航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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121.枢機卿巡回

「大変です、アラン様 ゲルトナー大司教がここに来られるそうです!!」

 

 イサク司祭が大慌てで走りこんできた。

 そりゃあまぁ教会のトップが視察に来るのだ、現場としては大騒ぎになるのは無理もない。

 

「こっちにも手紙が届いて読んでいたところです、それに大司教じゃなくて枢機卿になったって書いてありますね」

 

「ああ、本当ですか、流石ゲルトナー様 おめでとうございます」

 

 流石はゲルトナーを敬愛するイサク司祭だ。枢機卿昇進のお祝いのために何やら祈り始めた。

 

 イーリスから受け取っていた報告によると、高齢の枢機卿の一人が何度目かの奇跡を起こしたゲルトナー大司祭を後継に指名したのだ。

 大司教に任命されてからあまり経っていないのに枢機卿になるのは異例だと、少しもめたようだが最終的には全会一致で承認されていた。

 それには王都を出た後も説教の何回かに一回はドローンが姿を現すようにしてあったのが効果が高かったのは言うまでもない。

 

「ゲルトナー枢機卿が来るまでにはまだ少し時間があるから準備は大丈夫だと思いますが、

 教会の偉い人の接待とかどうすればいいか分からないので協力をお願いします」

 

「承知しました、誠心誠意お出迎えする所存です」

 

 王都の視察より先に教会の枢機卿がここに来るなんて、随分と気合が入っている。

 

 後で判ったことだが、まずイサク司祭が領地に来た時に街が出来てすでに教会の建物があり非常に感動したと大げさに報告していたことと、その後教会が完成したことが要因らしい。

 後はもう一つどうしてもやりたいことがあったのと、そしてやはり孤児たちが気になったことで、早々に枢機卿巡回の場所に選んだとのことだった。

 

 開拓も定かではないような領地に対して枢機卿が訪問するのは異例中の異例らしいが、それだけゲルトナー枢機卿の教会内での立場が強い事を物語っていた。

 

「泊まるところはどうすればいいのかな? ここに泊まってもらうのでいいのか?」

 

「普段の巡回であれば教会で泊まっていかれます

 まだシスターも五人しかいないような小さな教会ではお世話もままなりませんが頑張ります

 ガンツの教会にも応援を依頼しますし、通常であれば先触れとして数日前に準備を確認する者たちが来ます

 とは言えガンツの教会も巡回の対象なので、大騒ぎになっているでしょうね

 私はまだゲルトナー様とは面識がありますが、ガンツの司祭からすればほぼ会う機会もないわけですから」

 

「なるほど」

 

 そりゃあ責任重大だよな。

 

「教会の中までは難しいでしょうが、一応警護に近衛騎士を出して周りを警戒させましょう」

 

「ありがとうございます」

 

「後ですね、イサク司祭、言い難いのですが…」

 

「なんでしょう、アラン様」

 

「ゲルトナー枢機卿が、ここに来た際には是非俺の結婚式を執り行いと書いてあります…」

 

「ええええ! なんですって!?」

 

 イサク司祭は盛大に驚いているが、俺も最初見た時にはもの凄く驚いていた。

 

「枢機卿なんて偉い人が、叙爵されたばかりの男爵の結婚式を執り行っていいのでしょうか?」

 

 流石に俺でもちょっと大げさなことに気が付いている。

 

「王族や公爵の跡継ぎの結婚式なら有りえますが、私も聞いた事がありません」

 

「ですよねぇ、だからと言って断るわけにも行かないですよね」

 

「それは勿論です! 枢機卿からの申し出であれば断ることなど以ての外です!」

 

「しかし何故婚約の話まで知っているのでしょうか…」

 

「それは私が報告しました! そんな大事なこと黙っていたら叱られますので」

 

 犯人はお前か…

 

「…なるほど」

 

 手紙には三十日後に王都を出発するとあるので、返事を出すタイミングは一度しかない。

 出発後は幾つかの街の教会を巡回しながら三十日かけてガンツに到着し、翌日この街までくるので六十一日後にはここに来ていることになる。

 

 二カ月あればと思うけれども、結婚式ともなれば衣装も揃えないといけないのであまり時間はない。

 

(セリーナ、シャロン クレリアと居るならアリスタも呼んで来てくれないか)

 

「了解です」

 

 ほどなくして全員が集まり、事の顛末を告げる。

 

「えええ! 枢機卿様が結婚式を執り行ってくれるですって!」

 

 クレリアとアリスタは倒れんばかりに驚いている。

 

「結婚式ですか!? どんな感じなのかな?」

 

「こちらの世界でもウェディングドレスの風習はあるようだから楽しみです」

 

