合わせは終了した。
良かった、塩対応されなかっただけ少し肩の荷が下りた。
◇◇◇◇◇
デニスさんが帰った後、サイラスさんがカリナさんを呼び五人で打ち合わせをする。
「アラン様 よろしくお願いします」
片膝つかれるのは慣れない。
「カリナ アラン様からギルドカードを受け取ってSランクに更新してくれ
お嬢様方も今後の取引で必要だからAランクで頼む」
「承知いたしました 、それではカードを預からせて頂きます」
なんといきなりランクアップらしい。
どうやらドラゴンの件が大きかったとの事だ。
「どうだった、デニス様は」
「さすが切れ者という感じですね」
「ああ、そうでなければユルゲン様が王都に籠っていられるわけはない」
「なるほど、でもそれなりに評価してもらえているようで助かりました」
「デニス様の立場では言えないが、ドラゴンの一件だけでも領地としても随分儲かったからな
素材の値段だけでない、ギルドの売り上げからの税金、他の街からの商人の宿泊費や購入費、その他もろもろ合わせるととんでもないぜ
もちろん俺もウハウハだったが、領としてはもっとだろう
そんなアランを無下にできるわけがない」
サイラスさんのこういうところは嫌いじゃない。
「それは何よりです、我々の領地はガンツ無くして成り立ちませんからね
それにガンツの商業ギルドにはお世話になりますよ、我々の街にはまだ無いですからね
しばらくはガンツ経由でないと商売もできませんので」
「そうだな、期待してるぜ」
「商売と言えばギルドの誘致ってどうやればいいのですか?」
「ふむ、ギルドか、当たり前だが商業ギルドは商業規模が大事になる
商いの額が大きくない街でギルドを構えても旨味がない
ギルドだって人を雇って運営しているからな、儲からないところは無理だ」
「なるほど、当たり前ですね」
「ギルドの支部としては五千人、支店なら一万人程度が暮らす街の商業規模が一つの目安だろう
もっとも魔の大樹海だとそもそも価値が高い素材が流通するので取り扱い額で言えばそれほど人口は必要ないな
冒険者ギルドも似た感じだろうが、職人ギルドは半分くらいが指標になる
魔術ギルドはわからん」
「そうすると今の領地は職人が多いから職人は何らかの組織が必要、そのほかはまず人口を増やせですね」
「それなんだがな、ぶっちゃけて言うと商業ギルドではすでに支店を出すことで準備を進めている
アランがすでに開拓を終えて入植者を二千六百人、さらに司祭とシスターをも連れて来ると聞いたからな」
「それはうれしい話ですね」
「領地としては違うが、こういうのはどこの街から支部を出すかで後々のギルド間での付き合いにもかかわるのでな
もっとも魔の大樹海であれば、ガンツ経由以外でアクセスは出来ないから独占だけどな」
悪そうな笑い顔をしている。
「街が大きくなり取引額が大きくなっていくと支店が本部に昇格する事になる
まぁざっくり支店の倍が目安だと思えばいい、人口二万人程度の経済圏だ」
ふむ、ゴタニアくらいか。あそこでもこの大陸としては随分栄えていた。
「わかりました、ニ万人ですね 二年程度で何とかしてみます」
「おいおい、ほんとかよ そんなの王国でも数えるほどしかない都市だぞ!
……しかしアランが言うのだから、可能なのだろうな」
サイラスさんの常識では荒唐無稽なのに、俺の事だからと頭をかきながら半ばあきらめたような表情だ。
「俺としてはアランを心底応援することに決めたからな
幾つか頼みたいこともあるし、正式な申し入れを行いたい予定もある
とりあえず領地を見に行きたいのだがどうだ?別に野宿でもいいぜ」
「分かりました、そうですねしばらくは入植でごった返すはずなので、二週間後はどうでしょう?
移動に一日かかるので朝出発して一泊していただく感じですね
あと人数はどうでしょうね?」
「そうだな、商業ギルドが行くと言えば、ケヴィンのやつも来るだろう
馬車二台に警護の冒険者が十人で全部で二十人くらいか」
それくらいなら領事館で可能だ。
「立派な寝具は無理ですが、雨風をしのげてお風呂くらいは準備しますよ
食事に関しては簡易的ですがちょっと珍しい料理を振舞いましょう
警護は疾風のカールに頼みますかね」
「え??お風呂まであるのですか??」
カリナさんがびっくりしている。
「ええ、うちはほら自分も風呂好きですし、彼女たちもそうなので最優先事項です」
「そこは譲れませんね」とセリーナ
「お風呂は驚いてくれると思いますよ」とシャロン
「そうでしたね、最初に宿をとった時も風呂が条件だったのを思い出しました」
「領民にも楽しんでもらえるよう大浴場は準備していますよ」
二人とも目を丸くして返事がなかった。
「まったく開拓された領地って言ってるが、いったいどうなっているんだ?
普通に街って言ってるし、絶対に俺たちが想像する開拓地じゃない感じだよなぁ、カリナ」
「そうですね、ちょっと想像できないです」
「他では他言は無しでお願いしますよ
王都を出発する時点で余裕を見て一万五千、家族構成を無視して詰め込んでもいいなら三万五千から四万の住居は確保しています
ただまぁ住居は空っぽで窓扉に家具とかを作っていく必要がありますし、生活するには何もかも足りてません
ギルドに関しては住居と同様に建物は準備済みなので、内外装と家具や什器などの設備を準備すれば利用可能です」
顎が外れそうになっている、そりゃそうだろう。
今まで魔の大樹海という特大の危険地帯に、いきなりガンツクラスの街ができたと言うのだ。
俺が言ったので無ければ相手にしてくれないだろうな……我が事ながら酷い評価だ
「…………アラン様 司祭派遣に並ぶ特大の爆弾発言だな」
「そうでしょうね、さすがにちょっと荒唐無稽な気がしますが、三日前に見てきました」
「はぁぁ、参った 半年前は大口叩く新進気鋭の若者かと思ったら、とんだ化け物じゃないか」
「よし、これで腹をくくった甲斐がある
サイラス商会は正式にコリント卿の支援者、パトロンという形になりたいので受けて頂きたい
お金に関してはある程度投資という形で出すので、孤児の食事代も心配することはないぞ
ぜひ引き受けてくれないか?」
いきなり話が大きくなってちょっと待ってという感じだが、パトロンがつくのは悪い事じゃない。
「パトロンの件は非常にうれしく思います
しかし我々には将来の目的が幾つかありまして、そこがサイラスさんの進む道と将来一致するかどうかで変わります
また商会に関してはすでにタルス商会のカトルが参加していますので、サイラス商会のみを優遇することは出来ません
一度条件を話し合いを行えたらと思います」
「そうだろうな、もちろん即断即決する話じゃない
アラン様たちが将来何を目指しているかは想像出来ることはあるが荒唐無稽過ぎて確信はない
しかしどうなろうとサイラス商会はコリント卿の側に立つつもりだ」
「ありがとうございます」
うーん、タルスさんといい俺たちの行動は商人にはそれほどわかりやすいのかな。
さすがにここは一存で決められる話でもなかった。
評価、誤字、脱字、御指摘、感想 等ありがとうございます。
話を進めていますが、次回更新少し空きます。