夕食は楽しい時間だった。
五人で旅してガンツに来た頃の思い出話なのだから、楽しくないはずがない。
昼間のショックも少し和らぎ思い出話に終止した。
そして夕食後、アランが約束の話をぽつりぽつり話し出してくれた。不安になる。
「さてどこから話そうか、リア何時か俺が何故この大陸に来たか言った事は覚えているかい?」
「遠くから船で来たけど壊れて帰れなくなった事?」
もちろんそんな大事なこと忘れるわけがないわ。
「あぁ、そうだ 船が壊れて俺は一人で投げ出されたんだ」
「投げ出された時乗ってきた小舟は岸にたどり着く前に早々に沈んでしまうしさ、散々な目にあったよ」
「何とか岸に泳ぎ着いた後、最初に遭遇した知的生命体がゴブリンだったのは辛かった」
「話も通じず襲われたときはてっきり『俺は恐らくはこのまま、この世界でたった一人で生きて死んでゆく』なんて思ったりもした」
「アラン、その気持ちはわかります」
「そうそう、最初にあったのがアレだと絶望ですね」
私達はゴブリンは物心がついた時から知っているけれども、セリーナもシャロンも同じ感想ならアランたちの故郷には居なかったのだろうということは理解した。
そしてそれは心を少しチクッとする。
「その時俺は誰とも連絡を取る手段がなかったし、船は沈んで誰も生き残ってないと思ってたからね
しかし未知の世界で冒険できるんじゃないかとワクワクもしてたんだ」
「……ワクワクってアランらしいわ」
確かにそう。無邪気なアランを思い出して納得する。
「そして彷徨ったあげくに轍を見つけ、それを追っかけると襲われているリアに出会ったんだ、その後はリアも知っている通りだ」
「狩りをして、久しぶりに剣を振るって、まさかの魔法は衝撃的だった ワクワクした毎日だった」
魔法を見た時のアランはほんとにビックリしてたわ。
あっという間に習得したのも信じられなかった。
そして剣の腕前は更にびっくりするしか無かった。
「魔法は本当に驚きました」
「アランが剣を使えたことにもびっくりですけどね」
二人の言葉がやはり違う国から来たのだと、念押ししてくる。
「そしてセリーナとシャロンが俺を探してくれたお陰で、支援者と連絡が取れた
船は壊れて動けなくなったけど沈んでない事、
この街を作ったゴーレムが使える事、
それが分かったのでクレリアに国を興すと言うことが出来たんだ」
「……あれほどのゴーレムとか普通に使えるアランの国は一体どれほどなのか、想像もつかないわ」
本当にそうなのだ、昼間見たゴーレムは恐ろしいほどスムースに動いていた。
それが当たり前の世界などどれほど想像しても及ばない。
「あの時は事後の話で本当にすまなかった、さすがにこのことは当時言えなかったからね」
あの時のアランの言葉は忘れていない。
忘れる訳はない。私はこの先の人生を二人で進むことを同意したのだから。
そしてアランは約束通り領地を開拓して、一つ目の条件をクリアした。
この後二つ目の条件に向かうにあたりアランがその後何も言ってくれないのが寂しいのを自覚した。
彼の性格からするとそれも不思議ではないけど、だけどやはり言葉が欲しい。
「アランの事だからって納得してたけど、どうやって連絡ができるの……とは聞かないわ」
「いや、それも打ち明ける話だ
リア達の言うアーティファクトみたいなものだと思ってくれればいい
ギルドでも遠距離に連絡を取る手段があるだろ? あれがもっと凄くなったようなものだ
文字ではなく会話ができる」
それは今日何度目かの言葉を失うほどの衝撃だった。
遠距離で会話できるアーティファクト!?