 セリーナとシャロンは単純に結婚式が嬉しいようでにこにこしている。

 

「そうなんだ、タイミングを逃して先送りしていたが、枢機卿からの申し出であれば断るわけにいかないだろう」

 

「断るなんてそんな事は絶対有りえません!」

 

「そうです、王族でもなかなか枢機卿に執り行ってもらえるものではないのですよ!」

 

 そうなのか、大事になってきて少し気が重い。

 

「ただ問題は六十日で結婚式の準備が終わるかどうか?って事だろうな

 ドレスとか指輪も準備しないといけないんだろ?」

 

 この世界の風習も多くの人類惑星と変わらず指輪の交換があるのは知っている。

 あれ? 四人もいたら俺は四つも身につけるのか? 

 

「そうです、しかも枢機卿様が執り行ってくれるなら衣装もちょっと張り込まないといけません」

 

 いや、田舎の男爵ですよ? そこまで立派な服装はまずいでしょ? と思ったけど、そんなことは口にしない。

 

「お父様に連絡して大至急全員分の準備をします 衣装はお任せください」

 

 流石アリスタはその辺りに詳しく頼りになりそうだ。

 

「よろしく頼むよ」

 

「イサク司祭も何か準備に必要な物があれば遠慮なく相談してください」

 

「かしこまりました」

 

「返事の手紙は今夜書いておくので、イサク司祭の分も合わせて明日のガンツ行分に乗せましょう」

 

「ありがとうございます」

 

「アラン 今から皆でガンツに行きましょう

 先ずはお父様と打ち合わせを行い、その後服屋で採寸します」

 

「え?」

 

「衣装や小物は簡単にできませんから一日でも早く取り掛かる必要がありますので」

 

「小物とか出来合いではダメなのか?」

 

「当たり前です このために作ったというのが大事なのですよ

 こういうものはそれだけ品位やセンスが問われるものです

 また枢機卿様が執り行ってくれた結婚式で身に着けたアクセサリーや服装、髪形などは今後貴族や裕福な庶民層に多大な影響を及ぼすものなのです」

 

「…そうなのか…」

 

 常識人枠としての発言よりもどちらかと言うと商売人として思いのほか熱くなっているアリスタに気圧される。

 

 こうして枢機卿巡回 により急遽降ってきた結婚式ミッションがスタートしたのであった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「アリスタが駆け込んできていきなり『結婚式が決まったので大至急準備します!』と言い出すと思ったら、まさかのアラン様が枢機卿に式を執り行ってくれる段取りを取り付けているとは流石だな!」

 

「いえ、私から持ちかけたのではなく教会側からの打診なのですよ」

 

 一応訂正をした後で、自分の手柄にしておけば株が上がったんじゃないか? と一瞬思ったが柄では無い。

 すぐに嘘を見破られて酷い目にあいそうだし。

 

「何だって! 教会側からの申し出なのか!?」

 

「ええ、懇意にしていたゲルトナー大司教が枢機卿に出世して最初の巡回にこちらを選んだので、折角来るから式を執り行わさせて欲しいという事です」

 

 確証はないが、恐らく逆に領地に来て結婚式を行いたいから、巡回を計画したのだろうと予想している。

 

「まさかゲルトナー枢機卿直々の申し出なのか!? なんてこった大事件じゃないか!!

 アラン様にはいつも驚かされてばかりだな」

 

「今回は俺のせいじゃないと思うのですけど、しかしいいタイミングだったと考えます」

 

 突然降ってわいた申し出だったが、忙しさにかまけて延び延びにしていたのでこれも良いタイミングだと考えることにしていた。

 

「そういう訳で急遽ですが結婚式は六十日後に領地の教会で執り行うことになりました」

 

「ああ、ちょっと忙しいが結婚自体は決まっていたので、衣装と小物を準備する話はつけてある

 六十日あれば大丈夫だろう」

 

 こういうところは頼りになる。自分でやっているとどうしていいか分からず途方に暮れるに違いない。

 

「ところで披露宴も同じタイミングですかね?」

 

「そうだな、枢機卿が来ていることなんて滅多に有るわけでもないし、それが地元領主の結婚式にともなれば大騒ぎは確実だ

 可能であれば参列して貰えると思うが、どうだろう?」

 

 ゲルトナー大司教の顔を思い浮かべる、大丈夫だろう。

 

「ええ、恐らく大丈夫じゃないかと思います」

 

「それなら、段取りとしては領地で結婚式を行いその夜は領地で簡単な披露宴、翌日ガンツに移動して夜に正式な披露宴だな」

 

 二日間も続けるのは勘弁してほしい、と思っていたら…

 

「領地での披露宴は身内とスターヴェーク関係者だけでいいだろう

 ガンツでの披露宴は二回やるからな、一回目は招待客を招いての披露宴、二回目は会費制の立食パーティだ」

 

 なんだって!? 

