話は候補のドラゴンに会った所まで遡る。
(このあたりが縄張りのはずだよな?)
魔の大樹海から北にドラゴンの速度で一日以上飛んだ場所だった。
眼下には大樹海ほどではないが森林が広がっている。
ところどころに草原もあるが、魔物は魔の大樹海ほどは居なさそうだ。
[はい、その辺りが観測した縄張りの中心です 縄張りを巡回しているのかもしれません]
(分かった グローリアはどうだ?)
(そうですね、つい最近マーキングしているのは感じます ただ本人がどこかまでは判らないです)
なるほどマーキングがあるのか。でもまぁ縄張りを持つ生物なら普通にありえる話であった。
一般的には尿でマーキングすることが多いので、ドラゴンがしているところを想像したら可笑しくなった。
しかしこの星であるなら案外魔法でマーキングしているのかも知れない。後で研究しておこう。
[隊長 六時方向にドラゴンと思わしきものを感知しました 距離は二十キロメートルです]
ディー・テンのレーダーが感知したようで、報告が入る。
自分でも確認したかったが、流石にこの距離では探知魔法の範囲外だ。
[艦長 反時計回りで縄張りの外縁を周回していると思われます]
情報を分析したイーリスから進路情報が視覚投影され、最短で接触できるルートが示される。
かなり離れているがドラゴンであれば十分もしないうちに遭遇するだろう。
(よし、向かってみるか グローリア行こう)
ドラゴンにコンタクトを取るべく近寄っていく。
警戒心の強いドラゴンに無事コンタクトできるかは不安もあるが、グローリアは久しぶりに会う同族にワクワクしているようだ。
暫く進んだところでドラゴンを視認し、近寄ったところでまずグローリアが声を掛ける。
「あのーちょっといいですか?」
「なんだお前は? それになんだこいつらは」
コンタクトしたオスのドラゴンがガウガウ吠えている。
ディー・テンを通した同時通訳システムは無事機能しているようだ。
ドラゴンの声に合わせて翻訳された音声が重なって聞こえてくる。
「一族の族長――人間のアラン――と、一族の仲間です」
ドラゴンと人間が一人、得体のしれない鳥も見えるドローンが十機だ。
さぞかし不思議な組み合わせに見えただろう。
グローリアの話を引き取って会話を始める。
「俺はアラン、族長だ! ドラゴンの言葉は喋れないのでこのディー・テンに話してもらっている
我々は彼女の伴侶を探して旅をしているのだ」
ディー・テンからドラゴンの声が聞こえる。
説明が面倒なので、設定上旅をしていることにしてある。
「伴侶? 人間が族長の一族など聞いたことがないことを受け入れられるか それにドラゴンの言葉を喋るその変な鳥は何だ!」
思いのほか口が悪いな。明らかに警戒しており、友好的な雰囲気ではない。
ここまで敵対的なのは想定していたシナリオの方でも悪い方であった。
「仲間だと言っただろ、我々はずっと南の方に住んでいる者だ
彼女はドラゴン一族の最後の生き残りでな、縁が合って俺が族長になっている
その為に彼女の伴侶を選ぶ責任があるんだ」
「族長と名乗るのであれば、お前がドラゴンに決闘でもして勝ったというのか?」
馬鹿にしたような口調で翻訳されたが、恐らく間違っていないと肌で判る。
イーリスが凝りまくって作った翻訳システムはなかなか凄い。
「ああ、別なはぐれドラゴンに襲われていた彼女を助けたのだよ」
「何を訳の分からない事を言っているのだ! 人間ごとに負けるドラゴンが居るはずはない!」
「普通ならそうだろう、手強かったが俺ほどではなかったぞ」
正確には止めを刺したのはドローンだったのだが、正直に言う話でもないからここは押し通す。
「嘘をつけ!」
「本当ですよ! 族長はものすごく強いんです」
「そんな訳あるか! お前は騙されているんだ」
グローリアの言葉にも取りつく島は無い。
本当に人(ドラゴン)の話を聞かないやつだ。
(ドラゴンはこんなに話を聞かないやつばかりなのか?)
