航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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161.南方視察1

「アラン様 準備が整いましたのでこれより出発します」

 

「了解だ、よろしく頼むよ、ダルシム」

 

「承知しました」

 

 騎兵千五百、馬車二十台、荷馬車五十台の大所帯だ。

 その上騎兵二百名と荷馬車二十台が先触れ兼先行部隊として数日前に出発している。

 主に宙兵と第二軍から構成されたその一団は、視察と言うより鎮圧に向かっている物々しさがあった。

 地方貴族の反乱など一瞬で制圧できるだろう。

 

「開門! コリント王、南方視察出立!」

 

 大勢の市民に見送られながらセシリオ王都を出発する。

 二カ月に及ぶ南方視察の始まりだ。

 その間に面会する領主は二十家あり、三日に一回は晩餐会の予定だ。

 さらにその間に面通しを行う貴族に至っては五十を超える。

 ちょっと貴族多すぎないかと思わないわけでもない。

 

 今は仰々しいまでにアレス国の旗を掲げ、威厳を押し出した馬車に乗り込んでいる。

 改良に改良を重ねた専用馬車である。

 乗り心地は問題なかったが、この見た目だけは遠慮したい。

 

「しかしここまで飾る必要あるのかね?」

 

 馬車から手を振りながらそう呟く。

 

「それは勿論です、民にはこういう分かり易い力の誇示が必要なのです

 アラン様の言う実力主義は理解していますが、どうしても目に見えるものが分かり易いですから」

 

 ダルシムが力説する。

 

「アランの服も随分立派になったしね」

 

「シャロン 勘弁してくれよ…」

 

 シャロンに揶揄されるが、服装もこの世界の王に倣った服を着せられていた。

 着慣れないものを無理やり着ている居心地の悪さに心が落ち着かない。

 本当に勘弁してほしい…

 

 視察の主要メンバーは軍関係がダルシム、文官兼妻の代表でシャロンだ。

 ダルシムは軍の再編に忙しかったが、ケニーに押し付けて無理やり参加していた。

 ヴァルターも同様に事務仕事を代行させ同席したかったようだが、断念して王都に残った。

 

 妻としては視察が必要かは賛否が分かれたが、正式訪問ならば必要だろうと判断になった。

 アリスタは『国内の(まつりごと)は私の担当外です』と辞退。

 クレリアは『私が向かうとセンシティブな問題が起こるだろう?』と回避した。

 そうなると残るセリーナとシャロンのどちらか?

 二人が話し合った結果シャロンと決まったようだ。

 曰く『軍関係でダルシムが行くなら、文官の私が妻と兼任で行く方が理に適っているでしょ?』が決め手だったらしい。

 

 馬車の中はダルシムに加え、護衛もかねて宙兵の側仕え二名が乗っている。

 五名が乗っても特段狭くは感じさせないが、ゆっくり寛ぐことは出来そうもない。

 そもそも自分もシャロンも護衛など必要か?と言う話なのだが…

 

(イーリス 上空からの警備は任せたぞ)

 

[デイー・ワンが配置についていますが、増援しますか?]

 

(いや、当面一機でいいだろう、これだけの部隊に奇襲もあり得ないだろう)

 

[承知しました]

 

 そういうことで馬車にまで護衛が乗り込む必要はないのだが、ダルシムたちを説得できなかったのだ…

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「ようこそいらっしゃいました コリント王 レイヴン・アンブレイズと申します

 アンブレイズ辺境伯家を代表して歓迎いたします」

 

 王都の屋敷ほどではないにせよ、かなり立派な屋敷の前で領主から挨拶を受ける。

 壮年を過ぎた感じで、柔和な笑みを浮かべた威厳のある人物であった。

 物言いからして相応の経験を有し、判断力もありそうだ。

 

「アラン・コリントだ 立派な屋敷でよく手入れされているな

 途中の領地も見てきたが、街道も綺麗に整備されていた

 良い統治を行っているようだ」

 

「ありがとうございます、お褒めいただき光栄です

 お部屋を用意しておりますので、こちらへどうぞ」

 

 アンブレイズ辺境伯家は前セシリオ王家と折り合いの悪かった領主の一人である。

 南をアロイス王国と接しており、南方最大の貴族だ。

 アロイス攻略にも防衛にも是非とも協力と取り付けないといけない家の一つだった。

 ひとしきり社交辞令の歓談した後に率直に切り出す。

 

