航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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セシリオ動乱 建国編
130.王都からの査察1


 入植して丸二年が近づいたある日、王都から伝令の使者が着いたと連絡があった。

 王都からの先触れが出発したことはエルヴィンから連絡を受けており、出発を確認した時点からドローンで監視を行っていた。

 そして到着した先触れの使者はただの従者ではなく、フォルカー・ヘリング士爵だったのだ。

 縁があるという事でこの人はまた押し付けられていたのであろう。

 

「コリント卿 お久しぶりでございます」

 

「なんとヘリング士爵ではないですか、王都の時以来だからもう二年になるのでしょうか? 本当に久しぶりです」

 

「コリント卿 今日は王命により使者としてまいりました

 その、なのでそういう言葉づかいでは私が困るので、こう目下の者に対する態度をとっていただけ無いでしょうか

 フォルカーと呼んでいただければ」

 

 この人は変わらないな、と苦笑する。

 

「ああ、分かりましたフォルカー殿 立ち話もあれだから応接室へ行きましょう お茶を準備します」

 

「そちらへおかけください、で今回の訪問の理由は何でしょうか?」

 

 応接室に移動してから、とぼけて話を切り出してみる。

 フォルカー士爵は起立したまま、作法に則って宣言を行い始めた。

 

「王命により、これより六十日後に領地の査察が執り行われます

 査察はウェルズリー男爵が責任者となり、一団三十名からとなりますゆえ、コリント卿には受け入れの準備をしていただくようお願いします」

 

 なるほど、しかし流石に猶予期間はあるようだ。

 

「六十日後の領地査察の件、承知しました、よろしくお伝え下さい」

 

「はは、ありがとうございます」

 

 周りにいた旧スターヴェークの人らは、先触れがなっておらんとかぶつぶつ言っていたが聞こえないふりをする。

 

「では堅苦しいのは此処までにしよう、フォルカー殿今夜はゆっくりできるのでしょう?」

 

「私の事はフォルカーとお呼びください 今夜はこちらで宿をとり明日に王都に戻る予定です」

 

 ああ六十日の理由はこれか、ここから王都に戻るのに三十日、再度ここに来るのに三十日掛かるからか。

 

「では私のこともアランと 部屋は用意するから今夜はここに泊まってください 従者は何人です?」

 

「アラン様 ありがとうございます 一行は全部で五名です」

 

 ダニエルに指示して部屋を準備させる。ついでにお茶も頼み世間話を始める。

 

「王都は変わりないですか?」

 

「ええ、でも王都は魔の大樹海とアラン様の話で持ち切りです

 曰く『今まで誰もなしえなかった魔の大樹海の開拓に成功し、立派な街を築いている』

 曰く『遺跡を攻略し大量のアーティファクトを入手し、領地開拓に全てをつぎ込みガンツに次ぐ都市になっている』

 曰く『ドラゴンを倒しただけでなく、数多のドラゴンを従えて魔の大樹海を制覇した』

 曰く『美女を常に侍らしており、女性達は才色兼備で超一流の者たちだ』

 曰く『魔の大樹海のスタンピードでは、一人で数万の魔物狩り騒ぎを収拾した』

 曰く『一夜にして魔の大樹海に街を建て、数万の領民を集めている』

 曰く『盗賊はすべて捕まえたので、ガンツ方面には誰も近寄らない』

 曰く『使徒様と教会はアラン様の領地に祝福を与えている』

 曰く『女神ルミナス様の使徒である』、etc.

 とまぁ、耳を疑うような噂も含め、アラン様は王都でも注目の的です」

 

 これは流石に酷いというのが混じっているが、意図して流布した噂も浸透しているようだ。

 

「そうですか、それにしてもさすがに眉唾物の話もありますね」

 

「荒唐無稽な噂話の方が酒の肴になりますので、無理なからぬものでしょう

 それにこれほどの街になり発展しているのであれば、あながち荒唐無稽でないかと思います

 アラン様を知る私ですら、これほどは思いもしませんでしたし」

 

「それは否定しませんが、帰られたら正しい情報を伝えてくださいね」

 

「それは勿論です!

 とは言え未だにここが本当に魔の大樹海の中とかとても信じられません!

 しかもあの正門の上のドラゴン!! 恥ずかしながら街の入り口で立ちすくんでしまいました」

 

「ドラゴンは誰もが一度は通る洗礼ですね、入植の時も本当に大変でした」

 

 大げさに言ってみるが、本当に大変だったのでトラウマになりそうだった。

 

「本当に噂ですら一部しか正しくありませんでしたが、できる限り正確に伝えます」

 

「よろしくお願いしますよ」

 

 だが余りに噂が酷くなっているのは良くはない。

 

(イーリス 王都で流れている俺と領地に関する噂話を収集してアップデートしておいてくれ)

 

[了解しました 艦長]

 

(可能ならこちらから意図的に流すと効果的な噂話も検討しておいてくれ)

 

[私に不可能があるとでも? お任せください]

