航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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132.王都からの査察3

 二日目と三日目は予定通り、領地内の開拓状況の査察と事務関係の査察とを行った。

 査察の役人は査察官という名で、都市整備や領地の運営に詳しい専門家との事であった。

 査察自体はそれなりに決まった書式でチェック項目があって、必要事項を確認し進めていく。

 ただし査察官はそれぞれ専門的な知見があり、任命されているようだ。

 街中を案内しているとしきりに書き取りを行って、なかなか鋭い質問が飛んでくるのだ。

 

「上水道と下水道、共同のトイレと浴場があるとは!

 トイレも水洗で街の高低差を利用してうまく水を流してありますが、よくぞこれだけの都市機能を作られましたね」

 

 査察官の一人が一番驚いてくれたのは上下水道と公衆トイレ、公衆浴場であった。

 こだわりポイントが理解してもらえている感じが嬉しい。

 

「判っていただけますか! この街を設計するにあたりそこだけは譲れませんでした」

 

「流石ですね 私の知る限りこれほどの施設は王城に引けを取りません」

 

 この役人は判っている。是非領地にスカウトしたいところだ。

 

「上下水道のおかげで衛生的な問題が減り、他の都市より死亡率はうんと改善していますよ」

 

「何とも素晴らしいです それに後は『ガッコウ』ですか、あれには驚きました

 まさか十八歳までの子供がみな通い、食事も出しているとは思いも寄りませんでした」

 

「ああ、学校については新しい取り組みで、領地を持てるなら是非やりたかったことです」

 

「失礼ながら金銭の負担が大きいと思うのですが?」

 

「それについてはサイラス商会などからの投資を受けている事と、何よりこの地に助けられています

 魔の大樹海からの利益は計り知れないものがありますからね

 それでも今は持ち出しの方が多いのは確かですが、彼らが成長して稼げるようになるまでの投資ですよ」

 

 さりげなく慈善事業風のアピールしておくが、もちろん数字上の裏付けでもそうなっている。

 

「流石コリント卿ですね、慧眼恐れ入ります」

 

 役人とは逆にウェルズリー男爵はやはり教会やスタジアムなど人目を惹く建物の受けが良かった。

 まだ二年にしかなっていないのに、立派な街並みには随分と目を丸くしていたのだ。

 

「コリント卿 ここまでの教会が出来ているとは一体!? 確かに王都を出るときに司祭の派遣を決定したことは大いに噂になっておりましたが!」

 

「ええ、当初はこれほどではなくもっと簡素な建物でしたが、ゲルトナー枢機卿様が支援してくださいましてこのように立派な聖堂が完成する事が出来ました」

 

「えぇ!枢機卿自らですか…、でも確かにこれほどの教会は王国でも数少ないと思います」

 

「ありがたい事です」

 

 その後は出迎えてくれたイサク司祭と挨拶し、色々と話を聞きだしていた。

 勿論大司教の視察と結婚式の話が避けられないため、こちらは少々居心地が悪い。

 

「コリント卿! ここは一体何ですか、素晴らしい建物です!」

 

 スタジアムにも大興奮である。

 

「スタジアムですね、何かの催事の時に使えると思って作りましたが、まだあまり使ってないですね」

 

「何人くらい入れるのですか?」

 

「五万人のはずです、詰め込めばもっと大丈夫でしょうかね」

 

「…五万ですか…」

 

 絶句していたが、まあそうだろう。

 

 査察のメンバー全員が共通して驚いたのは各ギルドがすでに支店を開いて稼働していたことだった。

 協会もそうだがギルドに関しても街を開いて実質二年で支部まで開設されているのだ。

 開拓したすぐの街に教会とギルドがあること自体普通はあり得ないそうだ。

 査察に来るまで想像すらしてなかったのも仕方ないだろう。

 

 しかも、すでにかなりの取引額と依頼件数をこなしていたことにも驚きを隠せていなかった。

 ここは魔の大樹海なのでギルドの旨味も大きく、人口も二万人を超えて街は賑わって活気がある。

 勢いこなす依頼件数も多いのだ。

 