「まだるっこしい交渉は苦手なので、すまないが単刀直入に聞かせて貰う

 アンブレイズ辺境伯家としてはアレス帝国に忠誠を誓うか否か?」

 

 余りに単刀直入な話に、流石に驚いたようで表情が一瞬変わる。

 

「我々が望む条件は一つ、学校を作り、民を教育することだ

 その他は当面今までと変えずにやっていく

 これが今回の訪問させてもらった主旨になる

 今この場でと言わないが、早々に態度を決定して欲しい」

 

 学校に関する一連のやり取りは省略するが、アンブレイズ辺境伯は理解のある人物だった。

 

「それは良い考えですね、確かに民が豊かになれば我々も豊かになる」

 

 そうして逡巡の間の後、表情を引き締めて切り出した。

 

「…王家を倒して新国家を建てるともなる御方は流石に違いますね

 我が家が前王と折り合いが悪かったこともご存じでの問いとお見受けします

 答えといたしましては、勿論コリント王に忠誠を誓います」

 

 椅子から立ちあがり、その場で片膝をついて恭しく宣誓をされる。

 この場でそうなるとは思わなかったが、宣誓を受け入れる。

 

「賢明な判断を感謝する、座ってくれ」

 

「ははっ」

 

「先だって伝えた様に当面は今までと変えるつもりはない

 学校の件は追って通達するので、対応して欲しい

 ただアロイス王国とは緊張が高まっているので、国境には注意してくれ」

 

「承知いたしました」

 

「それと南部の安定化のために荒療治を行う事になるだろう

 一時的に混乱する事になるがよろしく頼む」

 

「畏まりました、全力を尽くしましょう」

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 晩餐会が厳かに始まった。

 正装したシャロンと共に入場すると、盛大な拍手を受けた。

 セシリオのマナーは良く知らないが、挨拶をした後に無礼講で構わないと付け足した。

 そのせいか今は賑やかに話が盛り上がっている。

 

「正直、コリント王に直接会うまではどうするか少し迷っておりました

 ベルタ王国であれよあれよと言う間に辺境伯にまでなった時点で噂は届いておりましたからね

 どのような人物かは興味がありました」

 

「この地まで知られていたのか」

 

「機会があれば一度ドラゴンの姿を見たいと願っておりました故、注目していた次第です

 何せ子供のころにはドラゴンの物語に大いに憧れていましたね」

 

「ドラゴンはそこまで人気なのか」

 

「ええ、以前シスタナに出現した時も大騒ぎになりましたしね

 機会がありましたら一度は姿を見たいと願っていたら、コリント王がドラゴンを従えて王都に現れたと言うでは無いですか

 それはもう目を丸くしたものです」

 

「判った、機会があればこの地にも呼ぶことにしよう」

 

 苦笑しながら約束する。

 意外と子供っぽい所があるようだ。

 

「ありがとうございます

 しかしルージ前王が即位と共にベルタ王国に宣戦布告した時点で、誰が今こうなると予想できたでしょう

 あっという間に王都を落とし数カ月でこの南部まで視察に来たのですよ

 知らせを受けた時の我々の驚きを分かっていただけるでしょうか?」

 

 ダルシムが得意げに返答する。

 

「そうであろう、誰もコリント王に関しては誰もの想定の上を行かれるからな」

 

「ダルシム それ以上は勘弁してくれ…」

 

「本当にコリント王には驚かされました

 そして今日会った時の印象で信頼できる方だと感じました

 さらに学校の話を聞き感銘を受け、忠誠を誓うにふさわしい人物だと判断いたした次第です

 

「そうなのか、しかし学校の話を受け入れてくれたのは大変嬉しいな」

 

「こう見えて私は人を見る目に自信がありますので、この判断を間違っていないと確信しております」

 

「そうか、これからよろしく頼む」

 

「はい、堅苦しい話はこのあたりにしてドラゴンの話をもっと聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、いいぞ そもそもドラゴンを倒すきっかけになったのは…」

 

 そうしてドラゴンを肴に夜は更けていくのであった。

 

 





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次回は日曜に更新したいと思ってます。
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