煌びやかな中華風の町並みを、夜の雑踏の中を、一人の少女が歩んでいく。
そんな彼女の目には、懐古の念と若干の切なさが宿っていた。
『この夜も、全ての夜も、相も変わらず私には遠すぎます』
甘露を飲み、嘉禾を食す。それが麒麟の性分だ。
決して命を害することのない穏やかな気性である彼女が、璃月の人混みで感じるのは種族の差による孤独であった。
しかし、そんな彼女に、自分の孤独を受け止めてくれる友人ができる。
澄んだ空に昇る、優しい蛍の朝日を背に、彼女は微笑みながら友人にこう告げた。
『夜の秘密を知った貴方は…私と一緒に、残業しませんか?』
薄暗い閑散としたオフィスに、不釣り合いな可愛らしい少女の声が響き渡る。
昼間なら白い目で見られるだろう所業をやらかしているが、今オフィスの中には僕しかいないのは確認済みだ。この凶行を咎める者など一人もいない。
「つまり僕は今、甘雨ちゃんと残業デートをしてるって認識でよろしいか?」
こんなしょうもない独り言をつぶやく僕は、これといった取り柄のないただの平社員。
唐突な自分語りになるが、僕は良くも悪くも普通だ。仕事も言われたことなら普通にこなす。性格は内気で引っ込みがち、つまり陰キャ。
そんな性格故、頼まれた仕事を断り切れずにこうして残業をしているのだ。ちなみにこの前
…まあ独身だと交際費がかからないからな、僕は自由に使えるお金を貯めるためにあえて独り身でいるんだ。そう言い訳しておきます。
で、その貯めたお金はどうなっているかというと、全部ゲーム内課金に費やしてしまっている。嘘です話盛りました全部ではないです。
近年世界中で人気を博しているオープンワールドRPG『原神』。様々な魅力のあるキャラクターが存在するこのゲームでも、この『甘雨』というキャラクターは絶大な人気を集めていた。
そもそもこの子はいけない。まずビジュアルが良すぎる。何なんですかねあの黒タイツ、おっきなお胸が見えてるんですけど。乳●の輪郭もうっすら見えてますけど。どこまでも胸高鳴る幻想世界がそこには存在した。
このセンスで妹弟子の衣装もデザインしたお師匠様は変態だと思う。あんなの襲われても文句言えないよ。流石原神界におけるpixivの王と言われるまである。
次に声も良い。上田●奈さんが演じているこの声は、儚げでありながらも少女のような可愛らしい甘雨ちゃんを見事に表現している。しかし可愛いだけではない。戦闘中のボイスはいつもの穏やかな性格とは一転、仙人としてのかっこいい一面が垣間見えて素晴らしい。
そしてダメージを受けたときのボイス、通称被ダメボイスもいけない。股間に悪すぎる。弱々しい『大丈夫です..』なんて聞いたときには流石の僕もパンツ脱いだ。
っと、このようにオタク特有の早口を披露してしまったところだが、最近始めたての新規プレイヤーである私のデータではまだ甘雨ちゃんを所持してすらいない。全部友人とYouTubeから得た情報である。
だが、次のガチャでようやく念願の甘雨がピックアップされるんだ。もちろん完凸する予定だし、モチーフ武器ってやつも引いてみたいとは思う。強いのかは知らん。
だからこうして残業中にも動画を見て物欲を上げさせ、ガチャ禁に勤しんでる訳ですよ。
特に今ピックアップされてるキャラは僕が原神で甘雨ちゃんの次に好きなキャラなので、引かないように必死に耐えているのだ。
気を抜いたら「原石がない。」なんてことになりかねない。いまはひたすらに財布の紐を縛るのみである。
あっヤベ、考え事してたら手が止まってたわ。集中集中、なるべく早めに終わらせなきゃ。明日は土曜日だから、誘ってきた友人と通話しながらマルチで原神をする予定だ。
前回で璃月の魔神任務が終わったから、次は日本モチーフの稲妻?って国に行くことになるのかな。でもその前に念願の甘雨ちゃんお迎えが待ってるから、ガチャを先にやろうと思う。
「うぉぉ待っててね甘雨ちゃん!すぐに僕のおちんぎんブチ込んであげるからね!」
僕が覚えていたのはここまで。我ながら酷い最後の記憶だなと思う。何だよおちん●んブチ込むって、僕はセクハラおやじかよ。まだそんな歳じゃないだろ。
結局僕は甘雨ちゃんを引き当てたのかな。そのために仕事頑張ってたんだから、せめてそこまで思い出したいぞ。
…あっ、なんとなくダメな気がする。頭の中で甘雨ちゃんの角が生えた七七ちゃんが浮かんできた。僕は...負けたのか....
なんて現実逃避が出来るのはそろそろやめよう。現状、僕は竹籠(?)っぽいのに詰め込まれて身動きがとれない、というか体に力が入らない感じだ。全身に筋弛緩剤でも使われたんですかね。
人攫いに遭った?え、現代日本で?そんなことあり得ないよね。じゃあ夢か?
見たところ木造建築の、それにかなりの年季が入った家にいるようだ。あっ、変な色のねずみがいる。初めて見た。
しかも目の前には水色特大毛玉があり、もそもそ動いている。...でも何か良い匂いがするなこの毛玉。よく出来た着ぐるみ?でも何の為に僕の隣に置いてあるんだ?
やがて、水色毛玉はのそのそとゆっくり動き、こちらを見下ろすようにしつつご立派な四肢で立ち上がった。
僕の貧相な語彙では表現できそうにもないが、毛玉の正体は佳麗で神秘的といった言葉が似合う獣だった。伝説のポケ●ンとかそんな感じ。
あれ、心なしか甘雨ちゃんに似てる気がする。全体的に水色なところとか、頭に角っぽいのが生えてるところとか。
甘雨ちゃんが擬獣化とかしたらこんな感じになりそう。ちなみに僕は断じてケモナーではないぞ。
そんなことを考えている内に、甘雨ちゃん似の獣は足を器用に曲げ、身動きが出来ない僕の近くまで顔を寄せてくる。
やめてください食べないで下さい30代男性なんて食べても美味しくないですよ、それに食べられるならせめて最後の晩餐に甘雨ちゃんを食べたかったな(意味深)。
僕の最後の願いなんて余所に、獣がゆるりと口を開く。擬音的には『ぐぱぁ』って感じ。開かれた口腔から、その体温を表すかのような白息が僕の顔に掛かった。
待って僕ガチで食べられるの?えっ、ホントに?僕丸呑みフェチじゃないから興奮しないよ?こんな夢悪夢でしかないんだけど!
いや待て、この獣っぽいのが実は女神様で、「貴方にチート能力を授けましょう」的な展開が起きる可能性が微粒子レベルで存在している!
お願いします神様仏様甘雨ちゃんっぽい神獣様、どうかそんななろう系展開であって下さい!!
「fndgekfmakbdlag」
…えっ、すみません今なんて?NOT Japanese?