 当たり前だが開拓については成功か否か判断するどころか、ここまでの都市が本当に魔の大樹海なのか?という疑問が渦巻く査察官の雰囲気であった。

 

 文官の査察についてはリア達が対応に当たり、主には納税の準備が出来ているかの確認と、収支の確認だったそうだ。

 もっともそれらよりも学校の方に興味があり根掘り葉掘り聞かれたというので、あちらの査察官も優秀なようである。

 幾つか細かい指摘点はあったものの、基本的には問題なかったと報告だったので一安心だ。

 

 

 三日目の晩餐会ではウェルズリー男爵は陛下に良い報告が出来ると興奮して話していた。

 フォルカー夫妻は明日には帰らないといけない事が非常に名残惜しいとずっと言っていた。

 女性陣達は今夜も集まって女子会を開くそうなので、よほど意気投合したらしい。

 

 領地特産にする予定の酒は非常に好評で、買って帰れないかと随分と交渉されたので少しだけ譲り渡した。

 新型馬車と酒と言う心付けと、王への献上を約束すると心から喜んでいるようである。

 

 翌日の朝はセリーナやシャロンやリア、アリスタ達とともに、ウェルズリー男爵一行を正門まで見送る。

 勿論グローリアも城壁の上からお見送りなので、全員来た時と同様におっかなびっくりで出発していった。

 

 こうして領地での査察は無事終了したのである。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「むうう、それにしてもこの乗り心地は未だに信じられん」

 

 王都に戻る馬車の中で男爵とリーナ、フォルカーと査察官二名が席についている。

 帰還後に報告する査察結果をどうするか会議が行われていた。

 

「お父様、私はそう言ったでしょうに」

 

「これがアラン様の実力ですよ」

 

 何故かフォルカーが威張っている。

 

「誰か馬車の秘密を聞いたものは居ないのか?」

 

 同席していた査察官の一人が答える。

 

「車体と車輪の取り付けを工夫して車輪の振動が直接伝わらないようにしてあるそうです

 特殊な金属を使っているので、形だけ真似てもすぐに壊れるだろうと言われておりました」

 

「やはり特別な技術が使われているのか、そうでなければ特産品としても難しいであろうからな」

 

「まだ試作品に近いため、完成してから王に献上するとも申しておりましたしね」

 

「それは何とも素晴らしい、しかし王より先に入手できるとは末代まで自慢できるな」

 

「お父様、自慢しすぎて誰かに召し上げられないようにしてくださいね」

 

「私にも不具合を報告して貰えるなら自由に使っていいと言われましたが、正直不相応で盗難されたらと思うと恐ろしいです」

 

「フォルカー…、あなたはもう少し自信を持ってくださいな」

 

「全く、リーナに相応しい毅然とした態度を取れるように出来ないものなのか」

 

「お父様、フォルカーはそこもいいのです、あと少しだけ自信は欲しいですけど

 それよりも査察の報告をどうするのですか?」

 

「そうだな、前に話したように出鱈目を報告するのは、真実が判った時に我々が粛清されるのであり得ない」

 

「「はい」」

 

 査察官たちは少し安堵したようだった。

 

「宰相に配慮するならば、王が歓喜する様な大絶賛も難しいだろう」

 

「はい、それは仕方ないでしょう」

 

「宰相はおそらく付け入るスキが欲しいのだろうが、どうやっても近衛騎士団数十人以外の兵力は確認できなかったのだな?」

 

「はい、街中を見回りましたが騎士と呼べそうな装備の者はありませんでした

 少し冒険者が多い気はしますが、魔の大樹海という立地を考えれば多すぎることもないと思われます」

 

 資料を見ながら査察官が答える。

 

「宰相得意の反乱罪の適用は難しいだろうな」

 

「はい、そうなります」

 

「では報告点を整理してみよう、先ず魔の大樹海は開拓されていた、これは異存ないな?」

 

「はい」

 

