航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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113.アリスタとカリナ

 カリナと共に緊張した顔でソファに腰かけた。

 これから四人に詰められるかも知れないのだから仕方ない。

 

「まず話をしておくことがあるのだけど」

 

 クレリアさんが切り出したので息をのむ。

 

「ガンツ伯には何時からそんな風に言われていたの!許せないわ!」

 

 え?ええっ?! 詰問かと思ったら全然違う、ガンツ伯に対する怒りの口調だった。

 

「しかしガンツ伯はくそジジイよね!許されないわ!」

 

「ほんと、一体何考えてるのかしら!」

 

 セリーナさんシャロンさんも怒りに任せて言いたい放題だ。

 

「アランは逆に少し分けてもらってほしいわ」

 

 あれ?何か変なのが混じった。

 ひとしきりガンツ伯に悪態をついた後。

 

「だけど側室とはいえそれなりの貴族なのだから、そう悪い待遇ではないのでは?」

 

 エルナさんが聞いてきた。

 

「いえ、ガンツ伯はその…あまりよくない噂が多く、側室以外にも大勢いるだとか、側室はほぼ飼い殺しのような話なのです」

 

「…そうなのね」

 

 ちょっと暗い雰囲気になる。

 

「でも何時から結婚まで考えたの?」

 

「意識したのはこの領地の話が出てからでしょうか」

 

 嘘では無い。当初アランは冒険者だったし婚姻する対象としては考えていなかった。

 カリナの思いにも気づいていたからなおさらだ。

 

「うーん、それってガンツに帰って来てからよね

 まだ一カ月も経ってないじゃない、それなのにアランとの話を受け入れたの?」

 

「私は小さい時からそういう風に育てられましたので、あまり相手を選ぶという思いがないのです

 流石にガンツ伯は拒否しますが、ある程度は許容するつもりでした

 もちろんアラン様なら望外です」

 

「言っては何だけど晩餐会での雰囲気も好意的であっても、好きだという風でも無かったわ

 カリナさんはアラン好きを隠せてなかったけど、アリスタさんはアランのことが好きまでではなく、気に入っているくらいですよね?」

 

 カリナが赤い顔をして下を向いてた。

 

「助けて貰った時に紳士的な対応でしたし、その後も素晴らしい方だとは思ってましたが、当初は婚姻する対象としては考えていなかったのも確かです

 でも今は大変嬉しく思ってます」

 

「アリスタさん、それでいいの?」

 

 セリーナさんが聞いてくる。

 

「ええ、叶えば素晴らしいと思います」

 

「そうなのね、うーん、そうかぁ、ありなのか」

 

 親の決めた婚約者と結婚する、それはこの世界ではありふれた光景だった。

 セリーナさんはそれを納得している私の考えは理解しづらそうだった。

 

「私たちの世界でもごく一部ではあるみたいよ、家の付き合いなどで」

 

 シャロンさんはそれを判ってくれていそうだった。

 

「スターヴェークは比較的その辺りは緩かったですが、割とよくある話でしたからね」

 

 エルナさんは納得してた。

 

「アリスタさんの話はわかりました

 しかしカリナさんとしてはそれでいいの?

 アランを好きなのは全然隠せて無いわよ」

 

「私はサイラス様に恩義がありますし、アリスタ様には幸せになって欲しいのです

 サイラス様が選んだアラン様ならこの上ないですし、個人の感情としてはその上に立つものではありません」

 

「そうかもしれないけど、そう割り切れるものではないでしょう?」

 

「いえ、私は傍に居られればいいですし…

 その話よりアリスタ様で五人になる方が問題なのではないでしょうか?」

 

「えーと、先程から訂正する機会がなかったのだけど、今候補はアリスタさんで四人目ですよ」

 

「え? エルナさん??」

 

「私はリア様の付き人なので一緒に行動しているだけであって、アラン様とはそんな関係ではありません」

 

 ないないって感じで胸の前で腕を交差させている。

 

「え?え?」

 

 私とカリナはちょっと混乱してしまった。

 シャイニングスターのアランといえば四人も美女を侍らしてる色漢という世間一般の認識だ。

 

「ええっと、どこから話しをしようかな」

 

 そして私達はおおよその経緯を聞くことができた。

 クレリア様の本名と出自、そしてアラン様に助けられたこと。

 アラン様がこの大陸の出身でなく、一緒に来た仲間はもうセリーナさんとシャロンさんだけだということ。

 恐ろしく無自覚に三人に将来の約束をしていたこと。

 

