航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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116.ギルドオープン

 今日もカリナさんとナタリーさん、さらにはアリスタさんがギルドに来ていて、商業ギルドなのかサイラス商会なのか分からない状態だと、ギルド職員の一人ダグラスは忙しく働きながら思った。

 

 何せ魔の大樹海への入植がはじまる頃にギルドマスターから急遽『コリント卿の領地に支店をオープンするから大至急準備しろ』と指示があったものだから職員一同てんてこ舞いなのである。

 そもそも魔の大樹海に支店を出すって何だよ、冒険者になれって言うのかよ、サイラスさんどれだけ無茶振りするんだよ!

 そんな話が職員の間での定番の愚痴になっていたが、教会から司祭が派遣されて来るのだからやれ!と言われ反論は出来なくなっていた。

 しかし支店が増える事などほとんど無いのでやり方が分からない。

 ギルドのマニュアルを調べ、過去の古い資料を調べ、必要なものを手配して行くので精一杯だ。

 

 そして現地を見ないと駄目だと言われ、無理やり連れていかれたあの領地視察で度肝を抜かれた…

 

 現地では呆けたようになってしまってから、翌日帰るまで夢心地だった。

 魔の大樹海で冒険者になるどころか、すっかり開拓されて立派な街になってるなんてガンツの誰も信じられるはずがない。

 今でも気を抜くとぼーっとしてしまいそうで、何かあっては一大事と引き締まりを繰り返している。

 何故か予定を変更し一日遅れで帰ってきたアリスタさん、カリナさんの様子が違った事には気が付いていた。

 何と言ってもカリナさんは張り切っていた。張り切りすぎてちょっと空回りする事があるくらい張り切っていたのだった。

 アリスタさんもいつもクールな感じなのに、その中にふっと緩む感じがある。

 残ったあの日に何があったのだろう?と気にはなったが、そこを確認する余裕はなかった。

 

 

 商業ギルドの一角、カリナの席の脇には書類が積み上げられていた。

 什器に備品、消耗品と手配する物のリストや手配書類だ。

 まず絶対に必要なのはギルドカードを作成する機械、それに受付カウンターと掲示板は最低限必要だ。

 他にはギニーをしまう金庫、商談用の部屋の家具などの大物や、事務処理用の筆記用具や消耗品などの小物と言った具合に多岐にわたる。

 さらには通信用のアーティファクトもギルド本部から調達する様にとの指示まであったが、これはこれでハードルが高かった。

 本部では必ずあるが支店だと有ったり無かったりだし、これから出来る領地に配備されることはまず無い。

 そこをねじ込むように言われた担当者は半泣きで本部と交渉を行っているが、サイラス様が金に物を言わしてどこやら落ち目の街から引き取ったらしい。流石だった。

 輸送に時間がかかるのでオープンには間に合わないが、何とか面目を保てた担当職員は心底安堵していた。

 

 

 ギルド職員のマシューは帰ってきた同僚のダグラスから『建物は既に出来ていた、後は設備とかだけだ』と聞いて、うわさでは聞いていたが身近な者に言われると本当なんだなと実感したのだった。

 そのうえで親方衆を手配して現地に行き領地の職人と作業分担して最短で設備を整えろと指示を受け、大慌てで算段を取り付ける羽目になっていた。

 設備に関してはコリント領の職人も使えるそうなので、ガンツの親方を何名か連れて現地を訪れ、そして領地に行って親方衆と呆然とすることになったのだ。

 職人にそんなので驚いてたらここでは暮らせないよと諭され、何とか必要なものをピックアップし手配し終えた頃にはヘロヘロになっていた。

 

 そんな中でもウキウキしたカリナさんが不思議だったのだが、理由が分かったのは随分と先であった。

 

 オープンに先立ち人員発表があり、支店長にはカリナさんが抜擢された。

 幾ら優秀とはいえこの王国で若い女性がそれ程の役職を得る事は滅多なことでは無い。

 サイラスさんのごり押しやコリント卿との個人的な結び付きなどを揶揄する人も居なかった訳では無い。

 それでも今までの実績と実力は認められていたので、それほど大きな声では無かった。

 他のメンバーは視察に同行したダグラスと職人を取り仕切ったマシュー、それに受付の女性三名の計六人となった。

 

