航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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150.セシリオへの道

 ギニー・アルケミンの件が終わり、暫くした頃であった。

 

(イーリス そろそろ魔の大樹海を突っ切り、セシリオ王国側へ街を繋ぐ街道を作ろうと思う

 汎用ボットは動かせるか?)

 

 これは以前から考えていた計画で、セシリオに向かう近道としようとしていた。

 

[はい艦長 現在稼働可能な汎用ボットは七五機、汎用トラクタ二台、試掘用掘削機三台です]

 

(ふむ、これだけの街とさらに基地を作った割には思ったより損耗は少ないな)

 

[はい、ただし現時点で各ボットの消耗率は七割を超えています

 この先の稼働率は落ちていきますので注意が必要です]

 

(分かった、この先については秘密で工事することも少ないだろう

 想定できる街道の候補をマップに投影してくれ)

 

 目の前にマップが表示され、この街からセシリオ側の街までいくつかの線が表示される。

 セシリオ側で魔の大樹海に接した街はシスタナと言うようだ。

 何か聞いた事があると思ったら、ドラゴンが現れて大騒ぎになっていた街だった。

 城塞都市ガンツと同様に標高のある山と山の間のV字谷沿いに立地している。

 ガンツと似ているが、より小規模な街で、仮に戦争になったとしても占拠はしやすそうだ。

 

[候補はこの三路線です 高低差はあるけれども距離が短いか、その逆と中間です]

 

(馬車での移動を考えると高低差はなるべく避けたい

 距離的にはどれくらい違う?)

 

[一番短い距離で三日、長いので七日です]

 

 と三本の線が何本かの川を越え、湖を避けて魔の大樹海の東端まで通っている。

 直線的なのが三日、曲がりくねった線が七日、中間が五日か、よく考えられている。

 

「セリーナ、シャロン どう思う?」

 

「どれくらい街道を行き来するかによるわね」

 

「魔の大樹海の素材ならシスタナと取引する必要があまり無いわよね」

 

「だとしたら交易では余り使わない可能性もありそうね」

 

「ああ、しかしこちらのルート使うことでセシリオ王都へ日程がかなり短縮できるから道は必要だ」

 

 ガンツ経由でセシリオに向かおうとすると、一度南に向かうことになりかなり遠回りになる。

 それだと魔の大樹海を突っ切った方が早いのだ。

 

「なるほどそういう訳ね」

 

「ああ、いずれ部隊を速やかに送り込む必要も出てくるからな」

 

「それなら多少の強行軍でも日程の短いほうが良いいことない?」

 

「その意見は一理あるな とは言え街に着くまでに消耗しているようでは良くないと思う」

 

「そうすると中間案かしら?」

 

「そうだな、やはりそれが一番魅力的だな」

 

(イーリス それでは中間案にしよう

 魔の大樹海で野宿は厳しいので宿場も四~六か所必要だな)

 

[街道と宿場の規模はどれくらいにしますか?]

 

(街道はまず馬車がゆったりと通れればいいだろう

 宿場はとりあえず百人程度が雑魚寝できるものが必要で、水場も近くに欲しい)

 

[分かりました]

 

 必要な石材の切り出し元も考慮されたプランが表示される。

 魔の大樹海はスペクトル調査で地質も確認済みだから難しい話ではなかった。

 そしてイーリスが算出した必要な期間はたった三カ月だ。

 これを人力でやったら三年で終わるかどうか分からないだろう。

 

(承認する これで進めてくれ)

 

[了解しました]

 

 このタイミングでセシリオ王国への道を作り始めたのは訳があった。

 いよいよ現セシリオ国王の容体が良くなさそうだと情報が入ったのだ。

 そして国王が亡くなると最短半年を喪に服した後、ルージ王太子は戴冠する。

 それと同時に開戦を宣言しベルタ王国へ侵攻してくるだろう。

 それを防いだうえで、カウンターを仕掛けるための布石がこの街道だ。

 これから街道を作って三カ月、街道整備も含め時間的には余裕だろう。

 

 辺境伯となりガンツ領も統治するようになった時、王からセシリオからの侵攻にも対応する様要請を受けている。

 大義を得たので領地の騎士団と辺境伯軍は鋭意増強中だ。

 

 それに加え帝国軍宙兵がかなり充実してきているのだ。

 今では大隊規模で動員できるようにまでなっている。

 

 勿論一人一人が格闘、剣、魔法攻撃を習得している。

 並の兵士であっても複数名相手に立ち回っても引けを取らないだろう。

 イーリスによる机上シミュレーションでは、数基のドローンを支援につければこの世界の少なくとも一万人規模の部隊と交戦可能だった。

 戦力的にはすでにどこかの国を攻めても倒せるかも知れない所に来ていた。

 流石にドローンをつけない場合は、死角からの攻撃による損耗がありえる。

 

 とは言えドローンまで投入して戦闘を行うと、今後の統治に問題がありそうなので考えていない。

 やるとしても、大陸の覇権をかけた戦いくらいでないと無いだろう。

 

