航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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評価、誤字脱字報告、御指摘、感想、何時もありがとうございます。
文章入力をGoogleドキュメントからMicrosoft WORDに切り替えたので、少しだけ誤字が減ったはずです。(でもWORD使いにくい…)



129.スタンピード3

「くっ! そっちに一匹向かったぞ!」

 

「わかった! だけど手一杯だってーの、増援は無理なのかよ!?」

 

「ちくしょう、数が多すぎるぞ!」

 

 戦線のあちこちで悲鳴と怒号が聞こえる。

 

「少しずつラインを下げろ! 連携を崩さずに下がれ!」

 

 魔物の猛攻に押され気味のため、後ろのリーダーからの指示があった。

 ラインを下げることで冒険者間の距離を縮め、魔物に対応しやすくする気だろう。

 

「聞いたか! 凹んだり逆に突出したりせずラインを揃えろ! ずれたら集中的に狙われるぞ!」

 

 追加の指示を出してじわじわとラインを下げていくが、戦況は芳しくなく怒号と悲鳴が飛び交う。

 

「ぐわぁ! ちくしょう…」

 

「ケヴィンが足をやられた、誰か後ろに運んでくれ」

 

「交代のメンバーは前へ! ラインを支えろ!」

 

 昼過ぎに到達予定である第二波のピークが近くなるにつれ、正門前の防衛状況はかなり厳しくなっていた。

 連戦の疲れが出始めた上に、とにかく数が多く倒すごとに剣が鈍り使えなくなっていく。

 こんな時に鈍器は有利だが、素早い魔物を考えると優劣はつけにくい。

 

 幸い()()()()()()()()ので武器は豊富に支給され、支援メンバーが取り換え後方で整備後にまた戻ってくる。

 そしてカールは剣を取り換えながら、続けざまに指示を出す。

 

「ケン! 少し下がれ、隣をきちんと意識してフォローしろ!」

 

「了解っ!」

 

「ダール! ケンと隊列を整えろ! 後ろには絶対通すんじゃないぞ!」

 

「わかった!」

 

 もっとも後ろに控えているのは化け物じみた奴らなので、多少漏らしても問題ないのだから単にメンツの話だ。

 クラン「疾風」として今活躍せずにいつ活躍するのだ! という矜持で頑張っている。

 それでも限界が来る前に 後方にいる近衛騎士団のサーシャへ報告する。

 

「リーダー そろそろ戦線の維持が厳しいですぜ!」

 

 疾風は領地でも一二を争う大手のクランなので、カール達のリーダーは直接近衛騎士団員だった。

 

「カール 分かったわ 他も限界だから防衛ラインを最終ラインまで下げます! 皆に指示を!」

 

「了解だ!」

 

「おいお前ら、防衛ラインを一つ下げるぞ! 遅れずに周りに合わせて下がるように、パーティメンバーに伝えろ!」

 

「「はいっ!!」」

 

 伝令が駆け出していく。

 

「…それにしてもこれはジリ貧だな」

 

 第二波ピーク予定までにはまだ二時間はあるだろう。

 この段階で防衛ラインを押し込まれているようでは厳しいとカールは感じていた。

 カール達だけでなく多くの冒険者が領地での訓練と魔の大樹海で鍛えられており、単独でも森に入れるレベルには達している。

 しかしメンバー個々の能力の問題はなくとも、単純に数で押し負けているのだ。

 それくらい樹海からあふれ出してくる魔物は多かった。

 

「リーダー ラインを下げるのはいいけどジリ貧だ! 根本的に対応しないと正門まで押し込まれますぜ」

 

「カール 分かっているわ 今ダルシム団長がリア様セリーナ様と対応を検討している! あと少し何とか支えて」

 

「俺の見立てではこのラインでの防衛も後三十分で限界だ! それが崩れたら後がない! 頼みますよ」

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「ダルシム 予備の部隊と交代要員の休憩を切り上げてでも出そう!」

 

「姫様 それでは明日の防衛に支障が出ます」

 