 

(頼んだぞ)

 

 妙に人間臭いなと思いつつ、フォルカーには噂話を続けられたらたまらないので話題を変える。

 

「それにしてもここまで往復すると六十日は留守になるのに、奥さま的には大丈夫なのですか?」

 

「流石に少々ご機嫌斜めでして…出かける前にも随分言われましたが王命である以上仕方ありません

 ここから戻れば査察団に同行して再度こちらに戻りますので、四カ月ほどは離れ離れです」

 

 ああ、それは色々と大変そうだ。

 

「そうですか、お子さんは?」

 

「まだですので、そちらもプレッシャーがかかっており、いやはや」

 

「なるほど、もしよければ査察の際には奥様もお連れになってはどうですか?

 馬車はこちらで手配しますので、費用などについては気にせずにどうぞ」

 

「それは本当ですか? 実は査察担当のウェルズリー男爵家は妻の実家でして、とても助かります」

 

 なるほど、奥様が宰相の分家筋だった話を思い出した。

 申し出に心底安堵しているのを見る限り、男爵家に対して肩身が狭いのは見て取れる。

 査察に宰相の所縁の影響力のある者を送り込むとなると、あることないこと難癖を付けるつもりなのは明白だった。

 エルヴィンからの報告やライスター卿関連の情報で把握していたが、宰相の分家筋としては比較的中立の立場をとっているのは安心材料だ。

 

「それは大変ですね 気が休まるところが無いでしょう」

 

 本当に可哀そうな人だな、とは思うが まあ奥さんが若いから仕方ない。

 

「そうなのです、私にとっては今回の大役も失敗すれば家がなくなるので」

 

「大丈夫、大船に乗った気でいてください」

 

「ありがとうございます、アラン様のその言葉を聞いて安心しました

 そういえばアラン様はいきなり四人も妻を召し抱えたそうではないですか

 しかもゲルトナー枢機卿に結婚式を執り行っていただいたとか!」

 

「そうなのです、色々縁がありまして結婚も式も急に決まりましていや本当に大変でした」

 

 口が裂けても本人たちには言えないが、本当に大変だったのだ。

 

「王都でも噂になっておりますよ、流石ドラゴンスレイヤーは器が違うと」

 

「かなり大きな勘違いが広まっているようですが、私はそんなつもりはないのですけど…」

 

「いえいえ、ご謙遜を

 妻の座に娘を送り込みたかった貴族たちが密かに歯ぎしりをしておりましたぞ

 私がこの街の発展を王都に伝えたら、さらに悔しがる者たちが増えると思います」

 

 ああ、やっぱりそういう評価か、もう訂正は諦めるしかないのかと思いつつ悪あがきはしておこう。

 

(イーリス 先程の件に加え、この件の対応も追加しておいてくれ)

 

[了解です 艦長]

 

 心なしかクスリと笑ったような雰囲気があったが気のせいだろう。

 

「何せ開拓が成功すれば、辺境伯の任命は確実視されておりました

 ゆえに繋がりを作るためには、下仕えから側室まで虎視眈々と狙っている家も多々聞いております」

 

「もう、十二分間に合っていますので、受け付けないという噂を流していただけると助かります

 ああ、でも妻ではなく優秀な人材は常に求めておりますので、そちらであればやぶさかではありません」

 

 効果はないだろうなと思いつつ、苦笑しながら布石を打っておく。

 

「私が見る限りでも辺境伯は確定でしょうから、取り入ろうとする家には気を付けてください」

 

 フォルカーが心から心配そうに忠告してくれるのは、ありがたいことだ。

 その後部屋の準備が出来たと連絡があり、その場は解散することとなった。

 

「日暮れまで街を見られるのなら、誰か案内を付けましょう

 夜はささやかですが晩餐をご用意しますので楽しみにしておいてください」

 

「折角ですので案内の方をお願いします」

 

 晩餐は簡単なものであったが領地向けにアレンジしてあり、珍しい食事にはとても喜んでくれた。

 そして街を見たことについて物凄い勢いで語ってくれたのが、フォルカーらしくて微笑ましい。

 最後に査察の時にはきちんとした貴族風の料理でもてなす旨を伝え期待してくださいと締め括る。

 

 翌朝、幹部数名でヘリング士爵を正門まで見送りにいく。

 街や領主館の設備に目を白黒していたためか、興奮してよく寝られなかったそうだ。

 眼をしょぼしょぼさせドラゴンに怯えつつ帰りの道のりに着いた。

 

 見送った後に皆に査察が来ると忙しくなるぞと声を掛け、予定通り準備に入るのであった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 そして六十日後。

 

[艦長 領地査察の一団がガンツの街を出ました]

 

 イーリスから連絡が入る。

 

(了解)

 

「さて皆、今日には王都からの領地査察が来る、予定通り頼むぞ」

 

「「分かりました」」

 

