「さあて、派手に行こうか 第一波が来たぞ!」
ワイバーンを含めた飛行する魔物が樹海の上から見え始めたので、グローリアが飛び込んでいく。
雄叫び(いや、雌叫びか?)をあげ、魔法でどんどん落としていく。
本格的なドラゴンの戦闘を見た者たちは、恐怖するやら興奮するやら怯えるやらで、賑やかだ。
この力が味方で本当に良かったと胸をなでおろしている者も多いだろう。
現れた第一波に地上や城壁の上の部隊からも魔法で迎撃していく。
冒険者の負担を減らすためには、樹海内で移動しながら数を減らすしかないと、俺は随伴にドローンを一機、森の中に入っていく。
久しぶりの実戦なのでまずは見つけたワイバーンに軽くフレイムアローを使った後、落ちてきた数頭を剣で薙ぎ払う。
実戦はずいぶん久しぶりだが、訓練はしていたので腕は落ちてないはずだ。
バトルフィールドマップをチェックし、全方面で問題ないことを確認するとさらに奥へ入っていく。
(イーリス 崩れそうな防衛ラインがあれば通知してくれ)
[承知しました]
領地の裏の戦力として想定している冒険者は、帝国軍に次いで鍛えられているのだ。
今ではガンツでクランを組んで活動していた頃のメンバーと同レベル以上—つまり最低でもBランクになっているので、西門の方は心配が少ない。
街道をすべてカバーするのは無理なので基本的には街道は放棄している。
その分正門の部隊も冒険者が手厚くなっているので、こちらも突破されることは無いと考えている。
(イーリス 冒険者の脅威になりそうな強い個体をマッピングしてくれ 間引いておく)
[転送します マーキング済みです]
ちらっとマップを見て手近な方向を確認する。
(よし、ディー・ワン 奥へ進むぞ、援護を頼む)
[了解 隊長]
ワイバーンなどをたたき落としながら奥へ進むと、ハルピュイアに出会った。
樹海の奥地がテリトリーの様なので初めて見たが、あまり可愛くはない。
魔物だから可愛くても困るからいいのだが、半人半鳥と言われるその見た目は人のような鳥のような妙な違和感があった。
強そうな足の爪は、平地で空から襲われると並みの冒険者であればかなり苦戦しそうだ。
しかし森の中であれば相手の攻撃は樹木に阻まれ、それほど有効にはならない。
逆に木立の隙間から魔法をねじ込めるので俺にとっては戦いやすかった。
数発のファイアーグレネードを撃ったところで翼が焼けて、地上に墜ちると後は首を狙って瞬殺できるのだ。
羽は素材に良さそうだなと思うが、収集している時間はない。
目につく魔物を狩りながら、暫く進んだところで第二波の先陣を捕捉しニヤリとする。
久々の実戦で獲物は選り取り見取りだから、張り切るなって言うのは無理があった。
一段落がつき街に帰ったのはそれから十時間後だった。
さすがにちょっとやりすぎたなと少しの疲労感を感じたものの、作戦行動だと二十四時間戦うこともある。
であれば十時間程度なら過去にも経験があり、そこまで酷くはない。
逆に久々に体を動かし狩った魔物数は五百を超えたので、全力を出し切った満足感があり足取りは悪くなかった。
樹海を抜けると魔物の死体が散乱しており戦いの激しさを物語っていた。
空き地で死体を前にウロコの手入れをしていたグローリアが気付き声を掛けてくる。
(おかえりなさい、族長 さすがに疲れました~でも随分仕留めましたよ)
エッヘンという感じで連絡がある。
(グローリア お疲れさま、流石だな! 一度休憩して次に備えてくれ)
(はーい)
西門に戻るとシャロンが駆け寄ってきた。
「アラン なかなかすごい様相になっているけど無事だったの?」
「ああ、全部返り血だよ 流石にすべては避けられないからなあ」
「ならいいけど…まぁアランなら大丈夫だと思うけれども、それでも単独で突っ込んでいくのは感心しないわ」
「上にはディー・ワンも居たから問題ないさ それにシャロンもなかなかの格好だぜ」
「あら、確かに人のことは言えなかったわね」
