秘密の話と聞いて身構える。
しかしその気配を察知したのか、アランが事も無げに言う。
「アリスタ、カリナ、そんなに緊張しなくていいよ」
「「はい」」
「知っての通り俺の事は謎だらけだと感じていると思う」
頷く。
「俺の出身を言っていない理由は単純だ
本当の事を言うとまずいのではなく、誰も理解できず頭がおかしい奴と思われるからだ」
「そんなことは無いと思いますが…」
「そうでもないさ
まず俺の目標は『この大陸を統一し、民が十分な教育を受けること』だ
ほら、これだけでも大ぼら吹きだろう?」
統一の可能性はお父様としたので推測出来た範疇だし、アラン様ならやり遂げるだろう。
民の話もこの領地の運営を見れば理解できる。
「しかしこれは公表している話であって、最終的な目標はその先にある
それとこれから三人にする話も誰にも言えない事だ
なので判らないか理解出来ない話ばかりだろうから、おとぎ話として聞いて欲しい」
「おとぎ話…ですか?」
「ああ、おとぎ話でもないと理解できない事が多過ぎて困惑するからね
そして一先ず今日伝えることは三つだけだ」
「…分かりました」
「一つ目は俺たちの出身と国の事、二つ目はナノムと言う物の事、三つめは街を作った支援者の事だ」
「…はい」
「まず最初に、俺とセリーナ、シャロンは『人類銀河帝国』と言う国の国民で、『帝国航宙軍』という軍の組織に所属している軍人だ」
軍人だという話はクランのメンバーから伝え聞いたことがあるので頷く。
「そしてこの大陸の出身で無いのは知っての通りだが、別の大陸どころかこの惑星の出身ですらない」
「惑星とは何のこと?」クレリアが聞く。
「惑星は君たちがアレスと呼んでいる、今立っている大陸や海の向こうのすべての大陸を含めた世界全てと言えばいいかな」
「…アランの出身は海の向こうよりさらに向こうなのですか?」
「ある意味そうだ、ただ海の向こうではなく空の上、そのもっと先の宇宙からだ」
「宇宙?」
「空の上のさらにその先だよ
リアやアリスタたちはこの大地がどうなっていると認識している?」
「平たい平面のようだとも言われているし、海をずっと進むと元の場所に戻れるとも言われている」
「学者たちは議論をしているようですが、庶民は余り考えることもありません」
「正解はこの大地はもの凄く大きな球体だ
余りに大きい球体なので平面にしか見えないけど、大地は果物の表面に張り付いた皮のようなものだと想像してほしい
そして空気もほんの薄皮の様なもので上に行くほど薄くなり最後は無くなってしまう
そこから先が宇宙だ」
「空気が無いなどそんな事が」
「高い山に登れば感じることができるよ
で、この大地——惑星は太陽の周りをまわっていて、その太陽も夜空で輝く星々の一つでしかない」
紙に簡単に惑星アレスとセレスティアル系の惑星軌道をイラストで描いて説明する。
「これが私たちの住む世界ですか?」
「ああそうだ、そして夜空に輝く星々の中で本当に極稀に人間が住む惑星がある」
「…そんな事…そんなところにも人が…居るなんて…」
かろうじてそれだけは言えたが、他の二人は手で口を抑え絶句している。
「俺が生まれた国は夜空に光る銀河の星々の一つでトレーダー星系のランセルと言う
トレーダーは太陽の名前で、ランセルが惑星の名前になる
ここアレスとは違う星で生まれたんだ」
◇◇◇◇◇
しばしの絶句の後、ようやく言葉を紡ぎだす。
「…それではアランは…本当に空の上から降りて来たという事でしょうか…?」
「そうだ、あれは俺がリアと出会う数日前だから、アリスタ達に逢う百日ほど前だな
凄く大きい流れ星が沢山流れたのを知らないか?」
「勿論知ってます 余りに多くの流星だったので、星々が落ちてきて世界が終わると大騒ぎになったのです」
「あれは俺が乗ってきた船の、壊れた破片が宇宙から降ってきたものだ
大破したのは星々を航海できるほどの大きな船なので、かなりの流星が流れただろう
その中の一つに俺が乗っていた脱出ポッドがあったんだ」
「まさか…空から落ちてきて平気なのですか!?」
「脱出ポッドと言うのは宇宙——空の上から地上へ降りるための特別な乗物なんだ
