「クレリア あれで良かったのか? もっとこう何か文句を言いたい事があったのでは?」
「ああ、もうそれは構わないのよ ベルタ王国は積極的にアロイス王国に味方したわけではないし、何時までも恨んでは居ても仕方ないもの」
「納得しているならいいよ そうなると後は思惑通りに身を引いてもらえるかどうかだな」
とは言え普通に考えると難しいだろう。
こちらはアロイス王国を落とした後に、スターヴェーク王国へ名前を戻しクレリアを女王にしてから三年。
復興と統治組織を作り上げ、ようやくベルタ王国に下るように話を持ち掛けるところまで来たのだ。
仮に戦争になっても十二分な勝算はあるのだが、心配は尽きない。
そうしているうちに外で待っていた近衛騎士団に合流する。
この近衛騎士団は格好こそ騎士団にしているが、中身は既に帝国航宙軍宙兵隊で構成されていた。
全員ではないがライフルや電磁ブレードで武装している特殊部隊だ。
心配性なイーリス達により十二分な護衛部隊に仕上がっていた。
「コリント王の名前を持ってすれば、ベルタ王国の併合は難しい話ではないと思うのだけど」とはセリーナ。
魔の大樹海を開拓した実力とドラゴンを従えている実績は絶大だ。それによりベルタ王国では賞賛と畏怖されているのだから無理を言えば出来ない訳では無いだろう。
実際辺境伯時代やライスター元宰相のコネクションをたどり、ベルタ王国内の穏健派の工作はあらかた終えていた。
それでもセシリオ王国が攻めてきた時に国を救った英雄であり、そして独立して国を裏切った逆賊でもあるのだから複雑だ。
自分的にはそうではないと思っていても、客観的に聞くとひどい奴だな…
「覇王として進むならそれでもいいのだけど、俺には合ってないかな」
身の丈に合ってないので、苦笑するしかない。
「いざ荒事になったらもの凄く強いのに、荒事を好まないのはアランらしいわ」とクレリア。
「でも力を見せる時は判っているから大丈夫じゃないかしら」セリーナも続ける。
相変わらず俺への印象酷くないかな?
「言いたい放題だな、では次の目的地に行こう」
馬車に乗り込み王城を出発する。しばらくして辿り着いた先は教会だった。
既に出迎えの者が待っており、恭しく頭を垂れている。
案内された先は聖堂にセットされた応接スペースには既にゲルトナー枢機卿が待っていた。
「アラン王 お待ちしておりました」
「ゲルトナー枢機卿 お出迎え感謝する」
手紙は時折やり取りしていたものの、直接会うのは辺境伯任命で王都に来た時以来だ。
暫く会わないうちに枢機卿はかなり貫禄が出ていた。
「お久し振りです」
「辺境伯任命の時以来なので七年振りですかね」
「年を取るのは早いですね」
「孤児たちはどうですか?」
「今日近衛兵として来ている者は元孤児たちですよ、立派にやっています」
「ああ、やはりあの時無理にでもアラン王にお願いしたのは間違いではありませんでした
ルミナス様に感謝を…」
ルミナス様か…そろそろこちらも決着をつけないといけない頃だ。
「最近は孤児院の状況はどうでしょう?」
「孤児の数は以前とさほど変わりませんが、少しだけ長く孤児院で面倒見られるようになりました」
孤児院出身の者達が稼いだお金を持ち寄って孤児院に寄付しているのは知っている。
「それは良かった、辺境伯になれば王都からまた領民を募る予定が、
ただ代わりに私の取り組みも
子供の教育をこのベルタにも広げられるよう取り組んでおりますので、その際には是非お力添えを戴きたい」
「勿論です 私の力の及ぶ範囲で最大限協力させていただきます」
「子供たちの笑顔と歓声が響く街になればいいですね」
「そうですね、あぁ子供と言えばアラン様のお子様も随分と大きくなられたのでしょう?」
「ええ、やんちゃ盛りですよ たまたま同じ年に生まれたので四つ子のように育っています」
「それはよろしゅうございます、小さい時より仲間と触れ合える事は成長に繋がりなります」
暫く会談を続け、最後に言葉を託す。
「ああ、そういえば最近また夢を見る事がありました
