「貴方がロートリゲン・アゴスティーニ国王か? お初にお目にかかるアラン・コリントだ」
剣を向けながら王座の王に挨拶を行った。このような初対面は滅多にないだろう。
アロイス王は王城の包囲と、城内への侵攻が早かったため、逃げ出すことも出来ていなかった。
王城の門を破られた後のアロイス軍はあっという間に総崩れとなり、苦も無く王の間に居たまま剣を突き付けられたのだ。
「何だと!馬鹿な!なぜそんな奴がここまで…」
「残念ながら本物ですよ」
何か前にもこんなやり取り会ったような気がする。
「王自らが軍を率いて相手の城まで侵攻して来るなど聞いたこともないわ!」
「では私が最初でしょう、光栄だな」
軽くおどけたポーズをとる。気に障ったのか忌々しい顔をされたがまあそうだろう。
「初対面かついきなりで申し訳ないが、貴方はこの場で拘束させていただく
処分はクレリアとの約定により彼女に任せることになっている
女王としての沙汰があるだろうから、この場で私から言う事は無い」
「くっ、クレリアが女王だと!…あの小娘!」
「おっと、我が妻にその様な言葉は慎んでもらいましょう」
剣をさらに喉元に突きつける。
「っ!」
「クレリアも王城の前の陣地に居るので、それ程経たずにこちらに現れるだろう
大人しくして少々待って貰えますかな?」
少し威圧しながら伝えたあと、同行していた宙兵に目で合図し王を捕縛させる。
その頃王城の尖塔からアロイスの旗が降ろされ、代わりにアレス国とスターヴェークの旗が掲げられた。
そして激しく鐘が打ち鳴らされた。それを見た兵士たちは抵抗を止め次々と投降していく。
やがて安全が確保された頃、クレリアが王の間までやって来た。
「アラン ここまで連れて来てくれて本当にありがとう この先は任せてもらえるかしら?」
「ああ、勿論だ 約束しただろ?」
クレリアの顔は緊張で難くなっていたので、少し軽く返事をする。
「本当に感謝するわ」
そうして振り返ったクレリアはアゴスティーニと初めて対峙した。
今の王は後ろ手に縛られ床に跪き、未来の女王は剣を相手の喉元に突き付けて。
「ロートリゲン・アゴスティーニ ようやく会えたぞ!
お前の事は忘れることは無かった」
普段のクレリアからは聞いたことのない冷たい声だった。
私欲に従ってスターヴェークを簒奪したのだ。
慈悲を与える必要はないと決断済みだった。
「お前がスターヴェークに行ったことは八つ裂きにしても足らぬくらい許しがたい
しかしわが夫コリント王は無駄な人死には好まぬ
許しを請うのであればお前の首だけで済まし、一族の物は家名と財産を取り上げるだけで許そう
自分の命が惜しいのなら、一族郎党の命と引き換えにお前の目を潰し無一文で追放するだけで済まそう
アゴスティーニの名が滅ぶのは絶対だが、どちらを選ぶ?」
悪魔のような選択にクレリアの怒りが伝わってくる。
敗者の命は常に勝者が握っていることを、クレリアは身をもって知っている。
ロートリゲン・アゴスティーニのせいで、父が、兄が、伯父が、さらには幼なじみまでもが命を落としたのだから。
クレリア態度に諦めきった表情でアゴスティーニ王は答える。
「勝者は好きにすればいい、儂はそうした」
「では、お前の大事な家族に選ばせるとしよう
妻と息子を連れて来てくれ」
やがて居住区で捕縛されていたロートリゲンの妻と息子二人が連れてこられた。
「初めましてだな、判っているとは思うが、私がクレリア・スターヴァインだ」
その名前を聞いた三人は一瞬ビクっとしたが、すぐに促されて王の隣に座り込んだ。
「先程ロートリゲンに話したが、お前たちの処遇はお前たちが選ぶことになった
選択肢は二つだ
一つはロートリゲンの首とアゴスティーニの名と全ての財産を引き換えに、お前たちは追放だけで生かされる
もう一つはお前たち一族の首を差し出す事でロートリゲンは生かされる
