荻花洲より北東、僕が初めて帰終様と出会った『塩の魔神』の跡地で調査を行っていたとき、突然その話を切り出された。
「千岩軍旅団…ですか?」
「ええそうよ。あなたも見たことがあるはずだわ、妖魔を屠る法師や神の目所持者の集団ね」
この地には、古くから『妖魔』と呼ばれる存在がいる。人の負の感情から生まれるとか、魔神の残滓によって通常の生き物が変異した姿とか、自然発生とかよく言われているが、その真相は不明。
まあ、漫画とかアニメとかでよく出る典型的な敵生命体だと思っていい。それを祓うのが法師や千岩軍旅団だ。
特に『千岩軍旅団』の方はかなり強い。兵役で集められた神の目所持者たちはここに数年間所属することが義務づけられており、その間に年上から元素力の使い方を学ぶ。
兵役の後は元の生活に戻るかそのまま所属するかを選べるが、大多数はそのまま所属するらしい。まあ給料高いからね、軍人さんなんだし。
僕の覚えている限りでは、魔神任務でも『千岩軍』なる組織に追っかけられた気がするが、そのつながりは分からん。もしかしたらどっかで言及されてたかも知れないが、僕は初心者だから覚えてない。後進の組織とかなのかも。
「それが今度、天衡山の西、遁玉の丘の近くまで遠征するみたいなの。璃沙郊の近くで少し危険だから、貴方に同行してもらおうと思って」
はー、それは確かに危ないね。『最強の魔神』が統治している璃沙郊は、その魔神の影響か凶暴な妖魔が多い。
『最強の魔神』は文字通りこの辺りでは無類の強さを誇っており、その眷属たちも激戦を勝ち抜いてきた強者ぞろい。なかには操りの秘術を持つ魔神もその部下なのだとか。なにそのエロ同人にいそうなやつ。
自分を全くの強者だと信じているため、自分に刃向かう弱者は容赦なく切り捨てており、人口は減る一方。
それでも、強者には種族問わず力と祝福を授けるそうなので、完全な実力主義の町、というより城郭が出来ている。って、逃げてきた民が言ってた。
しかも、帝君とは真逆の統治方法の癖して、実力的には帝君よりも上。なので帝君は『塵の魔神』と手を組む他に民を守る方法がなかったそうだ。
だが、帝君が『魔神戦争』を終結させるには、全面戦争が不可避である。向こうは「力こそパワー!」って考えの集団だ、話し合いでは解決できそうにない。
無論、璃沙郊に近づくほど、そんな暴力集団と鉢合わせする可能性もあがる。ずいぶん危険なところに遠征するんだなぁ~。
ん?待って、僕行くの?
いやいやいやいや、無理ですよ!絶対やらかしちゃいますって!
そもそもまだ神の目なんて無いし、「三眼五顕仙人」として元素力を扱えてすらないんです。足を引っ張るだけになっちゃう…
「大丈夫。甘雨、貴方には仙術を使って治癒師として活動するだけ、前線はまだよ。安心して、既に話は通してあるわ」
「えっ、えっと、草元素の神の目を持ってます。かっ、甘雨と申します!」ペコリ
トントン拍子で話が進んでしまい、今は天衡山の麓の鉱山都市。その西の関所で、今回同行する千岩軍旅団のメンバーたちに自己紹介をしていた。
草元素というのはもちろん嘘である。治癒の仙術と偽っても一番怪しくないのが草元素と判断されたまで。ご丁寧に神の目のレプリカまで持たされた。
目の前には5人。ベテランそうなイケオジが2人と若い男が2人、僕と同じくらいの女の子が1人だ。
皆強そうな気配がする。気配がする、というのは、僕が緊張しすぎてまだ顔も見れていないからだ。
唐突だが、僕は人見知りである。それこそ学生時代でさえ友達がほぼ出来なかったぐらい人見知りである。
だから、僕はこのとき強く恨んだ。こんな熱心な部活動の合宿のような、常に張り詰めた空気の遠征に放り込んだ帰終様を恨んだ。
「甘雨は帰終様が直々に推薦された子だ。頭の角は代々伝わる髪飾りだそうだ、今回は臨時の治癒要因として我ら第3小隊に加わってもらう。お前たちはこの子と即興で連携をとることが目標、以上だ」
見かねたイケオジの片方が手短に僕の紹介をしてくれた…のだが、後頭部に突き刺さる視線が痛い。
