国境での戦闘のごたごたが落ち着いたのは二日後だった。
しかし実はその一日前に俺たちはセシリオの王都に向かって移動していた。
引き連れているのはコリント辺境伯軍第二軍を中心にした約一千名だ。
相手から奪った装備でセシリオ軍に成りすましている。
まぁちょっと卑怯ではあるが無駄な戦闘を避けるためには効果的だ。
奪った記章と脅して書かせた偽の指令書を盾に、どの町もほぼ素通り出来た。
たまに職務に忠実な者も居て、
「お待ちください、隊長に確認を取ります」
などと声を掛けてくる。
「急いで国王に報告するのを止めるのか? 後で報告しておけ」
と言って強引に通り抜けて来た。
誰もこんな事態は想定していないのだ。
お陰で本当にあっけなく王都にたどり着く事が出来た。
その頃樹海から侵攻した宙兵達も、途中の街を制圧し王都にたどり着いていた。
セシリオの王都前はいつも通りと思われる無警戒さだった。
正門の外には幾つかの部隊が集合している。
脇を通り抜けようとするが、しかし流石にそのうちの一部隊から誰何された。
「停まれ! 何故前線に向かった部隊が王都に戻っている!」
「我々はフォージ子爵配下の部隊だ
前線の状況を報告するために急ぎ戻った
伝言を預かっているので司令官に報告したい」
ヴァルターが予定していた返答を行う。
「何だと? ちょっとそこで待つ様に」
その間にバトルフィールドマップを展開する。
この辺りは幾つか部隊を集結させているようだ。ベルタへ送る増援部隊だろう。
またうまい具合に高官も集まっているのが判明した。
ダルシムに目で合図をする。その裏でイーリスに通信する。
(宙兵部隊に連絡して王都の各門を抑えてくれ
籠城されなければそれでいい)
[承知しました]
戻ってきた兵士が疑問を口にする。
「お前たちが戻る予定は聞いていないとの事だ
それにしても部隊の者も多いだろう?
どうなっている?」
「重要な伝言を承っているのだ、通して貰えないか」
押し問答の最中に王都の方から争う音が聞こえた。
宙兵隊が門を制圧し始めたようだ。
「何だ!?」
振り向いて確認しようとした兵士をあっと言う間に拘束する。
そして高らかにダルシムが宣言する。
「我々はベルタ王国 辺境伯アラン・コリント様の部隊である
ベルタ国王に仇をなすセシリオ王国に対して天誅を行う
降伏するならよし、しないのであれば切り捨てる」
勝鬨と共にベルタ王国国旗とコリント=人類銀河帝国の旗を掲げる。
騒ぎを聞いた通行人は悲鳴を上げ逃げ惑っている。
「突撃!」
部隊に命令し制圧を始める。
状況が呑み込めず奇襲を受けたセシリオ兵たちは浮足立っていた。
理由も分からず攻撃を受けたのだ。組織だった反撃はまばらだ。
(ディー・ワン 城壁の上のバリスタを沈黙させろ)
[承知しました 3.2.1.対象の沈黙を確認]
(他にも長距離攻撃があれば無力化してくれ)
[弓部隊と投石機を確認 対象の破壊を実施します]
流石に一瞬だ、これで上から狙われることは無い。
(イーリス 指揮官と思われる人物を表示してくれ)
混乱の中、逃げ出そうとしている者、指令を出している者をチェックする。
そう遠くないところに幾つかのタグが表示された。
「ダルシム、右側に展開して逃げ道を塞いでくれ あそこの派手な奴だ 逃がすなよ」
「はっ!」
先制攻撃を受け乱戦の中なので、系統だった反撃を出来ないまま制圧されていく。
ほどなくして苦も無く指揮官らしき数名を捕縛し人質にとれた。
「さてどなたが司令官殿でしょうか?」
「お前は何者だ!」
一番立派そうな服を着た人物が騒ぎ立てる。
「質問しているのはこっちです」
「何だと、貴様!」
「無駄な抵抗はやめたほうが良いですよ」
「貴方がこの場の最高司令官ですか?
