あの後持ってきた幾つかの魔道具を領主館の中にセットして回った。
領主館だけは建物の中まで水を引いてあり、レバーを操作するだけで水がでる。
もちろんイーリスと打ち合わせして水道専用の熱を出す魔法陣を作ってある。
お風呂もお湯があるだけでなくシャワー使うためのお湯も出るのだからこれまた大層驚いてくれた。
トイレはシャワートイレを再現したら、セリーナとシャロンは泣いて喜ぶ勢いだった。
それでもサプライズで頑張った甲斐があるというものだ。
これももちろんイーリスと設計した水を出す魔方陣と風を出す魔法陣と熱を出す魔法陣を組み合わせて温水を吹き出す渾身の作だ!
が、水量や温度の調整が難しい上に魔方陣を三つ組み込むことになりサイズが凄く大きくなったのが難点だった。
照明の魔道具はまだ効率が悪くロウソクやランプより少しマシくらいだった。
風呂の後、女性陣は街の名前を決めるというので、一人イーリスから各地のドローンが得た報告を受ける。
移動中の移民に問題は無いようだ。
念の為ガンツから領地に来る街道の魔物出現率を確認すると、思ったよりは多く無かった。
最悪は冒険者を配備する必要があるかと思っていたが、森を切り開いたためにそこまででは無いらしい。
宰相の方も動くに動けずと言ったところなので放置しておく。
エルヴィンの方はさすがというかイーリスのモニタリングにも引っかからないので詳細は不明だそうだ。
まあガンツくらいの街なら誰か連絡先があるだろうから一度乗り込もう。
いずれドローンの稼働限界を超えて遠地の情報収集が難しくなるので、何時の日か彼らに通信手段を渡す必要が出てくるだろう。
あとはイーリスからの提案でベルタ王国内に親しい貴族を作るようにと言う内容だった。
しかしガンツ伯との関係は難しいし、フォルカー士爵は身分が低すぎる。
何より王都は余りにも遠いのでなかなか難しいのが実情だった。
通信を終わったあと窓を開けて外を眺めてみると星空が綺麗だった。
戦艦イーリス・コンラートが見えないかと思ったが、今はここからは見えない場所らしい。
女性陣は一部屋で集まりお喋りをしているようで、風に乗ってかすかに歓声が聴こえる。
元気そうな笑い声を聞いてすこし落ち着いたらしいと一安心した。
それにしてもクレリアにとってはものすごく浮き沈みの激しい一日だったので、ちょっと悪いことをしたかももしれない。
ショックで寝込まなければいいけど。
持ってきた毛布だけのベッドに戻り横になり、初めて過ごす領地に思いを馳せる。
領地の生活レベルの向上させる必要があるが、魔法陣は小型化はし難いし、普及させるには魔石の価格がバカにならない。
将来的にやはり電気を実用化する必要がりそうだ。
電気とモーターが実用化されたら鉄道を作りたい。
昔に見た地球のライブラリの奴でレールという鉄でできた軌道を走るものをイメージする。
帝国の都市では動くものはほぼ重力制御なのが当たり前なので再現は難しいから。
などと考え事をしていると何時の間にか眠っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
[朝です。起きてください]
久し振りにナノムに起こされ顔を洗ってから、領主館の入口のホールで皆を待つ。
少しして眠そうに集まってきた。
クレリアは少し目が腫れているが、スッキリとした雰囲気だったので一安心だ。
ただ、目があったら恥ずかしそうに顔を背けられたけど
王族として人前で泣かないような教育をされているのだろう。
ひとまずナノムにはクレリアの目の腫れを取るように指示しておく。
「おはよう、よく眠れたかい?」
寝不足なのは知ってはいるが声はかける。
「ちょっと夜ふかししたので眠いですが大丈夫です」とちょっとよそよそしくセリーナ
「随分と盛り上がったんだな」
「えへへへ」とシャロンは目をそらしながら笑う。
うーむ、ちょっと雰囲気が違う???
「こういう機会はもう滅多に無いから楽しめたなら良かったよ
昨夜はちょっとあれだったから心配してたんだ」
「アラン そこは触れないのが紳士でしょ!」エルナに怒られてしまったが、なぜか顔が紅い。
「すまない」
クレリアはちょっと恥ずかしそうな拗ねた感じで眼をそらしたままだ。
???