自分の格好を見直したシャロンは少しバツが悪そうに苦笑いする。
彼女の体も返り血でかなり汚れていた。
防衛していたメンバーの被害も気になったので確認する。
「これだけ数がいると乱戦だから仕方ないさ、それより負傷者はどうだ?」
「死者は居ないけれど重症者が数名出たのと、戦闘継続不能になりそうな怪我人が数十ってところね」
「了解 治療するから案内してくれ」
負傷者が居そうな方へ歩きながら話を続ける。
「アランは先に休んだ方が良いわよ」
「魔力は魔石から取り出せるし、戦力は最大限維持するべきだよ
治療魔法を使っても即回復するわけでないから、先にやっておこう」
「そうだけど、体力が尽きるわよ」
「まだ大丈夫さ、でも明日もまだあるから治療したら休むよ」
負傷者向けの簡易病院とした倉庫に向かうと、シスターや治療院関係者が駆け回っていた。
「重傷者から優先して治療を行おう」
酷い噛み傷や切り傷が多かったが中には骨折した者もいて、ベッドの上で唸っている。
幸いざっと見たところ治癒魔法で何とかなる範囲であった。
「アラン様 お忙しい中ありがとうございます」
看病していたシスターの一人が声を掛けてきて深々とお辞儀をするので、聞き返す。
「いや、そのようなお礼はいらないよ、それよか傷口は綺麗に洗ってあるよな?」
「はい、ご指示があったように熱湯で消毒した器具と、煮沸した水です」
「了解だ、重傷者は個別に行うから案内してくれないか」
「はい、まずこちらへ」
最初の患者は左腕をワイバーンに噛まれたようで、裂傷、打撲、骨折のオンパレードだった。
頭にも打撲があるようだったので、一通り体を眺めてから治癒魔法を使う。
「
適当に言葉を出して魔法を発動するが、流石に重症者は一度では終わらなかった。
数度ヒールを行うとうなされていた重傷者は落ち着いた呼吸になった。
「…アラン様 何と感謝したらいいか」
治療した冒険者が涙を流しながら感謝している。
「いい、この街を救うためにやってくれたことだ、感謝するのはこちらだ」
並んだベッドを順に巡り治療を施していく。
盛大に感激してくる冒険者達を労いながら、重傷者を治療し終わる頃には手持ちの魔石も切れかけていた。
丁度そこへアリスタがやってきて、きつい口調で咎められる。
「アラン! 帰ってきていたの? 無事で何よりだし治療をしてくれるのは有難いのだけど、汗と血糊でべとべとだし何か匂いますよ!
流石に一度休憩して身綺麗にしてから来てください
シャロン、貴女もね」
そういえば返り血を浴びたままだったのを思い出した。
なんてこった、一番不衛生なのは俺じゃないか。
「すまない、わかった風呂に入って着替えてくる」
すごすごと引き上げる俺の後ろでシスターとアリスタの話し声が聞こえる。
「アリスタ様 それにしてもアラン様の治癒魔法はなんと言いましょうか、見たことのないレベルです」
「ええ、アラン程女神ルミナスに愛された方は居ないでしょうね」
「本当にそうだと思います」
そういう話は俺の居ないところでやって欲しいな。
領主館に戻りシャワーを浴び仮眠する前に状況を確認する。
(イーリス、マップを状況表示に切り替えてくれ)
[了解、表示します]
バトルフィールドマップが戦闘モードから情報表示モードに切り替わる。
エリアが広域に切り替わり第一波の位置が街を通り過ぎたのが確認できる。
円周状に広がる第一波は街の部分から先が扇形に間引かれている。
第ニ波と第三波の位置と侵攻予想が表示されたが、朝の想定と変りは無かった。
(ふむ、おおよそ予定通りだな)
[こちらの消耗率もほぼ想定どおりです]
嫌な言い方だとちらりと思ったが、上級士官教育をされているためすぐに意識から外れる。
(了解、セリーナの状況はどうだ?)
(コンラート大尉の言うようにほぼ予定通りです、問題ありません)
(了解、明日の第二波に備えて、待機の部隊を残し四時間のシフト休憩してくれ)
(はい)
(クレリアの方はどうだ?)
