航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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127.スタンピード1

 ある日の午後だった。

 

[艦長 報告です]

 

(イーリス どうした?)

 

[魔の大樹海で魔素の動きに変化があり、一部の魔獣が中心部に集まっていってるように見えます]

 

(どういうことだ?)

 

[街の建設に伴う観測開始以来初の現象で詳細は不明です 視覚表示します]

 

 視覚に仮想マップが表示され、魔素の流れが可視化される。

 魔の大樹海の中央付近に特に濃い部分があり、周辺から流れ込むように集まっている。

 詳細な観測をしているわけではないので粗いデータだったが十分に動きは判別できる。

 

(うーん、流石にこれだけじゃ分からないな? 何か良い手はあるか?)

 

[本艦からの観測では限界がありますので、ドローンを向かわせて精密観測すべきです]

 

(ふむ、ドローンか、精密観測は可能なのか?)

 

[赤外線および電磁波探査、レーザーレーダセンシングで魔物と地形は感知できます

 さらにセンサーを更新して魔素についても感知は可能となっています]

 

 いつの間にかドローンの索敵能力が強化されていたようだ。

 ハードは更新できないので、おそらくソフトウェアで何らかの処理を行っているのだろう。

 

(なるほど、それで行こう)

 

[了解 ドローン五機を編成して向かわせます]

 

 マップにドローン五機の予定ルートが表示される。

 

(OK、承認する)

 

 入植して一年半になろうかと言う時に、魔の大樹海の変異の最初の兆候を捉えたのだった。

 

(もしかすると以前ガンツに居た時に冒険者ギルドに駆り出されたスタンピードと言う現象なのかもしれないな、注意しておこう)

 

[了解しました]

 

 そうだ餅は餅屋だ、樹海に住んでいたグローリアを呼び出してみる。

 

(グローリア ちょっといいかな?)

 

(はい、族長)

 

(魔の大樹海で魔物が中心部に集まっていっているようなのだけど何かわかるか?)

 

(そうですね、中心部の方向から普段と違う気配がする気がしますけど、かなり遠いので良く判らないです)

 

(たちまちこの周辺では変なことは無いのか)

 

(普段と変わりないと思います)

 

(わかった、ありがとう 何か変化があれば教えてくれ)

 

(分かりました 族長)

 

 流石にこの情報は冒険者ギルドにも共有しておこう。

 

「セリーナ 話は聞いていたか?」

 

「はい、途中からですがモニタしてました」

 

「よし、ちょっと冒険者ギルドに向かって、異変の兆候を伝えてくれないか

 樹海に入るパーティに警戒する様に伝えて欲しい」

 

「わかったわ アラン」

 

「何もなければいいんだけどな」

 

 明け方イーリスからの連絡で起こされた。

 

[艦長 良くない知らせです]

 

 予想は悪い方に外れるものだ。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「これより、領主コリント卿と各ギルドおよび関係者によるスタンピード対策会議を始めます 傾聴!」

 

 領主館の大会議室でクランの代表者や関係者が集まり会議が始まった。

 家令や文官のほか、少し前に拠点を移した疾風のカールも出席している。

 ガンツで対策会議をしてからずいぶん経つなとふと感慨深く思い出した。

 

 あの時はこの街の建設の影響による誤報だったが、今回スタンピードの発生は確定しているのだ。

 

「まず既に調査で判明していることを通達します コリント卿お願いします」

 

「諸君、急な招集に応えてくれてありがとう

 もう耳にしているだろうが樹海に関する問題が発生した

 残念な報告だがスタンピードの発生はほぼ確定しているとみて良いだろう」

 

「なんと、確定だと…」

 

「まさかスタンピードとは、そんなことが」

 

 既に情報を共有している元シャイニングスターのメンバーに比べ、初耳だった多くの者が驚愕し動揺している。

 

「現時点で魔の大樹海中心部より溢れた魔物が移動を始めているのを確認した

 第一波は飛行するワイバーンやハルピュイアなどの魔物だ

 数は多くないが、移動速度が速くこの領地に到着するのは明日朝になる

 

 そしてその翌日に第二波、翌々日に第三波が通過する予想だ

 明後日朝の第二波はグレイハウンド等の足の速い魔物でかつ数が多い

 最後の第三波では、オークやオーガなど二足歩行する人型が主になる

 

 規模的には第二波が、脅威では攻撃力の高い第三波が防衛の脅威になるだろう」

 

 ざわついていた会議室が一瞬シンと静まった後、動揺と恐怖と興奮で再びざわざわとしはじめる。

 

「そうか、あれが始まるのか」カールが渋い顔をして言う。

 

「冒険者の質も量も以前とは違い随分鍛えられているしな」

 

「そんなもの数の暴力の前ではいずれ力尽きるぞ」

 

「いや、今はアラン様の作ったこの都市がある、大丈夫さ」

 

 悲観的な話し声もあるが、概ね士気は高いように聞こえる。

 

「皆落ち着け、ここに入植した時点でこの事態も想定済みだろ?