「世間の人はアラン様は英雄色を好むだと見てますが、全然違ったどころか全く逆だと言うわけですね」

 

 もちろん彼の人となりを知っている身としては違うのは分かっていたが、逆もまた考えもしなかった。

 

「そもそもあの無自覚な人は誰にも手を出してません」

 

「そうなのよね、全くそっちは無いです、ヘタレです」

 

 皆さんそこまで否定されるのですか…ちょっと可哀そうと思ってしまった。

 

「で、アリスタさんをどうするかは三人で話し合ってくださいね」

 

 それを受けて三人は少し離れてこそこそ話を始める。

 

「でもアリスタさん、アラン様の妻となるなら今日聞いた以上の秘密を受け取ることになります

 もしかするとこの世界すべてを敵にしてしまう可能性もあるほどです」

 

「!?」

 

「その覚悟はありますか?」

 

「もちろんです お父様とアラン様とアラン様の計画を考えた時から決めています」

 

「カリナさんもですか?」

 

「私はもちろんアラン様を敬愛しておりますので秘密は死ぬまで」

 

 カリナが答える。

 

「でもそうなるとは限らないでしょう?」

 

「あっちの話は心配しなくていいですよ、どうせ結果は判ってます」

 

「?? なぜ言い切れるのですか?」

 

「アラン様がそうだからよ 困っている人を見捨てるイメージ無いでしょ?

 だからリア様もセリーナ、シャロンも困っている人は出来る限り救おうとします」

 

 果たしてエルナさんの言った通りであった。

 

「私たちはアリスタさんを四人目の妻として貴女たちのことを受け入れます」

 

 たち?

 

「だって断ったらガンツ伯の…でしょ断るなんて無いわ」 

 

「流石にカリナさんは妻とはいかず、側室扱いになるので貴女たちが望むならばですが」

 

「それは勿論願ってもないことですが、いいのですか?」

 

「そうですよ、カリナさんも含めてアランに頑張ってもらいましょう

 大船に乗ったつもりで居てください」

 

「アリスタさんを受け入れて、カリナさんだけ辛い思いをするのはちょっと無いわね」

 

「ほらね」

 

「ありがとうございます」

 

 ほっとするとともに自然に涙が出ていた。

 それ程緊張していたのだと初めて気づく。

 

 

 ◇◇ クレリア視点 ◇◇

 

 

 アリスタさんをアランの妻にして欲しいと言い出される事はエルナが想定していた。

 その時は言葉にならかったけど嫌だった。有りえないと思っていた。

 私たちの計画に支障が出るとも思ったし、アランとのコネを強化する道具にするのは間違いだと思っていた。

 

 だから断固反対する気でいた、あの時までは。

 

「実はユルゲン様に目を付けられていて側室として入るよう言われているのだ

 側室って言っても結局はただの愛人だ、しかもクソジジイのな」

 

 は? なんですって!? 衝撃だった。

 

 自分も生きてきた貴族の世界にはそういう輩が居るのは判る。

 知らない人であればかわいそう…くらいは思うことはあると思う。

 

 誰も彼もを救うなんて無理だけど、でも目の前にいる人が、しかも知っている人がそういう対象となるのは許せなかった。

 

 あの時言葉にできなかった感情が今は判る。

 知っている人がアランの横に並ぶことが嫌だったのだ。

 最初にセリーナとシャロンに感じていた感情も、カリナさんの話もそうだった。

 今は嫉妬だったのだという自覚は出来た。

 

 それでもアランからきちんとした言葉を貰ってなかったら、許せなかったかもしれない。

 だけど今は大丈夫。

 

 セリーナ、シャロンとの話し合いは勿論OKだった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 戻ってきたクレリアが言う。

 

「アラン 結論は出たわよ」

 

 男性陣は固唾をのんでいる。

 

「OKよっ! アリスタさんは四人目の妻として、流石にカリナさんは妻とはいかないけれども、きちんと甲斐性を見せてくださいよ、アラン」

 

「「え゛!」」

 

 でもカリナさんの話はこの部屋を出ていく時は出て無かったよな? 一体何処で?