片道通行だけどね」
とアランは簡単に言い肩をすくめるが、何故そんなことが可能なのか理解が追い付かない…
「アリスタとカリナにはどこまで知っているか分からないから、ここに来た経緯から言おう
リアは聞いた話もあるだろうが、疑問に思ったことはその都度質問してくれ」
「はい」
クレリアも頷いている。
「俺は星々を航海する船に乗り、数年がかりであちこちを調査する任務についていた
だけども乗っていた船が航行中に破壊され航行不能になり、たまたまこの惑星の近くに辿り着いた
その後船が沈みそうだと脱出ポッドで放り出されたのだが、ちょっとした不都合で船と連絡が取れなくなったんだ
その上あの流星だろ? 船は沈んだと思い込んだ俺は一人仕方なくこの大陸を彷徨ってたんだ」
「丁度その時クレリアはアロイスの反乱でスターヴェークから逃れ、ベルタ王国に助けて貰うべく向かってたところだった」
「彷徨っていた俺はたまたま轍を見つけ、文明が有ることを知って追いかけた
そしたらグレイハウンドに襲撃され全滅寸前のクレリア達を見つけたんだ
何とか助けたが一人生き残ったリアですら左手と右足が喰いちぎられ瀕死の重症だった」
淡々としゃべるアランの言葉と悲惨な状況が一致せず、理解をした途端青ざめる。
え!? でもどうして?クレリアの手足は何ともないわ。
喰いちぎられたって聞き間違い?
私達の視線に気づいたのかクレリアが返事をする。
「ああ、本当なのよ、私の手足は喰いちぎられ、護衛だったアンテス団長達と一緒に埋葬したわ
だけどアランがナノムと呼ぶ精霊のおかげで元通りになることが出来たの」
手をひらひらさせて今は何でもない事をアピールしていた。
「そんな、奇跡でしか成しえない事だわ…」
「そう奇跡だわ、だから私はアランに恩を返すと女神に誓ったのだ」
「それは別に良いんだ、俺の力でも無いし」
「そんなわけにはいかない」
「まあそれは別に話をしよう
そういう事で俺達帝国軍やリアの体にはナノムと言う物を宿している
これが二つ目の話だ
ナノムが出来ることは沢山あるが、傷を治すのも力の一つだ」
そう言って腕を出し、止める暇もなくナイフで軽く切りつけると血が滲みだしてくる。
「アラン! 何しているの!」
「まぁ見てろ」
そういってアランが血をふき取るとそこには傷跡一つなかった。
「!!!」
「こんな感じで少々の怪我であれば一瞬で治る
リアみたいに手足を失った場合は、暫くかかるけどそれでも元通り修復できる」
「…本当なのね…」
今のアランの怪我が治った事だけなら治癒魔法で説明できる。
だけれどクレリアの話を聞くならば治癒魔法では無理な話だった。
「信じられないだろうけど、この通り可能だ」
確かに信じられる話ではないが、アランの言う事なのだ嘘では無いのだろう。
「他には近くに居るものと声を出さずに会話できる
うーんそうだなやってみた方が早いか、アリスタ俺にだけ何かささやいてくれないか」
突然の話に何を言おうか少し考える。
そしてちょっと恥ずかしいと思いながら、耳に顔を近づけそっとささやく。
「…アリスタ、それは」
アランが照れているのでちょっと嬉しい。
「アリスタ アランが照れていると思ったら…貴女が言ったのは『貴方を愛する事を誓います』だそうね」
そうシャロンが答えた時、今度は驚きと恥ずかしさで俯くしかなかった。
「…合ってます」
ちょっとからかってみようと思ったのが全部自分に帰ってきて恥ずかしい。
「じゃあ次はリアだけど完全に使えるようにはしていないので、一方通行だ
何か俺に伝えたいことを頭の中で考えてみて」
「…リアもそれか」
今度はセリーナが答える。
「リア アランが照れているじゃない『私も愛してるわ』ですって」
その後、アランたちは暫く黙っていたがひたすらアランが照れていたので、二人共同じ事を伝えていたのだろうと思い至る。
「という事で、これも沢山あるナノムの機能の一つだ
全く種族の違うグローリアと会話できるのもこの力のおかげだよ
それからリアにはずっとはぐらかしていたが探知魔法もナノムが無いと使えない」