 そしてギルドが視察に行ってからわずか二十日後に商業ギルドは無事オープンを迎えることが出来たのだ。

 この時、全職員が本当に安堵していた事にギルド長サイラスは気づいていなかった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 冒険者ギルドの開店準備は商業ギルドにより大幅に遅れている。

 そもそも開店決定が数日遅れた上に、流石に必要な物の手配や段取りなどは商業ギルドのほうが得意分野だから仕方はない。

 

 何はともあれ最短でギルドをオープンさせるため必要なものを洗い出す所からだった。

 そもそも魔物解体の設備や刃物、素材の加工に保管と商業ギルドよりやることは多岐にわたるので準備しないといけないものも多い。

 併せて誰を派遣するかも頭の痛い問題だった。つまり支店長にふさわしい人材がいないのである。

 それらの問題を解決すべくギルド長のケヴィンは何とか頑張ってはいたものの、冒険者ギルドのオープンは結局商業ギルドから二週間遅れたのであった。

 ケヴィンギルド長はサイラス商業ギルド長からちょっと嫌味を言われていたそうだ。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 商業ギルドと冒険者ギルドが必死になってコリント領に支店を開こうとしていると噂になった頃、流石に魔術ギルドも気になって支所を出すべきかどうかギルド長のカーリンは悩んでいた。

 ガンツ領に居る頃のコリント卿はAランク冒険者として認識されていたので、魔術ギルドとしてはあまり注目していなかったのだが、その後ゴタニアの街の魔術ギルドが最近羽振りがいい理由がコリント卿が作った魔道具だったと言う情報を入手したのだ。

 そんな重要な人物とは知らなかった反省として、叙爵後にギルドに来て頂いた時には大慌てで最高ランクに登録することを決めたのだった。

 

 実際魔導液の購入量も半端ではなかった。しかも今後も継続的に購入するつもりだと言われる。

 一度ゴタニアの街の魔術ギルド支部長に相談するのも良いなと連絡を取った所、なんと支部長自らガンツまで来ると言う返事が来た。

 

 そして数日後、魔術ギルド ゴタニア支部長がガンツにやってきた。

 

「カーラ支部長、ようこそガンツへ」

 

「お邪魔します カーリンギルド長 アランさんの事と聞いてやってきました」

 

「そうです、先ずはお掛け下さい」

 

 お茶を戴きながら応接室でゴタニアであった話を始める。

 

「なるほど、それでコリント卿が商会に卸した魔道具のメンテと新たな制作で一儲けしていたというわけですな」

 

「そうですね 我が支部はアランさんには足を向けて寝れません」

 

「羨ましい話ですな、ここではコリント卿は冒険者としてしか活動されてなかったので」

 

「そうですか、魔法の才能もとびきりなのですけど、魔道具製作は天賦の才としか言いようがありません」

 

「それは是非とも領地にギルド支部を出さねばなりませんな

 早速アポイントを取りましょう」

 

 コリント卿へ使者を出したところ、面談を了承した返事が返ってきたので数日後領地へ向かう。

 二人とも初めてコリント領に向かうので、領地に続く道に驚き、街に驚き、ドラゴンに驚きと辿り着いたときにはすっかり疲れ果てていた。

 

「これで面会とか大丈夫ですかね」

 

ギルド長はかなり不安がっている。

 

「アランさんは優しい方だから大丈夫ですよ」

 

「そうですか、ああでもアラン()()は駄目です、気を付けてください」

 

「そうでした アラン様と」

 

 領主館に着き面会のアポイントがあることをを伝える。

 そのまま応接室に通され、暫くしたころにアランが入室してきた。

 

「コリント卿 今日は面会の許可を戴きましてありがとうございます」

 

 ギルド長が貴族に対する挨拶をしている。

 横でカーラも同様に挨拶をしていた。

 

「コリント卿 お久しぶりです」

 