 

「一回目は領主で男爵としての分で、付き合いのある貴族が主な出席者になるが、まあガンツ伯は代理のデニス様だろう

 二回目はパトロンとして出資している商会とアリスタの分で、サイラス商会で付き合いのある有力な商会や、タラス商会の関係ある人たちが中心だな」

 

 二回目は想定できるが、一回目は貴族になったばかりで付き合いが少ないから想像しづらい。

 

「アラン様には出席者を選んでもらう必要がある

 結婚式の参列者、領地の披露宴の招待者、ガンツの披露宴一回目の招待者と二回目の招待状の送付者だな

 披露宴も百人程度で、領地の披露宴は二百人くらいだろう…」

 

 その辺り流石にうんざりした顔をしていた俺を察知したのだろう、サイラスさんがフォローする。

 

「その辺りはアリスタとカリナがうまくやってくれるさ」

 

「そうですね 参列者などはクレリアさんと話して決めますね」

 

「段取りは勿論任してください」

 

「頼もしいですね」

 

 カリナには少し申し訳ないと思ってたら、本人は望外に傍に居られることになりかつ役に立てるのでそうでもないらしい。

 さすがに健気すぎないかと思う…

 

「しかし、本当に退屈させてくれないな、アラン様は」

 

「色々落ち着いて準備しようと思っていたら、強制イベント発動ですからね

 もうすこし落ち着く暇が有ってもいいと思うのですけど」

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 そして枢機卿到着の五日前、先触れとして教会関係者が到着した。

 いつものように正門まで出迎えるが、流石に教会関係者、ドラゴンにビビりながらも進んでくる。

 馬車十台に二十人ほどが乗り込んでおり、思っていたより大所帯でちょっとびっくりしたが、枢機卿と言う立場を考えればそれも仕方ないだろう。

 アトラス教会の騎士団としてのメンバーも何名か来ているようで、教会の意匠の装備に身を包んだ騎士達が居る。

 

「遠路遥々、セレスティアルへお越しいただき、誠にありがとうございます

 私が領主のアラン・コリントです」

 

「コリント卿、アトラス教の視察団の副団長、ダニエルと申します

 急な依頼にもかかわらず、私たちをお迎えいただき、大変光栄に存じます

 ゲルトナー枢機卿の命により、この地の教会を視察することとなりました

 また、コリント卿殿のご結婚式を執り行うことができること、大変嬉しく存じます」

 

「ありがとうございます 数日間よろしくお願いいたします

 また教会の件や結婚式についてはロベルトとカリナに相談をお願いします」

 

「ロベルトと申します お会いできて光栄です 教会の担当をしておりますので何でも申しつけてくだされ」

 

「カリナです 商業ギルドの支店長で今回の結婚式について取り仕切っています」

 

「そして警備の計画はこちらのダルシム近衛騎士団長と話していただければと思います」

 

「ダルシムです 警備についてはお任せください

 とはいってもこの街は非常に安全な街ですし、教会騎士団がいらっしゃるようですので、我々は周囲の警戒に当たらせていただきます」

 

 挨拶がすんだところで教会まで案内し、イサク司祭を交えて大まかな段取りの確認を行う。

 

 今日明日は枢機卿が泊まるための教会の準備などを行い、枢機卿がこの街に来るのが三日後、四日目は視察を行い、最終日の五日目に結婚式を執り行うとの事だ。

 披露宴の参加は本人が来てから調整することとなった。

 

「コリント卿 ゲルトナー枢機卿は領民に対して説教を行いたいとの想いがあるのですが、この教会では入りきれないかと思っています

 何かいい場所は無いでしょうか?」

 

「それならスタジアムで行いますか? 今の住民数であれば全員入ってもまだまだ余裕があります

 逆に声が届くか心配なくらいではありますが」

 

「それは大丈夫です、枢機卿様が姿をお見せになることが大事なのです」

 

「分かりましたそれであれば問題ありませんね

 演説は四日後の午後に行うことでよろしいでしょうか?」

 

「はい、問題ありません」

 

 その他色々打ち合わせを行い終わった頃にはすっかり夕暮れの時間となっていた。

 食事を打診したが教会としては辞退しているとのことで、こっそり食材だけ差し入れを行っておいた。

 

 こうしていよいよゲルトナー枢機卿がやってくることになる。

 

 

 





次回更新は一週間後くらいの予定です。
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