どうされますか? 部下を降伏させるか? 抵抗して首が離れるか? 今なら選べます?」
「そんな脅しに屈するわけにはいかんぞ!」
「ご立派ですが、首に剣を突き付けられても言えますか?」
そう言ってフレイムアローを足元に打ち込む。
「っく! 卑怯な…」
「では次席司令官はどなたですか?」
何人かが一瞬向けた視線の移動先を見逃さない。
こちらも立派な鎧を着た人物だ。
「貴方が次席で間違いないですか?
戦闘で上官が死亡すれば貴方に権限は移りますね?」
答えずに一番派手な服を着た人物を見ている。
(イーリス こいつは誰だ?)
[フレイザー侯爵、開戦派の重鎮です
王の信頼も厚く無下に出来ない人材です]
(そいつはいい人質が手に入ったな)
「どうやらあなたで良さそうですね
貴殿はフレイザー侯爵で間違いないですか?」
「何故儂の名を知っている… お前は何者だ!」
「お初にお目にかかります
ベルタ王国辺境伯アラン・コリント 護国卿でもあります」
「何だと…そんな馬鹿な、何故お前がここに居る
ベルタの連中は国境で戦闘中ではないのか…」
流石に目を見開いて信じられないという顔だ。
「残念ながら本物ですよ、証明のしようは無いですけどね
ベルタ王に代わり護国卿の権限でセシリオの侵略に対応しています
国境の戦闘はさっさと終わらせて、ご覧の通りここに来ました」
「信じられん!」
「常識ではそうでしょうね、しかしこの通り現実です
そしてこの王都も既に主要な門は我が部隊が抑えている
抵抗は無駄ですよ
俺たちがここに来た時点でこの戦争はセシリオ王国負けです」
「………」
目を白黒させて言葉が出てこない。
「…剣を引くように伝えて貰いましょうか!」
少し間が開いた後、捕縛していた中の一人に命令した。
そいつを解放してやると数名を引き連れ、声を張り上げて戦闘中止を伝えて回る。
混乱中なので落ち着くまでは少しかかった。
「ダルシム、何名か連れて正門との間を抑えてくれ」
「判りました」
「ヴァルター 命の危険があるものは居るか?
治療するので急いで連れて来てくれ」
集められた者の多くは致命傷に近かったが、治癒魔法を行使する。
敵味方含めてその姿はなかなか衝撃的だったらしい。
その間にも兵士たちを武装解除していく。
取り上げた武器は土魔法使いが掘った穴の中に放り込まれていく。
途中一部魔道士からの反撃はあったが、全て魔法で相殺し沈黙させられていた。
「さて貴殿たちにはベルタ王国に宣戦布告をした罪を償ってもらわないとな」
「そこの奴 名前は?」
手近にいた偉そうな格好したやつに声を掛ける。
「ドラモンド 伯爵だ」
吐き捨てるように返答があった。
「これは手荒な扱い失礼した、ドラモンド伯爵
悪いが大至急王に面会できるよう段取りしてくれないか
侯爵の命がかかっているのだから大至急で頼むぞ」
「くっ!」
「断っても無駄だ、誰か代わりの者にやって貰うだけだからな」
「…そいつを開放してくれ、伝言に出す」
捕縛されている別の部下に渋々命令を出す。
部下が王都へ入っていく後姿を見送りながら怒りに震えていた。
(イーリス 宙兵の部隊に正門以外を閉じさせてくれ)
[了解]
「ヴァルターは半数を連れて王都内の制圧を頼む
門は別動隊で制圧済みだから間違って争うなよ」
「判りました」
「ダルシムはこいつらを連れて城内に入ってくれ 籠城準備だ」
「畏まりました」
そうしている間に武装解除が進んでいく。
そろそろ武器を投げ込む穴が一杯になりそうである。
もう一つ掘っておくか…
治療を行いながら悩んでいるところに使者が帰ってきた。
送り出してから一時間ほど経っていた。
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