うっ…おなかいっぱい…
僕は千岩軍旅団での訓練の帰り道、昼食を取り過ぎてしまったことを後悔していた。
原因はこの1年で仲良くなったある少女の手料理だ。名前は綾ちゃん。
元々は絶雲の間でべそかいてた普通の少女だったのだが、大体六ヶ月前ぐらいに氷元素の神の目を発現。
そのせいで旅団に入隊することになり、僕とほぼ一日中べったりになった。
それだけならまだ良い。僕も美少女と一緒に居られて幸せハッピーってとこだっただろう。
ただ…綾ちゃんは、何かその…重いのだ。それに僕と接するときには何故か湿度もあるのだ。この前なんて僕の角触られてやらしい雰囲気になっちゃったし。危うく童貞卒業するところだったぞ。息子ないけど。
彼女が僕と同じで人見知りなのは分かる。だが、休日を一緒に過ごしたいという趣旨を冒頭「会いたいな・・・」から始まる長文の手紙で伝えてくるタイプの子だ。
しかもこの前なんて、「甘雨おねえちゃん、今日はどんな日だと思う?・・・正解は、出会って240日の記念日でした!」って言う始末。メンヘラ彼女かよ。
さっきは手作りの昼食を僕に振る舞ってくれたのだが、あり得ないぐらい美味しかったから逆に怖い。しっかりと
しかも僕が美味しくてつい顔を緩めて食べてるときに、なんかもう恍惚やら享楽やらが浮かんだ興奮した表情でいたのを見逃さなかったぞ。絶対何か変なもん入れただろ。
ヤンデレの女の子に死ぬほど愛されて(恐怖で)眠れなくなっちゃうんですけど。どないすればええんや…
「あっ、いたいたおーい甘雨ちゃん!今、ガキどもが絶雲の間に採取しに行くってうるさくてねぇ。もし時間があったら、見てやってくれない?」
「甘雨ママだ!一緒いこー!」
「甘雨ママ、案内おねがい!」
ふと、何度も聞いた威勢のある声に呼び止められた。僕が初めて町で接触した人でもある露店のお姉さんの声。
遅れて、僕の周りにロリショタ軍団が群がり始める。彼ら彼女らも全員顔見知りだ。というのも、この僕をママだとのたまう集団は、僕がついこの間保護しちゃった孤児たちであるからだ。
ここ数年で魔神戦争は激しさを増し、戦争孤児も日に日に増えてしまっていた。
酷いときなんて、町のゴミ捨て場をあさって生活している子もいたほどだ。おそらく、保護者や扶養者が戦死したり蒸発したりしたんだろう。
どう考えてもこれはいけない、と思った。僕は帝君と『璃月の無数の命を守り幸福にする契約』を結んだ。
だがこんな光景が広がっていては、僕は契約を施行出来ているとは言えないだろう。つまりは契約を破っている。
現状、帝君は前線で戦っているので帰離原の町の現状を知らないが、もし帰ってきてこれを見ると激おこ帝君になるかも知れん。
聞くところによると帝君は、契約を破った者に対しては誰であろうとクッソ塩対応になり『岩食いの刑』を受けさせるらしい。こわい。
僕は実際に見たことはないのだが、文字通りに考えるなら『岩食いの刑』とは岩を食べさせる刑なのだろう。怖すぎる、ヤクザかよ。
前世と違って食いしん坊の僕だが、流石に岩は食べても美味しくないと思う。刑罰回避の為にも、孤児たちを救わねばなるまい。
僕は、一番近くで倒れていたボロボロの布きれを纏っているネコミミ兄妹へと近づいた。
二人ともガリガリに痩せ細っており、兄の方は特に骨だけみたいになっている。妹ちゃんも今にも目を閉じてしまいそうだ。
それでも兄は近づく私に警戒し、必死に妹ちゃんを背中に隠して庇おうとしている。まるで威嚇する獰猛な猫のようなまなざしで。
・・・・・・いいお兄ちゃんなんだろうな。こんな子を見てると、おじさんはますます助けたくなっちゃうんだ。
僕は治癒の仙術を施しながら二人を抱きかかえる。ほぉーら、怖くないですよ~超絶美少女甘雨ちゃんのスマイルも見せてあげる。
痛っ、このネコショタ僕の首筋を噛みやがった!クソッ、留雲真君にだって噛まれたことないのに!
いてっ、今度は顔を殴ってきやがった!留雲真君にも(ry
しっかしなんと強い警戒心か。まるで野獣かと言わんばかりの眼光で、僕をにらみつけながら噛んでいる。・・・結構噛む力強くなってきたな。絶対歯形ついてるぞこれ。ネコ種族だから牙するどいし。
あ゛ぁ゛ー゛い゛た゛い゛い゛た゛い゛首゛の゛肉゛も゛け゛る゛!確かに最近なんとなくムチっとしてきた感じするけど、(たぶん)食べても美味しくないよ!
ど、どうすればいい?とりま頭を撫でてあげて、警戒心を解かせるような言葉を投げればいい?でもそんな言葉考えつかないぞ!!
