セシリオ南方の視察を終えた後であった。
元セシリオ領域の掌握も一段落を迎えたので、一度樹海に帰ってきていた。
子供たちも居るしゆっくりしたい所だが、基本はこちらが首都なのでやる事は山積みだ。
無線通信馬車に試作飛行船のチェックとやる事は次から次へキリがなかった。
そんな中、基地で帝国航宙軍司令官として訓示し、兵士には閲兵を、技術部隊には視察を行っている。
「全員整列! 敬礼!」
現在基地で訓練中の兵達が整列している。
そういえばずっと前にベルタ王都で閲兵したことがあったなとふと思い出した。
当時はどうやっていいか分からずにやっていたが、今回は事前にイーリスに確認している。
まぁ違いはなく、殆ど同様にやれば良いのであったが。
整列した宙兵の前をゆっくりと歩き、身だしなみや装備をチェックしていく。
司令官自らが閲兵を行うのだから、ガチガチに緊張しているのが見て取れる。
その中でも比較的落ち着いていそうな女性兵士の前で立ち止まる。
「剣を抜いて見せろ」
宙兵は一瞬ビクっとした仕草をみせたが、ゆっくりと剣を抜き俺に差し出す。
そのまま切りかかられる可能性もあるこの状況を、ダルシムが見たらお小言を食らうだろう。
まぁ宙兵はナノムのせいで上官を明確に害することは出来ないから、心配は要らないのだが。
剥き身の剣を受け取るとじっくり検める。
訓練によると思われる傷は幾つかあったが、汚れは無いのでよく手入れされているようだった。
「よし、よく使いこまれている、訓練に励んでいるようだな」
「はっ! ありがとうございます!」
宙兵に声を掛けて剣を返し閲兵を続ける。
一通り宙兵達を見て回り、正面に立つ。
「一人手合わせをしないか? 我と思う者は居ないか?」
遠慮しているのか手を上げる奴は居ない。
少し見回しても挙手する者は居なかったので、剣を見た女性に声を掛ける。
「それじゃ君にしよう、名前は?」
「ユーミ二等兵です」
敬礼しながらきびきびした返事がある。
良く鍛えられている。
「ユーミか、遠慮なく無くかかってくると良い ん?ユーミ? 聞いたことがあるな」
ナノムが目の前の人物にタグ付けた。そこには懐かしいエピソードが記載されていた。
「ああ、確かベルタ王都でセリーナとシャロンを襲って保護された?」
「そ! それは言わないでください…! あの時の私はまだ子供だったのです!」
ユーミ二等兵は顔を赤くしながら必死で言い訳をしている。
別に咎めている訳じゃないのだけど、慌てぶりが微笑ましい。
「そうか、元気にやっていたか、姉妹たちは? セリーナとシャロンはずっと気にしていたぞ
セリーナ ちょっと来てくれ ほらユーミだよ、王都で君たちが保護した」
「ええ、入隊に時に判ったわ 久しぶりね、ユーミ」
「セリーナ様、お久しぶりです! あの時は本当にありがとうございました
おかげで学校にも通えて、成績優秀と言っても頭ではなく体を動かす方でしたが…
無事帝国航宙軍にも入れました お二方には感謝しかありません」
俺とセリーナに話しかけられているユーミを見てコイツ何者だよと言う雰囲気が宙兵に漂う。
いかん、ちょっと私的過ぎたか。
「そうか、それは良かった では今日は訓練の成果を見せてもらおう
魔法は無し、剣とインペリアルアーツのみだ、いいか?」
「イエッサー!」
いい敬礼だ。
「セリーナ 上着を持っていてくれ 合図を頼む」
「ええ、用意は良い? では始め!」
ユーミが剣を伸ばし思い切って飛び込んでくる。
数合剣を交えたところで、おおよそのレベルが判ってきた。
近衛騎士にすると中くらいの強さだろう。と言っても魔の大樹海で十分通用する強さだ。
ユーミ二等兵は簡単にあしらわれる剣では勝てないと悟ったようだ。
今度は一気に間合いを潰して、接近戦に持ち込むつもりで飛び込んでくる。
かなり鋭いダッシュだ、場合によっては近衛兵のトップでも不覚を取りかねない鋭さがある。
(セリーナ ユーミはインペリアルアーツの方に自信があるようだな)
(そうね、油断しないでよ)
剣をフェイントに、格闘戦に持ち込んできた。
(判っているさ! っと、今のは危なかった)
それをフェイントに回し蹴りから、左ボディブローにつなぎ、次いで右ひじが飛んでくる
「いい飛び込みだったぞ!」
(ほら、言っている先から追い込まれているわよ)
(舐めていた訳じゃないけど、普通に強いな)
後退しながら難なくさばいてはいるが、訓練生として十分強いだろう。
観戦している宙兵達はユーミの鋭い攻撃に歓声が沸いている。
(コンバットレベルは?)
(八十二ね、成績を見る限り宙兵でトップクラスよ、上から数えたほうが早いわ)
(素晴らしいな)
(どう?私たちの指導もなかなかでしょう?)
(ああ、これだけ動ければ後は実戦で経験を積むだけだな)
得意げな雰囲気が伝わってくる。
(もう少ししたら俺のレベルを抜かされそうだな)
(アランの強さはレベルじゃ表せないから、当てにはならないけどね)
(そんなことないさっと、さて終わりだ)
フェイントからの後ろ回し蹴りをスウェーし、次のジャブを交わした後にバックを取る。
最後脇を狙った腕を絡めてロックし、背負い投げの様に地面に転がして決着した。
「ユーミ二等兵、よく訓練している、素晴らしいぞ! この調子で励んでくれ」
手を引き、立たせながら褒めておく。
「ありがとうございます!」
「よし、最後は魔法の成果を見せてもらうか」
「魔法ですか?」
「ああ、何が使える?」
「ファイアーボールが使えます」
「よし、遠慮せずに俺に魔法を打ち込んで来て良いぞ」
「え? 危険じゃないですか?」
「ファイアーボールくらいじゃかすり傷もつかないよ」
「ユーミ二等兵、怪我させるくらいでやっていいわよ」
おいおい、セリーナ 流石にそれは酷くないか?
「分かりました」
セリーナに言われて決心したようだ。
「いきます!」
エフェクトを見る限り三つ同時に発射しようとしていた。
コンバットレベルを考えると、魔法はそれ程得意と思えなかったが、素晴らしい。
とは言え三発では避ける必要もない。
三発とも発射と同時に一瞬で相殺すると、宙兵達は目を丸くする。
「よし、良い感じだが、もっとイメージを固めて速射できるようにするとさらに良くなるぞ 習得に励むように」
「イエッサー!」
「士気も練度も高い、見事だった! 以上で閲兵を終わる」
「「「ありがとうございました! アラン様」」」
「ああ、それと優秀な者は今後設立予定の士官学校への推薦も行う、皆訓練に励むように!」
その言葉を聞いて宙兵は目を輝かせていた。
それを見て先延ばししていた士官学校も、流石にそろそろ発足しないとまずいなと思いなおす。
最後にユーミ二等兵を手招きして呼び寄せる。
多少打ち身と擦り傷があったので、治癒魔法を行使して傷を治していく。
その光景を見て、宙兵達は俺が治癒魔法まで使えるのか?と、どよめいている。
まぁちょっとしたパフォーマンスではあるのだが、その効果は絶大だった。
お陰で司令官の株は大きく上がったのだったのだから。
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