「何故こんなに盗賊の襲撃が多いのだ! 王都を出てからこれで四度目の襲撃だぞ!」
「申し訳ありません、一般の商人に偽装しているのが見抜かれ、カモだと思われている節があります…」
護衛の隊長と思わしき人物が平身低頭で主の怒りを収めようとしていた。
主が荷物に拘ったせいで、護衛の数よりも荷馬車が多く格好の獲物と思われているのだ。
しかしそれを口に出すことは無い。出したところで何の益にもならないことを理解していたのだ。
「この道がこれほど危険だとか聞いておらんぞ」
「事前の確認では普段と変わりありませんでした
普段は侯爵家の馬車だからとしても、確かにこの襲撃は多すぎます」
侯爵の馬車に騎士の護衛付きで移動していた頃は襲撃を受けたことは一度足りとなかった。
それが王都を出て五日で既に四度の襲撃を受けている。
「こんな事なら何時もの馬車を使えばよかったわ」
追放されて王都から出ていくのだから笑い者にされぬようにと、商人に偽装したことを後悔しても今更だろう。
隊長は心の中で馬車に対し少ないこの警備の人数では狙われるだろうと思うが口にはしない。
既に護衛の四分の一は怪我が重いため戦力にならず、残る四分の三も怪我をしていない者は少ない。
「ともかく今夜は街で泊りなので安心できます
そして明日の昼に峠を越えて我々の領地に入れば、騎士団が迎えに来る手筈ですのでご安心ください」
「おいおい、ボロボロだな 護衛の者はケガ人だらけじゃねぇか」
街に入ろうとした所で守備兵に声を掛けられる。余程目立つのであろう。
「ああ、何度か盗賊に襲われてな 最近はこんなに治安悪いのか?」
「ここ最近はそれ程変わってないと思うが、そりゃあツイてなかったな」
「全くだ」
「それだけ立派な馬車だと目立つからな、気をつけろよ」
「ああ、感謝する」
隊長は心の底からそう思いながら、門番に商人の身分証を見せ街に入る。
本来であれば脱落した者の代わりに冒険者の護衛などを追加で雇うべきなのだ。
しかし身分を隠しての行動が裏目に出て、それが出来ずにいた。
駄目だと判っているが最後にもう一度確認する。
「追加の護衛を雇いませんか?」
「ならん! 秘密を知られるぬ訳にはいかぬ! あと半日どうにかしろ」
「…判りました」
結局ここで押し切れなかったのが彼の不幸であった。
◇◇◇◇◇
翌朝、街を出発し午前の行程の半分を過ぎた頃だった。
山道に差し掛かり前後の視界が悪くなったその時、いきなり矢が飛んで来て馬が一頭倒れた。
「敵襲だ!」
「警戒しろ!」
「馬車の中なら安全なので出ないでください!」
隊長の言葉で扉を閉め閉じこもる。
特製なので通常の矢であれば通らないはずだ。
「何者だ!」
「見りゃわかるだろ! 馬鹿かお前は」
「そうか、総員、賊を排除するぞ!」
「「「おう!」」」
「やってみろよ!」
激しい戦闘音と悲鳴が聞こえる。
外の様子は見えないが、後は何時もと同じように盗賊を倒すのを待つだけのはずだった。
やがて外が静かになり、馬車の扉が開けられた瞬間、目の前に剣の切っ先が迫る。
「久しぶりだな、ヴィリス・バールケ」
誰かは判らなかったが、護衛の兵士でないことだけは一目瞭然だった。
「おや、久しぶり過ぎて私の事を分かってもらえないようだね」
「…お前は…まさかヴェルナーか! 本当にそうなのか?」
「ああ、地獄の底から会いに来たよ 幽霊に会った気分はどうかな? バールケ宰相
いやもう私と同じく元宰相でしたな」
切っ先から逃げるように尻もちをついて後ずさりながら言葉を発する。
「…なぜ貴様がここで儂を襲って、…まさか今までの盗賊たちもお前の差し金か!?」