 話を進めるぞ まず今回の総指揮官はセリーナとする」

 

「はい」

 

「主戦力を率いて戦いの指揮を執ってくれ、あと後方支援部隊との連携も頼む

 主戦力は近衛騎士と領地所属の冒険者だ

 それに冒険者ギルド登録の冒険者を率いてくれ」

 

「承知しました」

 

「ダヴィッド冒険者ギルド長 今登録していて戦いに参加できる実力の冒険者はどれくらいになる?

 

 

 手元の紙を読みながら返事がある。

 

 

「樹海に入って魔物を狩れるAランクおよびBランクとCランクの一部、合わせて約三百名でしょうか

 それ以下の商隊の護衛を務める者達が五百名程領地に居ます」

 

「前者をまとめる者は誰が良い?」

 

「はい、統制を取り行動する必要があれば元シャイニングスターのパーティリーダにお願いしたいかと」

 

「判った、冒険者ギルドのメンバーは近衛騎士団の配下とする

 それぞれに近衛騎士をリーダーとして配置するので、一組三十人程度に編成をしておいてくれ

 パーティやクランの人数の都合上、何名かは増減して良い」

 

「はい、通達します」

 

「残りの五百名は警戒や、補給など支援の部隊としてくれ」

 

「承知しました」

 

「ギルドに支払う報奨金については家令のトーマスと調整してほしい」

 

「承知しました」

 

「続いて商業ギルドは先ずガンツへ一報をいれて、ここと同様外出を制限してもらうように伝えて欲しい」

 

「判りました」カリナが答える。

 

「後は長期戦に備えて貯蓄している物資の放出と、炊き出しの手配を頼む」

 

「はい アラン様」

 

「トーマス、ガンツ伯というかデニスさんとサイラスさんに連絡の早馬を出して詳細を伝えてくれ」

 

「畏まりました」

 

「イサク司祭 教会の方々には負傷者の手当てをお願いしたいのですが大丈夫でしょうか?」

 

「コリント卿 お任せください」

 

「よろしく頼みます」

 

「ダヴィッドギルド長、冒険者でも治癒魔法を使えるものは優先して教会の配下にしてくれ」

 

「判りました」

 

「アリスタ トーマス、マックスウェル卿らと協力し、彼らを束ねて非戦闘の指揮を取ってくれ」

 

「承知しました」

 

 ただ飾りやコネクションで妻となったわけではない事を知ってはいるが、それでもこういう機会には責任ある役目を与えることが大事になる。

 

「続いて具体的な配置に入るが、魔物は樹海の中心から押し寄せてくる事になる

 そのため西門が正面となるので、ここを一番手厚く手配する

 シャロン 領地の冒険者を率いて西門を中心に南西角から北門までをカバーしてくれ」

 

「判りました」

 

「クレリアはダルシム、エルナと正門中心に南西角から南東角までカバーだ

 近衛と冒険者の部隊を率いて防衛線を作ってくれ」

 

「任せてくれ」

 

「セリーナは総指揮として塀の上から戦いを取仕切ってくれ

 グローリアとバリスタの部隊の指揮も頼む」

 

「判ったわ」

 

「戦力が足りないので基本は籠城で、樹海には入らず街道沿いの防御は行わない」

 

 通信で追加の指示を出す。

 

(あとガンツに向かう魔物を削りたいし、街道沿いも合わせてドローンで防衛したい

 セリーナにはそっちもフォロー頼む)

 

(そうね、二十機ほどドローンを回してもらえるかしら?)

 

(勿論良いぞ、出し惜しみは無しだ)

 

 そして宣言する。

 

「俺は遊撃として圧されている場所をフォローするつもりだ」

 

「「え゛!」」

 

「アラン様 それはなりません!」

 

 流石にみんな一斉に拒否をする。

 

「そうは言うけど誰か俺に勝てるのか? ダルシムどうだ?」

 

「それは…アラン様には適いませぬが、」

 

「私達なら勝てるわよ、格闘ならだけど」とセリーナ

 

 彼女たちは必要なら遠慮なく急所を狙ってくるので堪らない。

 

「それは勘弁してくれよ…」

 

「でも何でもありの総合力ではやはりアランに敵わないわね」

 

「だろ? だから遊撃としては俺が適任なんだよ」

 

 ちょっとズルい言い方だが強引に納得してもらう。

 細かい配置や必要事項を含め四時間に及んだ打ち合わせも終わりとなる。

 

「では明日以降は門から出ないように全領民に伝えてくれ」

 

「他に無ければ以上で解散となる」

 

 

 会議の後の遅い昼食の時間に二人に聞いてみる。

 

「セリーナ、シャロン、宙兵部隊は使えそうか?」

 

「ええ、と言っても訓練生二十人ですから、戦力としてはそれほど高くないです」

 

「戦闘兵として登録しているのは半数なので、さらに少ないわね」

 

「なるほど、個人の戦闘力はどうだ?」

 

