夕食は楽しかった。
五人で旅してガンツに来た頃の思い出話ですから楽しくないはずがない。
昼間のゴーレムに心底驚いたが、そのショックも楽しい思い出話で和らいでいった。
そして夕食後、アラン様がぽつりぽつり話し出してくれた。
「さてどこから話そうか、リア何時か俺が何故この大陸に来たか言った事は覚えているかい?」
「遠くから船で来たけど壊れて帰れなくなった事?」
「あぁ、そうだ 船が壊れて俺は一人で投げ出されたんだ」
「投げ出された時乗ってきた小舟は岸にたどり着く前に早々に沈んでしまうしさ、散々な目にあったよ」
「何とか岸に泳ぎ着いた後、最初に遭遇した知的生命体がゴブリンだったのは辛かった」
「話も通じず襲われたときはてっきり『俺は恐らくはこのまま、この世界でたった一人で生きて死んでゆく』なんて思ったりもした」
「アラン、その気持ちはわかります」
「そうそう、最初にあったのがアレだと絶望ですね」
初めて聞いてたことが多いが、如何にもアラン様らしい話だと思う。
「その時俺は誰とも連絡を取る手段がなかったし、船は沈んで誰も生き残ってないと思ってたからね
しかし未知の世界で冒険できるんじゃないかとワクワクもしてたんだ」
「……ワクワクってアランらしいわ」
確かにそうだ。いつもひょうひょうと無邪気なアラン様の態度を思い出し納得する。
「そして彷徨ったあげくに轍を見つけ、それを追っかけると襲われているリアに出会ったんだ、その後はリアも知っている通りだ」
「狩りをして、久しぶりに剣を振るって、まさかの魔法は衝撃的だった ワクワクした毎日だった」
剣を振るのが久しぶりですって!? 幼いころから剣を振ってきた私にはわかる。
あれはどう見ても毎日剣を振っている人の動きだったわ。
「魔法は本当に驚きました」
「アランが剣を使えたことにもびっくりですけどね」
でも二人の言葉でやはりアランは剣は使わず魔法もない世界に住んでいたのか、と改めて思う。
この大陸では多少の差はあれ大きな差はないと聞き及んでいる。
剣も魔法もなくてゴーレムがいる世界……
「そしてセリーナとシャロンが俺を探してくれたお陰で、支援者と連絡が取れた
船は壊れて動けなくなったけど沈んでない事、
この街を作ったゴーレムが使える事、
それが分かったのでクレリアに国を興すと言うことが出来たんだ」
「……あれほどのゴーレムとか普通に使えるアランの国は一体どれほどなのか、想像もつかないわ」
個人の力だけでも誰よりも強いのに、ゴーレムが当たり前!?あんなアーティファクトが普通にあるなんて何ということでしょう!
あれだけのゴーレムを使えるアランたちの国は、いったいどれほどの強大な国なのだろう。
「あの時は事後の話で本当にすまなかった、さすがにこのことは当時言えなかったからね」
確かにあの時のアラン様の言葉はちょっとらしくないと思ったのはこういうことだったのね。
「アランの事だからって納得してたけど、どうやって連絡ができるの……とは聞かないわ」
「いや、それも打ち明ける話だ
リア達の言うアーティファクトみたいなものだと思ってくれればいい
ギルドでも遠距離に連絡を取る手段があるだろ? あれがもっと凄くなったようなものだ
文字ではなく会話ができる」
そんなことがあり得るの??もう理解の範囲を超えていて、思考が上滑りする。
「……まさか本当に? ……でもそう言われると思い当たる節があるわ
三人とも時々宙を見つめて黙る癖があるのはそういうことだったのね」
「あぁ、俺たちの故郷では遠距離で連絡する手段は普通に使われているものだからね」
「例えば王都で救出していた時に何故あのタイミングでグローリアが来たと思う?」
「ああ、そういわれれば確かに 緊張のせいか気づいていませんでした」
そうなのだ、なぜ私は不思議に思わなかったのか。
鐘の音の原因がグローリアだというのは探知魔法でわかったとしても、グローリアとはガンツで別れたきりじゃない。
いつの間に王都に来るよう手筈を整えれたというの!?という疑問に及ばなかった。
「上空で待機していたグローリアに連絡して姿を現してもらったんだ」
「ということはグローリアにも連絡できるのね」
「あぁ、クレリアと同じく死にそうな怪我だったのでナノ……精霊の力を借りて治療したからね」
「そうやっぱり、グローリアと会話ができるというのは精霊の力なのね」
精霊の力ってなに?聞いたことないわ。
「そうだ、さすがにドラゴンは人間とかなり違ったので意思疎通して会話できるようになるには一晩以上かかったのだけどね」
「アランの事だからってみんな妙に納得しちゃってたわね
私は精霊の力なのではって思ってたけど」
アラン様とクレリア様の言うことの理解が追い付かない……
「……はっ それではもしかして精霊様もアランたちの力なのでは……」
「そうだ、目に見えないほどものすごく小さなゴーレムが沢山集まって動いてると思ってもらっていい
リアも命を助けるために精霊の力を急いで借りたんだけど、そうしなければ出血多量か、もしくは傷からの感染症で死んでしまう怪我だった」
え!?
