航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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101.クレリアの想い

 

 グローリアとの狩りはビッグボアを目標にした。

 間違ってもオークとか食べたくはないから満場一致だ。

 

 折角一緒の狩りなので探知で探し出し地上から追い込んで、グローリアがとどめを刺す作戦だ。

 それでタラス村の黒斑なんか子供のようなバカでかいサイズのやつを仕留めたのだった。

 まったく魔の大樹海と言うだけはある獲物だ。

 久し振りの皆との狩りを行ったグローリアは本当に大喜びではしゃいでるが、知らない人間が見たら随分怖いだろう。

 

 獲物は肩ロースのいいところを人間用に確保して、残りはグローリアのご飯となる。

 グローリアはまるかじり派なので流石に一緒の食事とはいかず、明日の再会を約束してここで別れた。

 ふといずれ調理した食材を食べさせてあげたいと思ったが、あのサイズに見合う量の食材の調理は難しいか。

 

 夕食は五人で旅してガンツに来た頃の思い出話をしながらの楽しい時間を過ごした。

 釣りの話、オークジェネラルの話、ブルーサーペントの話、盗賊狩りの話、話題は尽きない。

 何と言っても釣りの話は大いに盛り上がった。本当にみんな好きだよな。

 大樹海には大きな川はないけど、いくつか湖があるのでそのうち何か釣れるか試してみよう。

 

 

 そして夕食後、部屋ではなくリクエストのあった焚火を囲いながらぽつりぽつり話し出す。

 

「さてどこから話そうか、リア何時か俺が何故この大陸に来たか言った事は覚えているかい?」

 

「遠くから船で来たけど壊れて帰れなくなった事?」

 

「あぁ、そうだ 船が壊れて俺は一人で投げ出されたんだ」

 

「投げ出された時乗ってきた小舟は岸にたどり着く前に早々に沈んでしまうしさ、散々な目にあったよ」

 

 本当に最悪な脱出ポットだった。

 だけどあれが正常に動作してたらクレリアとは出会うこともなかったと思えば意味はあったのだ。

 

「何とか岸に泳ぎ着いた後、最初に遭遇した知的生命体がゴブリンだったのは辛かった」

 

「話も通じず襲われたときはてっきり『俺は恐らくはこのまま、この世界でたった一人で生きて死んでゆく』なんて思ったりもした」

 

「アラン、その気持ちはわかります」

 

「そうそう、最初にあったのがアレだと絶望ですね」

 

 セリーナもシャロンも同意する。

 

「その時俺は誰とも連絡を取る手段がなかったし、船は沈んで誰も生き残ってないと思ってたからね

 しかし未知の世界で冒険できるんじゃないかとワクワクもしてたんだ」

 

「……ワクワクってアランらしいわ」やれやれという感じのセリーナ

 

「うんうん」と頷くシャロン。

 

 なんか厳しくない? 

 

「そして彷徨ったあげくに轍を見つけ、それを追っかけると襲われているリアに出会ったんだ、その後はリアも知っている通りだ」

 

「狩りをして、久しぶりに剣を振るって、まさかの魔法は衝撃的だった ワクワクした毎日だった」

 

「魔法は本当に驚きました」セリーナも同意する。

 

「アランが剣を使えたことにもびっくりですけどね」とシャロン。

 

 それは恥ずかしい記憶につながるので勘弁して欲しい。

 

「そしてセリーナとシャロンが俺を探してくれたお陰で、支援者と連絡が取れた

 船は壊れて動けなくなったけど沈んでない事、

 この街を作ったゴーレムが使える事、

 それが分かったのでクレリアに国を興すと言うことが出来たんだ」

 

「……あれほどのゴーレムとか普通に使えるアランの国は一体どれほどなのか、想像もつかないわ」かぶりを振るクレリア。

 

 ドローンのことはまだ黙っておくしかない。

 クレリアは聡いので使徒として活動している事に気づかれる恐れがある。

 あぁ宗教は本当に厄介だなぁ。

 

「あの時は事後の話で本当にすまなかった、さすがにこのことは当時言えなかったからね」

 

「アランの事だからって納得してたけど、どうやって連絡ができるの……とは聞かないわ」

 

「いや、それも打ち明ける話だ

 リア達の言うアーティファクトみたいなものだと思ってくれればいい

 ギルドでも遠距離に連絡を取る手段があるだろ? あれがもっと凄くなったようなものだ

 文字ではなく会話ができる」

 

