航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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173.閑話:ロベルト・セリオ

「では、その覚悟に乾杯しようではないか。スターヴェークに!」

 

 あの時ベルタ王都でダルシムと交わした乾杯の言葉は忘れたことは無かった。

 わが生涯であれほど刺激的な夜は数えるほどもない。

 

 そのダルシムがまさかの見舞いに来ていた。

 

「お体の具合はいかがですか?」

 

「おお、まさか総司令官殿に来ていただけるとは、王都では無かったのか?」

 

「ルドヴィークの視察で回っております」

 

「お忙しいだろうに来てくれた事に感謝する、が……まあ見ての通り、そろそろお別れの様だ」

 

 ベッドの上に体を起こしてはいたが、流石に年齢による衰えは隠せず、今では寝たきりに近い状態だった。

 しかし目だけはまだ力を失っていなかった。

 

「こちらに来ておりましたので、お顔を拝見に参りました

 まだまだ元気でいてもらわないと…」

 

「何を言うか、アラン様のおかげで夢は全て叶った

 老骨に鞭うち十分働いたのだから、もう暇を貰う時期でいいだろう?」

 

「確かのスターヴェークの民をまとめ魔の大樹海の街(セレスティアル)に導けたのはロベルト様の働きがあったらからこそでした」

 

「そう自負しておるよ……今日はもう少し時間は取れるのか?」

 

「ええ、今日は休みの予定です 近日中に巡視にも出かけますし束の間の休暇ですよ」

 

「ではちょっと付き合って貰おうか、お主と会えるのも最後になるかも知れぬからな」

 

 そう言って近くの扉を開ける様に伝える。そこには樹海産の高級酒が入っていた。

 

「これは! お躰に障るのでは…」

 

「祝いの為にとっておいた酒だ 今飲まずに何時飲む…」

 

 ロベルトは嬉しそうな顔をしてグラスを差し出す。

 

「ではありがたくご相伴にあずからせていただきます」

 

「スターヴェークに」

 

銀河(スターヴェイク)に」

 

「「乾杯!」」

 

あのベルタ王国の夜以来の二人きりでの密かな酒宴であった。

 

「これはやはり素晴らしい酒だ、これもアラン様の成果だ…

 ……それにしても魔の大樹海、あそこに辿り着いた時にはわが目を疑ったものよ」

 

「確かにそうです、アラン様は規格外だと思っていましたが、あの時はさらに驚かされました」

 

 初めて見るドラゴン、樹海に忽然と姿を現す都市、見たこともない様式の街並み。

 あれも二度とない衝撃であった…

 

「まったく驚きすぎて寿命が縮むかと思ったぞ、まあ結果はこうして長生きさせて貰えたのだが…

 それにあの街を見る事が出来たがために、各地に散らばったルドヴィークの民を集めて回る旅も苦にならなかったのだ」

 

「すべてはアラン様のおかげですね」

 

「覚えておるか? お主がアラン様は使徒様ではないかと言われた時の儂の反応を」

 

「勿論覚えていますよ」

 

「あの時は何を言う!と思ったのだがな」

 

「今ではアラン様は使徒ではなく、コリント王と言う存在として皆に認知されていますからね」

 

「ルミナス教の信者としてはアラン様が使徒であってくれればな、とも思わないわけではないがな

 もうそれも関係ない事よ アラン様は素晴らしい結果を残された」

 

「常に我らに生きがいを与えてくださいました

 そしてクレリア様に約束したスターヴェークを取り戻されました」

 

「そうだな、それに姫様がアラン様との結婚を決めたのも嬉しかったぞ

 それを聞いた時の喜びよ」

 

「まさにそうですね、最初はスターヴェーク王国の為に身を差し出すのかと思ったこともありましたが…

 クレリア様はアラン様への好意を隠せておりませんでしたから」

 

 ロベルトは当時のクレリアを思い出し苦笑していた。

 

「ははは、その通りよな

 セリーナ様もシャロン様も姫様を受け入れてくれて感謝しかない」

 

 

「そして待望の御世継様も誕生した」

 

「再びこのルドヴィークの地に戻れたことには感謝しかない

 遠い異国の地で果てるかと思っていたが、この地に眠れるとは幸せだ」

 

 二人の話は尽きることが無かった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 スターヴェーク王国を再興してから半年がたっていた。

 復興はまだ道半ばであったが、王都は落ち着きを取り戻し始めていた。

 この後やらないといけないことについてクレリア達スターヴェーク関係者と会議の最中だった。

 

「失礼します! アラン様、クレリア様、至急のご連絡です ロベルト様のご容体が変わられたとの事です」

 

 側仕えから連絡を受ける。

 

「!? …判ったわ、向かいましょう、アラン」

 

「ああ」

 

 会議を切り上げ急ぎロベルトの元へと向かう。その数時間がもどかしかった。

 

「ロベルト、大丈夫か?」

 

 ベッドに横たわったロベルトは痩せてまさに命が尽きようとしていた。

 

「…ああ…姫様…いえ、クレリア女王様 …どうやらお別れのようです…

 このロベルト幸せでした…スターヴェーク王国の復興に…ルドヴィークを継ぐ御方の…顔も見られました…ありがとうございます」

 

「私の方こそ礼を言わねばなるまい、お前の献身は生涯忘れない」

 

「…勿体ないお言葉で…ございます

 …老醜を晒しながら…生き永らえた甲斐があったというものです…」

 

「そんな訳あるか、立派だったぞ! 私は果報者だ…大儀であった…」

 

 クレリアはロベルトの手を握りしめ、今までの労を労うように声を掛けた。

 

「…そして…アラン様、この老いぼれの夢を…叶えていただき…真にありがとうございまし…た…」

 

「ああ、約束を守れてよかったよ」

 

「姫様…一足先に…辺境伯様へ…報告を…しておき…ま…す…」

 

「ああ、頼んだぞ、ロベルト」

 

 ロベルトは静かに目を瞑りながら最後の言葉を口にする。

 

「…姫様が…アラン様に出会えたのは…まことに僥倖であった……ルミナス様に感謝を…」

 

 その言葉を聞きとれたものはクレリアただ一人であった。

 

 





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