「あれほどの物を見せられて失敗はないでしょう、宰相ですら失敗と言えないかと」とリーナが答える。

 

「うむそうだな、では成功の度合いだ」

 

「恐らく王都では村が出来ていれば成功と言っても良いぐらいだと思われているでしょう

 しかし実際あそこは街ではなく城壁に囲まれた都市と言ってもおかしくなかったですね」

 

「だが都市が出来ていましたでは報告できんな、余りに嘘くさくて話にならないし、宰相への配慮もいる

 また逆に『村でした』で通そうとすると商人たちから簡単に否定される嘘になりすぎる

 噂の方が大きい事はままあることだし、事実より多少控えめの方がいいだろう

 『街と呼んで差し支えない規模であった』としておこうか」

 

「はい」

 

「次は人口だな、コリント卿は二万人と言っていたが信憑性はどう見る?」

 

 文官担当の査察官が返答する。

 

「王都から出るときに大勢を率いていたのは多くが目撃していますし、街を見る限り一万人以上なのは確かでしょう

 また確認した資料では確かに二万人を元に税なども計算されておりましたので、信頼性は高いと思います」

 

「多めに申告する可能性は?」

 

「納める税から見れば普通ではあり得ません

 可能なら納める税を減らすよう少なめに申告するでしょう

 見栄を張る以外にあえて多く見せる必要はありえないです」

 

「コリント領としては十分成功に値する街を作っていますので、見栄で多く申告する必要性は全く有り得ないですわ」

 

「ふむ、それに随分としっかり領民を把握していたように見えたがどうだった?」

 

「はい、住民は完全に登録し把握されているようで、膨大な名簿を確認しております」

 

「恐ろしいな、普通であれば貧民街の者や孤児などは数えられていないものだが」

 

「王都から随分孤児を連れて行ったために、その辺りはきっちり管理されているようです

 学校という制度があり、孤児たちも必ず通っているので把握できるのでしょう

 また職人などは領地で雇いあげる契約ですのでなおさらでしょう」

 

「学校か…、話は出ていたがそれを実現して運用しているとは信じられん」

 

「はい、あれほどの数の子供に提供する食事だけでもかなりの予算を使っております」

 

「それではいずれ経済的に破綻するのではないか?」

 

「サイラス商会という王国随一の商会が支援と称して投資しているようです

 正妻の一人が娘なので結びつきは非常に強いでしょうから、商会が破産しない限り支援は続きます

 コリント卿本人もドラゴンを倒した時の莫大な資産がありますし、魔の大樹海の素材も潤沢にあります

 こちらはスタンピードで暴落したものもあるようですが、長期的に見れば魔の大樹海は莫大な富を生みます」

 

「この馬車もそうですが、コリント領では幾つかの特産品の生産に取り組んでいますね

 ガンツとはまた違うお酒に、他では製造できないマッチという火を着ける道具、魔道具の生産にも意欲的です

 そのため早々に経済的に立ち行かなくなることはあり得ないと思われます」

 

「うーん、経済的にも盤石ということか」

 

「はい、勿論今は持ち出しが多いようですが、彼らが言うには五年から十年で黒字になる計画だそうです

 我々の見た限りでは問題になりそうなところはありませんでした」

 

「人口は一万人を超えていたとしようか、そして経済も順調というしかないか」

 

 そのほか様々な件について報告する内容の検討を重ねていく。

 王都に帰るころには報告すべき内容は固まっていた…はずだった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 王城での御前会議が始まろうとしていた。

 そして参加者の一角でウェルズリー男爵は非常に緊張していた。

 通常であれば一領地の開拓査察が御前会議で報告されることはあり得ない。

 裏を返せばそれだけコリント領は王の注目を受けているということだった。

 

 さらに男爵程度が王に直接報告することなどありえないのだ。

 通常は報告書をまとめて査察専門の部署に報告して終了となる。

 査察に出て帰ってくるまでに何らかの事情で状況が変わったのだろう。

 王都に戻ったその日に使者がやってきて、三日後に御前会議となるので陛下に行う報告をまとめるようにと通達があったのにはたいそう驚いた。

 勿論帰り道で報告はまとめてあったものの、御前会議に向けての物ではない。

 そして陛下に報告する資料を徹夜で作る羽目になったのだ。

 

