早朝、馬に一泊分の荷物とちょっとしたものを載せてホームを出発する。
五人だけで出かけるのは本当に久しぶりだ。
思い返せは半年以上前、合流するダルシム達に合わせ盗賊狩りに出かけた時だったはずだ。
ガンツの街の樹海側の門はずっと閉ざされたままなので、正門を抜けて城壁の山側を魔の大樹海に向けて進んでいく。
城壁が途切れると樹木に覆われかけた古い道が見えてくる。
「これが領地に続く道だよ、ちょっと手入れしないといけないか」
街道の整備部隊は警護の冒険者と合わせて手配するようカトルには話してある。
明後日に実施される予定だ。
「思ったよりしっかりした道ね」クレリアが言う。
「そりゃ今まで幾度か開拓が行われているからな」
かつて樹海に挑戦した貴族の情報は調べてある。
何せ五千メートル級の峰に囲まれた峠道なのだ、最初は道の整備もままならなかったようだ。
今までの貴族はよくやったよなぁ。
ほんの少し進むと急に開けて立派な道に切り替わった。
この道はかつての貴族が通していた狭い道を拡張したものだ。
「アラン これは一体!?」
「リア だから言っただろ、心配いらないと」
「まさかこれほどとは、信じられない」
「領地の発展のためにこれくらいの街道は必要だろ?」
馬車が余裕で対向できる道幅にしてある。さらに横には馬車が退避できるくらいの幅で樹木が伐採されていた。
「それにこれくらいで驚いてたらこの先持たないぞ?」
「またアランったら」
全然本気にしていない。ほんとなんだけどなぁ。
そこから先はしばらく急な登りなので、馬車によっては少々苦労するかもしれない。
途中からは木々も少なくなり二時間ほどで峠に到着した。
ガンツより五百メートルは標高が高いだろうか。
峠からの見晴らしはよくガンツがよく見える。
「この峠の先は少し広場になっているからそこで休憩しよう」
「この道は魔物に襲われないの?」
「この辺りは樹木も少ないから魔物はもっと谷側を通ってガンツの方に出て行っているようだよ
大型のものはグローリアに頼んでできる限り狩ってもらってるしね」
「そうなのね」
「スタンピードともなれば別かもしれないが通常はそれほどでもないだろう
これからは定期的に冒険者に狩ってもらうことも考えてるしな」
「なるほど」
峠を越える。樹海を一目で見渡せるが、本当に広大な土地だ。
その中央にある山の手前側に樹海でない部分がある。
「ほら、見えるかい? あれが俺たちの街だ」
「……まさか……あれが……信じられない」
「ああ、アランなんて言うことなの……」
「いやいや、見てのとおり本当だよ、まだ距離があるから小さく見えるけどね」
峠から見えたのは樹海の中にぽっかり広く伐採された領域と、その中に白く輝く城壁で囲まれた街並みだった。
クレリアとエルナは呆然としている。
城壁に囲まれた街の規模はゴタニアより大きくガンツと並ぶくらいになっているのだが、まだ距離はあるし樹海が広大だから大きくは見えない。
それでもクレリアとエルナが想像していたものとはかなり違ったのだろう。
セリーナとシャロンはドローンからの映像で見たことがあるので気にしていないが、二人には恐ろしいインパクトのようだ。
「とりあえず休憩しよう」
クレリアとエルナが衝撃から立ち直る時間が必要だ。
馬を降りてお茶の準備をする。
(イーリス グローリアに峠まで来てもらってくれるように伝えてくれないか)
[承知しました 艦長]
しばらくするとグローリアの姿が見えだした。
「見て、グローリアよ!」セリーナが気付く。
「おーい」シャロンが手を振っている。
クレリアとエルナもぎこちなく手を振っている。
「久しぶりだな、グローリア」
「隊長 皆さん お久しぶりです」傍目にはガオガオしか聞こえないけど。
「もうすぐ皆が来るので街も賑やかになるぞ」
「よかった、頑張った甲斐がありました」
グローリアは街づくりに随分頑張ってくれたのだ。
「手伝ってくれて助かったよ、どうだ? 新しい家は」
「快適です!」
新しい家を気に入ってくれているようで何よりだ。
