花吹雪に包まれながらパレードが始まる。
教会で馬車に乗り込み出発し、メインストリートを正門前まで行き挨拶する。
そこで折り返して再びメインストリートで領主館へ戻り、もう一度挨拶する予定だ。
歓声の中、必死の笑顔で手を振りながらパレードを始めた。
対照的にクレリアは慣れた感じで堂々としたものだったので、突っ込みが入る。
「アラン ほら笑顔が引きつっているわよ」
「リアは流石だけど、俺はこういうのは慣れてないんだよ…」
「セリーナもシャロンもアリスタも堂々としてるのに」
返す言葉がない。
結婚式の後、教会から領主館への移動をパレードで行うことにしたのは領民に対する配慮からだ。
枢機卿の巡回と、領主の結婚式ともなれば一生に一度レベルのイベントだろう。
しかも娯楽の少ない辺境の地での生活だから尚更だ。
それを考えると領民が喜んで祝福してくれているのは悪くないなとも思うが、それでもこれはなかなか来るものがある。
身なりからスターヴェークの元国民と思われる者たちは、自分を救ってくれたクレリアに感謝と祝福の言葉をかけながら涙を流して喜んでいる。
クレリアが手を振るとひときわ大きな歓声があがる。
王都からの職人たちも興奮して手を振ってくれている。
孤児たちはまた特別な思いがあると聞いている。
この街に連れて来てくれた事、ゲルトナー枢機卿が来てくれた事があり、使徒と称えんばかりに俺に感謝の祈りをささげている。
流石にそこまで持ち上げられると居心地が悪いが、笑顔で手を振る。
そしてその夜は領地で行う身内だけの一回目の披露宴だった。
わずかに外部と言えるのは冒険者ギルドと魔術ギルドの支店長だけだ。
本当に身内の様なものだから、挨拶は結婚式で行ったものを少しだけアレンジして気取らずに行う。
「皆、集まってくれてありがとう
今日、縁あって出会えた素晴らしい女性たちと結婚式を行った
彼女たちに出会えたのは僥倖だったし、一人ひとりが自分にとって不可欠な存在であり、彼女たちとの結婚生活を幸せの源にしたい
私たちはお互いを尊重し、理解し、支え合って、家族として成長していくことを誓おう
今後は共に家族と領地を大切にし、誰もが自由に自分の幸せを追求できる社会を目指して領地の発展に尽力していくつもりだ」
参列者から拍手が起きる。
女性陣もそれぞれ挨拶する。
終わるとその後は身内だけの宴会モードに切り替えた。
そんな中、ロベルトが感激のあまり泣き笑いしながら声を掛けてきた。
「姫様、このロベルトこれで思い残すことはありません」
「ロベルト何を言っている! ルドヴィーク辺境伯の再興までまだまだ元気で居てくれなければ困るぞ」
クレリアが姫モードで返すが、ロベルトはははと笑い続ける。
「アラン様 姫様の事まことによろしくお願いします」
「ああ、勿論だ、任せておけ
だけどロベルトにはまだ辺境伯領の民をまとめる仕事があるからな」
「はは、全うできるようこの身を捧げます」
「元気で居てくれよな」
「姫殿下…いやクレリア様 このダルシム本日の事は本当に嬉しく思います」
「ありがとう、ダルシム だけどそんなに畏まらないでくれ」
「今日だけは近衛隊長に戻らせてください」
クレリアの周りでは近衛や辺境伯の関係者がひっきりなしに挨拶を行っていた。
彼らにすれば忠誠の対象が花嫁になったのだから、嬉しくない訳はないだろう。
心の底から喜び祝福しているのが手に取るように分かった。
アリスタはサイラス商会の関係者と会話している。
「アリスタ 本当に良かったな
今日はお前のウェディングドレス姿を見る事が出来て本当にうれしかったぞ
アラン様には二度も助けて貰い感謝してもしきれん」
「お父様 そうですね、あの出会いといいこの結婚といい」
「アリスタ様 ガンツ伯の件も含め本当に良かったです」
「カリナ 貴女には申し訳ないと思いますが」
