航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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133.運命の選択1

「デニスさん、それで今日はどういったご用件でしょうか?」

 

 サイラスさんが準備してくれたガンツの屋敷にデニスさんが訪ねてきている。

 先に連絡は来ており、ガンツ滞在の際に合わせて訪問を受けることになっていたのだ。

 まあおおよそ内容は分かっていて、そ知らぬ顔して聞いているのだが。

 

「…はい、先日ユルゲン様より命が届きまして、…個人としては非常に心苦しいのですがお伝えせざるを得ません

 『今後コリント領との取引に関しては税を取引価格の半分とせよ』

 とのことです」

 

 家令ともあろうものが個人の意見を前置きするというのは異例だ。

 それだけこの人としてはコリント領と対立したくないのだろう。

 確かにゴタニアを超える規模になった街と、サイラスさんや商会の意向は簡単には無視できないだろうからデニスさんの感覚は正しい。

 それにしても税が取引額の半分だとか、さすがに無理が過ぎると感じているのだろう。

 

「…五割ですか…流石にそれは困りますね、それではガンツとの取引が出来なくなります」

 

 内心は苦笑しながら、表向きは深刻そうに返事をする。

 

「申し訳ございません、ユルゲン様にはかなり申し入れを行ったのですが…聞き入れてもらえませんでした」

 

 本来取引の税としては一割が相場だ。

 特別な場合でも二割までで、五割というのは余程相手を下に見ているか、圧迫している場合である。

 さすがのデニスさんも苦渋の表情を浮かべている。

 

(イーリス 念のために表情の判定をしてくれないか)

 

[判定では嘘である可能性はかなり低いと思われます]

 

(判った)

 

 本当に困っているらしい。

 

「取引額の五割ともなりますと、運送コストを考えても他の街との取引が現実的になりますね」

 

 暗にガンツを通さず商売するぞと返したが、もちろん返事はない。

 

「正直にいいますと、そうなるなら今後私たちはガンツを迂回して、近隣の街と取引する道を選ぶことになります」

 

「…力及ばず申し訳ありません」

 

 デニスさんから見えれば上司に無茶振りされ、大口取引先に取引を断られているのだ。

 逆の立場だったらと思えば、泣きそうになっているだろうね。

 

「いえさすがにデニスさんのせいではないのは判ります

 私は元々良く思われてない上にアリスタの件も有りますから、何時かはこう言った話が出るだろうとは思っていました」

 

 一部にはそれはあるとしても、本当はやはり査察が開拓成功と報告されたからであろう。

 

「そんな事をするとガンツを素通りされるとは何度も伝えたのですが、聞き入れてもらえず…」

 

 デニスさんとしては精一杯抵抗したのだろう。

 しかしこれは渡りに船だ。

 

「デニスさん 正直に言えばこれからの取引はガンツを通さずに他の街と直接やり取りするようになる事が多いでしょう」

 

「それは私としては理解できますが、ユルゲン様は理解されないでしょう」

 

「まあそうでしょうね、しかし格下だと言え他の領地の事に口は出せないはずです」

 

「それは確かにそうではありますが、ギルドが問題にするでしょう」

 

「その点は問題ないでしょう、セレスティアルにもすでにギルドがありますので、ギルドとしてもガンツではなく他のギルドと取引するだけです

 まあガンツの経済としては私達が魔の大樹海を拓く前に戻るだけです

 ただあなたの立場としてはガンツ伯に叱責されるかも知れませんが」

 

 首をすくめるポーズをしてみる。

 実際にはガンツの経済はそこまで落ちないが脅しておく。

 

「そして、私から貴方に提案があります

 提案というよりは選択を迫るような事ですが、聞いていただけますか?」

 

「…何でしょう?」

 

「貴方の将来についてです

 一つは今のままガンツ伯の家令としてユルゲン様と共に沈む事

 もう一つはガンツ伯を裏切り、我々の側に立ちそれを回避する事

 この二択です」

 

「それはどういう事でしょうか!? ガンツ伯を裏切れなどと事と次第によっては許しません!」

 

「私の調べではガンツ伯は税収のうち相当額を懐に入れていますね

 この街の収入を把握して税務報告しているあなたには手に取るような話だ

 いや、実質貴方が取り仕切っているでしょう」

 

「何の証拠があってそんな出鱈目を! 伯爵家に対する侮辱と受け取りますよ」

 

「…レナード・ブラックウッド、ヴィクトリア・シャドウハート、セバスチャン・ナイトフェンリル、ミランダ・スティール、イシュタル・ノクス

 彼らの名に聞き覚えはありますか? まだ他にも言いましょうか?」

 

 デニスさんの表情が怒りから驚愕へ、そして苦渋の表情に明らかに変わっていった。

 

「すべては調査済みですので、貴方ほどの方ならここでしらを切っても無駄だと分かるでしょう?」

 

「…だとしても私がユルゲン様を裏切るなど、そんなことできるわけはない!」

 

「この街は実質あなたが取り仕切って運営し、税などの王都への報告を過少申告しています

 勿論この行為は王家に対する反逆以外にありません

 この国の法律では税金を懐に入れるのは重罪でしたよね

 もちろん実質的に取り仕切っていた貴方も極刑は免れないでしょう、家族もろともね」

 

 もちろん抜き取った金のうちの一部が宰相に流れて、便宜を図って貰っていることはエルヴィンたちの働きで確認済みだ。

 先に挙げた名前はそれらにかかわっている人物達だった。

 半分はガンツ伯の道楽と見栄に消え、残り半分は自身の保身工作の賄賂に使われていたのは判明している。

 

「……そ、それは……」

 

 流石のデニスさんもかなり動揺している。

 

「貴方は賢い方だ、それでいてガンツ伯のように欲にまみれているわけでもない

 以前サイラスさんがなぜあなたほどの人がガンツ伯に仕えているのか分からないと言っていました

 それほどの方がガンツ伯に従うのであればそれなりの理由もありましょう」

 

 もちろんその理由は調査済みではあるがカードは出さない。

 

「我々には此方についていただければ、一切含めて貴方を救う計画はあります」

 

「……我々、ということはユルゲン様の失脚は周到に計画されているようですね」

 

「そうですね、あれだけ派手にやっているとそれなりに政敵も多いようです

 賛同者を募るのは難しくなかったですね

 それに我々との取引で税率五割とは少しやりすぎました

 ああ、勿論貴方に対する扱いも含めてそう思っています」

 

「コリント男爵 …恐ろしい方だ」

 

 






一話あたりの文字数を半分にして、週一回週末に更新から週二回更新にしてみました。
全体の文字数はどちらでも変わらないです。
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