「今ここで崩れたら幾ら予備を残してあっても、明日の戦い自体が出来ないわ

 それに今の戦力で余裕があって正門に回せる部隊もないわよ

 グローリアも北門で手一杯よ」

 

「それは確かにその通りですが…」

 

 セリーナ様が続ける。

 

「戦力の出し惜しみは無しね、先ずは今ここのピークを乗り切りましょう!」

 

「判りました、待機の部隊に命令を出します」

 

「カリナ 支援部隊の方で武器の回収と再整備をさらに急いで貰ってください

 城壁の上の部隊に追加で矢の補給もお願い

 後はお昼には少し早いけど食料と水を配るように伝えて」

 

「リア様 承知しました」

 

「アリスタ 支援に回したメンバーで少しでも弓を扱える者は城壁の上に配置してちょうだい

 ラインが下がって来ているから、熟練でなくても戦力にはなるわ」

 

「判りました、手配しますね」

 

「今打てる手はこんなところかしらね、セリーナ?」

 

「そうね、いい判断だと思うわ」

 

 アラン様と結婚してからリア様は本当に成長なされた。

 これほど情報を把握し的確な采配ができる将軍は数えるほどしか居ないのではないか。

 外にいる部下に命令を伝えるためにテントから出ながら、ダルシムは深く感動するのであった。

 

「セリーナ アランが正門の応援に行くって連絡があったわ」

 

「本当? それなら持ちこたえられるかもしれないわね」

 

「でも一人が応援に来て戦線が持ちこたえられる様になるというのもおかしな話よね」

 

「確かにそうだよね」

 

「でもアランだから仕方ないわ」

 

「アランだからね」

 

 安堵で緊張がゆるみ二人から笑い声が漏れ出す。

 それを外で聞いたダルシムは我が指揮官たちは頼もしいなと勘違いするのであった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 十五分ほどで増援が到達し、城壁の上からの弓による攻撃も増えたことが分かった。

 おかげでようやく戦線が維持できるようになり、カールは胸をなでおろした。

 ピークまで後一時間を迎えようかという時間帯で、すでにメンバーの三割が負傷退場し戦線が崩壊寸前のところだったのだ。

 

「やれやれこれで一段落付けるかもしれないぜ」と独り言ちる。

 

 そうして維持すること十五分余り経ったころ、ふと少し魔物からのプレッシャーが減ったのを感じた。

 これはピークを過ぎたのか!? と一瞬思ったのだがどうも少し違いそうだった。

 よく見ると何か後ろに気が取られているのがわかると同時に、城壁の上から声が上がる。

 

「おい! あれはアラン様だ! アラン様が応援に来たぞ!!」

 

「うぉ!まさかアラン様直々に来てくださったのか!」

 

「ああ女神様、ありがとうございます」

 

「キャーアラン様よ!」

 

 城壁の上の部隊は歓声や感謝の言葉やら口々に大騒ぎで、中には女性冒険者の黄色い声も混じっている。

 

 カールからは土塁越しに樹海を出たあたりで激しい戦闘――に見えるが実際は一方的に蹂躙していただけ――が確認できた。

 後方で戦闘があったことで、魔物たちの注意が後ろに向けられたのだろう。

 カールはここがチャンスと配下のメンバーに指令を出す。

 

「よし今だ! 戦線を押し返せ 体制を整えるぞ」

 

「おー!」

 

 第二波による襲撃はピークを迎えようとしていた。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 樹海を抜けるまでにイーリスからの報告で状況は確認していた。

 城壁に近いところまで押し込まれていたが、まだなんとか戦線は維持できていたので一安心する。

 リアたちが予備選力を投入したのもいい判断だった。

 

 俺がラインに入っても連携できずに突出するだけなので、作戦と言うほどのものは無い。

 単に土塁と樹海の間で東南の角から南西の角までを往復し、魔物の数を減らしていく事にする。

 魔力温存のため基本的に魔法剣のみを使用してきたが、開けた場所になったのでうまく魔物が集まったらファイアーグレネードを使うことにした。

 勢い戦闘は派手になるので、城壁の上からは随分と見ものだったそうだ。

 

(イーリス それにしても予想よりも随分と多くないか、ここ?)