「いえ、それは違います、確かに辛い出来事でしたが、あれが無ければ今日の日は無かったのですから」
もの凄く持ち上げられているのが聞こえ、ちょっと苦笑しながら声を掛ける。
「流石に、そこまで感謝されるほどでもないぞ」
「いいや、アラン様で無ければこうやって披露宴を仕切ることもできなかったからな
明日からのガンツでの方も楽しみにしておいてくれ」
「ははは、何やら怖いですが判りました」
ガンツでの披露宴は一部の招待客を除いてノータッチだったから詳細は不明だ。
当たり前だがサイラス商会が威信をかけて取り仕切るなら、心配することは無いだろう。
次はカトルや文官、武官たちと歓談をしているセリーナとシャロンのところに向かう。
「カトルお疲れさん 色々手配ありがとうな」
「アラン様 いえとんでもない、商人として色々勉強になりました、こちらこそありがとうございます
それに父からもアラン様にくれぐれもよろしくと言われていますので問題ありません」
「そうか、なら良いんだけど何かあったら言ってくれよな」
「はい、明日は父も参加できると大喜びで手紙が届いておりました!」
「そうか、久しぶりに会えるのか、そのうち一度ゴタニアにも行きたいよな、セリーナ、シャロン」
「そうですね、是非行きましょう」
「ハネムーンと言う訳ではないですが、この世界色々行きたいですね」
そうか、ハネムーンは考えて無かったな。
この世界にはまだその習慣はないようだけど、落ち着いたら考えてみよう。
「アラン様 この度は誠におめでとうございます」
「マックスウェル卿 ありがとう
貴方のおかげでガンツに伝手が出来て、明日の披露宴に招待できたので本当に助かりましたよ」
「いえ、ドラゴンスレイヤーの名声があってこそですよ、私はもう陥れられて力を失いましたので」
「そんなことは無いだろう、エルヴィンの話では未だに潜在的な力は大きいそうだぞ」
「買いかぶりすぎだと思いますが、嬉しい話ですね」
「これからが本番になる、引き続き頼むぞ」
「はっ! 我が悲願なるまでは力を惜しみません」
披露宴の後は大広間を参加者に解放し、二次会の場所としておいた。
自分たちは引き揚げたが、皆遅くまで遅くまで飲んで騒いで盛り上がっていたようだ。
◇◇◇◇◇
領地の披露宴の翌日は、ガンツでの披露宴にむけて移動となる。
視察を終え王都に戻る教会関係者の馬車と隊列を組む。
今回、この為という訳ではないが、それなりに豪華な馬車を準備しておいた。
豪華とは言っても内外装ではなく一番の改良点は新型のサスペンションだ。
現在の領地の技術に合わせてイーリスが設計した特製品なのである。
今までの馬車と違い圧倒的に乗り心地がいいのが自慢だった。
「アラン この乗り心地は何なの? 今までとは全然違うだけど一体これは何?」
「そうです、これほど乗り心地の良い馬車は乗ったことがありません」
「特産品にしようと思っててね、鋭意開発中だよ」
「…まさか、でも流石ですね、これならば王族相手にする商売も可能でしょうね」
「ああ、技術的に簡単に模倣できないから、完成したら良い儲けになるね
だけどまだ耐久性が判らないので、それが確認できるまでもう少しかかるかな」
「え? そんなのに乗っていて大丈夫なの?」クレリアが驚く。
「流石にガンツ往復くらいなら問題ないさ、王都往復だとどうだろう?ってくらいまでは完成しているよ」
そんな話をしながら探知魔法を使って探っていたが近くに魔物の気配はなかった。
この街道沿いはすでにかなり安全になっているようで一安心だ。
峠の手前まで来たので一旦休憩する事にし、御者をしてくれたカリナをねぎらう。
「カリナ ありがとう、すまんな」
商業ギルドの支店長が何故御者をしているのかと思うが、本人の希望だった。
「いえ、私はこれが役目なので、アラン様は気になさらないでください」
結局カリナだけはアラン
