伴侶候補のドラゴンはグレネードを乱射してくる。やる気満々過ぎるだろ。
ひとまず距離を取り、岩陰に隠れてやり過ごす。今はまだ余裕でかわしているが、このまま続けられると何れジリ貧になりそうだ。
ある程度距離が近づいたところで反撃するつもりではあるが、流石に一方的に撃たれまくるのはマズイ。
牽制を兼ねて二発ほどホーミング・グレネードを撃ち返してみる。
相手は追尾型だと途中で気付いたようで、上手く旋回して回避された。
外れたグレネードが別な場所で派手に爆発する。
偉そうに言っていたが、今の動きを見ると口だけでなく実力もそれなりにありそうだった。
[艦長 危険です距離を取ってください]
作戦を察知したのかイーリスが心配げに話しかけてくる。
(大丈夫さ、まあ 見ていてくれ)
相手は回避後に体勢を整えると再びグレネードを放ってきた。
それにしても手加減すると言いながらファイアーボールでなく、ファイアーグレネード一択かよ。
随分とやってくれるじゃないか。
近くに着弾した爆風に紛れて岩陰に隠れる。ドラゴンはそれ程正確に感知できないようで、一気にグレネードの精度が落ちた。
(探知魔法と言うほどの精度は無いと思って良さそうだな)
[着弾範囲のばらつきを見ると感知できるのはおおよそ半径十メートル程度と推測します
しかしグレネードだと爆風範囲が広いので十分に脅威になります]
(オーケー、それだけ分かれば十分だ)
ついでにナノムにも指示をする。
「ナノム 探知魔法で検知したグレネードで爆風が危険範囲に入るものはマークしてくれ、相殺する」
[了解]
相手の様子を見るために、タイミングを計ってコンビネーションで魔法を撃つ。
最初に右側から三発、少し遅らせて左側から追尾で二発だ。右側をかわせば左側の追尾が狙う二段構えだった。
予想通りに左旋回で回避した後、迫ってくる次のグレネードに気づき、ぎょっとしたように急回避を行う。
直撃は避けたがだいぶ慌てたようで、かなり体勢を崩しているのが見て取れた。よしこの方法は有効そうだ。
相手はこちらを攻撃する余裕は無い。それどころか位置を確認するのも難しそうだったので、この隙に隠れている場所を移動する。
何とか体勢を取り直したドラゴンだったがやはりこちらを見失ったようで、上空を旋回し始めた。
動きを見る限りやはり探知能力は高くないようだが、手当たり次第にグレネードを乱射してくるのが厄介だ。
暫くは魔法を撃ち合い何度か攻守が入れ替わる中、左右を入れ替えながら同じようにコンビネーション攻撃を行う。
しかし相手も慣れてきたようでスムースにスラロームでかわす様になってきた。
回避のパターンが把握出来たところでそろそろ仕留めに掛かろうとした矢先だった。
運悪く相殺していないグレネードが近くの岩を直撃し破片が飛んで来た。
それを避けるために俺は草原の真ん中に転がり出ざるを得なかったのだ。
そして冒頭に戻る。
[艦長 危険ですディー・テンで支援します]
何度目かのイーリスの要請に首を横に振る。AIなのにだんだんと切羽詰まってきている気持ちがする。
(とにかく、ディー・テンの支援は最後の手段だ グローリアの婿候補だぞ、傷つけるのは駄目だ)
まあ、傷を付けないと言う方針は最終的には守られなかったのだが…
[…了解です]
相手から丸見えのこの状況は非常にまずい。格好の標的になってしまう。
「どうした? 降参するなら今だぞ? 怪我をしないうちに降参しろ!」
上空から勝ち誇りながらグレネードを乱射してくる。
こんちくしょう。好き放題撃ちやがって!
幾つかのグレネードを相殺して回避してもう一度岩陰に逃げ込もうとする。
しかしドラゴンも上手にグレネードを配置しているので、徐々に岩場から引き剥がされていた。
思ったより戦い慣れていて、計算できる奴だと認識を検める。
「くそ、思ったよりやるな」
仕方ない。グレネードでの相殺を最小限にして、加速で回避する方向に方針を転換した。
加速して治癒魔法を使うこのやり方は、体の負担が高く魔力消費するので燃費が悪い。
短期決戦を狙うしかなくなるので、なるべく避けたかったが今はそんなことは言っていられない。
平原に出てしまったら幾ら加速が早くとも上空からは丸見えだからだ。
数度の加速を行った後ようやく身を隠せる岩の近くにまで戻ることが出来た。
「ちっ!」
上空で舌打ちしているのがはっきりと分かった。
平原に居るうちに決着を着けたかったのだろう。俺でもそうする。
再度岩場に隠れることが出来た俺は、焦っているだろう相手にそろそろ勝負に出ることにした。
新しい魔石を手に取り魔力を補充し、ここを勝負所だと一気に集中力を高める。
先ずは今までと同じように右に三発グレネードを発射し、続いて左に二発だ。
ドラゴンは慣れた風に高速スラロームしながら回避する。
が、ここからが今まで見せていなかった手で、その鼻先を目掛け高速のライトアローを五発同時に発射した。
突然変わった攻撃パターンに焦ってもう一度回避を試みるが、前方に扇方に広がったライトアローはかわせない。
二発が命中し、そのショックで一瞬体が固まったのか飛行速度が落ちた。
そこにライトアローを追いかけるように発射したグレネード二発が見事に命中、胸元に当たったために動きが鈍くなる。
最後に放っていたウィンド・カッターを避けようとしたが、かわし切れずに翼を切り裂かれる。
そしてドラゴンは体勢を崩して意図せぬ失速急旋回に陥った。
運の悪いことにその先は大きな樹が立ちふさがっていた。
その巨大な躰は樹に激突した後、体勢を立て直せずに轟音を立てて地上に落下したのだった。
地上でもんどりを撃った後、数回転転がってようやく停止した。
◇◇◇◇◇
(なぁ、随分派手に落ちたが生きているかな?)
