航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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168.侵攻前夜

 宙兵から通信が入り、懸念だった件について一区切りがあり解決したことが分かった。

 これでようやく前に進めるとニヤリとする。

 

「リア セシリオの統治と技術開発ができた、いよいよアロイスを攻める時が来たよ」

 

 この場にクレリアしかいないのが残念だった。

 

「アラン!本当に!? 待ちわびたわ!」

 

 クレリアが驚きの表情から、歓喜の表情に切り替わる。

 それはそうだろう、セシリオ王国を配下に収めて二年、クレリアが国を追われて七年になろうとしていた。

 少女が大人になりそして母になるほど、十分に長い時間が経過しているのだ。

 満を持してスターヴェーク奪還に動き始める時が来たのだから、喜び様は半端ではない。

 

「ああ、思ったよりもセシリオの掌握と侵攻の準備に時間がかかったけどね

 これからはアロイス攻略に取り掛かるようになる」

 

 時間がかかったのは、十二分に国内を掌握しておく必要があったからだ。何せアロイスに攻め込んだ後方で旧セシリオ勢力に内乱を起こされてはたまらない。

 それにアレスを建国しクレリアの身分を明かした後は、アロイスとの国境で緊張状態が続いていた。

 ライスター卿の言う通りアロイス王はそれ程賢明な選択肢を選ばず、親スターヴェーク派の弾圧を行い戦争に向けて兵力を増強していた。

 この為にこちら側も兵力を含め国境の守りを固めるためにも時間が必要だった。そして技術的な開発を行う時間である。

 

「これでいよいよ三つの目の約束が実現に近づくのね」

 

 クレリアは期待を胸に夢見心地で呟いていた。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 クレリアに打ち明けた翌日、主だった幹部を招集していた。勿論アロイス侵攻に向けた会議の為だ。

 

「ライスター宰相、アロイスに出す宣戦布告の準備をしてくれないか」

 

「アラン様、いよいよ始めますか?」

 

「ああ、満を持してだな、数日後辺りに使者を送り出したい」

 

「承知しました」

 

 恭しく頷く。

 

「クレリア王女、ダルシム近衛隊長、ロベルト、それにスターヴェークの皆、待たせたなすまない」

 

 敢えて昔の肩書で声を掛ける。

 

「セシリオを陥落してからがじれったかったかも知れないがよく待ってくれた」

 

「そう言われるとそうだったけど、アランが居なくてはここまで来られなかったわ 感謝しているわ、ありがとうアラン」

 

「まことにアラン様には感謝の言葉もありません」

 

 皆口々に感謝の言葉を掛けてくる。

 

「数日後に第一陣を出発させる」

 

「はっ!」

 

「残念だが子連れではいけないのでリアは居残りだ、ここに居て辺境伯領奪還後の施策を詰めてくれ」

 

 あからさまに不満げな表情だが

 

「……判ったわ、アラン だけどアロイスが落ちたら一番に駆け付けるわよ」

 

「ああ、承知した」

 

「アラン私は行くぞ!」そういったのはエルナだった。

 

「エルナ、悪いが君はダメだ、戦場どころか馬車や馬に乗る事は許せない」

 

「アラン そんな殺生な…」

 

「お腹に子供がいるのに前線など許可できるわけがないだろう?

 父親からも子供の為に是非止めて欲しいと嘆願が来ているぞ」

 

「せっかくのこのチャンス…逃すとか無念過ぎない!?」

 

「アラン様 このロベルト老骨ではありますが出撃いたしますぞ」

 

「ロベルト、貴方も駄目だ、リアやエルナ達と施策を考えてくれないか」

 

「そんなご無体な…」

 

 出陣を止められたロベルトやエルナ達の憤りが一通り収まるのを待つ。

 

 

「ここからは作戦の概要を説明しよう、疑問点や意見があれば都度声を掛けてくれ」

 

 皆が肯定するのを待って話を続ける。

 

「先ずはルドヴィーク辺境伯領だった地域に進攻する予定だ

 ここは帝国第一軍と元セシリオ兵が中心になる」

 

「アラン それは駄目だ! ロベルトやバルター達も納得しない」

 

 クレリアが早速反論する。言われる様にロベルトやバルターも納得しない顔をしていた。

 

「いいかい、リア 旧ルドヴィーク辺境伯軍の者たちがあそこで戦うと、元身内同志の戦いになる

 そしてそれは将来に禍根が残る可能性があるからこそ、第一軍と元セシリオ兵を選んだんだ」

 

「それはそうだけれども、それでもこれは自分達元スターヴェーク民の戦いだわ」

 

「心配しなくても、旧ルドヴィーク辺境伯軍には参戦してもらう

 元セシリオ兵は領地や領民を荒らす可能性もあるだろう?