それでも改めて礼を伝えて振り向くとクレリアが領地を眺めている。
「アリスタとカリナはギルドの視察が最初だったかな、ここで休憩したのかい?」
「ええ、そうです ここから街を見た時には本当に驚きましたよ」
「一年で人気の無いきれいな廃墟から、活気のある立派な街になったよな」
「そうですね、今はもうこの国でも上から数えられる程の規模になりましたからね」
「なあに、すぐにゴタニアより大きくなるさ」
実際順調に領民は増えつつあり、既に一万人を超える規模になっていた。
上手くいけば毎年一万人は増やしていけるだろう。
納税がはじまる頃には三万人だから、国を興すにはもう少しかかるだろう。
振り返ってクレリアに声を掛ける。
「リア そう言えば初めてここに来た時を覚えてるかい?」
「もちろん忘れるわけはないわ あれからまだ一年しか経ってないなんて信じられないもの」
「目が点になってたよな しかし盛りだくさんな一年だった」
「本当に十年分くらいの出来事があった気がするわ」
「まったくだ」
「あそこが私達の街だと言う実感がありますね」
「ああ、俺たちの家になったよ」
遠くに自分たちの街を眺めながら、国を興した先を考える。
◇◇◇◇◇
その夜の披露宴はガンツでも最大のホールで行われた。
五百人くらいの出席者が居て、さすがサイラス商会王国一はスケールが違うと感心するしかない。
やはり心配することは無かったかと思う。
そうして披露宴は五人揃っての入場から始まった。
勿論女性陣の意匠はこの為に作った特注ドレスである。
「…その流石だな、皆とても似合っている、見違えてしまいそうだ」
声を掛ける事は忘れない。
俺らしくないと不審がられたが、女性陣の反応は良かったので良しとしよう。
事前にイーリスに指摘されていたので、声を掛けたわけだが印象は良くなったようだ。
披露宴では挨拶の時以外は基本主賓席で座っているだけである。
偉い人の祝辞などが終わると、向こうから挨拶に来てくれる手はずになっているようだ。
(ナノム 挨拶に来た人をタグを表示してくれないか、貴族と職業で分類してくれ)
[了解]
一通り挨拶が終わり、会場を見渡すと結構な数の貴族が招待されている。
ガンツとその周辺に拠点を持つ貴族は多くない。
文官として派遣されている貴族か、ガンツ伯の関係くらいだ。
当然だがガンツ伯は来ておらず家令のデニスさんが代理だった。
叙爵されたばかりの男爵にはわざわざ王都から戻るほどもなく、家令で十分だろうという事なのだろう。
こちらとしてはデニスさんの方が都合がいい面があるので問題はない。
披露宴に参加している貴族の半数はサイラス商会の取引相手だから色々なところからきている。
残り半数は王都から招待した者達で、身分こそ男爵や士爵であったがそれぞれが有力な貴族の系列につながる家であった。
サイラス商会の懇意の貴族という隠れ蓑に包まれて、密かに親交を深めるために招待されたのだ。
見る人が見ればその派閥が見えて来そうな貴族の出席者達である。
(やれやれ、自分の結婚披露宴まで工作活動のために利用するとは思わなかったよ)
イーリスに軽く愚痴る。
[艦長は貴族に繋がりがありませんからね、しかしいい機会でした]
(そうだな、最初に手紙を渡してから一年近くか
繋がりを強くしたいから向こうも乗り気で送り込んでくれたな)
エルヴィン達はライスター卿の伝手をたどり順調に王都でのコネクションを構築してくれている。
他にも王都や周辺の貴族からお祝い文や付け届けなどもかなり物が届いている。
現宰相に与しない貴族の家系や、純粋にドラゴンスレイヤーと繋がりを持ちたい派閥などのようだ。
そのためこの先数日は朝から貴族との外交三昧なので、当面ガンツの拠点で過ごすことになる。
そうして披露宴は何事もなく終わる。
翌日、披露宴の前に元のホームへ立ち寄る。
「おかえり、アニキ」
「アラン様、おかえり!