そんなの理解できるわけがない。
だけどアランたちの仕草を思い出すと納得できる場面は沢山あった。
「……まさか本当に? ……でもそう言われると思い当たる節があるわ
三人とも時々宙を見つめて黙る癖があるのはそういうことだったのね」
「あぁ、俺たちの故郷では遠距離で連絡する手段は普通に使われているものだからね」
何という……世界。
「例えば王都で救出していた時に何故あのタイミングでグローリアが来たと思う?」
「ああ、そういわれれば確かに 緊張のせいか気づいていませんでした」とエルナ。
「上空で待機していたグローリアに連絡して姿を現してもらったんだ」
「ということはグローリアにも連絡できるのね」
「あぁ、クレリアと同じく死にそうな怪我だったのでナノ……精霊の力を借りて治療したからね」
「そうやっぱり、グローリアと会話ができるというのは精霊の力なのね」
それならなぜ私は出来ないのだろう?
「そうだ、さすがにドラゴンは人間とかなり違ったので意思疎通して会話できるようになるには一晩以上かかったのだけどね」
「アランの事だからってみんな妙に納得しちゃってたわね
私は精霊の力なのではって思ってたけど」
あの時アランははぐらかしたけど、深く考えもしなかった事が今は重く感じる。
「……はっ それではもしかして精霊様もアランたちの力なのでは……」
「そうだ、目に見えないほどものすごく小さなゴーレムが沢山集まって動いてると思ってもらっていい
リアも命を助けるために精霊の力を急いで借りたんだけど、そうしなければ出血多量か、もしくは傷からの感染症で死んでしまう怪我だった」
確かに今でもあの時死ぬ間際に見ている夢じゃないかと疑うこともあるくらいだもの。
「……そうね、死ななかったのは本当に奇跡だったわ
そのうえ喰いちぎられた手足が元に戻るなんて考えられなかった
足が治りかけた時私は頭がおかしくなったのかと思うほどだったわ……」
「え! リア様 まさかそんな! 深手とは聞いてましたが手足が喰いぎられるほどだったのですか…………」
エルナが驚愕の表情を浮かべていたので申し訳なく思う。
「そう、アンテス団長たちとグレイハウンドに襲われたとき、防具を外していた私は手足を食いちぎられたの
それで意識を失ったのだけどそのときにアランに助けて貰ったわ
思えば防具を外していなければ喉を喰いちぎられて死んでたかもしれない」
「……そんな事が……」
「ああ、俺が駆け付けた時にはアンテス団長は喉を食いちぎられてもう助けようがなかった」
思い返すようにアランとの話を続ける。
「そしてアランが皆を埋葬してくれて、義足を作ってくれて旅を続けれたよ」
「言葉がわからなかったから意思疎通が大変だったよなぁ」
トイレのために義足を作ってくれたのだって覚えてる。
そしてあの食事も衝撃的だったわ。
そんな人が逃避行に付き合ってくれるとか信じられなかった。
「あの時は追われている私をアランが助けてくれるか、とても不安だったわ」
「俺としては困っているリアを助ける以外の選択はなかったけどね」
「かわいい女の子だったからじゃないんですか?」
セリーナ、彼はそんな人でないもの。困った人なら助けてるわ。
「いや、最初見たたときは血まみれで泥だらけだったし分からなかったよ
水浴びしてから初めてこんな美人だったって気付いたんだけどな」
その言葉はすこし恥ずかしい。
アランは見た目で選ぶ人でないのはよく知っているけどやはり嬉しい。
「アランが水浴びするとか言い始めたときは、本当に恥ずかしかったのよ」
「手足の回復まで潜めるいい具合の洞窟を拠点にできて魔法と言葉を教えてもらったんだよな」
「手足の回復は奇跡の業だからエルナにもおいそれと話せなかったの
それに皆に余分な心配をかけたくなかったから……すまない」
エルナ、ほんとうにすまない。
アランとの秘密にしたかったのと合わせてどうしても話せなかったの。
「いえリア様、配慮ありがとうございます」
「これで私がいかにアランを信用し信頼していたかわかるでしょ?」
「……それほどの事であればゴタニアで再会した時にあの態度だったのは納得です……」
「だから私はアランには大変な恩があり、女神に誓ったのだ
『必ず返さなければならない恩義が、アランにあることを』」
「……ああ、リア様 そこまでなのですね……」
あの時の想いが溢れ出す、そうそこまで私は救われたの。
「ねぇアラン 私もグローリアのように精霊の力を借りて会話できるようになるの?」
私はアランに近づきたいのだ。
「リア、君の中の精霊は正規の手順を踏んでいないためできることは限られている
せいぜい前より体は丈夫になったくらいだろう」
「……風邪もひかなくなったのは不思議だったけど、そういうことなのね」
「ああそういうことさ
今は無理だけどいずれリアにその事を確認する日は来るかもしれない」
「そうなのね、その時が来るといいな」
今はまだその時でないと拒絶されるのは辛い。
そして心の底にある想いが溢れ出して口に出ていた。
「……アラン 私は怖くて言えなかったことがあるの
あなたは女神ルミナス様の使徒様なのではないのですか?