 と言っても普段とは特に変わりない。

 正装した近衛騎士団員十名が整列して並び、それと共に文官十名程が出迎えているくらいだ。

 余りやりすぎて兵を集め備えていると言われない為に、兵のほとんどは騎士の意匠ではなく冒険者風の装備にしてある。

 従って今日この場で出迎える兵力はごく少数の近衛騎士団だけであった。

 

 昨日先触れとしてきたヘリング士爵から今回の査察は滞在四日間の予定だと聞いている。

 開拓が問題ないか領地を見回るのと、税を納める準備が整いつつあるかを書面でチェックする、その二つだからそんなものだろう。

 表立って対応するのは王都で集めた文官で、対策や準備は元スターヴェークの文官やサイラスさんなどが行ってくれたので抜かりはない。

 

 午後をかなり回った頃になり正門前で査察団を待ち受ける。

 整列した近衛騎士団と主だった幹部が揃って見守る中、街道から十数台の馬車が見えてきた。

 

 が、初回訪問の洗礼で、森が開けたところで一度立ち止まっている。

 暫くしてから護衛の冒険者に促されようやく動き出し到着したが、今度はやはりドラゴンで腰が引けている。

 

 それでも男爵の従者は流石に使命を果たしたのは立派だった。

 

「アラン・コリント男爵 本日は王命により領地開拓の査察に訪問いたしました

 こちらはリチャード・ウェルズリー男爵です」

 

「お待ちしておりました ウェルズリー卿 アラン・コリントです

 遠路お疲れでしょう、先ずは館の方に案内いたします」

 

「コリント卿 王命により査察に参りました 今回はよろしく頼みます」

 

 淡々と事務的な感じにしようとしたが街とドラゴンにあてられて少し上の空になった感じだった。

 やはり言葉の雰囲気から宰相の分家筋とは言っても、報告通り特別に悪意を持って来ている訳ではなさそうだと判断する。

 イーリスの真偽判定モジュールによる判定でも一致したので、本来ニュートラルな人物なのだろう。

 

「街の案内は明日ゆっくりとさせて頂きます」

 

「査察団の一団の方は、別途宿を準備しておりますのでそちらに案内いたします クリストファー頼む」

 

「はい、では査察の方はこちらへどうぞ、護衛の方も一緒にいらしてください」

 

「ウェルズリー卿 ヘリング士爵ご夫妻はこちらへどうぞ」

 

「コリント卿 初めまして フォルカー・ヘリング士爵が妻リーナと申します よろしくお願いいたします」

 

「ご丁寧なあいさつ痛み入ります アラン・コリントです」

 

 なるほど、この方が随分と思い切りの良い奥さんなのか。

 確か二十歳のはずなのでフォルカーと並ぶと親子にも見えそうだが、明らかにリーナの方がしっかりしたものを感じる。

 

「コリント卿には私まで同行の手配を行っていただき感謝に堪えません」

 

「お礼には及びませんよ、フォルカー殿の留守が長いのは私のせいでもありますからね」

 

「とんでもありません、本当にご配慮ありがとうございます お陰で楽しい時間を過ごせました」

 

 何にせよ二人の仲が良いのであれば問題ない。

 

「それでは参りましょう まずはここが正門の広場です」

 

 街中を案内しながら進むが反応は何時もと同じであり、驚愕の表情が続いている。

 

「最後こちらが領主館になります 私の祖国に合わせ少し異国風の意匠としております」

 

「…はぁ…これほどの建物がすでに建てられているとは!

 フォルカーから聞いておりましたが、本当に驚きました

 いやはや、ここまでの立派だとは思いもしませんでした」

 

「何分辺境の地ですので、実用一点張りでして王都の様な優雅さまでは手が回っておりません」

 

「いやいや、確かに装飾はなくとも、みすぼらしいのではなく機能的と言うのでしょう

 ご謙遜をされなくとも素晴らしい設備ですぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 入口へ案内し、入ったところのホールで改めて皆を紹介する。

 

「改めて紹介します 我が妻のセリーナとシャロン、それからリアにアリスタです

 へリング士爵はアリスタだけが初顔合わせですかね」

 

「「よろしくお願いいたします ウェルズリー卿、ヘリング士爵、リーナ様」」

 

「セリーナとシャロンの二人は武官と文官のトップを任命してあります

 リアとアリスタは文官の副長ですが実際は三人で回していますね」

 

「おお!それほどですか」

 

「ええ、先の三人は武力も事務も相当の者です、アリスタも事務は引けを取りません」

 

「妻であると共に領地の運営にも携われるほどとは、人材に恵まれておりますな」

 

「お陰様で助かっております、明日からの査察の対応もさせていただきます」

 

「おお、そうですか、よろしくお願いします」

 

 意外と女性の地位が高いことに拒否反応が無い人であった。

 そうでなければ娘が士爵とかに嫁ぐことを最後に許したりもしないであろう。

 一通り館内を案内した後に、応接室に招き入れた。

 

 






週一回週末に更新予定です。

2023/05/28 視察→査察に変更
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