「そうだったのね…では私もそれを使えるようにはなるの?」
「ああ、かなり練習して貰わないと難しいかもしれないが、正式にインターフェースを作成すれば可能だ
それには俺たちの世界での知識も身に着けてもらう事になるけどな」
「それは…アラン達のようになるとちょっと世界を見る目が変わりそうですね…」
「ああ、正直世界の見方が変わるよ
後はそうだな、体が丈夫になったり毒を盛られても死ななくなる
一番よく使っているのはリアの二日酔いを治すことだけけどね」
「…どおりでアランに会うと何時も楽になったのはそうだったのね
でもアラン、そういうのは言わないものよ!」
「すまない
何にせよ規定によりナノムに関しては帝国航宙軍に所属する必要がある
でも基本メリットが多いので受け入れて欲しいかな
今日明日で決めるとかではなく、急がないからゆっくり考えて貰えればいい」
◇◇◇◇◇
「ここまでが二つ目の話だ、最後は支援者の話になる」
三人は頷く。
「その後リアの傷を癒やしてから、旅を続けてゴタニアに辿り着きエルナが合流したんだ
エルナの情報でベルタ王国はアロイス王国に付いたことが判り、一旦冒険者として生きていくことにした
そして生き残ったセリーナとシャロンに合流できた事で、船は大破して動けなくなったが生きていることが判り、連絡が取れるようになったんだ」
「船が生きてるとはどういうことですか?」
不思議な言葉だった。連絡が取れるというのも理解が出来ない。
「俺たちが乗ってきた船は生きている
と言っても血が流れる生物ではなく、人類が科学で作った機械の船だ
いろいろな機能を持って動いているので『生きてる』と表現をしている」
「…機械…ですか?…船が?」
ベルタ王国では機械と言うとせいぜい時計か、からくり人形のようなものしかない。
アーティファクトの多いザイリンク帝国では色々あるとの話は聞いているが出回ることは数少ないものだった。
船が機械と言うのも良く判らない。
「そうだな、船は俺たちの世界でも最高峰の機械の一つだ
金属とセラミックで出来ていて、そして何年も宇宙を旅することができる
その機械を制御するための機能に人間と同じ様に会話できて、それ以上に自分で考え、判断し、行動することが出来るAIと呼んでいる物がある」
「機械が自分で考えて会話できるなど、そんなことがあり得るのですか…
神器と呼ばれるアーティファクトですら自ら喋るなどは聞いた事が無いです」
「船は——『戦艦イーリス・コンラート』と言うのが正式名称で、人間の様に話す者は『イーリス』と俺は呼んでいる
セリーナたちは『コンラート大尉』と呼んでいるけどね
ナノムを受け入れてくれたら、
彼女と言う言葉に若干引っ掛かりを感じるが、クレリアも同じように微妙な表情をしている。
「機械と会話できるなど、おとぎ話と言われた訳が分かりました…」
「今後会話の中でその名前が出てきたら、船の事だと思ってくれればいい」
「昔アランが二度と戻れないと言ったのは不思議だったわ
だけど確かにそれ程の船であったならこの世界で作るのは無理でしょうね」
「ああ、リアは汎用ボットを見ただろう? 最低でもあのレベルの物が作れないと俺は故郷に帰れないんだ」
「あれは神話の世界のものだった、神の御業と言っても通じる物だったわ」
「アランたちの汎用ボットとはそれ程の物なのですか?」
「ええ、石像の様なものがアランの言葉に従い自在に動くのだからにわかには信じられない
神器など足元に及ばない程の物だわ」
「そうだな、領地に帰ったら二人にも見せるよ
領地の街を築いたのは
それが俺の支援者の正体だよ」
「ずっと一緒に居たはずなのに、どこでそれだけの支援者を集めたのかと思っていたわ
不思議な話だけどそれならば納得は出来るわね」とクレリア。
「みんな何かおかしいと思いながら『アランの事だから』って妙に納得してたのが可笑しかったわ」とセリーナ。
「アランが突拍子もないことを言い出すのに慣れっこだったものね」とシャロン。
「俺はそんな風に見られていたのか」
意外そうに言っているのが不思議だったが、自覚は無かったのだろうか?
