航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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140.辺境伯2

「それでは申し上げます、ガンツ伯は本来納めるべき税の三分の一を懐に入れ、裏金として王都での生活のために使っておりました

 そしてその裏金の中でも一番多くを受け取り、ガンツ伯へ便宜を図っていた者こそがそこに居る宰相、ヴィリス・バールケ侯爵です」

 

「なんだと貴様! …出鱈目を言うな!!」

 

 宰相は少し狼狽した様子で叫んでいるが、さすがに狼狽えたりはしていない。

 

「何だと、それは本当か! 宰相たるものにそこまで言うのであれば、嘘ならば許されぬのは判っておろうな!?」

 

「もちろん分かっております、そして残念ながら本当の事でございます

 ガンツ伯の裏帳簿、王都への税の報告書、王都での税の帳簿、バールケ宰相への資金の流れすべて証拠の書類を揃えてあります」

 

「…馬鹿な…陛下そんなの出鱈目ですぞ、耳を貸す必要はありません!!」

 

「そして、これこそがバールケ宰相より子飼いのルチリア卿にガンツ伯から資金を受け取ってくるよう命じた書類です ヘルマン」

 

 横でヘルマンが書類を取り出し、陛下に見えるように広げた。

 そこには確かにバールケ宰相のサインがあったのだ。

 もちろん偽造だが、裏を取ればそれは正しいことが判ることであったので問題ないだろう。

 それに前宰相のライスター卿も罠にはめたのだ、自分がはめられても仕方あるまい。

 

「どういうことだ! バールケ! サインは確かにお前のものに見えるが?」

 

 王の声が少し怒気を含んだものになっていた。

 

「…そんなのは出鱈目です…コリント卿の嘘です、でっち上げです」

 

 流石に少し狼狽が見え始める。

 

「必要であれば鑑定していただければはっきりするでしょう

 陛下、そして極めつけの件がございます

 前宰相のライスター卿を奸計に嵌り、失脚させたのちに幽閉をしていたのです」

 

「何!!」

 

「私は前回の王都からの帰り道に、放浪していたみすぼらしい親子を保護しました

 助けた後に話したところ、それはライスター卿その人とその息子で、バールケ宰相に地下牢で幽閉されていたということを、全てを聞かされました」

 

「嘘を言うな!!」

 

「宰相閣下、私が今陛下の前で嘘つく理由は無いでしょう、折角の辺境伯任命が無くなるかも知れないのに」

 

「ぐっ」

 

「では陛下、私がライスター卿を保護したことの証明として、本来私が知りうることのない話をしてもよろしいでしょうか?」

 

「うむ、話せ」

 

 王は複雑な感情に支配されながらも、理性を保とうとしているようだった。

 

「まだライスター卿が宰相で陛下が即位しようとしていた十五歳の時の話だと聞きました

 父上を無くされて不安なはずなのに陛下は『これからは私がベルタ王国を背負っていく、父上にも負けない立派な国王になるぞ』と宣言されたと言われました

 ライスター卿は『アマド様が一人前の王になるまで、私があなたを支えます』と返されたそうです」

 

「…覚えておる」

 

「そして陛下を支えるために力をつけすぎたライスター卿は、陛下を傀儡にして国を乗っ取ろうとしたとバールケ宰相に濡れ衣を掛けられ失脚させられたのです

 最後にライスター卿が陛下にかけた言葉は『アマド様 支えきれずに申し訳ありません』だったと」

 

「…むぅ」

 

「陛下はその時はバールケ宰相の罠にはまっていましたので、『お前を信用していたのに裏切られたわ』とおっしゃったそうです」

 

「…確かにその通りだ ヴェルナーでなければ知りえぬことである 今はどうしているのだ?」

 

「私の伝手でとある有力者のもとに身を寄せていますが、陛下の事を大変心配しておられました」

 

「そうか、あいわかった」

 

「陛下、そんな奴のたわごとを信じてはなりませぬぞ!」

 

「バールケ! それだけ慌てるということは本当なのだな?」

 

「そんな訳ありません、出鱈目です!」

 

