「この後は街を見学するなり、ギルドの建物をもう一度見るなりどうぞ
おおよそ二時間後には日が暮れますので、そのタイミングで戻ってきてください
簡単ですが、食事の準備をしておきます」
「カール 街の治安は悪くはないがそれぞれ付き添ってくれないか
あ、先に泊まる建物を案内しておく」
カールを今日の寝床にする空き家に案内した後、各ギルドのメンバーは二手に分かれて街を見に行く。
◇◇◇◇◇
「しかし一体どうなっているんだ
これほどの街がガンツどころか冒険者にも知られず魔の大樹海に忽然と出来ているなど……」
冒険者ギルド長のケヴィンは力なく言う。
「理解が出来ません」
「アラン様はいったい何者なのか……」
職員が口々に言う。
『運よくドラゴンを倒し叙爵されたが、領地に魔の大樹海を選んだ変わり者のA級冒険者』
ギルドではこの程度に思っている人間は多数いる。
さすがにケヴィン達はそれの数倍の評価をしていたが、それでも全然足りなかったと打ちのめされている。
「ガンツに来た瞬間にサイラスに取り入っている世渡り上手な奴!なんて思ったりもしたけど逆だったのか
最初は娘を助けてもらった恩義だったが、今は明らかにサイラスがアラン様の人望に惚れ込んでいる
「それほどまでですか……」
「ここを見に来る段取りを取り付けたのもサイラスだし、そもそも視察前に商業ギルドの支店開設を決定しているとか正気じゃねぇ
ガンツを経由し入植したのは二千五百人と聞いてるが、そんな開拓地に支店を出すとか有りえないからな」
「確か教会の司祭の派遣が決断の理由だと聞きましたが」
「ああ、でもそれは表向きだろうよ 奴は特別熱心な信徒でもないからな
むしろ教会よりもお金の方が好きな奴が、出来たかどうかもはっきりしない街に支店を出すってことが重要だ」
後ろで聞いてたカールは、喋ることによって段々と普段のギルド長らしくなってきたなと感じていた。
「ガンツでの噂は否定も肯定もしなかったということは全部真実ではないが、全く嘘では無いってことだ」
「それに開拓前の領地に司祭の派遣がされるなんてどれほどの事をすれば出来るのか想像つきません」
「どちらにせよどうやってかこれだけの街を作れて、どんどん開拓民が集まってきている勢力がガンツの隣街なのだぞ
全力で友好関係を維持するしか無いだろう」
「それは確かに」
「商業ギルドには一歩先んじられているが、冒険者ギルドも大至急支店なんなら本店を開くぞ!」
「分かりました」
「じゃギルドの建物をもう一回見て必要なものを洗い出そう、行くぞ」
◇◇◇◇◇
「いやはや、遠くから街を見た時にも目を剥いたが街に入るととんでもないな」
「サイラス様 ここの建物の石組みの仕方は明らかに王国の様式とは異なります」
「二階の床とかも石組みだったし、天井を見る限りすべて石組みだったな
ふつうはそこだけは木で作るはずなんだが……」
「お父様 領主館の意匠も明らかに異国の物でしたわ」
一体どうなっているんだ!?
全員の思いは図らずともケヴィンのつぶやいた言葉と同じだった。
「それに上水道と下水道、街の高低差を利用してうまく水を流してある
共同浴場があって、共同だけど水洗トイレもある これだけの都市機能をよく考えつくな」
「いたるところに樹海開拓で出た素材が山積みにされていました
この分だと魔物とかの素材も恐ろしいほど貯蔵されているんじゃないでしょうか」
「そうみていいだろうな」
「それにしても大樹海の中だというのに魔物の気配がしませんね」
「ドラゴンが居ることは無関係でないだろう
それに城壁の外側も大きく伐採してあるから近寄りにくいのは確かだ」
「全く簡単そうに開拓は出来てますなんて言っていたが、とんでもなく恐ろしい奴だぜ……」
「底知れません……」
「味方としたらそれだけ頼もしいということだ!
さて、ともあれ持ってきたチェックリストと合わして過不足を確認するぞ
最短でオープンできるようにな!」
◇◇◇◇◇
皆を送り出した後、晩御飯の準備に入る。
ああ、料理を作るのは本当に久しぶりだ。
毎日忙しくて賄いか携行食ばかりだったからだ。
今日のメニューは唐揚げ定食にした。
ご飯を炊いて、ブラックバードを捌き下ごしらえをする。
付け合わせの一品は山菜の天ぷら、デザートはスポンジケーキにした。
プリンとかにしたかったが、まだ新鮮な牛乳が手に入らないので仕方ない。
ちょっとしたソースを作っておく。
そういや養蜂とかこの世界ではないのかな?