震える声ではあるがみっともなく泣きわめいていないのだけは立派であった。
「ええ、さすがに気付きましたか? 貴方がよく使う手を真似させていただきました
欲に目が眩んだ盗賊どもからは貴方は格好の獲物に見えたようですぞ」
「儂を襲ってどうしようというのだ?」
ヴェルナーは質問には答えず、馬車を取り囲んだ男たちを見ながら静かに言う。
「サンクレール家、ヴァンダービルト家、レノックス家、フィッツジェラルド家、シルバーマン家、ドレイクフォード家、他にも集まった」
「聞き覚えが無いとは言わせない」
「うぐっ、その名前は…」
全てバールケに陥れられ潰された家の名前だった。
「大恩ある人を陥れられた者、自身の親が処刑された者、子供を殺された者、将来を約束した人と引き裂かれた者、家族が巻き込まれ一家離散した者、私の様に一族郎党皆殺しにされた者も居る」
ヴェルナーは静かに語る。
「彼らは全員縁の者たちでな」
「…復讐かッ…」
「いいや、これは過去に決別し未来に進むためのケジメなのだよ、私にとっては悲願でもあるけどね」
周りの者たちが頷く。
「そういうことで貴方にはここで退場していただく」
「何だと!」
「ドラゴンの尻尾を踏まなければ、こんなこそこそと領地に帰ることもなく、貴方もガンツ伯もあと少し人生を楽しめたでしょうに」
「…コリントの若造の差し金か!?」
「いいえ、ケジメだと言ったでしょう」
ヴェルナーは頭を振って否定する。
「しかしあの方を潰そうとしたのは間違いでしたな」
「はっ! 貴様はコリントに拾われて尻尾を振ったわけだ」
「違いますね、拾われたのは確かですが、私が忠誠を誓ったのはスターヴェークの王女殿下です」
「アロイスに滅ぼされた国じゃないか、あの娘は死んだはずだ! 何のたわごとを」
「貴方が裏でどう動いて死んだと判断しているか知りませんが、生きておられますよ
そして何れスターヴェークを復興するでしょう
もっとも貴方が生きてそれを知る事は無いですがね」
「何だと!」
「積もる話もあり名残惜しいが、そろそろお別れです
余り長話をして邪魔が入ってもよろしくない
死んだほうが良いと思わせる事も考えましたが、禍根は刈り取っておくことにします」
周りの者たちに合図をして、入れ替わるように馬車を後にした。
「ヴェルナー待て! おい、待て! ヒィィィ!!! 助けてくれ、ヴェルナー待ってくれ!」
「今まで陥れた者たちに命乞いを聞いてあげたことがあるのなら考えぬでも無いですが、どうでしたかな?」
聞こえたか聞こえ無かったかついぞ返事は無かった。
暫くの間、悲鳴が聞こえていたが、やがてそれも力なく小さくなりやがて聞こえなくなる。
ヴェルナーは涙を拭いながら一つ深いため息をついて独り言ちる。
「ユリア…エミリア…一族の者達よ…我が悲願を達成したぞ…」
「この老いぼれにどれだけ時間が残されているかわからぬが、残りの生は王女殿下の為に尽くそう」
悲願の達成によりぽっかり空いた心の穴を埋めるように、未来に思いをはせる。
そして奥の馬車から戻ってきた者たちの気配で顔をあげ命令した。
「撤収するぞ、盗賊の仕業に見える様、金目のものは回収しておけ!」
「はっ!」
「さて、アラン様はもう領地に帰られた頃かな、この恩には報わねばならぬ」
ゆっくりとそして確実な足取りで一歩を踏み出すのであった。
評価、誤字脱字報告、御指摘、感想、何時もありがとうございます。
「凱旋ー魔の大樹海」を公開予定だったものの面白くなくボツにして先の話を持ってきました。
尚、ユリア、エミリアは処刑された妻子という設定です。
色々お盆進行のため次回は20日日曜に更新予定です。