「Aランク冒険者と渡り合ったらようやく互角か負ける程度かしらね」とセリーナ。

 

「ナノムで基礎は底上げしてるけれど、圧倒的に経験値が違いますしね」とシャロン。

 

「ふむじゃあ基地を防衛させるより、街の防衛メンバーに組み込んだ方が良いな」

 

「そうね、人数も多く無いし練度を考えると遊撃にしてもいいかも」

 

「わかった、そこは任せるよ」

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 正門の前に領地冒険者の部隊が展開し、後方に宙兵十人が待機している。

 西門には近衛騎士団とギルド冒険者の部隊が展開しているはずだ。

 城壁内では補給部隊が準備を始めて、治療院と教会が合同で治療場所を確保していた。

 

「これよりコリント卿の挨拶がある! 皆の者傾聴せよ!」

 

 城壁の上から防衛のメンバーに声を掛ける。

 

「諸君、急な招集に応えてくれてありがとう!

 入植してから一年半で迎えた初めての危機だ!

 何時来るか分からないスタンピードは恐怖だが、今回は何時何が来るかまで判明している

 急な対応ではあるが、普段から樹海で魔物を狩っている君たちだ

 恐れることは無い、全力で街を守り抜くぞ!」

 

「「「うおぉぉぉぉ!」」」

 

「今回の総指揮官はセリーナとする! 彼女の指揮に従い魔物を撃破せよ!」

 

「「「うおぉぉぉぉ!」」」

 

「セリーナだ! もう編成は判って居ると思うが、今日はまだ前哨戦だ!

 今日は連携を確認しながら明日以降に最大戦力を発揮できるように努めて欲しい

 報奨はたっぷり出るぞ!

 以上だ」

 

「「「うおぉぉぉぉ!」」」

 

 部隊の士気は十分高いようなので安心する。

 

 

 一通りの出陣式が終わるとこっそり北門に向かう。

 

「よし、久しぶりの実戦だ」

 

 ずっと事務仕事ばかりだったので、不謹慎だと思いつつちょっとワクワクしているのだ。

 

(イーリス バトルフィールドマップを展開してくれ)

 

[了解です 艦長]

 

 視界に仮想ウィンドウが展開され、味方の部隊と魔物と思われる物がマッピングされる。

 会敵が早いほど赤くなるように調整してあるので、どこを優先すべきかわかりやすくなっている。

 

「グローリアは空の魔物は任せたぞ セリーナの指示で戦ってくれ」

 

「族長 了解です」

 

「セリーナ 塀の上の部隊は塀に取りついた奴か、ワイバーンを優先だ」

 

 城壁の上ではバリスタを構えてはいるが数は多くないため、魔法が得意な部隊を配置済みだ。

 

(イーリス どうしても城壁を超えそうな分は混戦の中に紛れてドローンで落としてくれ)

 

[了解]

 

 魔石から魔素を補充できるのは宙兵の一部に限られるため、消耗戦になるときついが第一波はそこまで多くないし、第二波以降は最悪籠城も可能だと計算している。

 

(セリーナ、宙兵は必要なら樹海に入らせてもいい

 だが新兵だから奥に入らず戦うに越したことは無いかな、疲れてそうなら戻らせろ)

 

(分かったわ)

 

(シャロン、森には入らなくていいから出てきた魔物を片付けて行こう)

 

(はーい でもほんと多いわね)

 

(クレリアも森を抜けてきたやつだけで良いぞ、長期戦だからメンバーのケアをしてくれ

 ナノムのインターフェースを作成してからの初めての集団戦だ、無理はするなよ)

 

(承知している 任せてくれ)

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 アランに声を掛けられて緊張する。

 確かにそうなのだ、ナノムを使った大規模戦闘は初めてだった。

 披露宴の後に、帝国軍人として宣誓しナノムのインターフェースを作成したことにより世界が大きく変わった。

 

(コンラート大尉 バトルフィールドマップを展開してください)

 

[了解]

 

 アランたちが見てた世界が分かった時は、眩暈がしそうなくらいだった。

 そしてこれで互角になれると勘違いもした。

 しかし訓練するにつれてアランたちの実力差を思い知らされるだけだった。

 

(しかしこのマップといい探知魔法といい、やはり反則だな、アラン)

 

 この半年間訓練してようやくインターフェースの一部を使えるようになってきたところだ。

 

(そうだろ? 探知魔法は開発した俺をもっと褒めてくれてもいいんだぜ)

 

(全くアランのその才能は素晴らしいわ)

 

 掛け値なしの言葉を送り、戦闘の準備を始める。

 視覚表示されたマップに現時点での状況が表示される。

 不安感が無いわけではないけど、昔の私とは違う姿を見せなくてはと奮い立った。

 

 





結婚式に絡む話が想定よりも伸び長くなりましたが、ようやく作中で少し時間が進みました。

リアルではちょうど三カ月前に初投稿してました。
随分長くやってる気になってたので、まだたった三カ月しかたってないのかぁと言う感じです。
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