お母さんの集めた形見のお宝のはまだ移してないが、そのうちに運び出す話にしている。
ひとしきりグローリアと交流してる間にお茶の準備ができたので、座って話をする。
「アラン あれが本当に私たちの街なの?」とクレリアが少し立ち直って聞いてきた。
「そうだよ」
「疑ってなかったわけではないけど、よくて最初に寄ったタラスの村くらいだと思ってたわ……」
「まぁ普通そうだよな」
「アランがやることだから普通なわけないでしょう?」とセリーナ
「そうです、常識なんか通用しません」とシャロン
いやその評価ちょっと酷くないかそれ……
「ともあれ細かい家具や設備を準備すれば十分住めるようにはなっている
さすがに各戸には無理だけど上下水道も完備しているからな
あとは大衆浴場もあるぞ」
「なんですって? どこの王都でもそんな設備はないわ」
「衛生面は大事だからな、ここは譲れないところだった」
あまりにやりすぎるとその後維持できなくなるので、さすがに共同水道に共同トイレだ。
それでもこの世界の標準的なスタイルからは大きく進んでいる。
下水は城壁外の貯水池で処理して肥料化する予定だ。
「この後の予定だが、まずは街に行って細かいところを見てもらおう
そのあと晩御飯の食材をグローリアと狩に行って確保しようと思うのだがどうだ?」
「「賛成です」」セリーナとシャロンは即答だ。
「アラン 早く行こう!」立ち直ったクレリアは待ち遠しくて仕方がないようだ。
「グローリア、先に街まで行っておいてくれ」
さて出発しますか。
実を言えばグローリアにガンツまで来てもらって、飛んでいけばすぐだったのだが、街道の確認もあって馬で使ったのだ。
峠からは三時間ほどで街に着いた。馬車だともう少しかかるが、ガンツからは何とか一日で移動してこれる距離である。
森を抜けるとグローリアはすでに正門の上で待ち構えているのが見えた。
イーリスに頼んで正門の上にスペースを取って補強してもらってあり、ここが定位置になる。
城壁はオーガの襲来にも備えて十メートル以上の高さがある。
「アラン ドラゴンが守っている街とかこの世界どこにもないわ」クレリアは上機嫌だ。
「本当におとぎ話のような話です」とエルナ。
「この城壁も凄いわ」
「簡単に登れないようになるべく平らにしたからね」
帝国技術でやるとツルツルにするのも可能だけどこの世界でも再現可能な程度に抑えてある。
「右手の方に下水処理用の池があって、下水で流れた来たものはここで処理して最終的に肥料になる」
「はぁ……そんなことが」
宇宙船は閉鎖環境だから循環型で自給自足するのは普通だからなぁ。
正門前まで来てグローリアに挨拶をする。
「グローリア あとで夕食の食材をみんなで狩りに行こう」
「隊長 うれしいです! 楽しみにしてます!」ガオガオだけどなんとなくわかる。
「あら、正門閉まってるけどどうすれば」エルナが気が付く。
「ああ、ちょっと待って」
[ビーティー・ワン 正門を開けてくれ]
[了解しました 隊長]
重々しい音がして、正門が開いていく。
「どうぞ、お入りください」少しおどけて声をかける。
勝手に開いた門を不審がりながら中に入った瞬間、クレリアとエルナが目を見開いて立ち止まる。
「アラン なんだこれは!」
そこには扉を開けている汎用ボットの姿があった。
「リア これは俺達の協力者の使うゴーレムだよ」
アーティファクト一覧で見た名前を告げる。
もっともあれは簡単な動作ができるからくり人形みたいなものだったけど。
「彼らがこの街を作ってくれたんだ」
「「…………」」
二人とも信じられないという顔だ。そりゃそうだよな。
航宙軍作戦会議の中でどの時点でどこまでの情報を開示するかについては散々議論してきた。
もちろん汎用ボットの件も含まれていた。
今後の街の拡張については隠すことができないこともあり、汎用ボットと通信についてはこのタイミングで話すことにしていたのだ。
「これについては色々聞きたいだろうが、夕ご飯の後に話をするからそれまで待ってほしい」
「…………アランがそういうのであれば分かったわ」
