第一陣の到着で混雑するガンツ正門前で待っていると教会の旗を上げた馬車がやってきた。
出迎えを行う。
「イサク司祭 ガンツまでよくぞお越しくださいました」
「コリント卿 ありがとうございます。道中の手配感謝します」
「いえ無事に着けて何よりです、体調など問題はありませんか?」
「はい、私共は大丈夫でございます」
「それは良かった 今日はこのままガンツの教会に立ち寄るので良かったですか?」
「はい」
「ではこちらへ」
イサク司祭とシスターたちをガンツの教会に案内する。
教会で声をかけると司祭が表れてイサク司祭と挨拶をして、中に招き入れられた。
「コリント卿 初めまして司祭のアンドリューと申します」
「アラン・コリントです よろしく」
「話題のドラゴンスレイヤー様にお会いできまして光栄です」
「司祭イサクとシスターたちは本日ここに泊まっていただこうと思います
明日の朝はコリント卿の配下の者が樹海の開拓地まで警護されていただけると伺っています」
「はいそうですね、ここまでと同様に移動を行います」
「わかりました」
「あと現地ですが建物はありますが窓やドア、家具などは一切ありません
生活のための家具もない状態です
急ぎ必要なものは今日のうちにガンツで買い込んでください
アンドリュー司祭には必要な物資の購入を手助けしていただけると助かります
職人は手配しているので急ぎでないものは現地で作成してくれる予定です」
「承知しました この後買い出しに参りましょう」
「よろしくお願いします」
「それでは明日朝に正門前でお待ちしています」
「かしこまりました」
とりあえず教会系はこれで一段落っと。
◇◇◇◇◇
「司祭イサク ようこそガンツへ
しかしよく魔の大樹海への派遣に承知しましたよね」
「ええ コリント卿が王都に来て派遣の依頼があったのは天啓だと思っています
私は自ら志願させていただきました」
「それほどですか? 確かにあの方はガンツで名を馳せていますが、魔の大樹海は想像以上に過酷な地ですよ…」
「それでも構いません
コリント卿が王都に来た頃、私はゲルトナー大司祭様の説法に使途様が姿を現す奇跡を目撃しました
そして大司祭様は魔の大樹海の開拓地への派遣を決められたのです
これはもう天啓だと感じられずにはいられませんでした」
「そうですか、あの噂は本当だったのですね」
「それにコリント卿は孤児五百名を引き取ってくださいました
これから開拓するというのに職人を雇い、孤児を引き取るなど普通では到底できません
そんな方の力に少しでもなれればと志願させていただいた次第です
シスター達も同じ気持ちです」
「それは素晴らしいお話です 皆様とコリント卿の領地に女神ルミナス様の加護がありますように」
◇◇◇◇◇◇
同じころセリーナとシャロンは悩んでいた。
王都で思いついた孤児を集めて育成し帝国軍の人材を確保すると言う案は、その時は申し分ないと思ったのだ。
アランのおかげで思ったより多くの孤児を集められたのも良かった。
しかしその後その育成について思いっきり悩む事になるとは考えもしなかった。
コンラート大尉の記憶ライブラリから得た情報では、この星の実情に合わせた学校の運営がないのだ。
本来イーリス・コンラートは戦艦でコンラート大尉は戦闘AIだ。
だから組織の運用や情報の収集に長けていても、人類に連なる者たちの教育水準の引き上げなどは範囲外なのだ。
私たちの記憶では、そういう場合は専門の委員会が立ち上げられ大規模に行われるのが通例だった。
「やはりアランはそういうところを考えて回していくのが上手いわね」
「そうなのよね、コンラート大尉からうまく情報を引き出してる」
街作りの話の時に二人なら出来るよと言われても、否定したのは謙遜ではないのだ。
どう考えてどうすればいいかをアランはうまく処理するのに対し、自分たちは思いが廻らないことが多い。
「出来るところから考えましょうか」
「そうだ!孤児の中で読み書き計算を出来る子に、読み書き出来ない子を教育してもらいましょう」
「教える子たちをシスターに纏めてもらって私達がその上で方針を決める感じでどうかな?」
「それならいけそうね、そんな感じでまずは進めてみましょう」
◇◇◇◇◇
入植初日、混乱する領地の街の広場でようやく教会の馬車を見つけることができた。
「イサク司祭 無事到着できたようで何よりです」
「コリント卿 ありがとうございます
しかし本当にここが目的地ですか?
