「使者を手配しましたので、送り出します」
「ああ、頼む それとセリーナに俺の替え玉、くれぐれも頼むと伝えてくれ」
「…はぁ、分りましたが、それはちょっと…伝え辛いです」
ダルシムが少し尻込みをしている。
「何ならダルシムがやるか?」
「滅相もありません」
何故替え玉か? それはこの世界のしきたりのためだった。
大将とは軍を象徴する者である。
ありがちな話だが目立つものでないといけないのだそうだ。
この開戦を予定した時点で、ものすごく目立つ戦装束を準備していた。…勿論渋々だ。
目立たないといけないと散々言われたので、赤を基調にした偉そうな装備だ。
まるで今からパレードに出かけますという出で立ちである。
クレリアとエルナは似合っていると随分褒めてくれた。
セリーナとシャロンは笑いを噛み殺すのに必死になるくらい大ウケだった。
そういうことで替え玉にセリーナを指定したのはちょっとした意趣返しなのだ。
ダルシムが伝えづらいのも当然だろう。
ちなみに赤を選んだのは
流石に正統派の騎士の意匠の金属鎧は勘弁してもらった。
皮鎧を薄い金属で補強したものを採用していたので、セリーナでも着ることが出来る。
余分な羽飾りなど要らないと言い張ったが、誰も許してくれずこちらは諦め妥協した。
こんな装備は宙兵としては間違っている。
だから気分的にはさっさと脱ぎ去りたかったのだが見透かされていた。
「まぁそう言うな
ここの戦いが決着すればダルシムにも活躍して貰う必要があるからな」
「分かりました…」
ダルシムが渋々なのはセリーナが乗り気でないからだ。
「予定通り、第二軍から規律した行動をとれるものを選んでおいてくれ
行動速度優先だから半数の千名が程度だな
間違っても村を襲撃したり、盗賊まがいの事をしたりする奴は選ぶなよ
もし居たら、相応の責任を取ってもらうと言明しておくように」
「承知しました」
◇◇◇◇◇
その頃使者による口上の読み上げが始まった。
双方の使者が主張を行い、相容れず引きあげていく。
バグスの戦いに比べると、これで戦争開始かと実感が無いほどゆったりしていた。
「皆の者、アラン・コリント卿より御言葉がある。傾聴せよ!」
ダルシムの言葉で皆が跪く。
「皆、よく聞け! 我々は不当にもベルタ王国を侵略しようとするセシリア王国の賊共に対して天誅を行う!
人数では相手が多いからと不安な奴は居るか?
しかし練度と士気ではどちらだ?
勿論我々の方が圧倒的に上だろう!!
ドラゴンスレイヤーであるアラン・コリントが保証しよう!
お前たちが負ける訳はない!
臆することなく戦うがいい!」
うおおぅぅ!!! と、もの凄い勝鬨をあがる。
結局精神論かよ、とは思うがこれが馬鹿にならないのは【人類に連なる者】の性分である。
兵たちに声を掛けた後、テントに戻り速攻で装備をセリーナと交換する。
「アラン 覚えてらっしゃい!」
セリーナの恨み節を聞きながら地味な装備に着替える。
「さて、準備は良いな?」
急襲部隊に声を掛け、進軍を開始する。
「一度部隊の背後に下がったあと、大きく迂回して敵の背後へ回り込んでいく
だから意地でも遅れるな!」
ここからは進行速度が重要になる。
暫く進んだところでイーリスから報告が入る。
[艦長 敵歩兵が前進を開始しました 三十分で会敵予定です]
(了解だ)
歩兵が移動する模様がバトルフィールドマップに反映された。
侵攻の予想線が引かれていくが途中で進軍速度が落ちている。
塹壕や塀のおかげで簡単には越えられないようになっているのだ。
しかも越えている間に魔法や弓の部隊の餌食になるのだから堪らない。
このために土魔法使いは戦力強化していたのだ。苦労したけれども…
移動中、何カ所か展開していた相手の斥候部隊を沈黙させながら進む。
敵陣営の背後深くに回り込んだのは開戦から二時間も経っていなかった。
街道の奥から現れた部隊を敵などと思わなかったのだろう。
前線に集中するあまりか完全に油断していた相手の背後を突くことに成功した。
陣地に近づいた時にようやく気付かれる。
その相手を魔法と剣で無力化し、あっという間に司令官のテントを取り囲んだ。
「失礼するよ」
そう声を掛けてテントに乗り込んだ。
「誰だ! お前は!」
「お初にお目にかかる アラン・コリントだ
ベルタ侵攻の司令官とお見受けする
会った早々だが貴方を捕縛させてもらう」
「なっ!何者だ!」
あれ今名乗ったよな? 随分と慌てているらしい。
「ベルタ王国辺境伯そして護国卿のアラン・コリントだ
国王の命によりセシリオ王国軍に対し相応の反省して頂く」
「何だと! 何で相手の司令官がここに居る!? 誰かこいつを始末しろ!」
その声で護衛の者達が飛び掛かろうとした。
しかし全て魔法で肩を打ち抜かれ無力化されてしまった。
悲鳴を上げてのたうち回っている者を後目に、少し芝居がかった仕草で剣とセリフを突き付ける。
「静かにしてもらえますかね?
