航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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099.依頼

 

 食事の前にロベルトが連れてきた文官をマックスウェル卿に顔合わせしておく。

 

『トーマス』   :四十代 ルドヴィーク辺境伯の屋敷で家令を務めていた逸材

『クリストファー』:四十代 トーマスの部下 特に税関係に詳しい

『ダニエル』   :三十代 クリストファーの部下 事務処理に詳しい

『マシュー』   :二十台 領地管理実務経験あり

『アンドリュー』 :二十台 領地管理実務経験あり

 

 ロベルトが連れてきたメンバーはなかなか優秀なようで、マックスウェル卿の質問にもよどみなく答えていた。

 表情から察すると評価は高いようで何よりだ。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 夕食を食べるため食堂に集まったついでに宣言する。

 

「明日は予定通り五人で魔の大樹海に向かい、領地を見てくる

 現地で一泊して帰りは明後日の午後の予定だ」

 

「アラン様、それは許されません」

 

 もちろんダルシム副官が反対するのは織り込み済みだ。

 

「問題ないさ、元々俺たち五人はずっと樹海で魔獣を狩ってたんだぜ

 むしろメンバーが増えればそれだけ時間がかかり問題が出てくる」

 

 ここから樹海の領地までは約一日の距離なので、移動の速度が鈍るのは避けたい。

 そして何よりこの五人だけで行動するのはおそらく最後の機会になるだろうから少し無理を言ってでも押し切る。

 

「しかし、アラン様せめて精鋭の数名だけでも連れて行ってもらえませんか」

 

 ヴァルターが声を掛けてくるが、もしかしたらこれは自分が行きたいのじゃないかな?

 

「ダルシム副官やヴァルターたちにはガンツでやってもらう仕事がある

 領主の対応、ギルドの対応、数日後に来る第一陣の準備、山積みだぞ

 それに向こうにはグローリアもいるから何かあるとも思えないさ」

 

 と無理やり納得してもらう。

 

「……分かりました」

 

 ダルシム副官が渋々折れたところで、食事が運ばれてきた。

 

 

 もちろん初めて唐揚げを食べる者たちは口々に感想を述べて大騒ぎだった。

 ロータル料理長はまた腕を上げてるな。

 領地に来てもらいたいくらいだ。

 あぁ、領地での食生活向上も考えないとな、

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 久し振りの唐揚げを堪能し、一部の者たちはワインやエールを楽しみ始めたころサリーさんがやってきた。

 

「アラン様 サイラス様がいらっしゃいました」

 

「ありがとう、執務室の方に通してください それと後でグラスをお願いします」

 

「承知しました」

 

 

「サイラスさん、わざわざ足を運んでいただいてすみません」

 

「おう、アラン いやコリント男爵 おめでとう!やったな」

 

「ありがとうございます アランで良いですよ

 誰もが貴族扱いするのでサイラスさんの変わらない態度の方が嬉しいです」

 

「コリント卿 この度は男爵への徐爵、誠におめでとうございます」

 

「ありがとうございます、アリスタさん でも今まで通りでお願いしますよ」

 

「アラン様 あらためておめでとうございます」

 

「カリナさん 先ほどはありがとうございました」

 

 

 座ってもらい王都で入手してきたお酒を注ぐ。

 

「王都で買ってきたお酒です、サイラスさんが作るのよりは落ちますがイケますよ

 いやあ、それにしてもようやく帰って来た気分になりました」

 

「話は聞いてるぞ、王都ではだいぶ派手に暴れたそうじゃないか

 ドラゴンを追っ払って、盗賊をしこたま捕まえたってな!」

 

「王都の話がこんな遠くまで伝わっているとはさすが商人の情報ネットワークですね」

 

 おそらく商業ギルド間の通信と、街に来る商人からの情報だろうがなかなかに早い。

 

「商人は情報が命だからな、その辺りの話は晩餐会でじっくり聞かせてもらおう

 しかし王都まで行っても盗賊を狩っているとは思わなかったぜ」

 