 

[魔物の感知範囲が想定よりも広かった様です

 さらにこちら側を狩ることで個体数が減ったため、もっと南を通過する想定だった魔物もルートを変更し押し寄せています] 

 

(つまりこっちの魔物密度が下がったから、多い方から流れ込んできたということか)

 

[そうですね]

 

(こちらを領地の冒険者で固めておくべきだったな)

 

[それだと西門の方が持ちませんでしたので、この配置以外はあり得ませんでした]

 

(となればドローンでもっと削っておくべきだったのか)

 

[おそらくそれが取りうる最善だったと思われます]

 

 余り大っぴらに使いたくはないので、ドローンはガンツとの間の街道を中心に配備したのだが、もう数機はこちらに回すべきだったようだ。

 

(反省会と明日への対策が必要だな)

 

[了解です セリーナたちにも共有します]

 

(任せる)

 

 それから数時間狩り続け第二波のピークもだいぶ過ぎたところで、短い休息のために一度街へ戻ることにした。

 門の中に入り広場に建てられた休憩用のテントに向かうと、カールの姿が目に入った。

 主な冒険者たちは交代要員と代わり休憩しているようだ。

 

「ようカール 頑張ってくれていたようだな、ありがとう」

 

「アラン様! 助かりましたよ、本当に」

 

 跪いて貴族への挨拶を行いかけたので、慌てて制止する。

 

「楽にしてくれ 俺とカールの仲だろう」

 

「ありがとうございます それにしても素晴らしい活躍で、まさにピンチに駆けつける英雄でしたね」

 

「それは照れるからやめてくれ」

 

「そんなの無理でしょう アラン様の力を知らない新参の冒険者どもが目をひん剥いていましたよ」

 

「そうなのか?」

 

「人間の枠を超えてまさに英雄にふさわしいという戦いぶりでしたからね」

 

「待て待て! そんなわけないだろう」

 

「いや、周りのまなざしをご覧ください」

 

 言われて周りを見ると、確かに冒険者たちの視線が熱いことはさすがに気が付いた。

 これが帝国だと周りを取り囲まれてサインをねだられる状態だろう。

 

「ちょっと居心地が悪いな…」

 

「これだけ尊敬される領主ってのが、どれだけ貴重なのか自覚してください」

 

「…ああ、そうだな」

 

 領主は人気商売だとは理解もできるが、苦笑するしかない。

 二つ三つ雑談したのちに立ち上がる。

 

「よしそろそろ戻るか」

 

「あの様子じゃ取り囲まれそうですからね、護衛します」

 

「頼もうか、お礼はそうだな、落ち着いたら今度一杯やろう」

 

「いいですね、期待しておきます」

 

「頼むぞ、戦闘に戻る前に先に治療しておくので治療院の方に頼む」

 

「判りました」

 

 昨日の失敗を反省して血と泥と汗を流してから治療を行い、戦線に戻った。

 こうして二日目の混乱も何とか切り抜けられたのである。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「大規模な戦闘は今日で最後になる予定だ、最後まで気を抜かずに頼むぞ」

 

 昨日と同様に城壁の上から冒険者たちに声をかける。

 個体数は随分と減ったが、とりわけ強力な魔物たちが押し寄せてくるので、脅威度は昨日と変わらないか高いくらいだ。

 

「オークの群れは集団で取り囲み個別に引き離して始末しろ 個々の個体はそこまで強くないぞ

 ジェネラル・オークは必ず経験者のチームが当たれ!」

 

「オーガはジェネラル・オークより強いが群れないから、乱戦にならないように引き離して冷静に対処すれば大丈夫だ」

 

「ゴブリンが弱いからと言って集団で来れば足元をすくわれるぞ 常に群れの位置に注意しろ!」

 

 さすがに昨日の戦闘による疲労は色濃く装備もくたくたになっているが、今日で終わるという認識もあり士気は高かった。

 

「疲労が溜まった体は頭が思っているほど動かないから、常に余裕をもって回避しろ」

 