日が暮れてみんな戻ってきたので、唐揚げを揚げ始める。
食事の準備は辺境伯軍の女官から数人給仕係を頼んであった。
今夜の会食は商業ギルドが来ているのでエルナの代わりにカトルが参加することになっている。
「それでは皆さん ようこそいらっしゃいました
本格的におもてなしが出来る状況ではありませんが久しぶりに腕を振るわせていただきました
簡単な食事となっていますが、どうぞお召し上がりください」
そう言えばガンツの人たちに唐揚げ作ったことがあったっけ?
アリスタさんとカリナさんは食べてたかな??
「アラン様 これはいったい何という料理ですか? こんな美味い食べ物があるなんて」
「この齧った瞬間のジューシーさがたまりません」
「これはブラックバードの肉か、美味い鳥だがここまでとは」
「ライスもいいですね、噛んでいると甘さを感じてきます」
この世界独自の食事もそれ程悪くないとは思うのだが相変わらず大げさだな。
「この料理はアラン様が作られたのですか?」
「ええ、料理が趣味でしてね ただ最近は全然時間が取れず本当に久しぶりです」
「アラン様のお料理が再び食べれるなど思いもしませんでした」
カリナさん、涙ぐんでるよ、そこまでか。
「さてそろそろ紹介します
こちらはカトル、クランの物流を担当してもらっていました
今後は領地運営が軌道に乗るまでは変わらず物流を担当し、その後は商会として活動する予定です」
「カトルです ゴタニアでアラン様に会った事が縁で一緒に行動させていただいています よろしくお願いします」
商業ギルドと冒険者ギルドがそれぞれ自己紹介をする。
「商業ギルドは何かあればシャロン、リア、カトルに相談してほしい
冒険者ギルドも建物とかは事務関係はこの二人だ
依頼とかその他はセリーナかダルシムになる」
「分かりました」
「ざっくり武力関係はセリーナ、事務関係はシャロンだな」
「アラン それだと私は脳筋風に聞こえますが…」
セリーナからのクレームだ。
笑いを取るためだったんだ、すまない。
「領地の発展のために皆様のお力添えをお願いしたい」
「もちろん商業ギルドは全力で当たらせてもらう」
「冒険者ギルドも共に力を合わせていく所存です」
王都で買ってあったワインが運ばれてくる。
その後デザートが運ばれてきて食事会もお開きとなった。
もちろんデザートは特に女性陣に好評だった。
退出時にサイラスさんから声を掛けられる。
「アラン様 例の話をさせて頂きたいのでお時間をいただけないでしょうか?
出来ればパーティーの方も同席をお願いします」
「分かりました 後で執務室に来てください 二階に上がって左側です」
「はい」
◇◇◇◇◇
「そちらにおかけください」
まだ簡易な応接セットではあるが最低限のソファーやテーブルなどは揃えてあった。
サイラスさん、アリスタさん、カリナさんが着席する。
「この場を設けてくださってありがとうございます アラン様」
「何時ものメンバーなので普段通りでいいですよ」
苦笑する。
「まぁなかなかそういかなくてな つい公式の場でもそうなりそうなので直していかないとな
さて今日の話は前回の件なのは分かっていると思うが」
頷く。
「まず前回話したように、サイラス商会はコリント卿に全面的に協力します
正式にコリント卿の支援者、パトロンという形になりたいので受けて頂きたい」
「はい、それは以前聞いております」
「貴族風に言えば忠誠を誓うということになる
例えガンツ伯と対立することになってもコリント卿に付くということだ」
そこまで明言されるのはさすがにちょっと予想外で皆の顔をみると同じ感じらしい。
「そこまでですか」
「ああそこまでの覚悟だ」
「もしも対立するようなことがあると、ガンツにあるサイラスさんの全てを失う可能性があるかも知れませんが」
「予想ではそうならないだろうし、無くすのは向こうだと思うぞ
まあ無くなっても覚悟の上だ
それにその頃にはここで十分なものが揃っているはずだ」
「分かりました 大変ありがたく思います」
「その覚悟を分かってもらった上で話をすると
コリント卿の目的は恐らく旧スターヴェーク王国の残党を軸にしての自治権の獲得か建国だろう
確証はないのだが、人の流れがそれを裏付けている」
やはり商人にはまる判りなのか…
言葉を切り出そうとしたときに
