ゲルトナー枢機卿の到着に合わせ、イサク司祭やロベルト達と正門で出迎える。
「コリント卿、ご無沙汰しております」
「ゲルトナー枢機卿一年振りですね 枢機卿への就任おめでとうございます
大司教になったかと思えばあっという間に枢機卿とは大変驚きました」
「全ては女神ルミナス様と使徒イザーク様の恩恵です」
「いえ、ゲルトナー枢機卿の日頃の行動の賜物でしょう」
「いえいえ、コリント卿のアドバイスを頂けることができたこと自体が恩恵です」
口に出しそうになりつつも口にしないのは流石だ。
「そしてこちらが噂のドラゴンですね、流石にちょっと足がすくみそうになりますが素晴らしい」
「ええ、グローリアと言って今やこの街の守護竜になっています
グリーリア、こちらはゲルトナー枢機卿と言って教会の偉い人だ
よろしく頼むよ」
「よろしくです」ガオガオと塀の上から返事があった。
従者の一部は引けてた腰がさらに引けてへたり込みそうになっているが、ゲルトナー枢機卿はさすがだった。
「よろしくグローリア お初にお目にかかります 数日滞在させていただきます」
ガオガオ返事があった。
「良ければ近くでご覧になりますか?」
「ええ、機会があればぜひ」
「分かりました、後ほど近くで挨拶できるようにしましょう
それではいったん教会に向かいましょうか」
枢機卿ほど偉い人がドラゴンの傍に行くのを許されるかな?とは思ったが側近は特に止めなかったので構わないらしい。
教会へ向かい、応接室で引き続き話を続ける。
「コリント卿にはまずは謝らなければなりませんね
イサク司祭よりコリント領に到着すると教会の建物がすでに建っていたと聞き、何か出来ないかと考えて断りもなく職人を手配してしまいました
そうして教会が完成したと聞きホッとしていたら、なんと婚約したとの話が書いてあるじゃないですか
孤児たちの様子も気になりますし、それなのに婚約されたと聞くと居ても立っても居られなくなり、それで急遽教会巡回と結婚式を執り行う予定を連絡させていただいた次第です」
まあそうだろうと思っていたがやっぱりか。
自分が肩入れしているこの領地に是非ともやって来たかったのだろうというのは理解出来る。
「なるほどそうでしたか、どちらの手紙も見た時にはイサク司祭と随分と慌てたものです、ねえイサク司祭」
「はい、随分とびっくりしましたが、教会の完成はゲルトナー枢機卿のご支援有っての事ですので大変感謝しております
おかげで無事献堂式まで立派に執り行えました」
イサク司祭が感動しながら伝える。
「私はほんの少し後押し出来ただけで、コリント卿やイサク司祭、職人の頑張りがあってこその話です
それにしてもこの教会は素晴らしい! これほどだとは思いませんでした」
「それらは全てコリント卿とゲルトナー枢機卿のお陰です
コリント卿が居なければこれほどの建物は無かったですし、ゲルトナー枢機卿の支援が無ければこれほどの教会に完成しておりません」
「そうですね、私の準備してた職人では今頃に完成していたかどうかも知れないですから手配して頂いたのは非常に助かりました
また結婚式についてもタイミングをつかめず延び延びになってましたが、決断出来ましたので良かったと思います」
実際、取り掛かった頃には完成の目途も見えていなかったのだから非常に助かった。
結婚式についてはちょっと派手すぎるきらいがあるけれども仕方ない。
「いえいえ、多少の差はあれ同じように完成していたと確信しています
それにしてもこの街は良く賑わっていて、コリント卿の素晴らしい治世の賜物だと思います
王都の孤児を連れて行ってもらうために、多少ひもじい思いをさせても構いませんなど誤ったことを言ってしまった己の不明を恥じるばかりです」
そんなことはないし、さらにまた孤児をたくさん連れて来られそうだからちょっと釘を刺しておこう。
「幸い商会の全面的支援を得られたものですから、孤児たちの教育も何とかなりました
しかしこれから増える民は都合により土地や国を捨てざるを得なかった者達なので、領地の運営状況は厳しい感じが続きそうです」
「そうですか、しかし貧しい民たちを受け入れるとは流石はコリント卿、常に困っている方の味方ですね」
しまった、逆効果だったか。とりあえず話題を変えよう。
「そういえば、結婚式ですが四人一緒の流れってどうなのですか?」
「四人一度ですから少しは違いますが、普通と変わりないですよ」
いや、変わりないってしたこともないどころか、そもそも見たことも無いので流石に難しい。
「…普通と言われてもまだ一度も経験が無いものでして…」
「それは確かに、失礼しました」
「しかしいきなり四人というのはどうなのでしょうね…」