 だから治安維持部隊と占領拠点の警備としてアロイス侵攻軍を配置するつもりだ」

 

 アロイス侵攻軍とはスターヴェーク奪還に向け、第二軍を元に志願したセシリオ兵で構成された兵団だ。

 

「そうなのね」

 

「ああ、全軍で進撃するが、先ず第一軍が前面に立ち、続いて元セシリオ兵だ

 その次にアロイス侵攻軍に加え、旧ルドヴィーク辺境伯軍と旧スターヴェーク近衛で続く」

 

 勿論それだけではない。

 

「帝国宙兵の部隊も遊撃として参加させる 人数が多くないので戦力としては限られるが一騎当千の者達だから心配は要らないだろう

 アレス国の全兵力でアロイス戦に突入する!」

 

「おぉぉ!」

「流石はアラン様だ!」

「アレス国万歳!」

「スターヴェーク万歳!」

 

「恐らくだがアロイス王の考えでは旧ルドヴィークや旧スターヴェークの民を使い潰すつもりで前線に兵として送り込んでくるだろう

 実態として司令官や隊長クラスまでをアロイスに忠誠を誓っている者で固めているだろう

 そして下っ端の兵達には戦うように無理強いをしてくるはずだ」

 

「確かにそれは考えられます」とダルシムが答える。

 

「そこで元辺境伯軍と元近衛の出番で、前線の兵たちに反逆を起こすように説得するわけだ

 スターヴェークを取り戻す為に、投降し我々に合流するように!と声を掛ける

 既にレジスタンスとしても組織は構築を終えているから開戦と同時に兵の一部は反乱を起こす手筈だ

 そうすれば少なくとも前線は浮足立つし、隊長などは兵を動かしにくくなる

 部下たちが何時裏切っても不思議じゃないからな、そこを正面から全力で叩く」

 

 全力で叩くことで短期決戦を狙うのだった。

 

「次いでグローリアだ、彼女には前線の上空で飛行して貰うことにしている

 これだけでもアロイス軍はかなり混乱するだろう

 そうなればアロイス軍に居るスターヴェークの者達の被害を少なくし、結果的に元スターヴェークの民を救える可能性が高い」

 

 グローリアは子供も生まれて間もないので申し訳ないが、少しの間一族のメンバーで子守を行う事で話はついている。

 

「そして混乱したところに宙兵を投入し、混乱に乗じて指揮官を落とし指揮系統を潰す」

 

「セシリオの時の様に奇襲で城を落とすことなど出来ないからな

 アロイスとは本格的なり戦争になり、兵は消耗し土地は荒廃するかもしれないだろう」

 

 その為にも全力でアロイスを攻略することで、損害を減らそうとしている。実際にはそこまで簡単に進まないだろう。

 帝国軍のメンバーで戦いを無理強いする者たちだけを的確に排除することも織り込み済みだ。

 

「当たり前だが俺はなるべく人死には避けたいのだ」

 

「民を気に掛けてもらって感謝する、アラン」 クレリアが王女として言う。

 

「スターヴェークの為にそこまで気遣って頂き、このダルシム感謝の言葉もありません」

 

「何を言っているんだ、俺の目的は民を幸せにすることだからな、当たり前だろう」

 

 

「まだだ、これは始まりだから全部やり遂げてからな」

 

「ダルシム 国境に向けて出発する軍の最終編成を頼む」

 

「はっ! 畏まりました」

 

「アロイスにつながる街道は大きく三つだがアロイス側は中央を最も警戒しているだろう

 それでも主力はそこにぶつける、ただし足の速い部隊を残る二つの街道に割り当ててくれ

 中央の戦線を持ちこたえた上で、挟撃をする作戦だ」

 

「なるほど、承知しました」

 

「バルター 君は一足早く南方に向かいアンブレイズ辺境伯に後詰を依頼してくれ」

 

「承知いたしました」

 

「セリーナ 輸送軍は予定通り動かしてくれ」

 

「判っているわ、アラン」

 

 輸送軍は帝国建国後に構成した軍の一部隊で、「必要なものを」「必要な時に」「必要な量を」「必要な場所に」補給することを目的にしている。

 

 後方から前線まで速やかに物資を運搬するため、新たに開発した飛行船を優先的に割り当てた。

 飛行船は試作の後に、現時点では輸送船型を開発、先日ようやく数隻建造し運用に乗ったところだった。

 これにより、補給を伴って行軍する今までの戦闘とは一線を画すことになるだろうと予想している。

 

「シャロン 補給計画は?」

 

「問題ないわ、アラン 輸送軍と連携して常に物資を前線に送れるよう準備しているわ」

 

「頼むぞ」

 

「これよりスターヴェーク奪還作戦を開始する!」

 

 





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