きっと「こいつおどおどしてるし、実力もなさそうだ。コネで来た無能なんだろうなぁ…」って目で見られているのだろう。ごめんなさいそれ事実です。
ここで気の利いた一言が言えたのなら評価が変わったのかも知れないが、僕のコミュ障はどうやら魂に刻み込まれたものらしい。
転生した今でも学生時代と同じように孤立してしまうのだ…子供の相手なら出来るのになぁ。
そもそも、人間の評価がコミュ力で決まってしまうのはどうなんだ?学生時代は「学力」って別の指標があったけど、大人の仲間入りをしてからはそれすら無くなったし。
職場ではコミュ力が強い奴の方が上司に気に入られてたしなぁ。飲みに誘われてた人もいるなかで、僕は雑に残業させられてた。かなしいなぁ、話せない僕が悪いのは分かってるんだけどね。
まあ今更社畜時代のことを思い出しても無駄だ。でも、ここも同じような場所なんだろう。
いまさら後悔してももう遅い。僕は視線から逃げるように隊列の後ろに加わった。もう帰りたい……
「では諸君には、天衡山東の廃鉱を調査してもらう。危険度高の魔物も確認されているから、十二分に警戒しろ。なお、我ら二人は遠方より様子の確認はするが手出しはしない。以上」
イケオジ二人はそう説明して、まるで霧のように見えなくなっていった………あっ、風元素を応用したんだね。大体200m後方に気配が残ってるわ。
「それではぁ!残された僕たちは、簡単な自己紹介といこぉう!!」
うわっ、何だ!うるさっ!テンション高っ!
指導陣が消えてから、若い男の内の一人がいきなりハイテンションになりやがった。
こいつ絶対学校とかでも先生がいなくなったら騒ぎ出す陽キャじゃん、やだなぁ…
「顔を上げてくれ、甘雨様。そしてぇ!敬虔な貴方様の使徒であるぅ僕のぉ」
「ちょ…ヴォル、ちょっと待ちなさいよ!あんたこの前……ゴニョゴニョ」
ん?このハイテンション男、女の子とこそこそ話しだしたぞ。あぁー、これはあれか、僕の悪口でも言ってんのかな。
もうやだ、帰りたい。帰って動物たちと戯れたい。癒やされたいモフりたい。
「…ふむ、なぁるほど。よぉーく理解した!
「はっ、はいっ!」
あまりの声にびびって顔を上げれば、氷元素の神の目を引っさげた、北欧風のイケメンが一人。…なんか見たことある気がする。気のせいか。
背中には楽譜のような水色の本が浮いている。きっと彼の武器なのだろう。服も何か高そうな西洋風だ(適当)。
うわークソっ、神の目持ちでイケメンとか地獄に落ちろ。嘘です僕は帝君との契約で人の不幸は願えないから落ちないで下さい。
あれっ、でもここ最近イケメンの神の目持ちってどこかでいたような気がする…
「僕はッ!貴方様になら何と呼ばれても構わないよ、甘雨様!さあっ、ヴォルフィでもヴォルフェールでも、何とでも呼んでくれッ!」
なんじゃこいつぅ…めっちゃぐいぐい来るわ……
僕は積極的な人は嫌いではないが、初対面でいきなり迫られると萎縮しちゃうのだ。誰か助けて…
助けを求めるように視線をそらすと、ハイテンション男の隣の女の子がニコニコ手を振りながら助け船を出してくれた。
「私は帰離原生まれ、帰離原育ちの胡元よ。簡易的な薬師としても活動してるわ。よろしくね!」
あぁ、めっちゃ常識人っぽい!めっちゃ常識人だよこの人!しかも超かわいい。
黒い中華風のドレス、しかし丈は短くて動きやすそうだ。健康的な太ももが出ていて実にけしからん格好をしている。うひょひょwエッチだねぇww
顔も小さくて、くりくりおめめで、薬と梅の良い匂いがする。髪は黒髪ロングで綺麗に束ねられている。まさに1000年に一度の美少女だ。さっきの男が霞むわ。
でも、あれっ…
「えっと、もしかして、前に町で助けてくれた人ですか?」
この子の気配には覚えがある。少し前の話になるが、前に町中で変な男に絡まれたことがあったのだ。そしてその時助けてくれた、安心する気配に似ている気がする。
「わっ、覚えててくれたのね。あのときは仙…じゃなかった、甘雨ちゃんみたいにかわいい子に抱きつかれて驚いちゃった!」
やっぱりそうだ!しかも向こうも覚えててくれたなんて、これ相思相愛じゃね。結婚しませんか?
