航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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174.ベルタ王国1

「お久しぶりです アマド国王」

 

「コリント伯 いや今はアラン・コリント王だな 辺境伯任命以来だから七年ぶりか」

 

「そうですね、あの時はアマド国王に大変よくしていただきました」

 

「余はかなり残念なのだがな セシリオ王国との戦争を治めてくれたときは熱狂したのに

 いきなり建国し独立を宣言されたときには歯ぎしりして悔しくて寝られなかったぞ」

 

 ベルタ国王アマド・ベルティーは複雑な感情を吐露していた。

 

「結果的に裏切る形になり、申し訳なく思います」

 

 これは本心だ。ベルタ国王はこの大陸の国の中では良い治世者なのだ。

 この国を裏切ることになった事はずっと心に引っかかっていた。

 スターヴェークの件ではアロイス王国に与したとはいえ、アレスとアロイスの戦争ではベルタ王国は同盟として軍を派遣して争いに加わらなかった。

 もっとも援軍を派遣するほどの時間的余裕が無かったのも確かだ。援軍を依頼する手紙が届いたころには決着がついていたのだから。

 その為結果的に国内は荒れることなく、以前と変わらず繁栄していた。

 

 今はベルタ王国の城で、ようやく漕ぎ着けた会見の最中である。

 

 ベルタ王国側は王と側近の新しい宰相に数名の重鎮、護衛の近衛兵だけである。

 こちらは自分とクレリア女王、セリーナ、シャロン、それにライスター元宰相の五人とさらに少ない。

 これほど少数であれ会談を行うには非常に苦労した。

 セシリオとアロイスを占領した時の圧倒的手段が認識されていることが一つ。ベルタ王国の穏健派貴族による工作が完了していたこともで実現できたのだ。

 ベルタ王国の強硬派はバールケの一件で既にあらかた牙を抜かれていたが、それでも残った貴族達はさらに過激になっていた。

 そしてベルタの世論の強硬派、つまりアレスとの開戦を望むのが二割ほど居たのだ。

 そのため危険性は無くなっているとはいえず、警戒は解いていない。

 

「アマド国王 お初にお目にかかるクレリア・コリント・スターヴァインです」

 

 クレリアが綺麗なしぐさで正式な挨拶を行う。

 

「クレリア女王 アレス国建国の際に其方の名前を耳にした時には、本当に驚いたぞ 国が滅びて以来消息が絶えていたから死んだものだと思っていた

 それがまさか冒険者になって、さらにはコリント王の妻になっていたとは夢にも思わなかった」

 

 改めて対面した二人を見ると、本当に血の繋がりを感じさせる顔立ちだった。

 

「最初、はとこ殿を頼ろうとこの国に来たのですが、アロイス側に付いたとわかり身分を偽る必要がありましたので」

 

「結果的には良い将来を選ばれたと思う、私ではスターヴェークを取り戻すことは無理であったからな

 改めてスターヴェーク女王への戴冠お祝いいたします」

 

 こちらも綺麗な挨拶だった。

 

「このベルタへの逃避中にコリント王に出会えた事が僥倖でした

 そうでなければ私はここにたどり着く前に死んでいましたので」

 

「なるほど、そうであったか、女神ルミナス様のご加護であろう」

 

「まさにその様に感じております」

 

 今度はライスター元宰相に王が声を掛ける。

 

「そしてヴェルナーも久しいな すまぬ、バールケにしてやられたとは気づかずに」

 

「バールケごときの奸計に嵌められ、アマド王を支えきれなかったわが身の不甲斐なさを嘆きましたが…

 しかしコリント王に救われクレリア様にお仕えすることで悲願を果たすことが出来ました」

 

「こうして再会出来ただけで何よりだ、本当に申し訳なかった」

 

 そうして正式に会談が始まる。

 

「アマド国王 改めて今回の会談を受けて頂きありがとうございました」

 

「このような会談は異例だが、コリント王にかかればこれまでの常識は通用せぬと周りから強く言われたのでな」

 

 もう既に訳の分からない噂が市井だけでなく、貴族の間にも広がっているのは聞き及んでいる。

 しかし会談が成立した一番大きい理由は、ライスター元宰相の伝手を頼り、穏健派を中心に親コリント派から親アレス国派を構築した工作の賜物だった。

 

「私は変わってないつもりなのですが」苦笑する。

 

「セシリオとアロイス両方を手中にしたというのに、コリント王の物言いは変わらぬな」

 

