王都を出発してから三十日目、サテライト一班、それにセリオ準男爵と文官、カトル達商人組で最後の野営地を出発していた。
第一陣がガンツに来るまで五日あるので、その間に領地を確認して移動の手配をするためだ。
数時間後、懐かしのガンツが見えてきた。奥には樹海につながる山並みが見える。
俺には懐かしいがガンツへ初めてくる人たちは近づくにつれ魔の大樹海を取り囲む山脈が迫ってくるため、少し不安に思うかもしれない。
今は馬車ではなくクレリアと馬を並べて進んでいる。
まだ少しぎこち無いと自分でも思うが仕方ない。
「……三ヶ月ぶりのガンツがこんなに懐かしく感じるとは思わなかったな」
そう、往復で二ヶ月、王都での盗賊狩りや領民の募集など気が付けばガンツを出発してから三ヶ月は過ぎていた。
この星に来て以来一か所で留まっていたことは少ないが、ガンツが一番長く住んだ事になる。
「だってもうあそこが私たちのホームなのよ、懐かしいに決まっているわ」
にっこり笑いながらクレリアが答える。
「それにしても五人でガンツに来てから、半年で三千人近く連れて帰ってくるとは思わなかったわ
夢のような気がする」
馬に乗ってなければ踊りだしそうな雰囲気でクレリアが言う。
「そうだな、けど夢じゃないしこれはまだ第一陣だからまだまだ増えるぞ?」
「そうよね、一刻も早く領地を開拓してスターヴェークの民を呼び寄せないと
しかしアラン、魔の大樹海の領地にはどうやって行くの?
街は出来ているというあなたの言葉は信じているけど、何千人分もの通行ができるような道は見えないわ」
「ああ、すでに道はついている
ちょっとカモフラージュしてあるから見えないけどね
明日は予定通り領地を見に行くことになるから、その目で確認できるよ」
「アラン、いったいいつの間に……」
「言っただろ 俺の協力者はなかなか有能なんだよ」
「ぜひ会ってお礼を言いたいのだけど無理なのよね」
何度目かの話を繰り返しながら、嘘をつくことに後ろめたさを感じる。
隠し事は信用につながるのだから当然だ。
何時までも隠し通せるものではないは判っているので、クレリアに(すべてではないが)本当のことを打ち明けるつもりだ。
「まあ明日運が良ければ少しは紹介できるかもね」
「ほんとに!楽しみにしてるわ」
「あまり期待しないでおいてくれよ、リアが思っているのとはかなり違うはずだから」
そんな話をしているうちにガンツの正門前まで到着した。
守備兵達は驚いた様子で口々にお帰りなさいだのおめでとうございますと言って来る。
どうやら叙爵の話はガンツまで届いているようで、男爵の紋章を見せるまでもなく門を通された。
サテライトのメンバーと商人組がギルドカード確認を受けている間に、詰所からギード隊長が走ってくる。
「コリント卿、お帰りなさいませ」
と片膝をつかれてあいさつをされる。どうやら叙爵だけでなく家名まで伝わっているらしい。
「ただいまギード隊長 今まで通りでいいんだぞ」
「職務中はそういうわけにもいきませぬ故ご容赦を」
「じゃあせめて立ってくれないか」
「はい、コリント卿 いえアラン様は変わりませんね
本当に片膝つく貴族様になって帰られるとは、素晴らしい事です、ガンツの英雄ですよ
各ギルドにはすでに伝令を走らせております」
「わかった、留守の間に何かイベントはあったかい?」
「特に変わりないですね
そもそもシャイニングスターの活動してた時がおかしいのです
そんなに次々とイベントが起こるわけ無いですよ」
「なるほど、俺たちはこれからホームに向かうから何かあればホームに来てくれ」
「判りました」
久しぶりのガンツの町並みを見ながらホームまで進むと、一行に気づいた人たちが遠巻きに見てくる。
ガンツとはいえ馬車数台で進めば結構目立つから、顔を知っている人に気づかれたようだ。
中には手を振りながら声をかけられるので、馬上から手を振り返す。
馬車に乗り込むべきだった。パレードみたいでまったく柄じゃない。
「アランは本当にそういうのは苦手そうね」
クレリアは王女だっただけに、こういう経験は多いのだろう。
慣れた様子でくすくす笑いながら声をかけてくる。
「ああ、まったくだ、柄じゃないのにな」
心底そう思う。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おかえり、アニキ」
「アニ、アラン様、おかえり!
