航宙軍士官、貴族になる   作:あんさん

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179.救難信号

 帝国暦二千六百十二年

 

 調査宙域で巡行中だった戦艦アレクサンダー・ジェイムズの艦橋で、聞き慣れないアラートが鳴った。

 

[艦長 起きてください非常に微弱ですがFTL通信で救難信号を受信しました]

 

 戦艦のAIであるアレクサンダーが非常事態を告げる

 

(何だと! どこからだ?)

 

[艦籍IDを確認しました、赤色艦隊(レッドフリート)スピカ方面軍第238艦隊2番艦 戦艦イーリス・コンラートからです]

 

(…そんな部隊も艦名も聞いたことないぞ)

 

[記録を確認しました、三百五十三年前の作戦行動中に行方不明となっています]

 

(そんな馬鹿な、三百五十三年前だと!? 間違いじゃないのか?)

 

[すべての多重チェックが戦艦イーリス・コンラートからの通信で間違いないことを肯定(ポジティブ)しています]

 

(まさか、本当に三百五十年もたってからの救難信号なのか……座標チェックは?)

 

[解析終わりました 戦艦イーリス・コンラートが予定していた探査宙域とはまるで異なります 映像で転送します」

 

 艦長の視界に宙域のマップが現れ、自艦と戦艦イーリス・コンラートの位置が表示される。

 

(むぅ、我々の宙域から超空間航行でも一年以上掛かる距離じゃないか なぜ当初の予定宙域からこれほど外れているのだ)

 

[判りません、FTL通信自体も三年前に発信されていますし、微弱すぎてIDと位置情報以外は情報が欠損している部分もあり、全力で解析中です]

 

(三年前だと! そのあたりの宙域の探査計画を確認してくれ)

 

[該当する宙域の探査計画は過去にもこの先にもありません

 戦艦イーリス・コンラートが出発する以前より探査アルゴリズムは変更されていませんでした]

 

(なんてことだ、探査も予定されてない宙域から三百五十年も経って救難信号が発信されただと!? 我々はゴーストからの通信を受けたというのか)

 

[分かりません、情報が不足しています]

 

(バグスの罠の可能性は?)

 

[99.99%の確率で(ネガティブ)です、私を含め戦艦のAIはバグスに利用をされないために何百多重ものセキュリティを構築されています]

 

(分かった、では該当する宙域の一番近くに展開している艦隊はあるのか?)

 

[最新のアップデートでは本艦が最も近いようです、そのため救難信号受信も本艦が一番と推測されます]

 

(なるほど、そういう事か)

 

[艦長 救難信号は救護義務が発生します 速やかに救援体制を構築してください]

 

(了解だ アレクサンダー名誉大尉、本艦はこれより救難信号を受信したことによる、非常事態モードへ移行する

 すべての探査を速やかに中断して、準備が出来したい救護に出発せよ)

 

[承知しました]

 

(艦内放送をオープンにしてくれ)

 

「全乗組員に次ぐ、本艦はこれより救難信号を受信したことによる、非常事態モードへ移行する

 すべての探査を速やかに中断して、準備が出来したい救護に出発する 以上」

 

(今までの情報を艦隊本部へ報告して、イーリス・コンラートには救援に向かうと通信してくれ

 まぁ通信より我々が先に到着するだろうけどな)

 

[承知しました]

 

 

[艦長、通信の欠損部分の情報が解析できました 以下のとおりです

 『わが艦は超空間航行中の攻撃により被弾し機能を喪失し漂流中、漂着先の惑星で人類に連なる者を発見』]

 

(!!!…まさか人類に連なる者だと!?)

 

 その報告は人類銀河帝国内に数百年ぶりにもたらされたものであった。

 

 

 帝国暦二千六百十三年

 

 到着した戦艦アレクサンダー・ジェイムズは大きく船体を欠損した戦艦イーリス・コンラートと、その近くのドックで作成中の原始的なリアクターを視認した。さらにはリアクターの周囲で活動する人類までも確認したのだ。

 ただし同艦に乗員は無く戦艦のAIであるイーリス・コンラート名誉大尉からは『超空間航行中に攻撃を受け生き残った乗員が惑星アレスを占領、三百五十年を掛け現地の人類に連なる者を教育、リアクターまで完成させた』との驚愕の報告を受けることになる。

 その報告を受け、惑星アレスの詳しい状況と、バグス襲来の可能性を帝国軍本部へ報告するため高速連絡挺を発進させた。

 

 

 帝国暦二千六百十五年

 

 報告を受けた帝国軍本部は戦艦イーリス・コンラートが計算したバグス襲来の予測を肯定した。

 ただちに惑星の帝国編入とバグスの襲撃に対抗できるだけの艦隊を編成し、惑星アレスに向けて出発させた。

 

 

 帝国暦二千六百十七年

 

 惑星アレスに艦隊が到着。

 イーリス・コンラート名誉大尉が同席の上、惑星アレス代表と会談を行い、正式に人類銀河帝国への加盟が承認された。

 アレスはすでに加盟を前提として体制が組織化されていたため、極めてスムースに編入された最初で最後の惑星となる。

 この時の惑星アレス代表はアランから数えて実に十二代目の計画達成であった。

 

 

 帝国暦二千六百十八年

 

 特級軍法会議が開催されアラン・コリント准将の第一級非常事態宣言とクローンの作成が審議されたが、非常事態が認められたため不問とされた。

 さらに人類に連なる者の発見と惑星の占領からのリアクター作成による帝国への連絡の功績により三階級特進が決定されたため、最終階級はアラン・コリント大将と記録される。

(なお三階級特進は帝国軍史上初となる)

 同時にセリーナ・コンラート少尉、シャロン・コンラート少尉の任官が正式に承認され、最終階級は大佐と記録された。

 同年、惑星アレスの人類銀河帝国加盟の記念式典が華やかに実施され、アラン・コリント大将の活躍が大々的に公表されたことにより惑星アレスは広く人々の知るところになった。

 

 

 帝国暦二千六百十九年

 

 イーリス・コンラート名誉大尉からダウンロードされた情報をもとに軍が作成した惑星アレスとアラン・コリント大将の物語が公開されると、人類銀河帝国史上かつてないブームとなる。

科学と魔法が融合した惑星アレスの大地と、どの英雄の冒険譚にも負けないアランの活躍は人々の心を大いに刺激したのだった。

 

 

 帝国暦二千六百二十一年

 

 警戒中の守備艦隊がバグスの襲来を感知し撃退、以後数度の本格的な戦闘の末にこの方面に侵攻するバグスはすべて撃退された。

 わずか四年差で間に合ったことに、惑星アレスの人々は安堵しアランの功績を称え歓喜した。

 その報告を受けたイーリス・コンラート名誉大尉の公式の記録が残っている。

 

[ああ、アラン艦長 貴方の目的は達成されました]

 

 そのAIとは思えない言葉が公開されると、人類銀河帝国の誰もがコリント大将との強い絆を感じずにはいられなかった。

 

 




次回最終話です。

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