「コリント卿ならば誰もが納得していますよ」
その納得は要らなかったな…
さて、本題に入ろう。
「ゲルトナー枢機卿 実は見て頂きたいものがあります」
おもむろにマッチを取り出し机の上に置く。
「これは何でしょうか?」
「マッチと言い、誰でも火がつけられる道具です
魔法は使っていないので魔道具ではなくただの道具です」
「何ですって! 誰でも魔法を習わずとも火がつけれるという事ですか?」
「そうですね、試してみましょう ほらこんな具合です」
マッチ棒を持って箱の横を擦ると、ジュッと音がして火がつく。
「おお、なんという事だ」
「こんな具合ですね どうぞ試してみてください」
枢機卿は恐る恐る試してみるが、勢いが足らず火はつかない。
「もう少し勢いをつけてください、ただあまり勢いをつけると軸木が折れるので力の入れすぎも駄目です」
何度か試し火をつける事が出来た。
「おお、これはなんと素晴らしい」
「我々は
領地の特産品として生産しはじめていますので、いずれ王都でも入手出来るようになりますよ
もちろん魔道具のように高価にはせず、庶民にも普及できることを目指してます」
「なんと、それは素晴らしいことですね」
「他にも化学の知識でお酒の改良を行い、
「なるほど、いいお考えです」
「今は魔法が広く普及しているためか、科学や技術、化学はあまり発達しておりません
我々はそれらを利用して、人々の生活向上につながるものを作って広めたいと考えていますので、是非とも考え方を理解していただけたらと思います」
「もちろん、人々の生活向上につながるのであれば教会は否定するものではありません」
「ありがとうございます もしアトラス教の教義と相反しそうなものが出てくれば真っ先に相談させていただきますので、よろしくお願いいたします」
「承知しました」
「ああ、ずっと連絡は出来ておりませんが、夢はまだときおり見ております
ゲルトナー枢機卿が両手を上げた時に、使途様が現れる夢でした
あの特徴的な作りはここのスタジアムだと思います」
「ああ、女神ルミナス様の祝福を」
直接は言及せずとも今後の解釈に影響するきわどい会話をなんとか終えてほっとする。
まあゲルトナー枢機卿なら言わんとすることは分かってくれるだろう。
その後は日暮れまでの間に領地の案内という事で、まずは説教することになっているスタジアムに向かう。
(グローリア スタジアムまで来てくれないか?)
[すぐに行きます 族長]
「ここがスタジアムですね 説教はあちらの方に台をしつらえるのでそこから行ってもらえればと思います」
「おお、これは素晴らしい設備です これなら大勢の人に聞いてもらえそうです」
「今の領民なら全員入っても余裕があります
ああ、ちょうどグローリアが来ました」
グローリアがやって来て中央付近に着地すると、枢機卿の従者が悲鳴を上げそうになりながら後退さる。
安心してもらうように傍に移動して、腕に触れながら声を掛ける。
「グローリア お疲れ様
ゲルトナー枢機卿 よければお近くへどうぞ 触れて頂いても大丈夫ですよ」
「おおお、まさか触れられるとはいい記念になります! それでは失礼してグローリア、よろしくお願いいたします」
近くに来てグローリアのうろこに触れて、とても楽しんで貰えたようだ。
ちょっと部下を見世物にしているようで申し訳ないと思っていたら、グローリア自体は全く気にしてない、むしろ色々と会えて楽しいとの返事だったので安心する。
その後は領主館を見てもらい、孤児たちの住居を見てもらうが、やはり発展していますねと随分と感心していた。
◇◇◇◇◇
翌日、午後の鐘が鳴るころにはスタジアムはすでに大勢の聴衆が駆け付けていた。
ロベルトたちに言わせると、アトラス教会の枢機卿の説教を聞ける機会などと言うのは一生に一度あるか判らないとてもありがたい事だということだ。
そりゃあ皆も仕事より優先で集まってくるのは確かだな。
「これよりゲルトナー枢機卿の説教を行います 皆静かに拝聴ください」
イサク司祭の挨拶で説教が始まった。
ステージの上へ上がり跪くと祈り始めた。
それを見た教会関係者も同じように祈り始める。
暫く説教を行った後クライマックスになり、空を見上げ両腕を空に掲げた。
「おぉ、女神ルミナス様! この地に慈しみをと恩寵をお願いします」
待機させて置いたドローンに指示を出す。
(ディー・ワン ステルスモードを解除し、スタジアムを一周してから上昇してくれ)
[了解]
すぐに群集の一部が気付き、声を上げ始める。
「おお、使徒様だ!」
「何と言うことだ、イザーク様が現れたぞ!」
