久々のガンツは歓迎一色だった。あぁ城壁に垂れ幕までぶら下がっている。
『祝 辺境伯 陞爵』だの『歓迎 コリント辺境伯』だの、誰だよ、こんなものまで作ったのは…
ようやく王都からガンツまで戻ってきた。
王都を出るまでのごたごたは省略するが、ほぼ予定通り正式にガンツの領主となった。
そうして垂れ幕の様に既に新領主になったことは皆知れわたっている訳だ。
さらには到着日まで知られていたようで、お陰で正門前や正門の奥にも人が溢れている。
一目俺を見ようとして殺到しているのは明白だった。
それを守備隊が押しとどめ、なんとか馬車が通行できるように警備をしている。
警備の一員の中にギード隊長の姿が見えるが、満面の笑みでものすごく喜んでいるのが遠目にも分かった。
住民も熱狂しているようで、ここまで『コリント様! 万歳!』コールが聞こえてくる。
「どれだけガンツ伯は人気無かったんだよ…」 と独り言ちる。
「アラン様 ガンツ伯の人気が無かったのではなく、アラン様の人気が高いのですよ!
そろそろ自覚してくださいませんか…」
横で独り言を聞いたカリナにピシッと訂正される。やれやれだ…
実際はガンツの住民の元ガンツ伯への評価はそこまで悪くは無く、『
そこまで評価が下がらなかったのは、やはりデニスの功績だろう。
しかしガンツで有名になったドラゴンスレイヤーと言う英雄が、前領主の不正を暴いて新な領主となったのだ。
まるで物語用のような交代劇に、熱狂するなと言うのが無理な話であった。
「ただいま ギード隊長 警備ご苦労だな!」
隊長は最敬礼のポーズをとり返事をする。
「はっ! 新たな領主としてコリント辺境伯を迎えられる事を心よりうれしく思います」
「立ってくれ、ギード隊長 これからもよろしく頼むぞ」
「はっ! ありがとうございます!」
街中も大勢が一目姿を見ようと押し寄せてくる。
まるでパレードの様に時々窓から手を振りながら、元ガンツ伯の屋敷に向かう。
正門で家令デニス以下の主だった者たちが出迎えに並んでいた。
デニスは涙を流しながら何とかおかえりなさいと挨拶をする。
「デニス これからも頼むぞ」
「はっ! ご主人様には感謝しかありません、この命に代えましても」
いや、そこまで望んでないからね…
「アランでいい、二泊してからセレスティアルに移動するのでその間よろしく頼むぞ」
「はい 畏まりました アラン様」
結局前ガンツ伯の屋敷は一旦王家に没収され、そのまま召使ともども俺の屋敷として下賜された。
前ガンツ伯は幽閉、残りの家族は伯爵の地位こそ残されたがガンツに封じられることになっている。
領地を失った伯爵家というのは珍しいそうだが、数年の謹慎ののち小さな領地を与えられることになっている。
まぁ俺が叙爵されるときに提案された土地だろうけど。
それまでの間は屋敷を失って路頭に迷いかねないので、以前使っていたガンツの屋敷をあてがっておいた。
つまりは屋敷を取り換えっこしたわけだ。
後を継いだ息子は悔しさをかみ殺していたが、腐っても貴族のプライドと意地で表面上は感謝の意を表していた。
ガンツ伯の奥方などは半狂乱だったので、息子の冷静さには素晴らしかったと言わざるを得ない。
屋敷の召使達にはガンツ伯についていくなら構わないと伝えると、数名だけ付き添う意思を示した。
引っ越しはわずかな私物を積んだ馬車数台の簡素のものだった。
哀愁伴う引っ越しを見送り屋敷に入る。
しかしこうして新たに手に入れたガンツの屋敷であるが、正直持て余している。
「アラン様 ここは私に任せてください! 思い切って上品な内装に改装しますよ」
サイラスさんなどは前の趣味悪い内装を全部やり直すと張り切っていう。
「いやいや、ここに長く滞在するつもりもないから、最低限でいいよ」
「辺境伯ともあろう人の屋敷がそれではいけませんよ」
「貴族趣味なら今のままでいいよ、どうせ俺にはわからないから」
それでもと言うサイラスさんと協議し、応接室と寝室、それに風呂トイレなどの最低限の改装にとどめる。
この二日は客間で寝泊まりし、魔の大樹海に帰っている間に改装を行ってくれることとなった。