(今の所は問題ないわ、エルナに引き継ぎも終わってこれから休憩をするところよ)
(よし、そちらも十分に休んでくれ、第二波は予定通りで変わりないからな)
(了解)
◇◇◇◇◇
散発的だった魔物の襲撃が、明け方が近くなるころに増えてきた。
第二波の先陣が到達し始めているようだが、これが夕方に始まり夜間に本格的な戦闘だと最悪なタイミングになっていたのでホッとする。
「第二波が到着し始めたぞ、気を抜かずに行こう!」
セリーナと二人で手分けして、城壁の上から各部隊に声を掛け激励して回る。
元々グレイハウンドなどは群れる習性があるため、昨日の第一波に比べとにかく数が多いのが印象的だ。
第二波も第三波も基本的には樹海と城壁の間にある空き地で待ち受ける。
遮蔽物が無いのがメリットでもあり、デメリットでもあるが、見えないところから不意打ちを食らわないのは大きい。
樹海から飛び出した魔物はまずバリスタと魔法で迎え撃ち、残ったものを冒険者が剣で仕留めるのだ。
西門前の空き地では既に大規模な戦闘が行われていた。
シャロンの指揮の元でヴァルターやケニーなど元辺境伯軍を中心とした領地冒険者達が奮闘している。
城壁から少し離れたところで防御円陣を半円にした陣形で、死角を無くしつつ正面の魔物を確実に屠っていく。
普段から訓練を行い実戦で魔物を狩っているため練度も高く、不安なところが無く安心感は高い。
「ヴァルター、ケニー、それに皆素晴らしい動きだ、よろしく頼むぞ!」
「「お任せください!」」
「シャロン くれぐれも無理はするなよ、第二波以降は籠城も可能だからな」
「了解!」
そこまで話してから、辺境伯軍を中心にしているならシャロンとクレリアの配置は逆だったかな?と思い至る。
正門前に回るとこちらも戦闘も激しさを増していたが、目を引いたのはその光景だった。
何とクレリアたちは正門前に陣地を築いていたのだ。
指揮所と防御柵を作り、その先の前線では十名程度が一組となり防御陣形を構築している。
さらに樹海までの半分ほどの距離の場所に、堀と土塁が作られていた。
土魔法使いを使ったのであろうが、随分と実戦的な物を構築したものだ。
「クレリア、ダルシム、エルナ 随分と凄い陣地を作ったな」
ちょうど指揮所に居たので、手を振りながら三人に声を掛ける。
「ああ、アラン こっちに来ていたのね」
「アラン様!」
「アラン、どう? 凄いだろう?」
エルナがどや顔でいう。
「近衛騎士団と話し合って、今後の戦闘訓練も見越して陣地を築こうという話になったの」
「アラン様 いずれ建国してスターヴェークを取り戻す時には必要になるかと思い、実戦訓練としました」
「ああ、素晴らしい陣地だな、これなら地上を移動する魔物でも簡単には抜けてこられない」
「冒険者たちも三班体制にして一時間ごとに交代して休憩するようにしてある」とエルナ。
「良いね、人命第一でよろしく頼むよ」
「任せてください」
近衛騎士団のメンバーが敬礼をして見送る中、昨日と同様に北門に向かう。
◇◇◇◇◇
(ディー・ワン 行くぞ」
[隊長、了解]
(今日はとにかく数が多いので、背後を取られないよう頼むぞ)
[任せてください]
回り込ませないように立ち回りながら、グレイハウンドの群れをどんどん倒していく。
稀にサーペントや熊のような魔獣が時々混じるが、とにかく領地に向かう魔物たちを減らすことに専念する。
昨日までと打って変って、森の中の戦いはどちらかというと魔物のほうに分がある。
魔法で撃ち落として、とどめを刺すという比較的作業ではなくなっているのだ。
森の中であれば平地を得意とする魔物はその能力をフルに発揮できないが、平地で防衛する方はかなりきついだろう。
などと思っている矢先にイーリスから通信が入った。
丁度第二波のピークが近いお昼を過ぎなので、嫌な予感がする。
[艦長 報告です 現在の正門前の防衛箇所が圧され気味で、このままいけば二時間以内に戦線を維持できなくなる可能性があります]
(了解 クレリア、セリーナは把握しているか?)
[はい ダルシム近衛騎士団長と対策はしていますが数に押されています]
(分かった、マップに出してくれ、フォローに回る)
バトルフィールドマップが正門前に代わり、輝点の移動が可視化される。
樹海から飛び出し動いている赤い点が魔物で、陣地で少ししか動かないのが冒険者だ。
(イーリス 俺が駆け付けた場合の状況をシミュレートしてくれ)
[了解です]
マップに現状とイーリスのシミュレートした二時間先までの予測が動画で表示された。
樹上で休憩に入り久々の戦闘食をほおばりながら、画面を見て対策を検討する。
応援に入ることでじりじりと後退していた防衛ラインが持ち直し、堀のところまで押し返しそうに見える。
(イーリス、樹海の中を回り込み、挟撃する形にするとどうだ?)
[艦長の背後が危険ですが、ディー・ワンに援護をさせるのであれば効果的です]
何パターンかのシミュレーションの中でも、樹海の中を正門の方に回り込み数を減らしながら挟撃するのは一番有効そうであった。
(よし、出発するので、クレリアに伝えといてくれ)
[了解です 艦長]
2話で終わる予定が長くなったので3話になってしましました。
新章は次々回からです。