「さらにその先があるのは想像できるが、それも想定しての申し入れになる」
この理解力、分析力、これが反対勢力だったらちょっと恐ろしいな。
「分かりました、そこまで想定して頂いているならいうことはありません
支援者の件は、よろしくお願いします」
ここまではクラン内で話し合っておりすでに決定事項だった。
「そしてもう一つの申し入れなんだが、これは非常に難しいとは承知している
それでも頼みたいので聞いて欲しい」
「何でしょう」
「アリスタを
あああ、やっぱりそう来たか。
三人に了解してもらった後に報告したエルナから、その可能性があるとは指摘されていた。
「………いきなりぶっこんできましたね」
アリスタさんははにかみながら頬を赤らめてうつむいている。
カリナさんは少し悲しそうに下を向いている。
クレリア、セリーナ、シャロンはやれやれやっぱりねという感じ。
そんな中でエルナの『ほら私の言った通りでしょ!』ってどや顔が異色だった。
自分もカウントされていることに気づいてないな…
「男爵に既に妻候補が四人居るとか普通ではありえないが、アランの場合は経緯が冒険者からの叙爵だからそれはいい
そこに一人追加してくれというのはかなり虫が良くて難しい話だとは思っているのだが、少し理由があるので聞いて欲しい」
ようやくエルナが自分もカウントされていることに気づき、慌てて目で訴えてくるが無視する。
申し入れてくる場合は関係を強化する政略結婚ではないか?と考えていたのだがちょっと違うのか?
「俺はアリスタが一番大事で、商会よりも順位が高い、これは知っての通りだ
そのためいずれは貴族の妻になっても恥ずかしくないように教育は受けさせてきたわけだ」
「それは普段の態度から理解できます」
「アリスタが結婚どころか婚約もしていないのはアランも気付いているかもしれないが、
実はユルゲン様に目を付けられていて側室として入るよう言われていてな
側室って言っても結局はただの愛人だ、しかもクソジジイのな
そんなところに大事なアリスタをやれるわけがない」
!!まさかそう来たか、適齢期のアリスタさんが商会の仕事をしたりサイラスさんと一緒に行動しているのはそういう訳か。
女性陣は流石に嫌悪感を出してそれは無いわという顔をしている。
「他の貴族とかもあたってみたが、平民から正式に妻となれる家柄ではユルゲン様に逆らえず潰されてな、だからと言って平民じゃ絶対無理だ
色々と理由をつけて引き延ばしてきたが、流石にもう難しくなってきたところにアランの躍進で光が見えてきたんだ
まぁ最初は男爵になったとは言え、これから魔の大樹海を開拓するのなら苦労は目に見えているから持ち掛けるつもりはなかった
ところが帰ってきたら開拓が終わっていて、さらには教会から司祭が派遣されてくると言ってるじゃないか
これはまさに僥倖だと思ったわけだよ」
そこは隠さないのは流石だった。
「もちろんアリスタが嫌がるならこんな話は持ち掛けないが、むしろ好意的なのは知っての通りだ
だからこの話は決してサイラス商会との今後の関係のために、政略としてアリスタを差し出すのではない
アリスタの幸せを願っている俺のお願いだと言う事は理解して欲しい」
サイラスさんが頭を下げているので、余程の事なのだろうとは理解する。
「なぜ
「たとえ貴族としての格式に差があっても正式な妻として迎える方が優先されるんだ」
「なるほど…」
貴族間のトラブルを無くすためのルールなのか。
「アリスタを助けると思って、なんとか受け入れてもらえる余地は無いだろうか?」
周りを見渡す。
「……なんとなく判っては貰えているかも知れませんが、この手の話について私に決定権はないのですよ」
サイラスさんもアリスタさんも、ものすごく意外そうな顔をしている。
そうか、気づいてなかったのか。
「アラン ちょっと女性だけで話をしてきていいかしら?」
クレリアが厳しい顔をして切り出す。もちろん否はない。
「隣の部屋を使うといいよ、防音は完璧だ」
女性陣が出て行った後にサイラスさんがぼそりという。
「アランも大変なんだな」
「ははは」
と乾いた笑いしか返せなかった。
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次回は明日更新の予定です。