ガンツを出発し峠で休憩しようとしていた時、その報告を受け取った。
[艦長 バールケの件は全て終わりました]
(そうか)
[ライスター卿はこれで吹っ切れたようです]
(分かった 引き続きステルスで護衛してくれ)
[了解しました]
バールケに関しては二度も毒を盛られたので思うところがないわけではない。
だが権力を失い邪魔をされる可能性が減るなら、排除するほどでもないと考えていた。
しかしそれがライスター卿の悲願であるなら是非は無い。
そんなことを思いながらカリナに声を掛ける。
「カリナ ここまで来て街が見えると、帰ってきたなと言う感じがするな」
「アラン様 そうですね やっと帰って来ました」
王都での生活がきつかったので、心底喜んでいるようだった。
「あ、あれグローリアですよ!」
帰る予定は伝えてあったのでグローリアが見回りを兼ねて出迎えに来てくれた様だ。
あっという間に姿が大きくなり、空き地に降下する。
[隊長 おかえりなさい]
ガオガオと挨拶される。
「グローリア ただいま 元気だったかい?」
[ええ、勿論です!]
ふと気づけば休憩していた者達の中に明らかに怯えている初見の者が居た。
ドラゴンを前にして完全に腰が引け恐怖で顔を引きつらせているのだ。
それを見てこれでは休憩にならないなと申し訳なくなり出発を決意する。
「グローリア 休憩はこれくらいにして出発する」
[はい、ではまた正門でお待ちしています]
「ああ、よろしく」
そうして正門にたどり着くとやはり大勢が集まっており、なし崩しにパレードが始まる。
垂れ幕がないだけ、ガンツよりはましだったけれども…
正門前広場もメインストリートも人だかりだった。
領主館前に着いても押し寄せてくる群集で収拾がつかず、馬車を降りて挨拶をする。
「皆、集まってくれてありがとう! 陛下より無事に辺境伯に叙せられたことを報告しよう!
これらはこの地を開拓してくれた君たちの栄誉でもある!
今日は簡単な挨拶だけであるが、後日スタジアムでセレモニーを実施する!
是非参加してくれ!」
反応はものすごいものだった。
「「「「「コリント辺境伯! 万歳!」」」」」
「「「「「アラン様!! おめでとうございます!!」」」」」
口々に叫んでいる群集に手を振る。
何度も振り返り手を振り、ようやく領主館前に着く。
玄関には主だった者たちが出迎えてくれていた。
「ただいま」
「「「「アラン おかえりなさい」」」」
「長かったけどやっと帰ってきたよ、出産に間に合って本当によかった」
四人に声を掛ける。
既にクレリアは臨月に近かったし、他の三人もそれほど変わらない。
「そんなに慌てなくても大丈夫だったのに」
「生まれた後に大慌てで駆け込んでくるのもちょっと見たかったわね」
「確かにそれもアランらしいわね」
「でも間に合って良かったです」
彼女たちの変わらなさにほっとする。
ふと気づくとまた涙で顔がぐちゃぐちゃになったロベルトが隣に立っていた。
「…アラン様…陞爵、おめでとうございます…」
「ロベルト ありがとう でもまだこれからだからな」
ダルシム、ヴァルター達シャイニングスターのメンバーが笑顔で出迎えてくれる。
元スターヴェーク王国やルドヴィーク辺境伯の所縁の者達も物凄く嬉しそうだ。
夢へまた一歩近づき心から喜んでいるのだろう。
「ガンツ領の領主就任おめでとうございます」
「アラン様 今夜は身内だけのささやかな晩餐会を準備しております
それまでお部屋でおくつろぎください」
トーマスが声を掛けてくる。流石よく気が付く。
「ああ、そうしよう、積もる話もあるからな」
その夜はささやかと言いながら、半年ぶりの再会に大いに盛り上がったのは言うまでもない。
◇◇◇◇◇
[夜明けです 起きてください]
久しぶりにナノムに起こされる。
アルコールの分解は寝る前にナノムに頼んでいたので酒の影響は全くない。
しかし寝不足だけは如何ともしがたい。
軽く朝食を済ませ、早速トーマスとクリストファーを呼び打ち合わせに入る。
辺境伯になったことでやることは山積みなのだ。
ガンツ領の統合について、デニスと打ち合わせる内容を詰めていく。
続いてセリーナやダルシム、ヴァルターなどと軍の編成について協議する。
護国卿兼辺境伯ともなればそれなりに軍を編成する必要がある。
セシリオの情報があるため悠長にしている暇はないのだ。
そして昼食を食べ終えた頃に伝令がやってきた。
「アラン様 到着しました」
「そうか、思ったより早いな、会議室に通しておいてくれ」
「畏まりました」
