今回姦しい回です。
教会に鐘の音が響き渡り、いよいよ入場が近づく。
緊張がピークに達した時に、ふと隣のアランを見ると自分以上に緊張している姿があった。
『やっぱりアランも緊張しているんだな』と思ったら、少しだけ緊張がゆるむのを感じる。
祝福の聖歌が流れ始め、イサク司祭の宣言で入場が始まった。
一瞬止めた息を吐き出しながら、アランを中心に五人で聖堂を歩き始める。
◇◇◇◇◇
話は少しさかのぼり結婚式の話が出た翌日の昼食会──と言う名の正妻四人で取るランチ中だ。
「アリスタ ベルタ王国での結婚式ってどんな感じなの?」とクレリア。
婚約が決まった後、お互いに『さん』をつけずに呼ぶと取り決めてからずいぶん経つ。
ようやくすこし慣れてきた頃だ。
クレリアは王族だった頃に何度か結婚式に参列したことはあるが、王族関係は儀式も多く何だかんだで長かったのが気になったようだ。
「アトラス教会が執り行う式ならばスターヴェークと余り変わらないと思います
祝福の言葉があって新郎の宣言、それから結婚宣誓と指輪の交換でしょうか」
「確かに色々儀式があったのだけど、普通の貴族ではないの?」
「王族であれば儀式的なものがあるとは聞いたことはありますが、アランさ…アランは男爵なので枢機卿様が執り行うとしても、特別なことは無いと思います」
そう答えてみるけど友人の結婚式には何度か参加したが平民のため、貴族の結婚にそこまで詳しいわけではない。
将来のためにと受けていた貴族教育の中で入手した知識くらいしかないのだ。
「なるほど、それなら確かにあまり変わらないのかも」
セリーナとシャロンはそもそもこの大陸の風習を知らないので興味津々で聞いてくる。
「結婚式の服装ってウェディングドレスだよね? どんな感じのドレスなの?」
「まず必ず白のベールをかぶります、これは決まり事です」
「うんうん、それから」
「次にドレスの色は自由ですが、でも夜会のような派手な色ではなく淡い色が多いですね
色自体は何かにちなんだ──例えば家や領地のカラーがあればそれをベースにすることが多いです」
「そうなのね、色は自由となるとかなり悩みそう」
「四人で色を揃えるのか、別々にして全体でコーディネイトするという手もあるものね」
実際にエリナとカリナを交えた女性陣達は、仕立て屋まで巻き込みさんざん悩む事になった挙句に純白に決まったのだからこの時の予想は正しかった。
「ドレスのデザインは細身のシルエットで裾が広がったものが主流です
ふわっとしたのも多いですが、ふくよかな方か妊娠していたりする場合が多いので、この四人であれば細身でほぼ決定ですね」
「なるほど」
そう答えたアリスタは 最近少しずつ服がきつくなってきていることは自覚しており、これはまずいのではと内心かなり焦り始める。
何しろ領地の食事は珍しく美味しいものが多いため、自制していてもつい食べ過ぎてしまうのだ。
しかも普段は運動らしい運動をしていない自分が、圧倒的な美女の範疇に入るクレリアやセリーナやシャロンと並ぶのだ。
自分が決して可愛く無いわけではなく、世間的には十分美人の範疇に入っているとは思うが、比べると辛いのも自覚している。
そんな不安を気取られぬよう続ける。
「それと勿論ダンスなどはしないので動きやすい服ではなく見た目優先です
裾はかなり長いデザインになっているので、歩くのは要注意でしょうか」
「それは大事ね、式の最中に転んだら恥ずかしすぎるから」
「最後にアクセサリーですが、指輪は交換があるので着けませんが、ネックレスとイヤリングはそれなりの物を準備します
アクセサリーとドレスのレースや刺繍が一番凝るポイントでしょうか」
「なるほど、それは確かにどうするか楽しみね」
「明日仕立て屋に行ってサンプルを見てから決めていきましょう」
「揃いにするか別々にするかは方向性を決めておかないと時間かかりそうよね」シャロンが言う。
「そうね、私は皆お揃いの同じドレスがいいかな」とクレリア。
昼食の時間は賑やかに過ぎていく。
◇◇◇◇◇
「これだけあると目移りしちゃうわね」
「きゃーこれ可愛い、レースとフリルが良い感じじゃない」
ガンツ有数の仕立て屋を訪れて始まったドレスの打ち合わせはハイテンションだ。
「こっちはふわっとしていてかわいいけど、ちょっと胸元空きすぎてない?」