 言葉を付け足し、送り出していく。

 ピークは正午頃の予定であるが、第二波の残りと第三波の先陣で戦闘は始まっている。

 夜間のうちに脅威度の高そうな個体はドローンにより間引いておいたので、殆どは冒険者で対応可能なはずだ。

 

 さらに自分も初日二日目と同様に樹海の中で、目立つ個体や群れを間引いていく。

 ピーク時間にはまた最終ラインまで押し込まれることになったが、それでもぎりぎりで耐えて見せた冒険者たちを褒めるしかない。

 

 こうして三度にわたる魔物襲来のピークを耐え、領地を守ることに成功したのだった。

 幸い死者は出なかったが、幾人かの冒険者は怪我がもとで冒険者稼業を終えることになるだろう。

 溢れた魔物は一定範囲まで進み密度が下がると動きを止めて、通常の行動になるのが計測されていたのでしばらくすれば通常通りに戻るであろう。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 ようやくスタンピードが収まった四日目は、ガンツとの街道の安全確保を行うことにしている。

 近衛騎士団と領地の冒険者を中心に街道に向けて念入りな掃討のために出かけるのを正門で見送った。

 

「ダルシム団長 疲れているところ悪いが、ガンツとの通行再開は最優先なので頼むぞ」

 

「アラン様 お任せください」

 

「とはいえ魔物駆除は一筋縄ではいかないだろうから、無理をするな」

 

「承知しました 人命第一で駆除します」

 

「うむ、でも俺も事務処理よりはそっちに行った方が捗りそうだな」

 

「アランは三日間散々魔物を狩って息抜きしたでしょう? ここからは彼らの仕事ですよ」

 

「それなら私たちが行ってもいいかしら?」

 

 何時の間にか来ていたセリーナ達が声を掛けてくる。

 確かに彼女たちは指揮に追われていたので魔物は狩っていないのだ。

 

「リア それはダメだろう 俺の代わりに事務処理をしてもらわないと」

 

「アラン? いいわけないでしょ?」

 

「…無理か」

 

「大人しく事務仕事してくださいね、ただでさえスタンピードで全部放り出しているのに」

 

「…それを言われると辛い」

 

 街道沿いはドローンでかなりの魔物を排除していたが、それでも今までの数倍、場所によっては十倍以上の個体密度に跳ね上がっている。

 実際ガンツとの間の街道の魔物駆除があらかた終わり、往来が再開されるまで一週間以上かかった。

 それでもまだ魔物の数が増えていたためガンツとの行き来は護衛が必須であり、ギルドへの護衛依頼は引く手数多で冒険者の依頼はひっきりなしだった。

 

 その間に冒険者ギルドと商業ギルドは空き地に山積みになっている魔物の死骸の処分を行っていた。

 腐るまでにどうにかしないといけないため、勿体ないが簡単に回収できる素材のみはぎ取ることになる。

 土魔法使いが総動員され掘った穴に、メンバー総出で運び入れ埋めていく作業が終わったのは三日後だった。

 素材の整理が何とか終わったのはやはり一週間後だった。

 

 商人たちは素材価格の暴落に頭を抱えているが、これだけの魔物を狩っているので素材が溢れるのも仕方ないだろう。

 スタンピードで儲かったのは商業ギルドと武器商人、冒険者ギルドと所属の冒険者たちだった。

 領地の冒険者たちにもさすがに特別手当を支給したが、大きな不満は出なかったようだ。

 

 もちろん領地としては散々な出費となったが、何より街は無傷だったので、結果的に潤った者たちが街で使えば還元されるだろう。

 負傷した冒険者のうち十数名は冒険者を引退するほどのけがだったが、死者が出なかったのは幸いだった。

 この後傷が癒えればギルドの斡旋で新しい職業に就くようになるだろう。

 

 結局、今回のスタンピードの影響が落ち着くまでには一カ月以上掛かった。

 

 





長く領地編をやりましたが、次話から新章に入ります。
と言っても話題がそう変わるわけではないので領地で起こりそうなイベントが続きます。

投稿を土曜日にしていましたが、日曜日の方が合ってたので戻しました。


2023/05/28 グローリアの配置を追加
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