 この世界は文明レベルに合わないアーティファクトがあるので説明しやすいのはありがたい。

 

「……まさか本当に? ……でもそう言われると思い当たる節があるわ

 三人とも時々宙を見つめて黙る癖があるのはそういうことだったのね」

 

「あぁ、俺たちの故郷では遠距離で連絡する手段は普通に使われているものだからね」

 

 ナノムを使った近距離通信は軍事用途だけだが、携帯デバイスによる個人間の通話機能などちょっと文明が発達した惑星では開発されていることが多い。

 

「例えば王都で救出していた時に何故あのタイミングでグローリアが来たと思う?」

 

「ああ、そういわれれば確かに 緊張のせいか気づいていませんでした」とエルナ

 

「上空で待機していたグローリアに連絡して姿を現してもらったんだ」

 

「ということはグローリアにも連絡できるのね」

 

「あぁ、クレリアと同じく死にそうな怪我だったのでナノ……精霊の力を借りて治療したからね」

 

「そうやっぱり、グローリアと会話ができるというのは精霊の力なのね

 私は精霊の力なのではって思ってたけど」

 

「そうだ、さすがにドラゴンは人間とかなり違ったので意思疎通して会話できるようになるには一晩以上かかったのだけどね」

 

「アランの事だからってみんな妙に納得しちゃってたわね」とシャロンが茶化す。

 

「……はっ それではもしかして精霊様もアランたちの力なのでは……」

 

 やはりクレリアは聡い。

 

「そうだ、目に見えないほどものすごく小さなゴーレムが沢山集まって動いてると思ってもらっていい

 リアの命を助けるために精霊の力を急いで借りたんだけど、そうしなければ出血多量か、もしくは傷からの感染症で死んでしまう怪我だった」

 

 あの時はまだ回復魔法を使えるどころか魔法を知らなかった。

 

「……そうよね、死ななかったのは本当に奇跡だったわ

 そのうえ喰いちぎられた手足が元に戻るなんて考えられなかった

 足が治りかけた時私は頭がおかしくなったのかと思うほどだったわ……」

 

「え! リア様 まさかそんな! 深手とは聞いてました手足が喰いぎられるほどだったのですか…………」

 エルナが驚愕の表情を浮かべ絶句した。

 

「そう、アンテス団長たちとグレイハウンドに襲われたとき、防具を外していた私は手足を食いちぎられたの

 それで意識を失ったのだけどそのときにアランに助けて貰ったわ

 思えば防具を外していなければ喉を喰いちぎられて死んでたかもしれない」

 

「……そんな事が……」

 

 初めて聞く話にエルナは呆然している。

 

「ああ、俺が駆け付けた時にはアンテス団長は喉を食いちぎられてもう助けようがなかった」

 

 思い返すようにクレリアと出会いの話を続ける。

 

「そしてアランが皆を埋葬してくれて、義足を作ってくれたおかげで旅を続けれたよ」

 

「言葉がわからなかったから意思疎通が大変だったよなぁ」と苦笑する。

 

「あの時は追われている私をアランが助けてくれるか、とても不安だったわ」

 

「俺としては困っているリアを助ける以外の選択はなかったけどね」

 

「かわいい女の子だったからじゃないんですか?」セリーナ一体俺を何だと思ってるだ?

 

「いや、最初見たたときは血まみれで泥だらけだったし分からなかったよ

 水浴びしてから初めてこんな美人だったって気付いたんだけどな」苦笑する。

 

「アランが水浴びするとか言い始めたときは、本当に恥ずかしかったのよ」

 

 それは知らなかった。

 

「手足の回復まで潜めるいい具合の洞窟を拠点にできて魔法と言葉を教えてもらったんだよな」

 

「手足の回復は奇跡の業だからエルナにもおいそれと話せなかったの

 それに皆に余分な心配をかけたくなかったから……すまない」少し困ったような顔でクレリアが言う

 

「いえリア様、配慮ありがとうございます」

 

「これで私がいかにアランを信用し信頼していたかわかるでしょ?」

 

「……それほどの事であればゴタニアで再会した時にあの態度だったのは納得です……」

 

「だから私はアランには大変な恩があり、女神に誓ったのだ

『必ず返さなければならない恩義が、アランにあることを』」

 

「……ああ、リア様 そこまでなのですね……」

 

 