「ちなみにそのとき僕もいたのですよ!」
「あんたは覚えられてなくてよかったでしょうが!」
「あっ、甘雨ちゃん、なんでもないわよ。あっははは…」
はっ?なんやあのハイテン男、僕の胡元ちゃんとベタベタしおって。今すぐその手を離せや。チ●コもぎ取るぞ。クソが。
悔しいことに、男の方もイケメンだから絵になる。畜生、イケメン爆発しろや。
…もしかして、恋仲だったりするのかな。嘘だろ、脳が破壊されたわ…BSS…
「それでは、拙者は極東の城下町から流れ着いた浮浪人、名を風丸と申す。よろしくでござる」
脳破壊されて呆然としていると、和風の着物っぽい服装の男が話しかけてきた。
短い黒髪に赤色のメッシュが入っていて普通に格好いいと思う。顔はカワイイ。男の娘だから守備範囲外だけど。
風元素の神の目を持ってて得物は片手剣。わびさびを感じさせる佇まいだ。つよそう(適当)。
極東…ってことは日本モチーフの『稲妻』って国がゲームではあったところから来たのか。
この三人の中で一番シンパシーを感じるのはこの男だ。ジャパニーズの仲間意識を覚えた。
三人が自己紹介を一通り終わらせたところで、バラバラだった視線が僕に集まった。なるほど、次は僕の番だな。
「じゃあ、私もっ!甘雨です、元素の力は扱えないけど、弓を少々、それと斥候として活躍できると思います」
生きた虫を踏まず、生きた草を折らず、群れず、旅をせず、罠に入らず、穏やかで寛大で、温厚で優雅な一族、それが麒麟。
この内七割ぐらいは当てはまらない気がするが、僕も一応半分は麒麟である。だから、僕はこのチームで仮にも斥候として頑張った。頑張ったのだが。
「その子が最期です、頼みますよ、風丸さん!」
「承知した!『紫電・二連撃』、はあッ!!」
嘘だろ、意味が分からん。この人たち、個々の能力が高すぎるせいか、ほとんどの相手を元素スキルっぽい技一発で倒してる…
これ、僕が回復役で来た意味あった?一応麒麟の本能フル活用して周囲を索敵、罠と地形把握しているけど、ぶっちゃけどんな相手でも武力でごり押し出来そうなメンバーだ。
ハイテン男は法器を使ってスライムを氷づけにし、胡元ちゃんは杖っぽい禍々しい槍で魔物を突き刺し、風丸はかっちょいい日本刀でベビーヴィシャップの硬い外皮も一刀両断だ。
正直引くぐらい強い。『千岩軍旅団』の強さは本物だった。廃鉱の薄暗い明かりだってなんのそのだ。
僕も弓を構えて数匹の飛行する魔物を撃退したものの、戦績を振り返るならばメンバーの中で確実に最下位だ。やるせないわ。
あかん、高校時代の学園祭の準備期間中、放課後も使って出し物の準備をし、クラスメイトは一丸となって張り切ってるのに、僕だけ仕事がなかった黒歴史を思い出してしまった。
そのくせ申し訳なさは感じるものだから、「何かすることない?」って聞いたんだ。でも、返ってきた返事は「あー…仕事があったら言うから待ってね」だった。
無論それ以降返事は返ってくることはなく、僕は教室の隅で皆が帰るまで声もかけられなかった。つらい、しにたい。
それ以来、もう二度と不甲斐ない思いをしたくないと誓ったんだ。よーし、今できることは…
「あっ、モグラさん、この辺りを調べてくれたんですね。ありがとうございます、お礼にスイートフラワーの花弁をあげますね。私のおやつなので大切に食べて下さい」