「サイラスさん それよりも領主となったからには例の件を進めたい
どこか物件をあたってくれますか?」
「ああ、子供が通う学校か、判りました急ぎ手配をします」
「利益は出ないけどお願いしますよ」
「任せてください」
「デニス、子供の教育を行う学校と言う施設を作るので、運営を任せられる人物を選んでおいて欲しい
セレスティアルに帰ったらノウハウのある人材を寄こすので、半年を目途に立ち上げたいと念を押してくれ」
「学校ですか? 承知しました 施設の運営に長けた者を探します」
「この街で孤児たちの面倒を見ているのは誰かいるのか?」
「そうですね、やはり教会関係者でしょうか」
「そうか、では後ほど司祭に挨拶しに行くことにしよう」
その後しばらく打ち合わせを行ったところで、王都の役人が訪れたというのでこの話は終了となる。
役人とは領地の引継ぎについて打ち合わせる。
魔の大樹海の開拓地は税を免除されているが、元ガンツ領は免除されない。
このあたりの打ち合わせに物凄く時間がかかったが、王都の役員は優秀だったので何とか終わらすことができた。
役人の歓待を兼ねて夜は新生ガンツ領のささやかな宴会を催す。
新生と言っても領主以外はまだ変わってないのだけど…
そしてようやく初日は終了した。
◇◇◇◇◇
翌朝は早々に屋敷を抜け出し、久しぶりにクランハウスに顔を出す。
「おかえり アニキ!」「アニキ」と言う声が聞こえてきそうだが、テオとエラはセレスティアルに移って久しい。
帰ったら久しぶりに顔を見に行くかと思いながら声を掛ける。
「サリーさん ただいま」
奥から慌てた様子でサリーさんが走り出てきた。
「これはアラン様!! この度は辺境伯になられたそうで、本当におめでとうございます」
「久しぶりに帰って来たので顔を出しましたが、ここはどうです?」
「アラン様 そのような口調はいけません! それに私も呼び捨ててもらわないと困ります」
「ああ、すまないつい昔の感覚でね」と苦笑いしながら返す。
「ここは変わらず賑やかですので、やりがいがあります」
領地開拓後、クランハウスはセレスティアルとガンツを移動する領地の冒険者たちに宿として開放していたのだ。
「それは良かった、聞いているだろうけどガンツも治めることになったのでこれからさらに賑やかになる、頼みますよ」
「承知いたしました」
気が付けば料理長のロータル含め今いる従業員や、宿泊していた冒険者に囲まれていた。
口々に祝福されるので、皆に声を掛けてからクランハウスを引き上げる。
「懐かしかったな、ダルシム」
「ええ、あの頃の生活を昨日の様に思い出せます」
「そうだな、折角だから帰ったらテオとエラに会いに行くか」
「それは喜ぶでしょう」
「もう大きくなっただろうな」
「子供の成長は早いですから、びっくりするでしょうね
それにしてもあの頃からわずか数年でここまでになろうとは…
これほどまでは考えても居ませんでしたので感慨深いものがあります」
「そうだな、しかしまだ道半ばだ、ん?」
屋敷の前まで戻ると人だかりができている。
ちょっと嫌な予感がする。
「コリント辺境伯が帰って来られたぞ!」
此方に気づいた群集が口々に声をあげながら寄ってくるのを、護衛の近衛騎士が遮る。
門の前にデニスが居るのを見つけ声を掛ける。
「デニス、この騒ぎは何だ?」
「アラン様への面会を希望する者達です」
そういわれてよく見ると冒険者ギルドのギルド長など見知った顔も見える。
そりゃ皆挨拶に来るよな、と思いつつ冒険者ギルド長まで並んでいるのは苦笑するしかない。
(イーリス 他に面談しておく必要のある者は居るか?)
[有力者本人と思わしき人物は冒険者と魔術の各ギルド長だけです]
(わかった)
「冒険者ギルドと魔術ギルドは通してくれ、後は誰と面会するかの判断はデニスに任せる」
「判りました」
なお商業ギルドは勿論サイラスさん経由でちゃっかりアポイントを取り付け済みだ。
そうして午後は面談で埋まり、教会に行く時間が取れなくなるのであった。
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