 しかし順調とは言えまだ立ち上げ中の組織なので問題はある。

 本来であれば士官が指揮するのだが現時点では、イーリスがサポートする上等兵までしか居ないのだ。

 圧倒的に経験者が不足していた。

 士官学校の設立も視野に入れているが、まだ実際には下士官相当の兵が居ないのだから仕方ない。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「ダルシム 辺境伯軍の準備状況はどうだ?」

 

「ハッ! 第一軍はカイル総指揮官が頑張っております

 新しく加わった者たちも含め士気は非常に高待ってきております」

 

「そうか、士気が高いのはいい話だ」

 

「領主がアラン様に代わったことで、日陰者だった自分たちの働きを評価してもらえる可能性が上がりましたからね

 それはもう張り切っておりますし、それに合わせ練度も向上してきております」

 

「いい知らせだ、引き続きよろしく頼むと伝えてくれ」

 

「はい、お任せください そして第二軍ですがこちらも編成が終わりました」

 

そして少しトーンを落とし耳打ちしてくる。

 

「新たな志願者も含め、全て元スターヴェークの者達で固めております

 混乱で散り散りになっていた者達が集まって来てくれました

 勿論士気は申し分ありません」

 

「そうだな、彼らには悲願があるからな」

 

「いえアラン様、今はそれだけでありませぬ

 皆、コリント辺境伯軍の一員として仕える事が出来ていることをとても光栄に思っております」

 

「そうか、それは嬉しい話だな」

 

「そして近衛騎士団の方についても問題はありませんが…」

 

「ん? 歯切れが悪いな、騎士団は何かあるのか?」

 

「いえ、問題は無いのですが、一つお願いがあります

 可能であればエルナを騎士団の配属にしていただければ助かります」

 

「ふむ?」

 

「辺境伯軍の規模が拡大しておりますので、圧倒的に経験者が不足しております

 リア様が育児中のその間だけでも構いませんので、是非」

 

「確かにエルナの才能を遊ばせておくのも勿体ない話だな、今度話をしておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

「と言う話が出てきたのだが、近衛騎士団に復帰してくれないか? エルナ」

 

 それは嬉しそうにリアの赤ん坊をあやしていたエルナは露骨に嫌な顔をする。

 

「えー? 本当に言っています? 私は今の生活がものすごく楽しいのですけど」

 

「そうは言ってもエルナの経験は代えがたいからな、それに鍛錬も怠ってないだろ?」

 

「それはそうですけど…」

 

「頼むよ、ダルシムも本当に結構困っている様だし、この先()()()()()()()()()()()()()()()

 

「エルナ すまないが私からも頼む 文官の仕事を任せられる人材も育ってきているから安心してくれ」

 

 リアにまで言われようやく折れるエルナであった。

 数日後、渋々騎士団に復帰したエルナが水を得た魚のように見えていたのは、本人には言えない話だった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 三か月後、街道が完成した知らせがイーリスから届いた。

 これ幸いと馬で視察に行こうとしたところ、そんな理由で何日も不在にする領主が居るかと猛反対される。

 

「という訳だ、すまないが久しぶりに頼むぞ」

 

(隊長、任せてください)

 

 という事でグローリアに頼み、上空から視察することで許可が出た。

 

「こうして飛ぶのも久し振りだな」

 

「そうですよ、たまには誘ってください」

 

「そうだな、俺も事務仕事で飽き飽きしているし、定期的に視察を入れるか?」

 

「はい、私も門の警備ばかりなのでぜひお願いします」

 

 道中他愛のない話をしながら、半日ほどで遠くにシスタナの街を見るところまできた。

 街道はこの先もう少し続いているが、ドラゴンの目撃情報が出ても困るのでここで引き返すことにする。

 

 こうしてセシリオに対する準備は進められていった。

 

 





評価、誤字脱字報告、御指摘、感想、何時もありがとうございます。
ここから新しい展開に入ります。
なるべく安定して更新できるよう頑張ります。



本文からはみ出した設定ネタ

 宙兵はセレスティアルの街から北東にある帝国軍基地(と言う呼び方にした)で訓練を行っている。
 現時点で総勢千六百三十名、うち実践部隊は約六百名からなる大隊構成だ。
 厳密には帝国航宙軍宙兵隊とは異なるが、装備等が無いので剣を使う現地仕様だ。

 一小隊二十名(四分隊)で九小隊、中隊長含む下士官、衛生兵、狙撃班、サポート班の二百名で一中隊となる。
 中隊がさらに三つ集まり大隊を構成している。
 
 余談ではあるが残り千名のうち五百名が技官、三百名が工兵など、残り二百名が事務官になっている。
 技官は様々だ、純粋に技術開発をしている者たちがいる一方、商売人もどきのことをしていたりもする。

 とにかく今は基礎技術の水準を上げることを優先している。
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