閲兵の後、午後からは技官達の視察だった。
こちらは各研究テーマの範囲が集まって報告では現地が見えない。
そのため視察の移動すら一苦労だった。
「アラン ここよ」
基地の一角の建物の前でセリーナが止まる。
汎用ボットが作った建物が魔改造され、奇妙は建屋になっていた。
元の面影は半分くらいしかない。
「これはまた随分改築しまくっているな…」
「建物は規格的に作っていたので、使いやすいようにみんな好き勝手に改造しまくっているわ」
建屋の改造は申請だけで良い事にしてあるからと楽しそうに笑う。
それはそれで確かに楽しそうだなと思わないでもない。
ドアの外で起立して待っていた宙兵にセリーナが声を掛ける。
イーリスはARで参加しているのでセリーナと三名での視察だ。
「視察に来たわ、楽にしなさい」
セリーナが声を掛ける。
「は!」
「今日はよろしく頼む 早速だがここでは何を研究しているのだ?」
「はっ、主に金属の精錬と、その実用化手段について研究しています」
「そうか、それは大事な話だな、是非頑張ってくれ」
「ありがとうございます」
「それで金属は何を?」
「需要の高い鉄の量産化から取り組もうとしています
いずれ軽量なアルミニウムについても考えていたのですが、そちらはまだ電力が普及しておらず精錬出来ないのです」
「そうか、実用化の目処は?」
「領地の鍛冶屋の人達の力も借りつつ完成まで十二ヶ月程度を視野に入れています
本格的な生産開始はさらに六ヶ月はかかるかと思いますが」
「ふむ、その期間だと作業員とか足りておらんのか?」
「学校を卒業する者たちや、鍛冶屋の弟子などを予定していますが、正直足りてはいません」
「判った、優先的に手配できるようにしておこう」
「ありがとうございます
それとお願いがあるのですが、ここでは手狭になっているのでどこかでプラントを作れないでしょうか?」
「プラント?」
「はい、工業プラントです! 実用化に当たりちょっと大きめの物を作りたいのです」
「ここでは難しいってことか」
「はい、実験設備としては問題ないのですが、量産化前提となればこちらでは問題があります」
確かに基地として整備したエリアは十分広いが、そもそも大型の工業プラントを作ることは想定していない。
民間人を基地に入れる訳にはいかないし、工業プラントを作るのは理に適っている。
「判った、検討してみよう、プランはあるのか?」
「コンラート名誉大尉と打ち合わせを行っていまして、基本計画は設立しております」
用意万端だった。そりゃそうか。イーリスが何も手を打っていない訳がない。
(イーリス これも俺が承認したという実績なのか?)
[はい、艦長]
(判った… こういうのは後いくつくらいある?)
[全部で十件です、今日の視察はすべてそうですよ]
(なんだって!?)
それなら先に言ってくれよと思わないでもないが、その言葉は飲み込んだ。
「判った、プランを転送してくれ」
ナノムを通じて資料が共有されAR視覚に反映される。
思ったより大規模な施設だった。ほぼ基地と同等の広さがある。
その中にかなり立派な高さのある塔があった。
「ふむ、これか」
「はい、中央が製鉄の為の高炉です
隣はコークス炉で燃料のコークスを作成します」
「これだけの規模の物を今の鍛冶屋で作れるのか?」
以前にガンツで作った蒸留器と比べて格段に大きく複雑だ。
この星の技術で作るのは骨が折れそうに見える。
「はい、そこは一部航宙軍のメンバーや汎用ボットを利用する必要がありますが可能です
建築シミュレーションを転送します」
構築の様子が短い動画にまとめられていた。
中身は良く検討されていて、指摘点はなさそうに見える。
「人員を現状のままとして稼働まで十八カ月だったか?」
「はい」
「よし、許可するので増員を計画して最優先で進めて欲しい」
「承知しました」
「以上だ」
◇◇◇◇◇
「ここでは何を研究している?」
「魔道機関車の開発を進めています」
「え!?」
魔道機関車って何だよ。魔道に意味があるのか?
(イーリス、聞いていないぞ!)