 [アラン 女神ルミナスに誓うとは何でしょう? ]シャロンが通信で聞いてくる

 

 [宗教がらみなのでうかつに聞けないからよくわからない 誓いがかなうと発光するのは目撃した]

 

 [それは不思議ですね]

 

 [何らかの誓約のようだけど、効果は不明なんだよな]

 

 

「ねぇアラン 私もグローリアのように精霊の力を借りて会話できるようになるの?」

 

 リアが宿しているナノムはインターフェースの作成を命じれば利用可能になるが、それをすべきかは迷っている。

 たとえ将来建国し共同統治者を宣言したとしても、彼女は帝国航宙軍ではないのだ。

 この星に生まれた者として生きてほしい思いがある。

 それとは別に帝国軍である秘密を隠したままにしたくないという葛藤もある。

 

「リア、君の中の精霊は正規の手順を踏んでいないためできることは限られている

 せいぜい前より体は丈夫になったくらいだろう」

 

「……風邪もひかなくなったのは不思議だったけど、そういうことなのね」

 

「ああそういうことさ

 今は無理だけどいずれリアにその事を確認する日は来るかもしれない」

 

「そうなのね、その時が来るといいな」

 

 そしてクレリアは目を伏せて呟くように声を絞り出す。

 

「……アラン 私は怖くて言えなかったことがあるの

 あなたは女神ルミナス様の使徒様なのではないのですか? 

 精霊様といい、ドラゴンと会話できることといい、この街づくりといい、普通の人間にできる範疇を遥かに超えているわ」

 

「まさか それは断じて違う、俺は普通の人間だよ

 この世界と少し違う魔法がなくて科学があるところで生まれただけだ、リアと同じ人間には変わりない」

 

「カガク……それがアランの力の秘密なのね」

 

 一瞬笑顔になったクレリアはしかし目を伏せて

 

「…………しかしそれでも不安なの」

 

「…………私は果たしてアランにその恩を返せるのか」

 

 今にも泣きだしそうな表情に変わり独白する

 

「…………ある日アランの国から大きな船がたどり着き『迎えに来たよ』と言われふっと居なくなるかも知れない」

 

「…………これだけの力があれば私など必要ないのではないか」

 

「…………私を見限ることがあるんじゃないかと思うこともある」

 

「…………大抵の事でアランを害することはできないのは分かっているけど死ぬんじゃないかと思うこともある」

 

「…………そんなはずはないのにどれも絶対ということはないのよ」

 

「…………時折どうしてもそんな不安が頭をかすめるの」

 

 すでに泣いているクレリアを見ていると、ふと頭をなでてしまう。

 

「大丈夫だ、居なくならないさ たった一年にもならないけどもうこの世界が俺の居場所だ」

 

 心なしかみんなの視線が痛いがここは無視する……

 

「前にも言ったろ? 俺達は絶対に元の世界に帰れない。もちろんその可能性は検討したよ

 ……生きているうちに迎えが来る可能性は限りなくゼロに近い確率だった……」

 

「それにリアがいたから目標ができたんだ」

 

「その目標に向かって一歩目の貴族になれて、この領地の開拓が二歩目だ

 この後開拓の成功を認めてもらって辺境伯になって

 ベルタ王国を手に入れて、セシリオ王国、アロイス王国と広げていく」

 

「アロイス王国を手に入れたらリアはスタヴェーク王国の女王になるんだろ

 リアと約束した目標を叶えるまでに俺が居なくなるわけないじゃないか」

 

「そうね、そうよね、ごめんなさい」号泣するクレリア。

 

 

 しばらくしてクレリアが少し落ち着いたところでとシャロンが話題を変えてくる。

 

「ところでアラン、この街はなんて名前なの?」

 

「へ? そういや考えてなかったなぁ」

 

「え? 信じられない!!!」

 

「はぁ、まったくアランは…………」

 

「そんな大事なことをどうして!」

 

「よくそれで今まで…………」

 

 みんな口々に攻め立ててくる。

 え? 俺が悪いの?? 今まで問題なかったでしょ? そんな理不尽な…………

 

「俺はわかればいいから明後日までに君たちで決めてくれていいよ」

 

 丸投げしておこう。

 

「あ、ただしシャイニングスターとかコリントは無しだ、ややこしくなるから」

 

 パーティとクランが同じ名前なので懲りているからそれは避けたいのだった。

 

 




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