「あ゛ぁ゛素晴らしい光景だ、甘雨様が動物とお話ししておられる」
「あんたちょっと黙ってなさい。私も良い光景だと思うけど」
あっ、またこそこそイチャイチャしとる…いいな、僕も胡元ちゃんとイチャイチャしたいな。
「甘雨殿は動物と会話出来るのでござるか。拙者の故郷には、逆に人間と話せる動物がいるのでござるよ」
ぼっちな僕を見かねたのか、風丸が僕に会話を振ってきた。お前…いいやつだな!
日本モチーフの国で言葉を話せる動物って言ったら、やっぱり妖怪とかかな。猫又とか化け狐とか。
「おっ、甘雨殿は詳しいでござるな。以前拙者が出会った妖怪に……」
風丸は浮浪人らしく様々な場所を巡っていたので、やっぱりお話が上手で引き込まれた。時間に余裕が出来たら、いつか僕も他の場所に行ってみたい。そう思えるようなワクワクする話を沢山してもらった。
途中からヴォルフガングと胡元ちゃんも参加してきて、それぞれの故郷の話に花を咲かせた。もちろん、周囲の警戒は怠らなかったけどね。
その日の夜までには流石に調査は終わらず、一度廃鉱を出て、安全地帯で野営をすることとなった。
三人は手慣れた様子でテントとたき火の設営をする。僕は何も手伝えずにうろうろする。
「あのー、すみません、本当に何も手伝うことはありませんか?」
だめだ、耐えきれない。このままだと、僕は他人に働かせて自分は何もしない穀潰しと化してしまう。それだけは僕のプライドが許さないわ。
「いいのいいの!甘雨ちゃん今日ずっと周囲を警戒してくれてたでしょ?今ぐらいは休みなよ!」
「実を言うと、拙者達は普段、索敵担当などいなかった故に度々ピンチに陥っていたのでござるよ」
「うむ、僕もそう思うぞ。風丸なんて基本敵に突っ込むからな。甘雨様がいてくれてよかったのだ」
えぇ…僕そんなに役に立ってないのに皆優しいな。警戒なんてどんな時でもするのが普通なのに、そんなこと感謝されちゃ背中がむずがゆいぜ。
あっ、そうだ。この際疑問に思ってることはちゃんと聞いてしまおうかな。参考程度に、どうしても聞きたいことがあったんだ。
「えっと、じゃあ皆さんは『神の目』ってどうやって手に入れたんです?」
僕はまだ神の目を持っていないが、この三人は既に入手済みだ。
いろいろな噂はあれど、やっぱり実体験が聞けたら一番いいなぁと思っての発言だ。
しかし、僕がこう言ったとたん、急に皆が静かになった。あれ、僕変なこと言っちゃったかな…
「あははっ、甘雨ちゃん、そーゆーのはうちの旅団じゃタブーなんだよ!私は別に言っても良い内容なんだけどね!」
「『神の目』を入手するきっかけは人それぞれ、もちろん他言出来ないような体験の者もいる。僕も構わないがね」
二人は諭すような口調で僕を諫めてきた。そっか、確かに今のはめちゃくちゃ踏み込んだ質問だった。
『神の目』は人の強い渇望に反応して授けられる。それが「憎い」「殺したい」といった負の感情の場合であっても。
その証拠に、僕の発言から風丸はずっと黙ったままだ。これはやらかしたのかも知れん。
「すみません風丸さん!私、何も考えず失礼な発言を!」
私は頭を下げて誠心誠意謝罪する。完全にデリカシーの無い発言だった。だが…
「いいでござるよ、甘雨殿。悪気があってのことではないのは分かっておる故。それに、拙者も仲間に隠し事はしたくないでござる」