「ガンツ伯は出席しているか? 居たら出てこい」

 

 流石に陛下の前では宰相に合わせて簡単に声を出せなかったようだが、もの凄い形相でしぶしぶ出てきてひざまずく。

 

「この期に及んで言い逃れはあるか?」

 

「…恐れながら陛下、宰相閣下の言われるように全て出鱈目にございます

 我が領では毎年正しく税を計算して、国に収めております」

 

「コリント卿 そこまで言うのであれば証拠はあるのだろうな?」

 

「はっ! 主任主計官のナダルスによって既に上司に報告され、財務局長のエドワードにより確認されております

 ここにガンツの帳簿の写しと裏帳簿、それに我が領との取引の差異を計算したものがあります」

 

 ヘルマンが別の書類を陛下に差し出した。

 

「これは…裏帳簿に加え領地の管理をほとんど行っていない事が記載されているが、どうなのだ?ガンツ伯」

 

 陛下が怒りに満ちた声で聞く。

 ここでキレたとしても不思議ではないが、怒鳴り散らさないあたり良い王様なのだろう。

 

「出鱈目です、全て出鱈目です」

 

「これだけ証拠が有ればすぐに結果はわかるだろう

 近衛兵、二人を拘束して調査が終わるまで外部との面会も許すな」

 

「ハッ!」

 

 ひとしきり混乱した場が落ち着くにつれ気まずい雰囲気になる中、王は疲れた様に切り出す。

 

「コリント卿 せっかく其方の晴れの場に王国のごたごたを見せてしまったな」

 

 念のためバールケの疑惑に止めを刺す保険も打つことにする。

 

「陛下 恐れながら私にかかる火の粉でもあったわけですから構いませぬ

 ただバールケ宰相にはまだ余罪と思わしき件がございます

 隣国セシリオの大使と懇意にしており、セシリオから我が国への挑発的な行為の報告を全て握りつぶしております」

 

「何だと!?まことか!」

 

「こちらは流石に証拠と思しきものはありませんが、陛下はセシリオのルージ王子の事を何かうかがっておられますか?」

 

「いや、バールケから特には聞いておらぬな、老国王の具合が悪いと言った程度だ」

 

「私の入手した情報ではルージ王子は軍国主義を掲げており、以前から我が国に対しても不穏当な発言を繰り返しております

 恐れながら陛下はご存じでしょうか?」

 

「むう、バールケからは報告を受けた記憶は無い…」

 

「国王が亡くなりルージ王子が国王になれば、七割から八割方我が国に侵攻してくると踏んでいます

 まだ時間はございますので私の言葉の裏付けが取れましたら、十分に備えられますよう進言いたします」

 

「なんだと!? 判った、確認させよう」

 

「ははっ!」

 

「しかしよくやった コリント卿 褒美には何を望む?」

 

「可能であれば私の調査に協力してもらった者たちの助命を、特にガンツ伯家令のデニスとその家族を嘆願致します

 王都の屋敷に家族を捉えられて、ガンツ伯に脅され働かされておりましたので」

 

「判ったそのように取り図ろう 明日ヘルマン卿とこちらで指名した役人を連れて宰相の屋敷の捜索を行うように」

 

「はっご配慮に感謝いたします」

 

「またガンツ伯の罪が明らかになれば先の辺境伯と護国卿に加えて、没収したガンツ領を下賜する

 其方が見事に治めてくれ」

 

「ははっ! ありがたく拝領いたします」

 

 そして疲れたような声で続ける。

 

「いずれ護国卿としてセシリオへの対応も正式に命ずるだろう

 そしてライスターが息災であれば、一度顔を見せるように伝えてくれ」

 

「はっ、畏まりました 確かに伝言いたします」

 

「コリント辺境伯 大儀であった、下がってよろしい」

 

 こうして辺境伯への叙勲式は大波乱のうちに終了した。

 ガンツ領を拝領したのは予想外だったが、王としては最大限の褒美と迷惑料だったのだろう。

 結局ちょっとした小国並みの領地を手に入れたのだった。

 

 





都合により次回更新は少し間が空きます。

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