[艦長がセシリアの対応をしていた時でしたので詳細までは報告しておりません]
シレっと返された。まあ確かに報告を受けていていても仕方ないとは思うので受け入れる。
仕方ないので内容を技官に確認していく。
「大まかな構造は?」
「風の魔法陣を利用して圧縮空気を作り、それをシリンダーで回転運動にして、動輪を動かします」
原理は大昔の地球でも使われていた蒸気機関車じゃないか。
なるほど、蒸気の代わりに風の魔法陣を使う予定なのか。
しかし単純な構造の分だけ、現在の技術でも可能だろうと納得した。
「魔道機関車はどう使う予定だ?」
「はい、まずは鉱山と生産拠点の間の鉱石輸送に使えないかと考えています
これには鉄道の敷設も予定しています
しかしレールを作るためには製鉄所が必要で、製鉄所の為に鉄道も必要と堂々巡りです」
「鉱山の近くで小さめの製鉄所と工作所を作れば良いんじゃないか?」
「そうね、それは良い案だわ」と、セリーナが同意する。
「そうですね、確かにそれなら解決できます」
「可能そうか?」
「各チームと調整してみますが、試作を兼ねて作成できると思います」
「頼むぞ、あと機関車は試作しているのか?」
「実験用の物だけ作ってみましたが、実走する物ではありません」
試作品があればちょっと見てみたかったのだが、残念だ。
「それと大型の物は加工機械が無いのでまだ作れていません」
そうだろうな。設計はイーリスで可能でも、実際にモノを作るのは鍛冶屋たちだ。
大型の物を作るにはそれなりのノウハウが必要だ。
「判った、加工機械についても優先してくれ
今はリソースも限られているので、なるべく共通で使えるように規格して欲しい」
「はっ!」
(イーリス 夜にプラントの設置場所と鉄道の軌道について検討するので、その時に報告してくれ)
[艦長、了解です]
(それとまだ鉱山はボットだけで操業しているのだろう?)
[はい、消費が領地内の鍛冶屋だけなのでまとめて掘削してあります」
(そうか、ならそろそろ鉱山の運用も見直すタイミングだな 旧セシリオ領からも積極的に人を受け入れよう)
[了解です、住民による採掘に切り替えていきます]
(ああ、よろしく頼む)
「以上でいいか?」
「もう一点あります」
「何だ?」
「実は機関車の小型化も考えております、魔道馬車です」
「自動車か…」
「はい、機関車の仕組みを小型化できれば小回りが利きそうだと考えております」
「いい考えだ、どうせそちらを進めるにも人が足りないというのだろう?」
「はっ、その通りです」
「判った、検討しておこう」
続いて次の視察先に移動する。
「ここは何の研究だ?」
「はい、発電用のタービンを中心に実用化をしています
最終的には発電所の建設を視野に入れています」
流石にもう驚ないぞ。
「発電方式はどうするんだ?」
「コンラート名誉大尉の知識をベースに検討しました
まず水力発電ですが、魔の大樹海には適当な水源が無いので諦めました
火力発電は火の魔法陣で水を沸かせて水蒸気でタービンを回すのは可能と考えました
しかし蒸気の取り回しなど構造がすこし複雑になります
その為、現在は風の魔法陣でタービンを回す風力発電を考えています」
現在の技術を考えればこれ以上は望めないだろう。
リアクターがあればと思わなくもないが、無いものねだりだ。
「なるほど、それならシンプルに作れそうだな」
「はい、ただ魔石から電気に変換する効率を考えると火力の方が良さそうなのですが…
それとブレード側に魔法陣をつけるか、外側に魔法陣をつけ送風するか研究中です」
「そうだな、電気は早急に普及しておきたいし、量産しやすい方向で考えてくれ」
「承知しました」
「それと将来天然ガスや石油・石炭が安定的に採掘できれば使えるようになる
そうすれば火力発電も視野に入るから、研究は続けてくれ」
「はっ! 承知しました」
「それでこれも工業プラントに設置するのか?」
「はい、他の研究チームと共に先ずは工業プラント内に送電網を構築しようと考えています」
「判った、期待している」
視察の結果は上々だった。
うまくいけば数年で産業革命を起こせるだろう。
正直帝国の世界から見ればおままごと以下であるが、産業改革が実感できる視察となった。
マンガ版が更新されましたね。続いていくのは嬉しいです。
あちらでは一気にテクノロジーが解放されましたが、こちらはまだ産業革命前夜です。(笑)
評価、誤字脱字報告、御指摘、感想、何時もありがとうございます。
週一日曜日更新予定です。