アンブレイズ辺境伯との会談は実りあるものになった。
毎回このように友好的であって欲しかったのだが、勿論そうならない事もある。
「ははは、新王は何を言われておられるのですか? 平民や孤児に学など必要ないでしょう!」
やはり学校について理解をしない頭の固い者や、あからさまに拒否する者がいるのだ。
「学校の話は聞き入れられないと?」
「左様でございますね それに給食ですか? あのような者などに施しなどは不要でしょう!」
まぁそういう訳だ。隣でダルシムが怒りに震えている。
俺の手前黙っているが、怒鳴りつけそうな気配がする。
(アランは威厳が足りないのかしらね? ちょっとなめられているわ)
シャロンもちょっとキレ気味だ。
(そんなものだろう、馬鹿をあぶりだせていいと思うぞ)
(それはそうだけどね この家は駄目そうだし)
(ここからは精々威厳を出すさ)
「それは私の提案を断るという意思表示と受け取っていいか?」
やんわりと窘めたつもりであったが、相手は弱腰と受け取ったようだ。
やれるものならやってみろと言う態度で強気に出てくる。
「新王の申し出ではありますが、お断りさせていただきます
わが領地にはそのような物は不要でございます」
「よし分かった、私に忠誠を誓えないのであれば仕方ない
わが帝国に其方は不要であると言わざるを得ない
ドーンヴァイン子爵は現時点を持って、アレス帝国貴族より奪爵する事をここに宣言する」
一瞬『え?』と言う感じでぽかんとした表情が可笑しかったが無視する。
後ろに控えていた事務官が作成した書類を受け取り、その場でサインを行う。
それだけで帝国の正式文章の完成だ。見せつけながら宣言する。
「子爵領地は全て没収とする
其方は一カ月以内に荷物をまとめて、妻子を連れて現居住場所を退去する事
帝国領内にとどまることは許すが、この領地からは退去せよ! 良いな?」
「そんな馬鹿な! 突然何を言われます!?」
しかし抗議は聞かず書類を突き付けながら最終通告を行う。
「私の提案を断ったのだ、当然だろう?
この書類が正式決定事項だ 何か文句があるのか」
「学校を断っただけで、この仕打ちには納得いきません」
「我が帝国に無能者は不要だ
最初に『我々が望む条件は一つ、学校を作り、民を教育することだ』と言ったはずだ
受け入れられない者には去ってもらうしかあるまい」
後方で護衛の者が剣に手を掛ける音が聞こえた。
万が一の襲撃に備え臨戦態勢に入っている。
「断固抗議しますぞ!」
「面白い話だな 王が言われていることに対して、誰に抗議するのだ?」
今にも飛び掛かりそうになる子爵の側近を牽制しながら、ダルシムが問う。
そう言われると反論が出来なくなったのか、口をパクパクしながら黙り込んでしまった。
その程度で黙り込むなら口には出さなければいいのに。
「謁見がこのように物別れになるのは残念だ
これ以上見苦しくならないうちにこの地を去れ
以上だ」
踵を返しその場を立ち去る。
護衛が周りを取り囲んだため、子爵、いや元子爵は怒りに震えながらも佇むしかなかった。
「ダルシム、部下に命じて子爵軍を掌握してくれ
最悪は武力でも構わない」
「はっ! 畏まりました」
「シャロンは同行している者から領地の管理人を選出して貰えないか
宙兵一名を護衛につけ、報告を受け取ってくれ」
「判ったわ、アラン」
「後は手空きの者に命じて、子爵の紋章を外して帝国の紋章にしてもらうか
さっさと街に子爵失脚の御触れも出した方が良さそうだな」
「そっちも手配しておくわね」
二万人足らずの領地の戦力などそれ程ではないが、後顧の憂いは取り除いておけば楽になる。
「やれやれ、これで数日はこの街に足止めだな」
超愚痴りながら馬車に向かっていると、ダルシムが怒りながらお小言を言ってくる。
「アラン様! だから威厳が必要とあれほど言ったでしょう!
優しい顔をすればあのような者は付け上がり、なめた口をきいてくるのです!」
「まあそう言うな、これでダメな奴が炙り出せるなら問題ないだろう?