そうして、風丸は身の上話をぽつぽつと話し出した…
曰く、風丸は代々続く刀鍛冶の家系の元長男だったらしい。しかし弟の策略に嵌められ人殺しの濡れ衣を着せられた後勘当され、名字も捨てて浪人の身になったそうだ。
「拙者の友人は拙者の家の事情に巻き込まれて殺された。だが、そのことを一切恨まず、最期には「お前の友でいられてよかった。俺の分まで楽しく生きろよ」と残した。故に、拙者は諦める訳にはいかぬ」
…泣けるわ。良い話すぎる。僕は前世から、美しい友情の物語に弱いのだ。その手の話は何度読んだって飽きないし、感動する。本の虫だった僕は、それで何度も泣かされた。
「その時の友人の遺品が、いつのまにか神の目に変わっていたのでござるよ…って、そんなに泣かないでくれ甘雨殿。拙者は貴方を泣かせるために話したのではないでござる」
「じゃあ次は私だね。あれは大体5年ぐらい前かな…」
曰く、胡元ちゃんはロリだった頃、母親の商売の手助けをするために薬草を採りに行ったが途中で怪我をして死にかけたらしい。
そのときに助けてくれた人に恩を返そうと誓ったときに授かったそうだ。
…泣けるわ。僕は昔から、幼子が親の為にお手伝いをしようとする姿に弱いのだ。その上、恩を返すためだなんて。良い子すぎでしょ。
いかんな、精神年齢40歳、涙腺が弱くなってるのかも。涙が止まらん。
あとその仙人さんはおそらく理水畳山真君か削月築陽真君だろうな。あの人たち山に詳しいツンデレだから、たぶん合ってる。
「もー、そんな泣かないでよっ!絶対ぜぇーったい、100倍返しでお返ししちゃうんだから!」
「次は僕だな。僕はもともと「音楽の都」の異名をもつ都市から来たのだが…」
曰く、音楽家を代々排出してきた家系に生まれたヴォルフさんだったが、生まれつき目と耳が悪く、一家で腫れ物扱いをされていたらしい。
だが、半ば追い出される形で来た帰離原である仙人の音楽を聴き、いつの間にか体が動くようになったそうだ。
…泣けるわ。ごめんねイケメン死ねとか思っちゃって。どうせ生まれてから不自由なく暮らしてたんだろって思い込んでたわ。
僕も周りが出来ていたことが出来なかったタイプの人だったから分かる。そんなとき悔しいしどうしようもないよな。僕だったら諦めてたかも知れん。お前は凄い奴だよ。
あとおそらくその仙人はピンさんだろうな。あの人の音楽マジで綺麗で素晴らしいから、人の傷ぐらい治せるやろ。
「あぁ、そんなに泣かないで下さい。貴方様のこと、末代まで絶対忘れさせはしません」
「最後は甘雨ちゃん…だけど、これは無理そうだね。そんなに泣いちゃって、ほら、これで拭いてよ!」
胡元ちゃんは綺麗な刺繍が施されたハンカチを渡してくれた。正直めっちゃ高そうで使いづらいが、そんなこと言ってられないぐらい僕の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「だっで、だっでぇ、皆ざんの゛お゛話が…皆さん゛の゛せ゛い゛な゛ん゛でずがら゛ね゛」
「ははっ、何と言ってるか分からないから、拙者たちのせいではないでござるな?ヴォル殿?」
「あ゛ぁ゛お泣きになる甘雨様も素晴らしい…」
「あんたちょっと黙ってなさい」
こうして、僕たちの夜は更けていった…