(そんなことは無いと思うのですけど…)
グローリアが困惑したように答える。
(ま、グローリアに言っても仕方ないが、どうする? コイツは諦めて別な奴を探してもいいのだぞ?)
(私としては全然嫌じゃ無いです)
どうやらグローリアの好みだったらしい。
変換された声もどことなく弾んだ感じで聞こえている。
(…判った、もう少し説得してみよう)
「何黙っているんだ! さては図星だな!」
「ああ、ちょっと内輪で話をしていただけだよ、ドラゴンの言葉では無いからそっちに聞こえなかっただけだ」
「どうせ騙して族長に収まっているんだろう? その娘を開放しろ!
そんな訳無いと言うのならお前が族長の実力を示せ! そうしたら話を聞いてやろう!」
流石に今の言い方はカチンときた。実力行使は最後の手段だったのだが仕方がない。
「穏便に進めたかったのだが、そっちがそう来るならやってやろう
お前が無様な姿を晒すなら伴侶として不適格だから、この話は無かったことにするからな」
「お前こそ、ここで死んでも知らんぞ」
「決闘の作法について教えろ、その条件で相手をしてやろう」
「人間ごときが生意気な口の利き方をする」
「ドラゴンの作法で負けたら言い訳が出来ないから、ビビったのか?」
「何を貴様! 良かろう、受けてやろうじゃないか」
安い挑発だと我ながら苦笑しそうだったが、こんなに挑発に弱い奴で良いのか? グローリアよ…
「それでどうすればいいんだ?」
「一対一で勝負すること、噛みつきなど物理攻撃はしない事だ」
なるほど、以前は片目のドラゴンとグローリアが決闘した時に何かあるなと思ったのはこれだな。
肉弾戦に持ち込んだ時点で決闘のルールを破っていたのだ。
「つまり魔法で勝負するって事だな?」
意外とルールらしいルールは無かった。分かり易くていい。
「ああそうだ、それに命まで取らないのがルールだ、手加減してやろう
もっとも手加減しても人間ごと気消し飛びそうだが、そうなっても恨むなよ」
「それはこちらのセリフだ」
「空も飛べない人間に勝ち目はあるか!」
相手からすれば小さな人間ごと気に何が出来る?と言う驕りだろう。
空対地だと確かに空が有利ではあるが、とは言え魔法勝負であれば対空攻撃は可能なのでどうとでもなる。
「お前の羽を焼いて地上に叩き落せばいいだけさ ああ、無様に地上に落ちても負けを認めてもらおうか、どうだ?」
「構わんぞ! そんなことはあり得ないからな!」
これで無駄に命に係わる怪我をさせずに決着をつけることが出来そうだ。
上手く飛べなくなるまで追い込めばいいので勝算はありそうだ。
「では俺が地上に降り、お前が一旦離れて向かって来た所から勝負としようじゃないか」
「よし受けてやろう!」
「そこのディー・テンが審判だ、手出しはしないから安心しろ」
「ふん!」
「グローリア、地上に降ろしてくれ」
「族長、気を付けてくださいね」
「ああ、任せておけ」
降ろしてもらった場所は足首までの草原だ。走るのに支障はない。
ところどころ岩がそびえたっており、まばらに背が高い木が生えている。
上手く地形を利用すれば十分有利に進められるだろう。
「では勝負を始めます!」
ディー・テンの合図でドラゴンが離れていく。
お互いに距離を取り、向かい合ったところから勝負開始となった。
物凄い咆哮が聞こえたかと思うと、いきなりファイヤーグレネードが飛んできた。
舐めているだろう。遠距離の攻撃などは余裕でかわせるというのに。
岩を盾にして爆風を避けながらナノムに指示をする。
(ナノム、指示がなくても魔力が減っている場合、魔石を握ったら魔力を補給してくれ)
[了解]
これで魔力の件は解決できる。
数年ぶりのドラゴンとの勝負にワクワクしている自分を落ち着かせながら、さて、どうやって叩き落してやろうかと思案を始めた。
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