ゲルトナー枢機卿が大勢と会議を行っているときに、急遽立ち上がり外に出て祈ると使途様が現れる場面です
何時もより詳細なのが不思議でしたので覚えておりました」
「本当ですか!ありがとうございます」
勿論近々法王を決める集まりがあるのを意識しての事だった。
今までの関係で判ってくれるだろう。
そうして丁寧な挨拶の後、教会を後にした。
◇◇◇◇◇
教会を出発し正門の外にある広場まで出るとやじ馬で混雑していた。
群集を警備している兵士のその先に、建物ほどもある大型の物体が鎮座している。群集はそれを見に来ているのは明らかだった。
ふと警備の中に懐かしい顔を見つけ、声を掛ける。
「ようヘルマン! 久しぶりだな」
「ア・アラン様!? いえコリント王!」
声を掛けられたヘルマン・バール士爵は驚いた顔で振り返った。そしてこちらに向き跪き頭をさげる。
王都での盗賊狩りから十年、辺境伯任命の時からでも七年近く経つその姿は、さすがに白髪の目立つ初老になっていた。
「いや、そういうのは良いから立ってくれ それにその状態では警備にならないぞ」
「わかりました 陛下は変わりませんね」
「そうだな 立場は少し変わったが中身は変わらないさ
おっと警備感謝する 相変わらずよく訓練されている 素晴らしいぞ!」
周囲の視線を感じて王モードで話しかける。
「はっ!ありがとうございます!
しかし新型の乗り物の警護と聞いておりましたが、まさかこれはコリント王だったのですね」
「ああ、完成したばかりだが、なかなか立派だろう?」
「恐ろしいほど立派ですね 最初見たときにはこれは一体何だ!?と腰が抜けそうになりました
しかしアラン様のものだと聞いたなら納得です」
それは先日ようやく艤装と慣熟運転が完了し、完成後の正式運用をし始めたばかりの王専用の飛行船だった。
訪問の時は陸路ベルタに来ていたのだが、帰路は飛行船を予定しておりベルタ王国には警護の依頼を出してあったのだ。
「また何度か訪問することになるが、その時も警備を頼むぞ」
「承知しました!」
ん?よく考えたら部下ではないので何か変な気はするがまぁいいか。
タラップから乗船する間に、側方の格納庫に馬車と馬を積み込む。
熱風を発生する魔道具の稼働音が大きくなり、飛行の魔法陣に魔石が接続されると船の荷重が減ったことを感じる。
「舫い綱をはずせ、出航するぞ!」
艦長の言葉で地上に結ばれていた綱が外れ、両翼で別な力を感じると飛行船は静かに浮き上がった。
地上ではものすごいどよめきが聞こえる。
そういえば
これでアレス国の技術力の良いデモンストレーションになるだろう。
◇◇◇◇◇
「あれがコリント王の力だと言うのか?」
王城のテラスから飛び立つ飛行船を見ていたアマド王が、驚愕した表情で独り言ちる。
「はっ、飛行船と呼ばれる空を飛ぶ乗り物と、報告を受けております」
「あのような物が空を飛ぶとはにわかには信じられん… あれはコリント王の魔法なのか?」
「判りませぬ、警備が厳重で誰も仕組みを知りません」
「あれほどの物を空に浮かす力を持つコリント王とは、本当に使徒様ではないのか?」
「ゲルトナー枢機卿とは懇意にされておりますが、本人が強く否定しております故、教会は公式に認めておりません」
「……あれで使徒様でないなど理解が出来ないな……」
アマド国王は飛行船を見た事で打ちのめされていた。
得体のしれない手を出していけない者を相手にしているのではないか?そういった不安感に襲われているのだ。
その後、数度の会談で条件の確認を行った末、アマド国王は我々の提案を静かに受け入れた。
半年の準備を経て退位式を厳かに行った後、続いて代表職への就任式を執り行う。
ここにベルタ王国は独立国としての歴史を閉じ、アレス国の一部となったのである。
その後代表職となったアマドは良い為政者であり続け、将来にわたりこの地域はアレス国の重要な地方となった。
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