「……そうね、死ななかったのは本当に奇跡だったわ
そのうえ喰いちぎられた手足が元に戻るなんて考えられなかった
足が治りかけた時私は頭がおかしくなったのかと思うほどだったわ……」
「え! リア様 まさかそんな! 深手とは聞いてましたが手足が喰いぎられるほどだったのですか…………」
私は一体どんな表情でしゃべっているのだろう、まさかそんなことが、膝ががくがく震えてる。
「そう、アンテス団長たちとグレイハウンドに襲われたとき、防具を外していた私は手足を食いちぎられたの
それで意識を失ったのだけどそのときにアランに助けて貰ったわ
思えば防具を外していなければ喉を喰いちぎられて死んでたかもしれない」
「……そんな事が……」
焚火の光ではわからないだろうけど顔は真っ青で、座ってなければ倒れてただろうというのは自分でも理解できた。
「ああ、俺が駆け付けた時にはアンテス団長は喉を食いちぎられてもう助けようがなかった」
「そしてアランが皆を埋葬してくれて、義足を作ってくれて旅を続けれたよ」
「言葉がわからなかったから意思疎通が大変だったよなぁ」
「あの時は追われている私をアランが助けてくれるか、とても不安だったわ」
「俺としては困っているリアを助ける以外の選択はなかったけどね」
「かわいい女の子だったからじゃないんですか?」
「いや、最初見たたときは血まみれで泥だらけだったし分からなかったよ
水浴びしてから初めてこんな美人だったって気付いたんだけどな」
「アランが水浴びするとか言い始めたときは、本当に恥ずかしかったのよ」
「手足の回復まで潜めるいい具合の洞窟を拠点にできて魔法と言葉を教えてもらったんだよな」
「手足の回復は奇跡の業だからエルナにもおいそれと話せなかったの
それに皆に余分な心配をかけたくなかったから……すまない」
「いえリア様、配慮ありがとうございます」
私に謝る必要はないのに……と思う心と私にだけは打ち明けてほしかったという思いが交錯する。
「これで私がいかにアランを信用し信頼していたかわかるでしょ?」
「……それほどの事であればゴタニアで再会した時にあの態度だったのは納得です……」
全くクレリア様があれほど気を許す態度であれば、本当は心の底では判ってかもしれない。
でもあの時はよくわからない男にクレリア様が騙されているのではないか!?と思ったのだ。
そしてアラン様より私の方に頼って欲しいという思いがあったのだ。
「だから私はアランには大変な恩があり、女神に誓ったのだ
『必ず返さなければならない恩義が、アランにあることを』」
「……ああ、リア様 そこまでなのですね……」
その想いに私は何故気づけなかったのか……
「ねぇアラン 私もグローリアのように精霊の力を借りて会話できるようになるの?」
「リア、君の中の精霊は正規の手順を踏んでいないためできることは限られている
せいぜい前より体は丈夫になったくらいだろう」
「……風邪もひかなくなったのは不思議だったけど、そういうことなのね」
「ああそういうことさ
今は無理だけどいずれリアにその事を確認する日は来るかもしれない」
「そうなのね、その時が来るといいな」
「……アラン 私は怖くて言えなかったことがあるの
あなたは女神ルミナス様の使徒様なのではないのですか?