今回の件は丁度いい見せしめにもなるし、一石二鳥だぞ」
微妙に論点をずらして煙に巻く。
[艦長 報告です 屋敷の方で動きがありました
伝令の早馬と思しきものを準備し、門を閉ざそうとしています]
(そうか、宙兵に伝えて早馬は全て確保してくれ)
[承知しました]
どうやら最後まで悪あがきをするようだ。
自分だけの都合で、自分の命だけでなく一族や屋敷に仕える者の命にまで危険が及ぶ事に気づいていない。
処分を考えると気が重くなってきた。
同時にダルシムから報告が入る。
「アラン様 痴れ者は屋敷に籠城したと報告がありました
さらにその前に何騎か門を抜けたと報告が入っています」
「ああ、早馬は展開している部隊が止めるから問題ないだろう
しかし砦でもない屋敷で籠城とか無駄なのに…何を考えているのだ?」
「あの様子では我々の力を過小評価しており、何とかなると思っておるのでしょう」
「シャロン この領地の兵力はどれくらいだった?」
「ちょっと待ってね、確か騎馬で八百と言ったところね」
「領民二万未満ならそんなものか、いやちょっと多いかな?」
「少し多めだとは思いますが、我々の兵力を知らないのですかな?」
「そうじゃないかな 言っては悪いがとても聡明とは思える人物でなさそうだし
歩兵はもっといるようだから、どうせ軍閥主義で前王の覚えが良く増長していたのだろう」
通常でも兵の数で二倍違えば勝負にならない。
ましてやこちらは一人で数名相手できるくらいの精鋭ぞろいだ。
実質は三倍から五倍の差が付くだろう。
「ダルシム、すまないが館を包囲してくれ」
「承知しました、攻城の準備を始めます」
「ああ、嫌な事はさっさと終わらせてしまおう」
ああ、これからの事を思うと本当に気分が重い。
今後を考えるときっちりとけじめをつけねばならないのだ。
王に歯向かった以上、処刑は免れない。
「そうですね、準備出来次第、正面突破でよろしいですか?」
「侮るわけではないが、あの屋敷に詰めていた兵は精々五十~百程度だろう
なら正面突破で構わない」
「ははっ!」
そうして二時間後には再び元子爵の前に居た。
ただし今度は後ろ手で縛られて随分とぼろぼろの恰好で見下ろしていたが。
「全く面倒くさいことをしてくれたな」
やれやれという風に声を掛ける。
「お前が悪いのだ! 私を奪爵するなど!」
「帝国に喧嘩を売って勝てると思っていたのか?
よしんば今回退け得られたとしても、本格的に攻め込まれて勝ち続けられると思ったのか?
カッとなって行動に移したのは浅慮だったな」
その言葉にも大声で罵声が飛んでくる。
「お前の命だけで済むと思ったのか? こうなる前に思い止まるべきだったな
せめて処刑だけは貴族らしくしてやるが、どうして欲しい?」
しかし貴族としての矜持は無く、さらに往生際悪く叫びまわる始末だ。
つまり『何故この立派な俺が処刑されねばならぬのだ!!』という主張だけだ。
「判った、もういい」
「ダルシム コイツはもうただの平民だ、反乱の中で死んだことにしてくれ」
「承知しました」
予想通りの結末ではあったが、気分は非常に重かった。
◇◇◇◇◇
こうして領主を解任した領地は一旦仮の管理官を置き、正式に次の領主を決めるまで辺境伯家に預けておいた。
アンブレイズ辺境伯も急に管理する領地が増え災難だろう。
一つ救いだったのはこの件が意外と早く南部で話題となっていた事だ。
その為その後に謁見した領主は殆どが協力的であったのだ。
例え心の底では受け入れがたくとも、少なくとも表面上は問題なかった。
結局幾つかの問題のせいで、視察は三カ月に及ぶ事になる。
その為セシリオ王都に帰りついた頃には疲れ切っていた。
尚、数晩毎に開かれた晩餐会と馬車移動による運動不足が、シャロンと二人の身に降り掛かっていたのは余談である。
評価、誤字脱字報告、御指摘、感想、何時もありがとうございます。
当面、週一日曜日更新予定です。