「じゃあ軽くなにか食べてから昨日の続きを見ていこうか?」
「「「「了解」」」」
まずは昨日は暗くなりかけてたので見なかった領主館を見て回る。
一階のホールはかなりの高さがあり、それなりに豪華に装飾されている。
やはり帝国風の意匠が入っているので、クレリアとエルナの評価は高くこの大陸の人には新鮮なようだ。
一階はホールと会議室や会食のための食堂になっている。
二階は公務用の執務室、それから訪問者のための応接室や宿泊ルームとなっている。
三階がプライベートスペースになっていて昨夜泊まったのはこのエリアだった。
部屋割りは彼女たちに任せたが、慣れているためか今までと同様に二人部屋にするらしい。
部屋余るから一人部屋にすれば良いのになぁ。
建物全体としてはガンツのホームより倍くらい広いのでもの凄く余裕がある。
そもそも航宙艦とか帝国では狭い部屋が普通だったので、あまり広いと慣れないのだけど。
領主館の裏手に回ると謎の建物がある。
そしてその向こうに北門があった。
あまり使うことがないため正門よりはこじんまりしているが、それでも中々のものだ。
「グローリアの家はこの門を出た先にあるが、今日は見に行く時間は無いかな」
少し引き返して領主館の西側へ。
流石にクレリアもエルナも昨日のようなショックは受けていない。
「行政の建物はこの辺りだ
どこを使うかはシャロン達に任せるよ、設備については職人と相談して作ってくれ」
「判りました」
「学校の一つはここを使うつもりだ
身分によって分けるつもりは無いが、住居の関係で主に騎士とか文官の子供になるかな」
「そうですね、でもおそらくそれぞれの職業で学習レベルが異なってますし案外良いかも知れません」
セリーナの言う事もわかる。
騎士とか文官の子供は少なくとも読み書きは出来るが、職人の子供や、まして農家の子供だとほとんど教育を受けてない。
「何せ第一陣だけでも対象は千人もいるからなぁ」
「教科書が全くないし、教師をどうするかも問題です」
シャロンも気にはしているが、辺境伯のメンバーから出来そうな人を募るしかない。
本については印刷技術を更新して行く予定だ。
「ここから西は住居街だ、基本的には領主館から行政区、住居街と広がっていく」
商業区域を抜け東側に来たところで再び教会の前を通る。
「昨日は落ち着いて見れなかったけど、本当に立派ですね」
クレリアが改めて感心する。
「まあ建物だけで装飾は出来てないし、女神様の像もまだだけどね
内外装含めてどうするかは司祭イサクに任そうと思ってる」
教会をすぎると円形の建物が見えてきた。
「ここはスタジアムだ、入植が落ち着いたらここに集まって貰って挨拶しようと思う
他にも観劇などにも使えるから、何か企画してくれても良いぞ」
中に入ると、クレリアとエルナが再び固まった。
想像以上の建物だったようだ。
五万人は入れるスタジアムだから街の規模には合ってないのは確かだった。
後は農地予定の場所を通り正門近くまで戻る。
「人が増えたらこの辺りも住居とかに使うようになる」
正門からつながる壁の内側は倉庫街だ。
「此処は倉庫街だね、ちょっと見てみるかい?」
返事は無いが倉庫を開けて説明する。
「此処は空なので購入した穀物などはこのあたりに貯蓄することになると思う
シャロン、大変だと思うけど使い方は考えてほしい
幾つかの倉庫は魔法陣を埋め込んで、冷蔵とか冷凍用にするつもりだからね」
これだけの倉庫を冷凍庫にするなら魔石を馬鹿みたいに消費しそうだが、魔石の入手には困らない。
「分かりました」
「次も見てみるか」
別な倉庫を開けるとここは何やら貯蔵されている。
「どうやら魔の大樹海産の素材のようだな、街を作るときに駆除した魔物のものだろう」
幾つか倉庫を開けるとだいたい何か貯蔵されていた。
「いや、アラン 簡単に言ってるがこれはすごい宝の山だぞ!
これはワイバーンの革だし、こっちは魔石の山だ」
クレリアが大興奮している。
そりゃあ倉庫一杯の魔石とかはお宝以外にない。
「言っただろ、開拓する時に出た素材があるって
だけどこれを一気に放出したら相場が下がってしまうから、少しづつ放出していくつもりだよ」
「……ああ何を普通に……、そう言えばアランはそういう人だったわ
ちょっと常識外れだったわ、興奮した私が馬鹿みたいじゃないの」
ちょっと拗ねたようにクレリアが言う。
「ウンウン」とうなずくエルナ
あれ?俺が悪いの?