[ディー・テンのセンサーで見る限り、呼吸は荒いですが問題無さそうです]
(そうか、ドラゴン頑丈だな)
とは言えかなりの数の魔法を受け、翼は破れ火傷と裂傷により流血している箇所があり、見た目だけならなかなかの重症だ。
[外傷はありますが外部から確認できる様な骨折は無さそうです]
(判った、治療魔法で対応できるかな)
[もう少しスキャンを継続します]
(ああ、頼む まあ最悪はナノムで治療するさ)
イーリスと会話しながら落下したドラゴンに近づいていく。グローリアも心配しながら降下してくる。
顔の前に立つと、目が開いていない。どうやら気絶している様だ。
暫く待ってみたが起きそうにない。
「おい、起きろ!」
ディー・テンに近くに来て貰い大声で呼びかける。
グローリアも『起きてください』と声を掛けているが反応が無かった。
(死んで無いよな?)
[モニター上は変わりません]
(ふむ、もう少し待つか)
ただ待つだけでは仕方ないので治療魔法を行使していく。
ファイアーグレネードでもそれ程傷がついていないのは流石ドラゴンの鱗だ。
血の出ている傷を上半身から順に塞いでいく。
ライトアローの直撃した鱗は半分はがれて穴が開きかけていた。
ウィンド・カッターで飛膜が破れている翼が一番重症に見える。
こちらも同じように治癒魔法で止血していくが躰が大きいのでなかなか大変だ。
魔石数個を使いようやく見えている部分の止血が終わった。破れていた皮膜もなんとかくっつけて治療魔法を使う。
「グローリア 傷の治療はこんな物かな?」
「そうですね、ひとまず止血されたので、少し休めばまた飛べると思います」
「そうか、本当にドラゴンは丈夫だな」
そうしているうちに身動ぎを始めたので距離を取る。
目覚めた時に反射的に殴られても溜まらない。
「うぐ…一体…何が…」
「気が付いたか? お前は俺の魔法でダメージを受け、地上に落ちたのだよ」
「…何だと!! 何?…地上だと…」
朦朧とした意識の中で、さっきまで見下ろしていた俺に今は見降ろされている事に気づき、ようやく現状を認識し始めたようだ。
「俺の撃った魔法をかわし切れなかったのを覚えているか?」
「…落ちたのは覚えていないが…魔法をかわし切れず直撃を貰ったのか…」
「そうだ、そしてバランスを崩して樹にぶつかって落ちたんだよ、思い出してきたか?」
「…いいや、魔法をかわし切れなかったところまでしか覚えていない」
「何にせよ約束通りお前が地上に落ちた時点で勝負はついた、負けを認めろ」
「…そうか、俺は決闘に負けたのか…」
声に力がなく、かなり落ち込んでいそうな口ぶりに変換される。
実際の唸り声もはじめとは随分違うトーンだった。
「ああ、お前が地上に降りている時点で終わりだ」
「…クソっ!」
大きな声ではなかったが、もうひと暴れされるかと思ってさらに数歩下がる。
「……判った、負けを認める、油断したつもりはなかったがお前は強かった」
最初の態度からすると拍子抜けだった。
(思ったより素直に負けを認めたな)
(ええ、決闘に負けた時に悪あがきをするのはドラゴンのプライドにもとるので)
なるほど、そういえばグローリアもあっさり降伏のポーズをしていたっけ。
「この勝負、アラン族長の勝ちとします」
ディー・テンが決着を宣言した。
「よし俺はアランだ、お前の名前は?」
「ヴィアンツウェル…ヴィアンツウェルだ」
翻訳システム凄いな、固有名みたいな難しい発音も変換されている。
「よし、ヴィアンツウェルか、これでやっと話を進められる」
「とその前にけがの具合はどうだ? 目立つ傷は治療してあるが他にはないか?」
「まさか治療魔法が使えるのか… どうりで痛みが少ないと思った」
「ああ、致命傷は無いがそれなりに出血していたからな、意識が戻るまでに止血しておいた
他にもひどい痛みがあるなら治療するぞ」
暫く体を動かし確認した後で返答がある。
「いや、大丈夫そうだ 残りの痛みは戒めとしておく」
急に素直になって面食らうばかりだ。
「そうなのか? しかしこの後グローリアの伴侶になってもらわねばならん
最低限動けないと困るぞ?」
「それは大丈夫だ ドラゴンならこれくらいは動ける」
そうか、ドラゴンはなかなか強いな。
「そうか判った、改めて本題だがこの娘はグローリアと言ってな、年頃になったので伴侶を探している
本来であれば女性の側から探す話ではないのだが、我々の住んでいる辺りにはもう他のドラゴンは居なくてな
こうして伴侶探しの旅に出ている訳だ」
そう話し始めてようやく長い一日の終わりが見えそうな気がしてきた。
グローリアは伴侶候補が決まったためか隣でニコニコしている、
これでやっと族長の責務を果たせたと、胸を撫で下すのであった。
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