ホームに着いた俺たちに皆が口々に声をかけてくる。
真っ先に駆け寄って来たのは外の掃除をしていた子供二人だった。
「ただいま、みんな元気だったか?
テオ、エラちょっと大きくなってないか」
「ご飯は食べさせて貰ってるのでそのせいかなぁ?」
「一杯食べて大きくなれよ ほら約束していたお土産だ」
王都で買っておいたちょっと小綺麗な服を渡す。
落ち着いたら二人とも領地に連れて行って、保護者をつけて教育を受けさせるつもりなのだ。
場合によったら王都から来た孤児のコミュニティでもいいかもしれない。
「アラン様、リア様、お帰りをお待ちしておりました」
「サリーさん、ただいま 留守の間ありがとう
いきなりで悪いけどお風呂の用意をしてくれるかな」
「承知しました。一時間ほどでご準備できます」
「ありがとう あと急だけど今夜の食事の手配もお願いします」
「かしこまりました、ご希望は御座いますか?」
「俺は特にないな、みんなは?」
「私は唐揚げが食べたい!」とクレリア
「そうですね、唐揚げ欲しいです」エルナ
移動中では大量の油を使う揚げ物は食べてなかったから反対する理由もない。
「では唐揚げでお願いします」
「はい、準備します」
「アラン様 それではこれから予定通り手配を行ってきます」
カトルが商人組を率いて声をかけてきた。
「よろしく頼む あとサイラスさんにはこの後会ってもらえるか商業ギルドへ聞いておいてくれ」
「承知しました」
ギルドには伝令は行っているようだけど帰ってきた挨拶をしておかないとな。
こちらから行けたら簡単なんだが、お貴族様になってしまったからには仕方ない。
だからと言ってお茶会や晩餐会などを開くには設備が整っていない。
「一時間後には風呂の準備ができるのでそのころには一度帰って来てくれよ」
「はい」
カトル達商人組は飛び出していく。疲れているはずなのにやる気満々だ。
商人組の増員も急務だ。これもサイラスさんに依頼してみよう。
当面の間領地で使う食料などはガンツに頼らないと仕方ないので、継続的に入手できるよう王都からここまで手配しながら進んできた。
カトル達にはそれらの一度運び込む保管場所と領地への運搬を手配してもらうのだ。
更に生活に使う物資全般など雑貨の買い込みと運搬の手配も同様に行う。
これは商店(これは主にカトルに運営してもらう)で、領民に売るものだ。
そして大事なのは家畜だな。
鶏などは運んで来れるが馬や牛、豚、ヤギ、ロバなどの大型のものはなかなか移送が難しいのでガンツで入手するつもりだった。
「ダルシム副官、領主への挨拶はどうすればいい?」
「ガンツ伯は不在ですので、家令への挨拶だけでいいでしょう 十班の者を向かわせます」
「わかった、よろしく頼む」
一応ガンツ伯には挨拶して帰っては来ているので、最低限の礼儀は通していることになる。
叙爵の時にも接触は無かったし、エルヴィンの話でも盗賊狩りでよく思われて無いし、挨拶したときも良い印象はないが、今後の事を考えれば筋を通して最低限家令は味方に着けたい。
ガンツに持ち込む特産品にだけ余分な税金を掛けられても嫌だからな。
冒険者ギルドにも声を掛けておくか。
「ダルシム副官、冒険者ギルドには『帰ってきたけど、主要メンバーはまだ暫く冒険者活動は停止する』とだけ伝えてくれ」
「承知しました」
ランクが下がるまでには何とか活動再開しないとな。
サイラスさんに何か素材収集を依頼してもらうか。
どちらにせよ支部を出してもらう交渉もあるので一度は訪問しないといけないが、優先度は低い。