「とまあ駆け足で街を説明したわけだけど、見ての通り建物だけで窓枠もない状態だから暫くは生活を安定させる事が重要になる」
「職人には何はともあれ窓や扉、それに生活のための家具が優先で作ってもらう感じだな
それと最低限煮炊き出来る台所が無いと生活が成り立たないからそこを優先してもらおう」
領主館は一枚ガラスをはめ込んであるのでびっくりしてたが、一般の住宅は小さめのガラス板を窓枠にはめ込んで使う感じだ。
職人が使う材木である程度製材したものは何箇所かの倉庫にまとめて置いてある。
「製材前の原木は屋外に山積みしてある
鉱石も同様だけどこれは毒にもなるのでエリアを決めて取り扱う様にしてくれ」
「薪にする枝とかは農地予定の端に積み上げてあるから各自で持っていってもらう感じかな」
「あと農地予定のところにそれなりに草は生えたけど飼い葉が足りないかもしれないよなあ」
あれこれ見ながら正門まで戻ってきたところでクレリアに声をかける。
「さてリア 俺が自信満々だったのはこれで理解してくれたかい?」
「アラン こんなの想像できるわけ無いじゃないの!!
これほどの街が一年経たずに出来るなんて、女神ルミナス様の奇跡しかないと思われても仕方ないわよ」
「だからそれは違うから他では言わないでくれよ
それにここまで進んだのはグローリアのおかげも大きいんだぜ
彼女が石切場からせっせと石を運んでくれたおかげで、ゴーレムは建物作りに専念出来て予定以上に建てれたんだ
今度褒めてやってくれよな」
「そうなのね、たしかに彼女なら人が運ぶより遥かに効率よく重い物を運べそう」
「でも王都なら人力でもかなりの建物を建ててるじゃないか
あの職人もいずれ呼び寄せたいな」
俺たちはドローンや汎用ボットに慣れすぎてて、逆に人力だけで何故あれほどの建物が作れるのか想像出来ない。
「今もゴーレムは追い込みで働いてくれてるから、四日後はもう少し進んでるはずだ
その後は住民に見られないように姿を消す予定だ
実際は北側にあるグローリアの家の近くで待機することになる」
どんなに早くても建国するまでは公表することはできないだろう。
「まぁ付き合いが一番長い二人でもこれ程驚くのだから、こんな話にしようと思ってる
『シャイニングスターのパーティーは魔の大樹海の奥で遺跡を見つけて攻略し、仲間にしたドラゴンと見つけたアーティファクトを使って街を開拓したが、それでアーティファクトは使い切ったらしい』
ってね、こじつけだが噂で流すならこれくらいふわっとしたほうがいいだろ?」
「なるほど、噂なのであればどうとでも取れるしそれはいいかも!」セリーナ
本当はエルヴィン達の考えた事だが黙っておく。
「さすがです、アラン」
シャロンが褒めてくれるが申し訳ない。
「いい考えだわ、使い切ったことにすれば差し出せと迫られても断れる」
そう、それが大事なのだ、さすがクレリア。
「なるほど、これなら民も信じやすいし、それ程荒唐無稽でもないですね」エルナも肯定する。
いやいや、荒唐無稽じゃないって言われることに逆に驚く。
どうやら昔にはそういうことが本当にあったらしい。
しかしクレリアにまで使徒様ではないかと言われるくらいだから、こうでもしないと普通の人は使徒様と信じ込まれても不思議でない。
もしそうなると、教会に祭り上げられるか対立するか、ろくでもない結果にしかならないのは目に見えているからだ。
と言うのは大陸を統一するためイーリスと検討した中には、使徒イザークというドローンを召し使える使徒様となり、宗教を利用するというシチュエーションもあったからだ。
しかしシミュレーションの結果は散々だった。
おおよそ他の宗教とぶつかり停滞するか、教会自体の腐敗により文明の発展が抑止されるかだった。
さらに最悪だったのは俺の子孫が二〜三世代後に自分たちが選ばれたものだと勘違いして、壮大にやらかす事により国が破綻したパターンだ。
多くの人類惑星で宗教と科学は対立していたのだから仕方ない。
それならすでにあるドラゴンスレイヤーの肩書に遺跡攻略者が追加された方がマシだとイーリスと結論付けた。
評価、誤字、脱字、御指摘、感想 等ありがとうございます。
追加設定小ネタ
ガンツからの距離は50km程度の行程(馬車でギリギリ1日、徒歩は無理)
街の規模はざっくり城壁が5km四方、開墾済みは7km四方
建築資材は調達効率の都合でほぼすべて大理石を使用
石を切り出した跡地はグローリアの住処になっている
こんな感じです。