「あまりセクシーだとアランが心配よね」
「そうそう、免疫が無くて緊張するんじゃない?」
何かさらっと酷い言葉が差し込まれてないか? 否定は出来ないけど…
「さすがに前が空いているタイプはやめましょうか」
「そうね、それとゆったりしているのも意外と悪くないわね」
「そのタイプは体形は出ないですが、皆さまとても素晴らしいスタイルですので全体のシルエットが見事です」
チーフと思われる妙齢の女性が、張り切って色々なコーディネートに取り組んでいた。
「…他の三人はともかく私は数に入れないでください」とアリスタ。
「いいえ、そんなことはございません!」
サイラス商会の娘相手に『そうですね』など言えるはずは無いだろうが、アリスタが自分でいうほど三人と比べて劣るとも思ってない。
そりゃ明らかに体を鍛えている三人と比較するとアリスタは普通枠になるのだろうけど、十分スタイルいいけどなぁ、などと思うが声はかけない。
「それにしても小さい時からあこがれていたけど、いざ自分で着る事になるととても悩むわね」
「アリスタ様 これとか似合うと思うのですが如何でしょうか?」
「そうね、そうだ丁度いいわ、カリナそれ着てくれない?」
「いえいえ、私はドレスは着ないので…え、ちょっと」
「ちょっと客観的に見たいから、ほら体形似てるじゃない、ね!お願い」
「ちょっと、アリスタ様、待ってください、待って」
カリナが掛けた声にアリスタが反応したところ、あっという間に針子達に捕まりドレス姿に変身させられる。
「カリナ ちょっと隣に立ってみて」
「…はい」
かなり恥ずかしそうに俯きながら、おずおずと隣に並ぶ。
「ほら、背を伸ばしてしっかりして 皆さんどう?」
「どっちも良いわね、カリナさん似合うじゃない」
「うんうん、とても良いわね」
「そうでしょうか? 私には肌の露出が多すぎて落ち着きません」
「採寸もお願いね」
「アリスタ様それは…!?」
「どうせ参加用のドレスを作るのだから採寸は必要よ」
「オーダーメイドは過分ですので遠慮します、アリスタ様!」
そんなやりとりを見ていたエルナがちょっと羨ましそうな表情をしていたのをクレリアは見逃さなかった。
「よし! エルナも着てみよう」
「えええ、リアやめてください、いや駄目です、私は身長も高いので似合いませんから…」
「そんな訳ないでしょ、鍛えているし、背も高いからいいと思うから」
ああ、エルナも犠牲者になったのか、と思うとあっという間にドレスを着替えて恥ずかしそうに出てくる。
カリナよりさらに恥ずかしそうだが、身長が高いのは確かにいい感じだ。
さらに赤毛が白いドレスに映えて凄く目立つ。
「うう…まさか私まで着ることになるとは…」
「そんなこと言わずにほら、とても似合っているわよ、ねぇ?」
「ほんと、鍛えているし背が高いから見栄えするわね」
「これでヒールを履くとさらに足が長く見えて、見栄えするスタイルになるわね」
皆で褒め殺しされて、エルナは赤い顔をして俯く。
打ち合わせを始めて既に五時間が経過しているが、勢いは衰える気配はない。
「それでは次はこのタイプを試してみましょう」
チーフの指示に従ってその周りのお針子たちがせっせとドレスをとっかえひっかえ合わせていく。
新婦四人にそれぞれ二〜三人は付いてテキパキと服を取り替えてはいるのだが、如何せん話はあっちに飛びこっちに飛び騒ぎは終息しそうにない。
俺の分はというととっくに採寸を済ましてしまったので、もうやることは無い。
それでも付き合うのは男性の義務である!とほほえましく眺めているふりをしながら、こっそりイーリスと打ち合わせを行っていた。
[幾つかの貴族は反応がありました ドローンで確認済みです]
エルヴィン経由で託した手紙に賛同なら合図をするように書いてあったのだ。
(いい傾向だな、直接伯爵家や侯爵家にはなかなか会えるものではないが、家に繋がるものであれば怪しまれることが少ないからな)
[現状、手紙を出した家の三分の二から合図が出ています]
(一覧を出してくれないか、後でサイラスさんに連絡して正式に招待状を発行してもらう)
イーリスが視界に表示してくれた一覧を紙に書き写す。
何にせよ王都から遠く離れたこの地では、貴族への工作もままならないので披露宴の招待客として招くのは千載一遇のチャンスだった。
(アラン!!)