「ああ、イザーク様、ゲルトナー様われらをお導きください」
皆の期待に応えるようにスタジアム上空を一周してから、高度を上げながらステルスモードに入りかき消すように消え去った。
皆、一様に感動しているようで涙を流している者もいる。
使徒が現れたことに騒然とする群集達を落ち着かせるようにゲルトナー枢機卿は声をかける。
「皆さん 女神ルミナス様は使徒イザーク様を通じてこの地を見守っておられます
この地とこの地に暮らす皆さんに女神ルミナス様の加護がありますように」
騒然としていたスタジアムは一瞬静まりかえった後に歓喜の渦に包まれ、ゲルトナー枢機卿の説教は興奮のうちに終わりを迎えた。
◇◇◇◇◇
結婚式当日、教会に鐘の音が響き渡った後に祝福の聖歌が流れ始め、イサク司祭の宣言により結婚式が始まった。
「これよりアラン・コリント卿ならびにクレリア嬢、セリーナ嬢、シャロン嬢、アリスタ嬢の結婚式を執り行います」
聖堂の通路を五人でゆっくりと進んでいく。
この日のために準備した衣装は王に面会した時の様な意匠の白い礼服だ。
女性陣は刺繍も美しい白いドレスで頭からヴェールを被っている。
名前を呼ばれる順番についても一揉めあったが、最終的にはこの星で出会った順番で決着した。
一揉めと言っても別段不穏になったとかではなく、遠慮の押し付け合いでパーティー内の順位にしようだとか、名前順にしようだとか、色々候補が出た後に決まっただけだ。
ゲルトナー枢機卿の祝辞が始まる。
「あなたたちにとって、結婚は、愛と奉仕のために与えられた聖なる契約です
あなたが結婚をすることで、あなたとあなたの妻たちは、神の目の前で一つの肉体となり、互いに支えあい、励まし合い、愛し合うことが期待されます
結婚は、愛と責任を持つことの象徴であり、あなたが与えられた四人の妻たちを同じように愛し、大切に扱うことが求められます
女神ルミナス様は、あなたたちが互いに愛し、支え合い、そして幸せに生きることを望んでいます
あなたが結婚をすることで、あなたとあなたの妻たちは、新しい家族を作り、互いに尊敬し、信頼し、愛し合うことが期待されます
あなたたちは家族として、そして神の子たちとして、より良い未来を共に築いていくことができるでしょう
女神ルミナス様の祝福があなたたちと共にありますように」
そして俺はというと柄にもなくガチガチに緊張していたが、ここからが正念場だと頑張って挨拶を行う。
「参列されている皆様、私はこのたび四人の素晴らしい女性たちと結婚式を挙げることになりました
彼女たち一人ひとりが私にとって不可欠な存在であり、彼女たちとの結婚生活が私にとっての幸せの源です
私たちはお互いを尊重し、理解し、支え合って、家族として成長していくことを誓います
また、この結婚においては四名の女性を等しく対等に扱い、お互いの個性を生かし、私たちが選ぶ生き方や愛の形が多様であることを尊重し、他者を傷つけないことを目指します
今後私たちは共に、愛と家族を大切にし、領地の発展に尽力していくつもりです」
参列者から拍手が起きる。
そして宣誓が始まる。
「新郎アラン、あなたはクレリアを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?
「はい」
「新婦クレリア、あなたはアランを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?
「はい」
これを残り三人分繰り返す。
「では、誓いの指輪の交換を」
続いて指輪の交換でクレリアから順に指輪をはめていき、終われば女性陣四人で共同して、実際は代表で一人が俺に指輪をはめる。
以前疑問に思っていた件は同じ指輪を五個作るのが正しい慣習で、新しい妻をめとる場合は同じものを新たに作るようだ。
勿論今回は同じデザインの物をサイズ違いで五個作成したから問題ない。
そして最後に誓約の言葉を告げられる。
「指輪の交換はなりました
今、この五名は女神ルミナス様の前に夫婦たる誓いを行いました
神の定め給いし者、何人もこれを引き離す事はなりません」
再び拍手に包まれる。
出席者は感涙していて、特にスターヴェーク関係者がもの凄いことになっていたが、苦難を乗り越えての姫様の結婚式だから仕方ないだろう。
ロベルトの顔はもうぐしゃぐしゃだし、エルナも凄いことになっている。
強面のヴァルターや近衛の面々ですら涙を拭いている。
サイラスさんもさすがに込み上げてくるものがあるのだろう、目頭を押さえて必死で涙をこらえているようだ。
こうして結婚式は終了しほっと胸をなでおろすのであった。
ストックが切れたので暫くは週一回の更新予定です。