精霊様といい、ドラゴンと会話できることといい、この街づくりといい、普通の人間にできる範疇を遥かに超えているわ」
それはクランすべてのメンバーが誰しも一度は考えたことがある思いだった。
「まさか それは断じて違う、俺は普通の人間だよ
この世界と少し違う魔法がなくて科学があるところで生まれただけだ、リアと同じ人間には変わりない」
「カガク……それがアランの力の秘密なのね」
「…………しかしそれでも不安なの」
「…………私は果たしてアランにその恩を返せるのか」
「…………ある日アランの国から大きな船がたどり着き『迎えに来たよ』と言われふっと居なくなるかも知れない」
「…………これだけの力があれば私など必要ないのではないか」
クレリア様がアラン様に好意を抱いているのは私にだって判る。
それは信頼からくるものだとしても、伴侶として選んでいるのですから。
「…………私を見限ることがあるんじゃないかと思うこともある」
しかしあれからのアラン様はあまりにもそれを意識してなさそうに思う態度が多かった。
カリナさんの件は特にそうだったので、流石に忠告したけどまるでわかっていなかった。
セリーナやシャロンの事もあるし、おそらくアラン様は女性の気持ちに鈍感すぎるのだと思う。
「…………大抵の事でアランを害することはできないのは分かっているけど死ぬんじゃないかと思うこともある」
「…………そんなはずはないのにどれも絶対ということはないのよ」
「…………時折どうしてもそんな不安が頭をかすめるの」
アラン様に嘘はないが、しかし秘密が多すぎるのだ……クレリア様の不安はすべてそこにある。
何時しか私も涙を流していた。
あああ、気安くクレリア様の頭を撫でるな!
と思って先程の言葉と矛盾している事を気付き、私はどうなることを望んでいるのかわからなくなった。
「大丈夫だ、居なくならないさ たった一年にもならないけどもうこの世界が俺の居場所だ」
「前にも言ったろ? 俺達は絶対に元の世界に帰れない。もちろんその可能性は検討したよ
……生きているうちに迎えが来る可能性は限りなくゼロに近い確率だった……」
「それにリアがいたから目標ができたんだ」
「その目標に向かって一歩目の貴族になれて、この領地の開拓が二歩目だ
この後開拓の成功を認めてもらって辺境伯になって
ベルタ王国を手に入れて、セシリオ王国、アロイス王国と広げていく」
「アロイス王国を手に入れたらリアはスタヴェーク王国の女王になるんだろ
リアと約束した目標を叶えるまでに俺が居なくなるわけないじゃないか」
そうだったこの男は.アラン様は無自覚に優しいのだ。
「そうね、そうよね、ごめんなさい」
ああ、クレリア様……
そうしてしばらくして少し落ち着き出した頃、突然シャロンが口にした一言で雰囲気が変わる。
「ところでアラン、この街はなんて名前なの?」
「へ? そういや考えてなかったなぁ」
「え? 信じられない!!!」
「はぁ、まったくアランは…………」
「そんな大事なことをどうして!」
「よくそれで今まで…………」さすがに呆れるしかなかった。
「俺はわかればいいから明後日までに君たちで決めてくれていいよ」
それはとてもアラン様らしい一言だった。
確かにパーティー組むときも私たちに投げ出していた。
タースとシラーを買った時など『なんで聞かないといけないの?』と判っていなかった。
アラン様にとって名前は本質ではなく、中身こそが大事なのだろう。
「あ、ただしシャイニングスターとかコリントは無しだ、ややこしくなるから」
いえ、もしかすると単にめんどうなだけなのじゃないかと言う気がした……
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セリーナ、シャロンサイドは無いので次は話が進みます