そして先ほどから気になっていたことをそっと聞いてみる。
「…アランは国に帰れなくて寂しくないのですか?」
「いや、もうここが俺の住む世界だし、皆が居るから寂しくないよ
例え明日迎えが来ても帰らないよ」
「それを聞いてちょっと安心しました」
私たちを置いて居なくなるという漠然とした不安が霧散するのが判った。
「最初に言った俺の最終の目標は、教育によるこの惑星の科学レベルを引き上げ、数百年後に俺達の故郷の国『人類銀河帝国』へ連絡しこの惑星を帝国の一員にすることだ
正確にはそれによりこの惑星を襲う脅威から護ることなのだけどね」
これほどの力を持つアランに何が脅威と言うのだろう? と思ったけれどももう考えられないので次の機会に聞こうと思うことにした。
「たまたま漂着したこの星におなじ人類が居たのは奇跡だったよ
俺達の世代では成し遂げられないのは判っているが、俺達の子孫とイーリスが成し遂げてくれるはずさ」
改めて聞くと確かにおとぎ話か、または狂人のたわごとだった。
もしくは人として言う言葉でもない。
「アラン…アランはやはり女神さまの眷属なのでは無いのか?」
クレリアもそう思ったのだろうが恐る恐る聞いている。
「ああ、それは全く違う 状況はうまく利用させてもらっているけどね」
「利用?」
「ああ、使徒と言うのは支援する物の一つでドローンと言う空を飛ぶ機械だ
すまないが教会関係者やロベルト、ライスター卿には絶対言えないけどな」
「アラン、本当なの? 確かにそうならは絶対にロベルト達には口が裂けても言えない話だ
でもそれが本当ならやはりアランは使途様になるのでは!?」
クレリアが反応していたが、確かにそう思わざるを得ない。
「違うね、申し訳ないけど俺たちの世界に女神は居ないんだ
俺たちの世界ではありふれた普通の人間だよ」
「…そうなのか、残念だ」
クレリアはすっかりしょげていた。
自分もそれほど敬虔な信徒でもないとは思うが、クレリアの残念な気持ちはよくわかる。
でも使途様であって欲しいと思う反面、恐れ多すぎるので人で良かったと思う。
「今日の話は以上だが、三人には二つの選択肢がある」
頷く。
「一つは帝国航宙軍に所属してもらいナノムの機能を全て利用できるようになること
クレリアは既にナノムを持っているので、インターフェースを作成する事で通信できるようになる
ナノム自体は帝国航宙軍に入れば使える様になるので、特別と言う訳ではない
今現時点で帝国航宙軍となるのはここに居るのはこの三人、それにグローリアと孤児から採用した三十人だ
今後増員するからどんどん増えるはずだ」
「そしてもう一つはナノムは受け入れるがインターフェースは作らずに今までと変わらない生活を送る事だ
今のクレリアと同じ状態だな」
「最後はナノムを受け入れないことだ
だけど怪我や病気の問題もあるので、最低でもナノムだけは受け入れて欲しいと俺としては思っている
しかし未知の物は受け入れがたいこともあるだろうから、三人の判断に任せるよ」
アランの言葉は重かったが、秘密を打ち明けられ、選択肢を示してくれる態度が嬉しかった。
暫く週一回の更新予定です。