私は開拓地を目指してたのではなかったのですか?」
ああ、だいぶ混乱してるなぁ。
「いえ、ここで合っていますよ」
にっこり笑ないながら返す。
「紹介します こちらがロベルト殿 こちらがヴァーノン殿
どちらもルミナス教の熱心な信徒で、この街で教会の担当となります
何かあれば彼らに連絡してください」
「はい、宜しくお願い致します 私は司祭のイサクです
彼女たちはシスターで順にエブリン、ソフィア、ミア、アメリア、ハーパーです」
「「「よろしくお願いします」」」
「顔合わせがすんだら教会に向かいましょう、こちらです」
教会に向かいながら通りの説明をする。
「ここはメインストリートですね 両脇に商店が並ぶ予定です」
もちろん返事はないが続ける。
「その裏手が職人の街となります、住居はさらにその向こう側ですね」
「このメインストリートを行き着くと領主館ですので、そのうち一度いらしてください
そしてここが教会になります」
予想通り皆ポカーンとしている。
「ごらんの通りなんとか建物だけ準備した感じで、装飾などは出来ていません
女神ルミナス様の像もまだです
イサク司祭には職人と打ち合わせてどうするか決めていただきたいと思っています」
「……アラン様 これほど立派な教会があるとはこのロベルト思いもしませんでした…」
「まさに私もです」とマックスウェル卿
「…コリント卿 私は開拓地の小屋での覚悟で来たのですがこれは…」
「夜露がしのげるだけで、窓も扉もないので小屋と変わらないかと思いますよ」
「いえいえ、そんなレベルの話ではありませんぞ」
マックスウェル卿から突っ込みが入った。
「まあ、中へどうぞ」
「入ったところは礼拝堂ですね」
まだ椅子がないのでかなり広く感じるが規模はそこまででもない。
「奥の台座のところが女神ルミナス様の像を置く予定としてあります」
「これは…王都の教会と比べても遜色ありません」
確かにガンツの礼拝堂よりは広いかな?とは思う。
しかし建物自体は尖塔などを作ってないので高さはないから、それほど豪華ではないだけどなぁ。
これは将来的に宗教の影響を下げたいため、あまり華美にしなかったという理由もある。
「こちらから奥に進むと来客用の部屋などを配置してあり、必要に応じて会議や会食は可能でしょう」
「さらにその奥へ進むと生活のための部屋などになっています
今は六人ですので部屋としてはまだまだ余裕がある作りですね」
実際百人以上が生活できる空間は確保してある。
「使い方とか部屋をどうするかは皆さんにお任せします
職人は領地で契約しておりますので、余り無茶な内容でなければ指示して作っていただいて構いません」
返事はなさそうなので一方的に説明してから確認する。
「ここまで、大丈夫ですかね? 質問とかありますか?」
「…いえこれほどの立派な教会がすでにあるとか想像すらしませんでしたので言葉もありません
ゲルトナー大司教様に急いで報告せねばならない程です」
「ああ、数日後に王都に戻る冒険者が出発する筈なので、彼らに手紙を託せると思いますよ」
「判りました、コリント卿には感謝の言葉しかありません」
「ええ、それでは教会の仕上げ大変でしょうが、よろしくお願いしますよ」
王都で募集した職人とガンツの教会から派遣されてきた職人が頑張り、女神ルミナス様の像を完成させたのはおおよそ百日後だった。
◇◇◇◇◇◇
入植二日目、到着した職人の子と孤児を広場に集める、が、もちろん一筋縄ではいかない。
「集まってください」
みんなキャーキャー叫びながら駆け回ったり聞く気がない。完全になめられている。
「おまえら、言うことを聞かないヤツはメシ抜きだからね!リーダーも同じ罰だよ!」
セリーナの一言で緊張が走りようやくみんなが集まる、いやセリーナキャラ変わってるし…
「私はセリーナ・コンラート クランの次席だ、そっちはシャロン・コンラート、三席だ」
「つまりコリント卿に次いでこの街のナンバーツーとナンバースリーだ、話が聞けない奴はどうなるかくらい分かるよな!?」
半分くらい涙目になって頷いている気がしたが黙っておく。
「よし、まず一旦座れ!」
雰囲気を察したか皆素直に座る。
どうやら誰かのロールプレイをやっているようだが、しかしこれはなかなか効果的だった。
「ではまずこの中で読み書きと計算ができる者、立て!」
三十人ほどがのろのろと立ち上がる。年長者が多い。
そしてああこれは軍のキャンプに居る鬼軍曹だな、とようやく気付いた。
「もっと素早く動け!」
完全に鬼軍曹系のロールでやるのね。
子供たちは慌てて立ち上がる。
「よし、君たちは向こうに行ってシャロンに話を聞け」
そのまま行こうとすると、次に声が飛ぶ!