到着したのはデニスに依頼して呼び出していたガンツ軍の責任者だった。
辺境伯軍を整備するにあたり、現在の軍の構成を聞く必要があったのだ。
「よく来てくれた アラン・コリントだ」
会議室に通されていた三名は片膝をついて最敬礼する。
「カイルと申します ガンツでの兵士の総指揮を取り仕切っております
こちらは副官のレナードとダミアンです」
歳は五十代と言ったところか。三人共風貌は如何にもと言う雰囲気がある。
「よろしく、カイル総指揮官… ん? 苗字は無いのか?」
「はっ閣下 私共三名は平民の出にございます」
なんと、それで総指揮官に登り詰めるとはかなり優秀なのだろう。
如何にも叩き上げと言う感じの武人ではあるが、騎士の家系の出ではないとの事には驚いた。
「まぁ座ってくれ 平民で総指揮官とは優秀だな」
「はっ! それがその…言いづらいのですがユリウス様は我々軍の事についてあまり興味はなく…
デニス様よりの指示と我々の判断で運用しておりました」
非常に申し訳なさそうな返事が返ってきた。何という事だ。
詳しく話を聞くと元ガンツ伯は自分を飾る近衛以外は興味がなかったのだ。
その為全てデニス経由で任せていたらしい。
そうなると軍は冷や飯食い扱いだ。 勿論そんなところに取り入ろうとする貴族も取り巻きもいない。
つまり平民であるカイルが総指揮官になっても誰も文句を言わない状況だったのだ。
「判った…ちょっと頭が痛い状況なのは理解した」
逆に言えばどのように編成しようと貴族の横やりが入らないのは好都合だ。
「紹介が遅れたがこちらがセリーナ・コリントだ
妻の一人だがコリント辺境伯において武官のトップになる」
身重の女性が軍のトップ?とカイルたちもかなり驚いている。
本当か?と言う感じで目を合わせたのは見逃していない。
「ああ、運よく辺境伯に成りあがった若造だ
自分の妻に見栄えのいい飾りの地位を与えやがってと考えただろう?」
にやりとしながらけしかけてみる。
が、カイルと名乗るその男は流石に常設軍の総指揮者に上りつめた者であった。
「セリーナ様の事は存じあげております
シャイニングスターのAランク冒険者、そしてその腕前はコリント辺境伯に次ぐ腕前だとのもっぱらな噂です」
「あら、意外と有名なのね」
と、セリーナはまんざらでもない様子だ。
「勿論です、セリーナ様とシャロン様は格闘も得意で、閣下にも勝つ事が出来るのはお二方だけだと」
「そうだな、今はこの状態だから無理だが何れ手合わせしてみるといい
得難い体験ができるぞ」
おっとセリーナの目が怖い。 この話題はこのくらいにしよう。
「そしてこちらがダルシム総指揮官だ 辺境伯軍の総指揮官となる」
「よろしくお願いいたします」
「君たちにはその配下で第一軍の指揮官として、そのまま任についてもらいたいと考えている」
「はっ! 畏まりました」
「ところで今元ガンツ軍は何名だ?」
「おおよそ五百名でございます」
「ふむ、思ったより少ないな、増員も考えようか」
「ははっ!承知いたしました」
「ちなみに確認だが近衛兵との仲はどうなのだ?」
「彼らは自分たちをエリートと思っていますので…」
「見下しているのか…」
近衛騎士団はプライドが高くガンツ軍・守備隊を下に見ていると。
そしてガンツ軍と守備隊はそれなりに連帯しているという構図だった。
ガンツの元近衛騎士団は解体だなと心の中で決める。
カイルたちかを下がらせた後、さらに全体の構成を決める。
元スターヴェーク王国の騎士や、宙兵たちの部隊、それに予備兵や徴用兵だ。
警備隊も含め組織を決めていく。
コリント辺境伯軍
│├常設軍
││├第一軍(元ガンツ軍+新規補充) 五百名+五百名
││├第二軍(元スターヴェーク関係) 千五百名
│││ ├王国騎士 一千名
│││ └辺境伯軍 五百名
││└第三軍(宙兵) 五百名
││
│└非常設軍 五千五百名
│ ├予備兵 五百名
│ └徴用兵 五千名
│
├守備隊 二千名
│├都市部隊 五百名
│└街道警備 五百名
│
└近衛騎士団 一百名
大体こんな感じだろう。
これに工兵や補給部隊などが加えて、部隊を整えていく。
実態はどうであれこれだけの規模ならば、王都に報告しても恥ずかしくないだろう。
その時ノックがあり、カリナから報告が入る。
「アラン様 ギルド経由でエルヴィンから連絡がありました『レイノモノカクニンス』だそうです」
「そうか、ちょっと忙しくなりそうだな」
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次回日曜に更新予定です。