「これは何と!カーラさんじゃないですか、お元気でしたか!」

 

 良かった、覚えて貰えていたのでちょっと安心した。

 

「はい変わりありません、それにお陰様でタルス商会との取引も順調でギルドとしてはアラン様に足を向けて寝られない状態です」

 

「ああ、昔通りの喋り方でいいですよ カーラさんそういうタイプで無かったでしょ

 商売も順調そうで何よりです」

 

 アランは変わらないなと思うカーラの横で、ギルド長は親しそうに会話するのを見て少し安堵した。

 

「それで今日はどうしたんですか? 遠路ゴタニアからカーラさんまでいらっしゃるとは」

 

「先ずはアラン様 領地の開拓おめでとうございます そして噂には聞いていましたが大変驚きました」

 

「ありがとうございます」

 

「今回訪問させていただいたのは、我が魔術ギルドについてもこちらの街に支所を開設させていただきたくお願いに参りました」

 

「おお、それは嬉しい話ですね」

 

「恥ずかしながらコリント卿のお話についてはこちらのカーラに聞くまで魔道具製作の第一人者とは知らず大変失礼いたしました」

 

「いや、ガンツではそういう活動してませんでしたからね 仕方がないことです」

 

「それで慌ててギルド開設のためのご訪問した次第です」

 

「なるほど、ギルド開設に関しては大歓迎です よろしくお願いします」

 

 ああ、そういえば折角ならお願いすることがあった。

 

「出来れば魔法陣の作成が得意な方が来ていただけると助かりますね

 この街ではまだまだ需要が多いので」

 

「判りました、検討します」

 

 建物の話や開設する条件をひとしきり会話した後に、宿泊する部屋へ案内をする。

 ちょうどエルナが居たのでカーラさんの方をお願いする。

 領主館の魔道具には興味津々で酷く食いついていたようだが、そりゃそうだろうなぁ。

 幸いエルナはその辺り詳しくないので、答えられなかったようだが対応が大変だったと随分文句を言われたのだった。

 

 そしてその夜、晩餐会で事件は起こった。

 

「アラン様 何と四人も妻が決まったのですか!?

 それなら私も召し抱えてくれないですか?

 見知らぬ仲で無いし、ちょっとトウが立っているが私もまだまだいけると思います!」

 

 ああ、まさかカーラ支店長、酒乱だったのか!

 確かに美人ではあるが、勘弁してほしいと頭を抱える。

 カーリンギルド長も困った顔でおろおろして窘めているが聞く耳を持たない。

 カーラさんを知る女性陣はまだしも、知らないアリスタはゴタニアで何やっていたの?みたいにかなり不審な目でこっちを見ている。

 

「カーラさん 申し訳ないですが十分間に合ってますので」

 

「そんなこと言わず、魔道具制作なら私の得意とするところだし、損はないです

 どうです?是非とも考えてくれないか?」

 

 もう無茶苦茶で、ギルド長は土下座する勢いで謝っている。

 女性陣は皆もうあきれ顔である。

 

 そんな大騒ぎの翌朝、本人は何も覚えていなかったらしく何のことだ?みたいな話だったので、周りのみんなは勘弁してくれよ、もう絶対酒は飲まさないと心に誓っていた。

 

 そして約一か月後には魔術ギルドがオープンまでこぎつけていた。

 他のギルドと違ってそれ程設備は必要ないからオープンまでは早かったようだ。

 職員については要望通り魔法陣の製作が得意なメンバーが来てくれていたのはありがたい。

 早速三人で回っていなかった魔法陣製作を依頼したことで、俺たちは助かりギルドは大いに繁盛してウィンウィンだ。

 後日聞いた話だとカーラさんは本気でこの街の支部長になろうと頑張っていたらしい。

 魔道具の製作で言えば惜しい人材ではあるが、惨状を知っていたカーリンギルド長が手を打って実現しなかったらしい。

 本当に危ないところで救われたようなのであった。

 

 




何故か冒険者ギルドはネタ無いので扱い悪くなってしまします。
次回更新はまた少し空く予定です。
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