「返事は『イエス、マム!』だ!行動は素早く!」
「「「イエス、マム!」」」
ああ、セリーナやりすぎよ、と笑いだしそうになるのを堪え、こちらに来なさいと呼び寄せる。
(ナノム、顔と名前を記録してタグ表示して)
[了解です]
「順番に名前と年齢を自己紹介してくれるかしら、私はシャロン・コンラートよ」
自己紹介で確認するとやはり教会出身の孤児たちだった。
最低限の教育は受けれているのだろう、簡単な読み書きと計算は出来る。
「さてあなた達に大事な話があります」
「アラン様は大司教様からの依頼であなた達を引き取ったけれども、貴方たちの態度次第では大司教様を裏切ることになります」
「あなた達が悪い行動を取るということは大司教様に恥をかかせることになりますよね」
孤児はみんなぶんぶん首を縦に振っている。
ちょっといやらしい言い方だわね、と思いながら続ける。
「それでは皆さん、期待に応えられるように頑張れますよね?」にっこり笑う。
子供たちは盛大に首を縦に振っている。
「それではこの教科書を受け取りなさい
受け取ったら一通り目を通して読んでください」
慌てて作った粗末な教科書だったが、それを全員に配る。
「次にペンを使って本の裏に名前を書いてください
これであなたたちの本です、粗末に扱ったりなくさない様に」
「まずこの街では誰かの物を奪う行為は許されません
もし誰かの物を壊したら、誰かを傷つけたら、相応の罰が与えられます
それは心の底にしみこませてください
分かりましたか?」
と、再びにっこりと微笑む。全員青い顔をしてうなずいていた。
あれ、私優しく話していたはずなのに何故…
「今のところあなた達の仕事は勉強することです
それをしている限り衣食住は提供されますが、サボったり投げ出したりすると受けられなくなります」
「では最初に五人ずつのグループになって」
別れるのを待つ。
「次はあなたたちはその本を読んで理解してください
分からない時はグループ内で相談して、それでも駄目ならシスターのところに行って聞いてください」
「もちろん分からないからなんて叱ったりしません
だけど分かってないのに分かったふりをしたら叱りますよ」
「どちらが正しい行動か分かりますよね?」
全員青い顔をしてうなずいていた。
「それが終わればその本の中身を、読み書きできない子供に教える事があなた達の最初の仕事になります」
何か思っていたのと違うけど、一先ず前には進んだはず。
◇◇◇◇◇
学校の運営は全く大変だったけれども、セリーナとシャロンは頑張っていた。
基本的に午前中が学習の時間に割り当て、午後は運動や領地の仕事をすると言う基本方針にしたようだ。
魔法を教える授業などあってもいいかなと言うと、色々考えて少しずつやることを増やしていっていた。
学年別の授業などは望むべくもない中、何クラスか学習レベルに応じて分けることで解決していた。
読み書き算数が出来ないレベル、少しだけできる、文官や付き人を目指せるレベル、最後は帝国軍候補レベルだ。
帝国軍候補は急ぎの課題でもある。
午後から体力強化のための運動は、年長者にはごく初歩的な
剣の授業も行いたいが、まだ防具などがそろわないため難しいと言うのでこちらはサイラスさんを通じて手配してもらった。
職人の小さな子供たちは鬼ごっこだったり簡単な球技で体力づくりをしていた。
球技は地球で流行っていたというサッカーを教えたが、ボール一つでみんなで遊べるので人気だった。
内職での特産品作りだったり、領地内で必要なものを作ったり、必要な人材としての能力を伸ばしたり、やることはいくらでもあった。
それと大事なことで、三食を学校で提供することにより、子供たちを飢えさせる事はないようにした事だ。
これは職人の家族から募集した者たちが交代でやってくれることになり、一年も経つ頃には温かいスープやパンが出せるところまでになっていた。
少しずつ学校が形になっていくのは、二人にとって楽しい道のりだったようだ。
評価、誤字、脱字、御指摘、感想 等ありがとうございます。
深夜に目が覚めたので一日早く更新出来ました。
この後四話は明後日から隔日更新の予定です。