前と同じく掃除中だったテオとエラが駆け寄ってくる。
一年でずいぶん大きくなった。
「ただいま、みんな元気だったか?
テオ、エラはまたちょっと大きくなったな」
「へへへ、しかし遅すぎてまた心配しちゃったぜ」
「すまんな、お前たちを引き取って育ててもらうには、ちょっと段取りが必要だったんだ」
「まぁ大人の事情ってやつだな、俺たち孤児を育ててもらえるだけでも助かる」
「その代わり向こうでは学校で勉強してもらうからな」
「うへぇ」
「エラは学校楽しみ!」
「おーそうか、頑張ってくれよ」
そこへサリーさんが駆けつけてきた。
「アラン様、お帰りなさい、この度はご結婚誠におめでとうございます」
「サリーさん、ただいま ありがとうございます
予定通り帰りは一緒になりますので、準備よろしくお願いいたします」
「はい、承知しました テオとエラは随分心待ちにしていましたよ」
「そうですね、ちょっと待たせすぎましたかね
でもサリーさんが引き受けてくれたので安心しました」
二人も領地に連れて行く予定だったが、こちらは面倒を見てくれる人をどうしようか悩んでいた。
幸いサリーさんが、子供の面倒と領地での仕事をしてくれることになり、是非ともとお願いしたのだ。
今回帰るときに一緒に移動する手はずにしてある。
これでまたひとつ肩の荷が下りた。
そして夜の三回目の披露宴も会場は同じだ。
ただし今度は立食パーティーである。
帝国でも立食パーティはあったのでなじみはあるが、とにかく人数が多い。
挨拶が終われば結局はひな壇に立ち順番に出席者が回ってくることになっていた。
最後は退場に合わせ、出口で並んで見送りする。
サイラスさんやカトル達商人に言わせると、『コリント男爵の披露宴に出席し、挨拶できたこと自体が凄いステータス』とのことだった。
それならコンサートのように定期的に開催して、プラチナチケットとして売り出せばかなりの収入になるなと皮算用する。
領地の運営費にどうしても困ったら考えるのもありだな。
しかし今はサイラス商会の支援はあるし、期せずして入手したグローリアのお母さんの財宝もある。
そもそも魔の大樹海を開拓した時の素材すらも潤沢なので、当面資金は足りているのだ。
頑張ってやる必要はなく、他にやることはたくさんある。
今は組織を立ち上げて回るようにするために、人材の確保が一番の仕事になっている。
◇◇◇◇◇
そして三度目の披露宴の夜、俺は五人の女性を前に襟を正していた。
「みんな、大事な話があるんだが」
「アラン 大胆ね」
「いきなり全員相手ですか?」
「そういうのはちょっと」
「私はその…もう少し」
「私はアラン様が望むのであれば何なりと」
みんな好き勝手言いだすので強烈に慌てる。
「ちっ違う! 絶対思っているのと違う!」
披露宴が終わったところで声を掛けた時に、妙な顔をしてたのはそうだと勘違いしてか。
「晴れて結婚したので、今まで秘密にしていた俺たちの事情を皆に打ち明けようと思う
セリーナ、シャロン構わないな?」
急に引き締まった雰囲気になり二人は頷く。
残り三人は緊張した面持ちに変わる。
「三人にとって、特にアリスタ、カリナには信じられない話になるだろう
俺の頭がおかしいと思われても仕方がないようなことだから、理解できないと思う
しかしこれは嘘でもおとぎ話でもなく現実の話だから聞いて欲しい」
三人は頷く。
「勿論口外は禁止だ、と言っても誰も信じてくれないだろうけどな」
そうして俺は語り始めた。
暫く週一回の更新予定です。