首から上を無くして静かにさせる事もできるのですよ?」
その言葉に観念したか、引きつった顔でコクコク頷き戦意を失った。
部下数名に命じ、テント内の者の武器を取り上げ、手を縛り上げる。
テントの周りでは騎士たちが防御円陣を取って防御していた。
俺が外に出たところで何人かが弓と魔法で攻撃して来たが、相殺して沈黙させる。
[艦長 ドローンで遠距離の脅威を排除します]
(ああ、任せた)
「無駄だよ 我々には奇襲は効かない
司令官の命が惜しければ武器を捨てろ」
テントを取り巻いていた連中は、後ろ手に縛られ拘束された司令官を見る。
そうしてお互いの顔を見合わせ渋々武器を投げ出した。
その中でも派手な格好をしていた騎士の一人に声を掛ける。
「おい、そこのお前! 降伏の旗を上げて、前線に戦闘中止を伝えて投降させろ
従えないと司令官の首もお前の首もどうなるかは分からんぞ」
「フォージ子爵……頼む」
司令官が諦めたのを見て、苦渋の表情で踵を返し走っていった。
ほどなくして降伏の旗が上がり、前線の部隊は理由も分からず混乱に陥る。
(イーリス 徹底抗戦を叫ぶ指揮官が居たらマークしてくれ、制圧する)
[了解です]
(それと樹海側の街を占拠するよう指示してくれ
予定通り各ギルドと領主の館を抑えるだけでいい)
[承知しました]
(セリーナ 予定通りこっちは片付いた
前線の混乱が落ち着いたから来てくれないか?)
(分かったわ お疲れ様、アラン)
合流してくるまでの間にこちらの後始末をする。
全ての部隊が降伏するにはひと時が必要だった。
武装を解除して何か所かに集める。
一部は反発して小競り合いはあったが、大方は命があっただけ儲けものだと大人しく諦めていた。
数時間後合流したダルシムが戦闘結果の報告をしてきた。
「損害ですが、こちらは死者百余名、戦闘不能の重傷者が五百名を超えています
セシリオ側はそれぞれ三倍程度の被害となっております」
おおよそイーリスのシミュレーションの範囲内であった。
一瞬死者の数に気分が滅入りそうになる。
そして次の瞬間フィルターが働き、心が軽くなると共に死者が数字としてしか感じなくなる。
全くクソったれなシステムだ。
「そうか、負傷者の治療を優先してくれ」
「はっ!」
「重傷者のうち深刻な者はここへ連れてこい」
「ありがたきお言葉です」
「ヴァルター、ここでの戦闘は終わりだ
予定通り護国卿として集めた兵士の半分で敵兵の監視を頼む
残りの兵は元の領地へ帰してくれ」
「承知しました」
「サーシャ、王都には急ぎの早馬を出してくれ」
「はい!」
その間に土魔法使いたちがヘロヘロになりながら何カ所かの収容所を作成し終わっていた。
土魔法使いの部隊には報奨を弾んでやらないといけないな。
そう思いながら休む間もなく、次の作戦の段取りに入る。
こうして国境における戦闘はコリント軍の圧勝で終了した。
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