 それに俺の意見は聞かれもしないとか…考えていると。

 

「アラン様 幾久しくよろしくお願い申し上げます」

 

 アリスタさんの丁寧な挨拶で我に返る。

 しかし、せめてここだけでもかっこよく頑張ろう。

 

「承知しました、アリスタさん

 ではサイラスさんそういうことでよろしいでしょうか?」

 

「あ、ああ」

 

 エルナのカウント分とカリナさんの件で???のサイラスさんがよく分からないまま返事をする。

 

「アリスタさん、カリナさん 改めてよろしくお願いします」

 

 新しいワインを開けて皆で乾杯を行った。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 その後女性陣はお風呂にすると部屋に戻っていった。

 残った俺とサイラスさん『まだよく判らなくて???が渦巻いている』は残りのワインを飲む。

 エルナの件を説明してようやく理解してもらった。

 

 いつもの豪快なオヤジではなく静かなトーンで会話を続ける。

 

「シャイニングスターのアランといえば四人も美女を侍らしてる女たらしっていうのが世間一般の認識だぞ

 それがまあ全く逆のタイプだったとは誰も思わないだろうな」

 

 やれやれという風に頭を掻きながらサイラスさんが言う。

 もの凄い認識されてたのだな、誰だよそれは…くらい自分かとしては違和感があるのだが。

 

「そういう関係じゃ無いと思ってましたからね、自分では」

 

「つくづく世間の評判は本当に当てにならんな、アラン様は想定外過ぎる」

 

「紳士たれと教育されてきましたので」と苦笑する。

 

「婚約の発表はどうする? ユルゲン様の件があるので早めに発表はして欲しいのだが」

 

「クレリアの件があるので婚約発表はいずれ行うつもりですが、まだちょっと具体的ではないですね」

 

 何せ女性陣との話がまとまったのがここ数日の事だ。

 展開が目まぐるしくて自分でも付いて行けてない。

 たった数日で四人の妻と側室?が決まったのだ。

 そんな物語を書いたら即却下だろう。

 

「正式な妻とする場合は届け出る必要がある

 辺境の男爵であれば派手なお披露目セレモニーは不要だと思うが、これが辺境伯なんかなった日には大変だぞ

 流石にここやガンツは王族を招くには辺境すぎるので、王都で盛大なパーティをやる必要があるだろうな」

 

 えええ!?それは考えてなかった。

 

「つまりはさっさと結婚してしまわないと、後になればなるほど大変だと?」

 

「国王が結婚することを考えてみろ、数年かけて準備して近隣の国から大勢の人を呼んで盛大なパーティになるだろ?

 偉くなれば偉くなるほど格式を求められるぞ」

 

 むむむ、それは好ましくない。

 

「しかし王国一の商会の娘ともなれば、それでも大規模になるでしょう?」

 

「その辺りは任せておけ、立派な街になっているが施設も設備も無いのでここでやろうとすると大変だからな

 お披露目パーティはガンツで準備して開催すればいい」

 

「なるほど」

 

「結婚式自体は折角教会があるのだから、ここでやるべきだろう」

 

 

(イーリス 今までの会話の妥当性は?)

 

[この大陸で収集済みの情報との差異はわずかですので、信頼性は高いです]

 

(判った)

 

 

「つまり、先ずは婚約を発表して王都にその旨を報告する、そのあとこの街で式を挙げて、お披露目はガンツで行う、と」

 

「そうだな、三年以内にここの開拓の視察が入るはずだから、成功となれば辺境伯になるのだろ?」

 

「その可能性は高いでしょうね、王が約束を破るとは思い難いですし」

 

 確実にするなら宰相とガンツ伯は排除しておく必要はあるだろうけど。

 

「だとすると視察が入るころには式は終わってた方が良い

 辺境伯になった時に妻の座が埋まってないとなると、それはそれで争奪戦だ

 正式な妻の座は埋まっているが、無理筋押してくる勢力もあるかもしれん

 それでも何とか側室にでもって言ってくる貴族は多いはずだ」

 

 貴族の世界怖い。

 

「判りました、開拓と合わせて予定を決めます 式に関しては教会が出来てからですね」

 

「そうだな、教会でやるのがいいだろう」

 

「ああ、それとサイラスさん、予定を変えて三人で明日も泊まれますか?

 正式に支援者となったのであれば、主要メンバーを紹介します」

 

「ああ、分かった、ギルド職員だけ帰らして明後日の予定はキャンセルする」

 

「ありがとうございます」

 

 




評価、誤字脱字報告、御指摘、感想 等ありがとうございます。

ちょっと残念ですがハーレムフラグはこれで回収です。(多分)

また少し書き溜めますので、次回更新は少し時間が空く予定です。
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