いきなりナノム通信で割り込みがあった。
(わっ!シャロン突然どうしたんだ)
(さっきから声かけてるのに)
「ごめんごめん、ちょっと考え事をしていた」
しまった、集中しすぎてたようだ。
「本当に? 何か怪しくない?」
「どうせ退屈してなにか良からぬことを考えてたのじゃない?」
「私達より気になることがあるんでしょ」
散々だな…
「すまない、どうした?」
「
似たような感じのドレスを二人が着ていたが、どこがどう違うのか分からない。
「三対三で意見が分かれて、アランにも聞こうかと」
「どのあたりがアピールポイントになるんだ?」
どこが違うんだ?とか言うと全否定されそうなので、慎重に言葉を選んで返事をする。
「こっちは肩と腕がレースになっていてすっきりした感じで」セリーナ
「こっちは肩は出ていて腕の方がレースね」とシャロン
「腰から下のラインも少し違うのよね、セリーナの方は腰の下あたりから広がっていて」クレリア
「シャロンの方は膝の上まで絞り込まれた感じなの」とアリスタ
そっくりな外見だけあって言われた違いは良く判るものの、申し訳ないが甲乙を着けるほど善し悪しが分からない…
「どっちもいいと思うけどな、選び難い」
「なにか適当に誤魔化そうとしてないでしょうね?」
やっぱり散々な言われようだった。
「ま、いいわ、ありがとう」
そうして女性陣はまた元の場所に戻り、スタッフを交えて話し込み始める。
とりあえず二人には入れ知恵をしておこう。
(セリーナ、シャロン 君達ならイーリスにドレスをスキャンして貰って、後で合成して視覚表示して貰えればいいんじゃないのか?
それだと四人や五人で、何度でもシミュレーションできるだろ)
(あ!なるほど!)
(流石アラン!)
(どうしてこれに気づかなかったの、これならパターンを記憶しておけばデザインもできるわ)
(イーリス大尉 お願いできる?)
[了解です 私も二人に似合うとっておきのをデザインしましょう]
何故かイーリスがノリノリだったのは、AIといえど女性型のI/Fのせいなのか?
結局ドレスの詳細が決まるまでにたっぷり一週間かかり、その分短くなった納期で針子たちは大変忙しい目に合うのであった。
◇◇◇◇◇
結婚式前夜、五人揃って晩餐を取る。
「あーやっと準備が終わったわ」
「もう忘れていることないわ…よね?」
「いよいよ明日かぁ」
「ちょっと今夜は緊張して眠れないかも」
「いやあ、話を聞いてると俺も緊張してきたじゃないか」
「でもアランってこういうのは緊張する方でしょ?」
「そうね、いつも通りじゃないかしら」
「荒事だとあれだけ冷静なのにね」
「でもそこもいいと思います」
アリスタだけフォローしてくれたので、余計に凹む。
「それでもこれだけ軽口が言えるのは、緊張の中にも落ち着いたところがあるってことだ」
「…本当に準備終わっているわよね…?」とクレリア。
ドレスもアクセサリーも間に合ったし、ゲルトナー枢機卿も無事到着した。
明日の式の参列者でガンツからの人達も到着している。
「不安になる気持ちはわかるけど、あれだけ準備したじゃないか、大丈夫だよ」
「そうね、アランはその辺りは信用できるから」
イーリスにチェックして貰っているので問題ないのは黙っておく。
「でも本当にアランには感謝しかないわ、私は恩を返せるのかしら」
「うーん、まぁそこはいいだろ それにまだスターヴェークを取り返してもないぞ」
「そうなのだけど、民たちはまだ苦しんでいるのに私だけ幸せでいいのかな…と思う時もある」
「先ずリアが幸せになってないのに、民が幸せになんかなれないわよ」
「そうそう、少なくともこの領地に居る元スターヴェークの人達はリアの結婚を心から喜んでるわ」
「元近衛のヴァルターや元辺境伯軍のロベルトとかのメンバーは涙を流してたし」
「それって毎晩酔いつぶれているやつよね、今日も二日酔いだったし」
「ハレの日を目一杯楽しむのは良い事だよ、少し前は国が亡くなる惨事だったのだから」
それでなくとも困難を乗り越えてきたのだ。
嬉しい時は心の底から楽しめばいいと思う。
「そうね、でもともかく今言えるのは『アラン本当にありがとう』ってこと」
「「私達もね」」
「私もアランと皆さんが受け入れてくれたおかげです」
ふいに真面目なトーンになり感謝される。
ただ流されただけで一人一人に向き合って誠実だったかと言われると、そこは申し訳ないと思う。
「ありがとう でも所帯になってしまい申し訳ない気分だよ」
「でも一妻一夫ならどうなっていたのでしょうね」
「妻の座をかけて争い?」
苦笑しながら言ったシャロンにクレリアが返事する。
「修羅場かなぁ? でもそれは悲惨よね」
「でもアランがゲスい考えで囲ってやろうとか、打算で動いてたならこんな関係にはなってないからやっぱりこうなる運命なのかしらね」
「そうそう、結局こう落ち着く事だったのよ」
「…でも流石にもう増えないわよね?」
「あぁ、それは何か心配ね」
「また何処かで困ってる女性を救いそうで」
「確実にどこかの有力貴族が側室候補を送り込んで来ますね」
「魔術ギルドのカーラさんまで名乗り上げてたし…」
「勘弁してくれ…」
こうして普段と変わらない幸せな晩餐が進んでいくのであった。
結婚式話が長いですが、次回更新で終わります。
次回もまた一週間後の更新予定です。