「徐爵の時に陛下から突然振られましてね、なかなか得難い経験でした」

 

「と言う訳でお前は…っとアラン様はガンツの英雄だからな、みんな興味津々だ」

 

「そう言えばホームまで移動していると随分手を振られましたよ」

 

「そりゃドランゴンスレイヤーだし、貴族にもなったんだ、注目されているなんてものじゃないぞ」

 

「柄じゃないんですけどね」と苦笑する。

 

「ところで後ろのアレがコリント卿の紋章か、随分と珍しいデザインだな」

 

 置くところも無いので、一旦執務室の壁に掛けてあった紋章を見つけたらしい。

 

「そうですね、作るとき職人にも『こんな奇天烈な紋章は初めてだぜ』って言われましたよ」

 

「なんだよ、ちょっと遠慮して言ってみたのに職人は遠慮なしかよ!!」

 

「まぁ俺を従者だと間違えてましたからね、言いたい放題でしたよ」

 

「わはは、男爵様になろうって人がこんなに若いとは思わないだろうからな」

 

「やっぱり柄じゃないですよね

 ところでサイラスさん 帰って早々今日連絡したのは幾つかお願いがありまして」

 

「おぅ、なんだ?」

 

「一つは数日後に領地に入植するための移民が来ます」

 

「なんだって?王都で人を集めているとは聞いていたが、もう来るのか? 人数は?」

 

「そうですね、二千五百人ほどです」

 

「そんなにか!それだけの人数が魔の大樹海に開拓に入るだと!?」

 

「いえ開拓は終わっているので入居しに行く感じですね」

 

「待て待て待て、開拓が終わっているってどういうことだ!?」

 

「俺の支援者とドラゴンが手伝ってくれて住む場所は確保できてます」

 

「…………ほんとかよ、いつの間にだ、全然知らなかったぞ」

 

「実は徐爵の話が出た時には取り掛かってましたからね」

 

「あの時に自信たっぷりだったのはそういうことか」

 

「まぁ目途は立ってましたので」

 

「それにしたってこの街の誰もに気付かれずに進んでいるとかちょっと想像できないぞ」

 

「貴族みたいな邸宅にはできませんが、整備出来たら招待しますので、楽しみにしておいてください」

 

「わかった、楽しみにしておこう」

 

「それでまぁ、人は来るのですがまだ家具とか生活に必要なものが足りてないので、ある程度ガンツで購入させてもらうつもりです

 何分大人数なのでサイラスさんにも伝えておこうと思いまして」

 

「分かった、具体的には何時になる?」

 

「五日後に到着予定です、ガンツかその周辺で一泊してから翌日に領地に向かいます

 三日程で全員移動し終わる手配ですね」

 

「早いな、あまり時間がないか」

 

「どちらにせよ領地からはガンツを経由しない事にはどこにも行けませんからね

 これからの暫くガンツは賑わうと思いますよ」

 

「ますます稼げそうだな、期待してるぜ」

 

 ベルタ王国一の富豪だというのにまだ稼ぐのか。

 流石だな。

 

「もう一つですが、領地では人材が不足してましてね

 可能であれば商人の手伝いをしてもらえる人材を紹介して貰えないでしょうか?」

 

「おお、いいぜ、条件は?」

 

「まず五年間は我々が直接雇用し、給金を出して住居も準備します

 家族で来てもらっても大丈夫です

 その間は指示に従ってガンツで必要なものを購入したり手配したり売ったりしてもらいます」

 

「ほう、よほど領地の開拓に自信があるとみた」

 

「そうですね、商人ギルドに登録していてCランクであれば月に五千ギニー支払います

 さらにランクが高ければそれに見合った報酬を上乗せしますよ

 もちろんこれは職人ギルドに提示して今回来てもらっているものも同じ条件です」

 

「太っ腹だな」

 

「そして五年間が終わり独立するなら支援します、具体的には店舗を提供します

 またはそのまま雇用を続けても構いません」

 

「本当に破格だな、ふむ、人数は?」

 