ただし目を潰され体一つで追放されるがな
敗北を認めて我が配下に降る選択肢は無い」
「クソがっ! 何を考えているのだ!! お前は何様だ!」
息子の一人が声を荒げる。あまりに激高したので剣を突き付けられて大人しくさせられた。
妻は下を向いて何やらぶつぶつ言っており、まともな反応は期待でき無さそうであった。
もう一人の息子が重い口を開いた。
「…それであれば考えるまでもない 父には申し訳ないが一族の命と個人の命では比べるべくもない」
父の方を向きながら申し訳なさそうに言うその言葉は弱々しかったがはっきり決断していた。
少しはまともな判断が出来る息子が居るのだなとちょっと感心する。
ロートリゲンは取り乱すでもなく、目を閉じその言葉を聞いていた。
「その選択でいいのだな?」
クレリアが念を押す。異を唱える者は居なかった。
「では、その選択を受け入れよう
ロートリゲンの処刑後にお前たちは解放されることをクレリア・スターヴァインが約束する」
その言葉に王の間は静まり返る。
決断を下した息子はその空気の中で必死に言葉を絞り出した。
「クレリア女王の配慮に感謝します」
硬い表情のまま頷いたクレリアは地下牢へ連れて行くよう宙兵に指示する。
「処刑の日時は追って連絡する」
連れ出された後に、王と一緒に拘束されていた重鎮たちは身も蓋もなく命乞いを始める。
「我々は助けてもらえないのでしょうか? なにとぞお願いします」
「我々が差し出せるものであれば喜んで差し出しますので、なにとぞ」
そんな彼らを見ながら冷たく突き放す。
「クレリアとの約定でこの国はクレリアに任せることになっていると言っただろう?
お前たちもクレリアが女王として裁くだろう」
「…そんな」
「恐らくはスターヴェーク簒奪の時に果たした役割次第だろうな」
スターヴェークが落とされた時の状況について、クレリアは以前から丹念に調査していた。
ベルタ王国で入手した貴族名鑑と、アロイスの商人や潜入した調査部隊で誰がどう関わったか調べはついていた。
「処分は決まっておる、反乱軍に参加した者は処刑になる
それ以外は関与の度合いで爵位の降格、剥奪、追放などそれぞれだ」
クレリアは無慈悲に言い放った。
「…なにとぞ考慮ください」
「これは決定事項である 往生際の悪い奴は重くしてもいいのだぞ?」
既にクレリアは女王としての風格と振る舞いでこの場を支配していた。
重鎮たちはそれ以上声も出せずに俯くしかなかった。
◇◇◇◇◇
数日の後、アランとクレリアは王城のバルコニーに姿を見せ、集まった民衆に向かって手を振っていた。
大歓声が聞こえる。そんな中アランは一歩前に進み出て一呼吸おいてから宣言を始めた。
「ここにアレス国国王アラン・コリントとしてスターヴェーク王国を簒奪者より奪還したことを宣言する!
そして新しい王として正統なる後継者クレリア・スターヴァイン・コリントが女王の座に相応しいことを保証しよう!」
芝居がかった大げさなセリフであるが、貴族の血は強いのだ。
クレリアが横に並び宣言する。
「アロイスに国を簒奪され私は耐え忍んできた
しかしコリント王の力により私-クレリア・スターヴァインはこうして帰ってきた!
アレス国の力を借りてではあるが再びスターヴェークの実権を取り返せた事はこの上ない僥倖だった!
アロイスに追われたことは不幸であったが、その際にコリント王に出会えた幸運に感謝する!
皆の者よ、これより女王として再びスターヴェークを復興することを目指すと宣言する!」
宣言と共に鐘の音が打ち鳴らされ、割れんばかりの大歓声が聞こえてくる。
こうしてスターヴェーク王国の新女王としてクレリアの戴冠が布告されたのであった。
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完結まで残り10話を切りました。もうしばらくお付き合いください。