入植し二年目がもう少しで終わろうかという時期であった。
王国より報奨のため王城へ来るようにとの先触れが届いたのだ。
暫くして迎えの使者が到着したが、勿論今回もフォルカー・ヘリング士爵だった。
さすがに三回目ともなればドラゴンにも慣れた様で正門を通ってくる。
「コリント卿 お久しぶりでございます」
「フォルカー、半年ぶりだけど奥様はお元気ですか?」
この人は面倒ごとを押し付けられているのか、自分から手を挙げているのかはよくわからない。
どちらにせよリーナさんと離れ離れになるのは、多少同情せずにはいられない。勿論リーナさんにではあるが。
「妻は大変元気ではありますが、実は先日懐妊したことが判ったばかりでございます」
「それはめでたい! おい、みんなーフォルカー夫人が妊娠したそうだぞ!」
「なんですって、フォルカー殿おめでとうございます」
「何時のご予定ですか?」
「半年後には生まれる予定です」
「そうですか、元気なお子さんが生まれるようにお祈りします」
四人それぞれに挨拶に来て、口々にお祝いの言葉をかけている。
丁寧にお礼の返事を返していたフォルカーがはたと気づく。
「アラン様、奥様方のこのスタイルはまさか!?」
「気づかれましたか、流石ですね そうです、実は私も妻が四人とも妊娠しまして」
照れ臭かったので言わなかったのだが気付かれてしまった。
普段なら気付かないとしても、自分の妻が妊娠していたのでピンと来たのであろう。
「四人ともですか! それはおめでとうございます!」
「ええ、それで残念ながら今回の王都へは私たちが同行できなくなりました」
セリーナが本当に残念そうに言う。シャロンもリアもうんうんと頷いている。
アリスタだけはそれ程残念そうではないのが対照的だ。
「陛下はアラン様の奥様方に会えず残念に思われるかもしれませんが、おめでたい事なので理解を示していただけると思います」
実際にリアと陛下は顔が似ているので会うには多少の不安があったのだがその心配は不要になってしまった。
一通り会話が終わった後に、従者にせかされてヘリング士爵として畏まり宣言を行った。
「コリント卿 本日は王命により使者として次のように連絡をするよう命じられてきました
『領地開拓の件まことにご苦労である
査察団より開拓が成ったとの報告を受けた事を大変嬉しく思う
褒美を与えるので登城するように』
と仰せつかっております」
「承知いたしました 謹んでお受けいたします」
どういう答え方が正解なのかは知らないが、フォルカーだからいいだろう。
「ありがとうございます おい」
控えていた従者に合図をすると「ハッ!」 っと、応え駆け出して行った。
「今の方は?」
「はい、早馬にて王都に連絡を送りました
コリント卿には御足労をお掛けしますが、これより数日のうちに出発の方よろしくお願いいたします」
どうやら王都を出る時点でもう日程調整はされているようだ。
王命とあればこっちの都合などお構いなしと言えばお構いなしであろう。
「わかった それでも数日はゆっくりして行けるのだろう?」
「はい、余裕を見て五日程度で出発すれば間に合います」
「三日で支度をするので四日後に出発しようか 今夜は晩餐だ」
「それは嬉しいですね それだけでもここまで来た甲斐があります」
うーん、やはり自ら志願しているのかな?
前回の食事とお酒に味を占めたのだろうか?
ここに来ること自体が命の危険があることに、あまり気付いてなさそうだった。
査察での状況を知った宰相が悪あがきをしており、フォルカーも実は二度ほど襲撃されそうになっていた。
手配した冒険者とドローンが阻止をしていたのだが、油断はならない状況だったのを本人は知る由もない。
それにしても今回の王都行きについては誰が行くかで揉めた。相当に揉めた。
セリーナ、シャロン、リアと腕も立ち俺の世話も行える者たち三人共が、安全を取って同行を諦めざるを得なかったのだ。
全員安定期に入りつつあるので、新型馬車なら同行出来ないことは無かった。
ナノムがあるから命の危機になることは限りなく低いのだが、この世界では妊娠と出産は女性にとって最大のリスクである。
しかもスターヴェークの臣民の期待を一身に集めるリアにとっては安静にする以外の選択肢はなかった。
ちなみにリアの妊娠を知らされたロベルトが泣き崩れたのはまた別な話だ。
「カリナ アランの身の回りの世話のために同行して貰えますか?」
アリスタは冷静に判断し、自分の代わりをカリナに依頼している。
「判りました 護衛は無理でもお世話は任せてください」
「うーんギルドの仕事はいいのか? 下手をすれば半年くらい帰ってこられない事もありえるぞ」
「ええ、副ギルド長に依頼します それに王都の商業ギルドに挨拶するにも丁度良いので是非同行させてください」
なるほど、そう来たか。確かにギルドとして王都のギルドに顔をつないでおくのは大事だ。
「エルナ すまない、代わりに王都に行ってもらえるだろうか?」
「もちろんです、お任せください」
リアもエルナに依頼している。
代わりを頼めないセリーナとシャロンは同行させる宙兵の選定に頭をひねっていた。
結局護衛についてはダルシムを筆頭に近衛騎士団が全員付いてくることになった。
後は宙兵から腕の立つ者が十名、セリーナ達の代わりと通信係、それに雑用係として同行する。
それに護衛の冒険者たちが二組十名だ。
戦闘能力だけで言えばこの四十名で、数百人の騎士を相手に互角に戦闘できるレベルになった。
そしてカトル達商人組が十名、食事班として十名、移動中の手配や王都での生活を支えるために同行となる。
他にも王都から新たな領民を受け入れるためなどに手配したものを含めれば総勢百余名、馬車で二十台以上の規模となった。
流石にこれだけは一度に動けないため、三分の一は一日先行して、三分の一は一日遅れて出発するよう手配する。
勿論馬車はすべて新型だ。そして陛下に献上する二台も含まれているのでさらに大所帯になる。
◇◇◇◇◇
「フォルカー、こうして王都に向かっていると三年前を思い出すな」
「ええ、あの時もアラン様には驚かされてばかりでしたが、今も変わりませんね」
「そうか? 俺としては普通だったのだが?」
「とんでも御座いません、何から何まで新鮮でした
釣り然り、厠然り、食事は特に素晴らしかったですから、王都までの長い旅で野宿が楽しかったのは初めてです」
「そうだったのか、今回は野宿が減ったから残念だな」
街道も三年の間に流石に少しは整備されていた。
「とんでも御座いません、アラン様と一緒の旅であれば毎日が刺激的なので、野宿か宿屋かなど些細なことです」
「それは酷いな」
笑いながらも馬車はのんびり王都へ向かっていく。
移動の合間にはデスクワークで鈍った体を鍛えたり、近衛兵と手合わせをしたり、宙兵たちに指導も行う。
その光景を見たフォルカーが練度の高さに目を丸くしていたのが、面白かった。
流石に護衛もそろった貴族の隊列、それもコリント卿を襲う盗賊などはおらず、道中は何度か魔物襲撃を受けただけの平和なものだった。
勿論、通り過ぎるのを待つためにアジトに潜んでいる盗賊を見逃すわけもなく、行きがけの駄賃で何組か片付けておいた。
これでまた盗賊狩りのコリント卿として名が知れ渡っていく。
そうして王都に辿り着くまで久々の旅を楽しむのであった。
週二回、水曜、日曜に更新予定です。