「私の目的は国を手中にするためではなく、その先にある民の幸せその一点だからでしょうね」 

 

「なるほどな そして次が我が国か」

 

 アマド国王は少し疲れたような表情をする。会談までに随分と議論を重ねたのであろう。

 

「私達としては国の間で争いごとは起こしたくないと強く望んでおります

 武力で城を落とすのであれば、正直難しい話ではありませんが、それを望みません」

 

 アマド国王はアランが本当に事も無げに『難しい話ではない』と言った瞬間にぞっとした。

 どれほど強力な騎士団でも籠城されれば数カ月はかかるというのに、城を落とすのは難しいことではないと事も無げに言う。

 裏付けるようにセシリオの王都はたった一日で落とされたと聞いたのを思い出した。

 アロイスもそうだ。王都を囲んでから数日で陥落させてしまったと報告を受けた時は、我が耳を疑った。

 自分はいったい何を相手にしているというのか…

 目の前の好青年が恐ろしい力を持つことを、改めて認識したのだった。

 

「…この世界では力がすべてだぞ? どの国もそうやって成り立って来たし、現にコリント王もそうであろう」

 

「それは否定しませんが、しかしそれでは憎しみを生みます

 憎しみは報復を生み、民は苦しみますので私はそれを望みません

 残念ながらセシリオとアロイスはそうは行きませんでしたが、両国の民は今ようやく立ち直りつつあります」

 

 セシリオ王国はルージ王が仕掛けた戦闘により徴用された農兵や、地方の平定などの小競り合いでそれなりの被害が出た。

 スターヴェーク王国はアロイスの強硬派による旧スターヴェークへの弾圧が酷く、三年たった今でも生活の再建途中だ。

 

「壊すことは簡単ですが、作り上げることは難しい

 それに何より私はこの国に大変良くしてもらい、知人も沢山おりますので出来る限り穏便に進めたいと思います

 平和的に統合できるのであれば、それに越したことはありません」

 

 事実上の降伏勧告だから、普通であれば受けることなどありえない。

 

「一部の貴族には受け入れがたい話だな」

 

「もちろんアマド国王としても受け入れがたい話ではあるのは、重々承知しております、それでも」

 

「あくまで『平和的に』を望むか」

 

「はい」

 

「条件は」

 

「我々は現時点でこの国の自治権を望んでいる訳ではありません

 まず変える仕組みはただ一つ、『十八歳までの子供は学校に行き、教育を受ける事を保証する』ただそれだけです」

 

「……とても信じられんな」

 

「そうでしょうね、その為にアマド国王には一度王の座を降りて頂きたいと考えています」

 

「何だと! そんなことを…」

 

 宰相が口をはさんだのをアマド国王が制止する。

 

「一度降りていただきますが、すぐに私が任命する形でベルタ王国の王として代表に就いていただきたい」

 

 反応はないが、続ける。

 

「立場としては基本的に今と変わりませんが、誰が任命したかと言う話になります

 そして今後はアレス国の一部として共存していく事を宣言して頂きたい」

 

「なるほどな、コリント王の配下となる為の宣言か」

 

「はい、そうです 王の名誉にかかわるので受け入れがたい話ではあるでしょうが是非ともお願いしたい」

 

「…厳しい決断を迫ってくれるな…」

 

「ええ、受け入れがたい提案だとは認識しています

 そしてそういう風に国の仕組みを変えても、民の意識はすぐには変わらないでしょう

 しかし子供を学校に通わせ教育を受ける事は将来のためになります

 私はこの変革に十年二十年と取り組んでいくつもりなのです」

 

「子供たちが言葉を覚え、文字を覚え、算数が出来るようになることで、働く先はうんと広がります

 盗賊や娼婦にならずとも生きていくことができます

 生活の質は大きく向上するでしょう」

 

「何故風が吹き、雨が降り、昼になり、夜になるか考えたことはありますか?

 それぞれに理があり世界は回っている事を知ることは、一見無価値のように思えますが未来につながるのです

 私は民に幸福に生きて欲しいのですよ」

 

「まるで聖人様だな、ルミナス様の使徒である様だ」

 

 アマド国王の目をじっと見つめて返答する。

 

「いいえ、そんな大それた者ではありません

 ただの大法螺吹きですよ、しかし私はそれを目指したい」

 

 次回の会談を約束して、この日の会談はここで終了した。

 

 





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