食堂に入るとサテライト十班とハインツ・ブルーノ達も駆けつけてきた。
「「「おかえりなさい、アラン様、クレリア様」」」
サテライト一班は十班のメンバーと挨拶をしている。
十班のメンバーが王都の盗賊狩りに参加できなかったのを随分残念がっているのが、ちらりと聞こえてきた。
十班にはどこかで特別な役割りを与える事も考えよう。
エルナはブルーノ班長達と再会を喜び合っていた。
三ヶ月前に見た姿とは異なり随分としっかりしており回復は順調なようだ。
「ノリアン卿、お疲れ様でした」
「班長、みんな、お久しぶりです
体調はいかがですか?」
「ああ、もうかなり回復してなまった体を鍛えなおし始めたところだ
完全とは言わないが、普通には活動できるようになっているぞ」
「それは何よりです」
「嬉しい報告だが無理は禁物だ。今はまだ元通りでないからな」とそこにクレリアが声をかける。
「はっ!姫殿下、ありがたきお言葉にございます」
「数日後には、アランの準備した魔の大樹海への入植がはじまる
エンデルス卿たちにも働いてもらわねばならないからな 」
おっとクレリアが久しぶりの姫モードに入っているようだ。
そこへライスター卿親子もやってきた。
「…… 殿下、無事の到着をお喜び申し上げますします」
「ライスター卿、堅苦しい挨拶はいい 今はまだ王女ではなく冒険者だからな
ひとまずそなたの知識・知見は領地の統治に生かしてほしい」
「はは、この身が許す限り」
「リア、早速だが予定通りライスター卿の力を借りたいので、夕食前に時間を取ってほしい」
と声をかける。
「判ったわ」
「承知いたしました」
「ダルシム副官、ロベルトも同席をしてくれ」
「「承知しました」」
「アラン様 お風呂の準備ができました」
「さて汗を流してから集まろう」
あっという間に一時間が過ぎていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お風呂を出るとカリナさんが待っていた。
「アラン様 お帰りなさいませ この度は男爵への叙爵おめでとうございます」
カリナさんまで片膝ついた挨拶だった。
「カリナさん、ただいま 今まで通りにしてくれるほうが良いんだけど」
「いえ、さすがにそれは難しいですのでご容赦を」
「残念です、ではせめて立ち上がってください」
「はい、ではサイラス様からの伝言ですが、一つは今日夜に挨拶に伺うということです」
「分かりました夕食後であれば大丈夫です」
「もう一つは叙爵祝いの晩餐会を行いたいので都合のいい日を確認したいとのことですが如何でしょうか?」
「そうですか、それであれば明日あさっては一度領地に行ってくるので三日後でお願いします」
「承知しました『本来であれば正式な晩餐会にしたいが、ゆっくりする時間がないだろうから前回と同様な内輪の晩餐会で勘弁してほしい』とのことです」
「サイラスさんらしいですね ありがたくお受けします」
「すみません男爵閣下に対してその伝言はどうなのかと何度も申し上げたのですがアラン様なら気にしないと……」
「ここに戻ってからは誰もが貴族に対する扱いに変わってしまったので、むしろそういう対応のほうが嬉しいですから問題ありませんよ」
「ありがとうございます」
「そういうわけでカリナさんもできる限り以前と同様に接していただければと」
「いえ、それは難しいので、でも久しぶりにお会い出来て嬉しかったです
それでは失礼いたします」
あれ何か冷たい視線を感じる……
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