「誠実で信用できる者をまずは五名程度、その後領地の拡大に合わせて追加します

 もちろん紹介料はお支払いします」

 

「分かった、当たってみよう お前には恩があるからな紹介料は不要だ」

 

「よろしくお願いします」

 

「ふーむ、そうなるとカリナはどうだ? 優秀なのは知っているだろ? 役に立つのは間違いない

 そろそろ独立することを考えてもいいし、何ならアランが個人的に召しかか……」

 

「お父様!!!!」

 

 アリスタさんが張り付いた笑顔のまま、聞いたことの無い低い声で言葉を遮る。

 

「サイラス様!!」

 

 カリナさんは赤い顔をしながら抗議する。

 

 そして何より俺の両脇からものすごい殺気を感じる。

 横を向いて表情を見る勇気は無かった、

 

「……す、すまん、口が滑った今のは無しだ」

 

 しどろもどろで前言を撤回するサイラスさんのこんな姿は滅多にないだろう。

 将来ネタにできそうなので覚えておこう。

 

「ははは、流石にカリナさんを引き抜いたら商業ギルドから恨まれそうですからね

 それにカリナさんならもう独立できる実力が有るでしょう

 これから独立に向けて頑張っていく若者が居ればお願いします」

 

 かなり残念そうなカリナさんの表情は気のせいだろう。

 

「おう、承知した」

 

「最後のお願いですが、こんな感じで領地にかかりきりで活動が出来ず、冒険者ギルドのランクが下がりそうなのですよね

 今後のためにもランクだけは維持したいと思ってますので、もし良ければ商業ギルドから魔の大樹海の素材依頼を出してもらえると助かります」

 

「何だそんなことか、お安い話だ!

 カリナ、今注文が来てるものの中に良いのあるか?」

 

「覚えている中ではそうですね、オーガの魔石とかはどうでしょう?

 わりと定期的に注文がありますのでランク維持という意味ではちょうどいいと思います」

 

「ならそれでいいか、アランたちなら難しくないだろ

 カリナ、明日にでも冒険者ギルドに依頼を出しておいてくれ」

 

「分かりました、依頼はパーティー宛でいいですか?」

 

「いえ、領地に入ってしまうとそうそう来れないので、クラン宛で問題なければそちらでお願いします」

 

「承知しました」

 

「よろしくお願いします」

 

 これで依頼の件は一段落だ。

 

「そういやユルゲン様には会ったか?」

 

 サイラスさんが聞いてくる。

 

「王都から帰る前に挨拶だけはしてきましたが」

 

「合わなかっただろ?」

 

 嫌そうな顔で返事されたので余程なのだろう。

 

「そうですね、出来れば関わりたくないですが隣あっているのでそうもいかないですね」

 

「まあ家令のデニス様は優秀だから懇意にしておくといいぞ」

 

「わかりました、先程挨拶の使者は送っておきましたが、今の話であれば一度挨拶しておこうと思います」

 

「ああ、と言ってもアランは男爵だし向こうは家令なので呼び出す感じでいいと思うぞ

 そうだな、一度商業ギルドで引き合わせる形でもいいかも知れん」

 

「分かりました、領地に向かう前に是非 晩餐会の日かその翌日であれば開けておきます」

 

「分かった、決まったら連絡をよこす」

 

「よろしくお願いします」

 

 ガンツ伯の話も進んだし今日はなかなか有意義な日だった。

 

 一先ず予定していた話は終わったし、いい感じにお酒の瓶も空いたのでお開きにする。

 

 

「今日はありがとうございました

 暫くは領地に籠もりますが、王都に比べると隣の距離なので月に一回くらいはガンツにもどるようにします

 また戻る日程が決まれば連絡します」

 

「おう、もう気軽に寄ってくれって訳には行かなくなったが、変わらずよろしく頼む」

 

「お父様 言葉遣いに気をつけてください」

 

「アリスタさん、ここでは大丈夫ですよ」

 

 その後三人を見送り賑やかな夜が終わった。

 

 

 




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