精霊様といい、ドラゴンと会話できることといい、この街づくりといい、普通の人間にできる範疇を遥かに超えているわ」
「まさか それは断じて違う、俺は普通の人間だよ
この世界と少し違う魔法がなくて科学があるところで生まれただけだ、リアと同じ人間には変わりない」
「カガク……それがアランの力の秘密なのね」
それでも溢れ出す不安が止まらない。
「…………しかしそれでも不安なの」
「…………私は果たしてアランにその恩を返せるのか」
今にも泣きだしそうになりながら止まらない。
「…………ある日アランの国から大きな船がたどり着き『迎えに来たよ』と言われふっと居なくなるかも知れない」
「…………これだけの力があれば私など必要ないのではないか」
「…………私を見限ることがあるんじゃないかと思うこともある」
「…………大抵の事でアランを害することはできないのは分かっているけど死ぬんじゃないかと思うこともある」
「…………そんなはずはないのにどれも絶対ということはないのよ」
「…………時折どうしてもそんな不安が頭をかすめるの」
想いが止まらなくなり泣いてしまう。
するとアランが何時か泣いた時のように、再び頭をなでてくれた。
子供扱いしてほしくないのに何故か少し心が軽くなる。
「大丈夫だ、居なくならないさ たった一年にもならないけどもうこの世界が俺の居場所だ」
……ええ知っているもの。
「前にも言ったろ? 俺達は絶対に元の世界に帰れない。もちろんその可能性は検討したよ
……生きているうちに迎えが来る可能性は限りなくゼロに近い確率だった……」
「それにリアがいたから目標ができたんだ」
「その目標に向かって一歩目の貴族になれて、この領地の開拓が二歩目だ
この後開拓の成功を認めてもらって辺境伯になって
ベルタ王国を手に入れて、セシリオ王国、アロイス王国と広げていく」
「アロイス王国を手に入れたらリアはスタヴェーク王国の女王になるんだろ
リアと約束した目標を叶えるまでに俺が居なくなるわけないじゃないか」
「そうね、そうよね、ごめんなさい」
アランの負担になりたくないのに。
アランの迷惑をかけてくないのに。
哀しくて嬉しくて恥ずかしくつらくて涙が止まらない。
そうしてしばらくして少し落ち着き出した頃、突然シャロンか口にした一言で。
「ところでアラン、この街はなんて名前なの?」
「へ? そういや考えてなかったなぁ」
「え? 信じられない!!!」思わず声が出た!
「はぁ、まったくアランは…………」
「そんな大事なことをどうして!」
「よくそれで今まで…………」
「俺はわかればいいから明後日までに君たちで決めてくれていいよ」
そういえばパーティー組むときもそうだった。
タースとシラーを買った時もそうだった。
アランは名前には無頓着なのだった事を。
「あ、ただしシャイニングスターとかコリントは無しだ、ややこしくなるから」
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