(これで宰相に配慮した報告をしていたら、とんでもない目に合っていたわ)

 

 会議が進みいよいよ査察の報告となったので、呼び出されて陛下の前で跪く。

 

「直答を許す 報告せよ」

 

「ははっ! まず結論といたしまして魔の大樹海はコリント男爵により見事に開拓されておりました」

 

「なんと! やはりそうであったか! 流石コリント卿だ! 素晴らしいではないか!」

 

 王が周りの者たちに同意を促すように語り掛ける。

 その横で宰相が渋い顔をしている気配があるが、ここは無視するしかない。

 

「ははっ! しかも開拓と言っても柵で囲った村ではなく、立派な城壁で囲まれた街であります」

 

「なんだと!? まことか!」

 

「はっ! 担当の査察官たちとしっかりとこの目で見て確認しております」

 

「それはまことに素晴らしいじゃないか!」

 

「はい、それに教会もすでに立派な聖堂が完成しておりました

 しかも我々に先立ちゲルトナー枢機卿が彼の地を訪問し献堂式をあげているとのことです」

 

「何と教会の噂もまことであったか!」

 

「はっ! イサク司祭という者が彼の地の教会の責任者でしたが、確かにゲルトナー枢機卿の話を聞いてまいりました

 『曰く、支援と言って教会の建築にむけ物資と人員の手配を行っていただけた』

 『曰く、視察と称して魔の大樹海の教会を訪問し献堂式を行った』

 『曰く、コリント男爵が婚約したと聞き、結婚式を取り行った』との事です」

 

「まさかコリント卿はそこまで教会の信頼を築いておるのか!」

 

「はは、王都から連れて行った孤児たちはゲルトナー枢機卿の差し計らいとの事ですから、教会からの信頼は厚いようです」

 

「女神ルミナス様に仕える者たちからも信頼が厚いとは流石だな」

 

 王が感心したように言うと、 宰相が渋い顔をしているのがちらりと見えた。

 こちらを睨んでいる気がするが、喜んでいる王に水を差すわけにはいかない。

 というか、さす水がないのだ。

 

「それに大事な報告がございます」

 

「なんだ?」

 

「街には立派な正門があり、なんとその正門の上でドラゴンが門番をしております!」

 

「なんだと!!! ドラゴンが門番だと!?」

 

 さすがに周囲もざわつく。

 

「ははっ! コリント卿曰く『ドラゴンが居ると魔物除けになるので、正門の上で見張ってもらっている』『町の守護竜だよ』との事でございます」

 

「ははは! さすがドラゴンスレイヤーだ、倒すだけなく従えておるのか! 器が違うな」

 

「はい、私もそのように感じました

 そしてコリント卿より王への献上品がありましたので持参しております」

 

「うむ、それは楽しみだ なんだ?」

 

「はい、領地で製造しているお酒になります かのガンツのお酒よりも美味しいものです」

 

「なんと! ウェズリー卿はもう飲んだのか?」

 

「はは、恐れ多くも視察の時晩餐会で出していただきました」

 

「それは楽しみだな」

 

「はっ! 他にも献上品がございますが、こちらは完成してから別途送ると目録だけ預かってきました」

 

「ほほう? なんだ」

 

「はっ! それは馬車でございますが、ただの馬車ではございません

 恐ろしく乗り心地が改善されております」

 

「なんだと、それも楽しみではないか」

 

「ははっ!」

 

 ひとしきり周囲の者たちとコリント卿の功績を話題に、会話に花を咲かせている。

 

「あいわかった ウェズリー卿査察大儀であった、追って褒美は取らせる 下がっていいぞ」

 

「は、ありがたきお言葉」

 

 こうして御前会議を乗り切ったウェズリー卿はほっと胸をなでおろし、そして宰相とは目を合わさないように退場するのであった。

 

 






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