さっきまでの上機嫌とは裏腹に硬い表情でクレリアはようやく声を出す。
街は緩やかな傾斜地となっており正門が一番低く、奥に進むにつれ高くなっている。
メインストリートの先、かなり遠くに領主館が見える。
「まず、正門を抜けるとそこは広場だ ここは魔獣が出るので門の外ではなく中に広場を作ってある」
「その先は左側に冒険者ギルド、右側に商業ギルドの予定だ」
「ま、いつギルドができるかはまだ全然決まってないけどね」
ちょっとおどけてみるが反応はない、というか放心してるなこれは。
「クランのホームもこのあたりに考えている」
二人はキョロキョロしながらついてくる。
「そして広場の先は商業エリアになる」
「物販と飲食はエリアを分けるつもりだけど当面は雑多に店が並ぶだろうね」
王都より幅広いメインストリートの両側に建物がずらっと並んでいる。
とにかく建物建築優先で作っているので、デコレーションまでは出来ておらず素っ気ないのが玉に瑕だ。
ただこれは職人の仕事に残している部分でもある。
「ここがすべて埋まるには数年かかるだろうね」
「スターヴェークと王都からの移民が進めばガンツに近い規模になり賑わうはずだ」
二人はもう、声も出ない。
「商業エリアの裏側は職人街で、合わせて職人の家族などが住むところでもある」
「さらにその外側の塀との間が農民の居住区と農地になっている」
「外の開墾している場所も将来的には農地にする予定だけど、今はまだ人口が少ないので城壁の中で作物は作ってもらうつもりだよ」
「農産物に関しては樹海を大きく開墾し過ぎるのは現実的じゃないので、半分くらいは購入前提になるね」
「特産品を幾つか立ち上げて、あとは樹海の素材とかの売り上げで賄う事になる」
「そして商業エリアを抜けると行政区だ」
「ここが教会」
そこには立派な教会があった。
「王都の教会を参考に少し小さくして建築しているけど、どうだろう?」
「…………素晴らしいわ…………よくこれほどのものを」と何とか声を絞り出してクレリア
良かった、教会だけはよくわからないからな。
「行政区の周りは居住区だ、スターヴェーク出身の貴族や文官や騎士たちはこちらに住んでもらうことになる」
「そしてここが領主館になる」
デザインはこの世界の標準的なものに帝国の意匠を取り入れた独特なものになっている。
流石にここだけはかなり装飾を施してあり、建物の規模もかなり大きい。
「それなりの規模の会議や会食はできるようにしてあるので、基本はここがクランホームに近いかな」
「あと裏手が住居で、クレリア達が問題なければここに住むようになるよ」
「……あの…………アラン 国を興すのに城ではなくて良いの?」
「あぁ、城はいらないね
守りという意味での城ならここまで何日かかるかを考えれば、誰か攻めてくるものでもないしね
威厳という意味では俺には不要だ」
「確かにそうだけど……」
たとえガンツと対立したところで峠で防御できるし、そもそも負ける気はしない。
「どうしても必要になればこの後ろに建てればいいさ
土地は空いている
それに城のような高さはないけど、十分立派な建物だろ?」
「……それは間違いない このような立派な建物は見たことがないもの」
正門から領主館まで説明するだけでだいぶ時間が過ぎた。残りは明日だ。
「リア これで納得してくれたかい?」
「……アラン まさかここまでとは思わなかった…… 夢のようだわ、というか夢じゃないかと思っている」
「夢じゃないし、俺がすごいんじゃなくて協力者がすごいのさ」
「いやそれでもこれほど計画された街づくりはアランでなくては無理だろう」
「そんなことはないさ、セリーナもシャロンも出来るよ」
「いえ、さすがにアランのようには無理です」とセリーナ
「私も」とシャロンは片手をあげながら言う
イーリスに話せばできるのに裏切りだ!
「さてそろそろ狩りに行こうぜ、グローリアがお待ちかねだ」
慌てて話を切り替える。
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