・・・あっ、そうだ!この年頃の子って、やっぱりお母さんが恋しいんじゃないかな?僕も幼稚園の頃は母親大好きっ子だったから間違いない。ちなみにマザコンではない。
「え、えーっと、もう大丈夫ですよ、安心してください。これからはこの甘雨を母親と思っていいですからね~」
こうしたやりとりがあと10回は続いた。思ってたより多かったが、僕は最後の方は無我の境地へと至りママですよbotと化していた。
その結果出来たのが目の前のこれだ。僕をママと呼んで止まないロリショタ軍団。頼むからちょっと静かにしててくれ。
「甘雨ちゃん、もう子供できたらしいわよぉ~。しかもあんなにたくさん」
「へぇ~やっぱり仙人様ともなると、人間とは比べられないぐらい子だくさんなのねぇ」
ちがいます。あと仙人じゃない体でいるのであまり言いふらさないでください。
「ほぅ、甘雨ちゃんって既婚者だったのか・・・明日の瓦版に掲載するか」
「先輩、下手すりゃ死人が出ませんかね?俺は金になるなら別にいいと思いますが」
やめなさい。変に広げないでください。僕を金儲けのダシに使うな。
「・・・ヴォル殿?あれ、急に動かなくなったでござる!」
「返事がない、まるで屍のようね」
そこの三人組は何故勘違いしてんだ。僕が結婚なんてするはずないこと分かってるだろ。
ちなみに拾ってきたロリショタ軍団は僕が帰終様に土下座して用意してもらった郊外の広い家で、僕と仲が良い町の人が善意でお世話してくれることになった。
僕も拾ってきた責任はとるつもりなので、時間があったら遊んだり勉強を教えたりしている。皆覚えが良い子たちばかりで何よりだ。
おかげで
あぁ・・・留雲真君の体毛に包まれて寝るイチャイチャ添い寝タイムがなくなってしまう・・・
まぁそんなわけで、僕は絶雲の間にこのロリショタ軍団を引き連れて採取しにいくことになった。
普通こんな大人数で行くのは危ないんだけど、絶雲の間は僕のホームグラウンドみたいなとこだし大丈夫でしょ。
「よっし、到着!じゃあ今日はこの一帯で採れるものを中心に集めていこうか。あまり遠くに行きすぎないようにしてね」
「「「はーい!」」」
そう返事をしたと思えば、子供達は一目散に思い思いの場所へ走って行ってしまった。
おい!薬草採りに来たんだろ!遊びに来たんやないぞ!……でも、まあ遊ぶのもいいか。
この子たちはこれまで沢山辛いことや苦しいことを体験してきたんだしな。少しぐらいサボってもバチは当たらないでしょ。
甘い考えだと思うけど、僕はどんな時代でも子供は友達とのびのび遊んでほしい。例えそれが、魔神戦争の時代であっても。
面倒なことは全部僕とか大人や仙人の方でなんとかするから、子供たちは優しい豊かな心を持って育ってくれたらいい…
と、しみじみ思うようになった。僕も精神年齢は結構いったからかな。ジジくさい考えになってしまった。
いけないいけない、僕は超絶美少女甘雨ちゃんとなってるんだ。心も若々しくないと。
「あっ!こらぁ!提米くん、いくら鳩が好きだからといって崖の上まで登るんじゃありません!」
「旭井くんと香笑ちゃん、それは美味しそうですが毒がある植物なので持って帰っちゃだめですよ。食材が必要なら絶対に安全なものを選んで!」
「千夜ちゃんと哲蔵くんは体が悪いんだからあまりはしゃがないようにしてくださいね!」
・・・こ、子守って大変すぎるだろ。正直舐めてた。クソ走り回って疲れたわ。体は若々しいはずなのに。
ちょっと目を離した隙に3人ぐらいはいなくなる。世の中の母親父親たちはこんな大変なことやってたんだ、普通に尊敬するわ。
怒られそうだけど、正直無計画に拾ってきたこと後悔してる。こんな苦労するとは思わんかったんじゃ。
「おつかれ様です、甘雨マ・・・さん。僕はあっちの子たちを見てきますね」
辟易していた僕に掛けられる救いの一声。茶色のネコミミショタ、カッツェレイン一族のディラフくん。彼は僕の首筋を噛みきりかけた子だ。
もともとこの子も孤児の一人だったんだけど、種族の影響か成長速度が速くて他の子よりも大人びている。
それに、追跡、俊敏に飛び回る、暗闇でも目が利くetc・・・卓越した素質があってリーダーシップもある。おまけに将来はイケメンになりそうなショタっ子だ。
拾ったときは一番ちっちゃい子猫みたいな子だったんだけど、いつの間にか身長も二回りぐらい追い越されてしまっている。毎回話すときは見上げないといけないから大変。
もうこいつ一人に子守を全部任せてもいいんじゃないかな、とか思ったりするけど、この子もまだ年齢的には僕の半分にも満たないからな。
まだ僕にとっては庇護対象だ。でも、この申し出はとてもうれしい。褒めて使わす。少しだけ背伸びして、よっと・・・
「ディラフくんは手伝ってくれてえらいですね、頭なでてあげます。でも、貴方もまだ子供なんだから、私のことは気にせず遊んで大丈夫ですよ?」
母親が子供を褒めるには、頭を撫でてあげるのが一番だ。現に僕がそうだったし。ちなみに断じて僕はマザコンではない。
ネコショタは恥ずかしいような、止めてほしいような表情を浮かべながらもこちらを見下ろしてくる。かわいいね。
もしこの場にショタコンがいたら即ルパンダイブする光景だが、あいにく僕にそんな趣味はない。
「や、やめて!もう僕を子供扱いしないで!」
あれま、男の子のプライドが傷ついちゃったかな。僕は前世も今世も撫でられるのが普通に好きだから子供たちもそうかなと思ったんだけど、どうやら違うみたいだ。反省反省。
僕はぼっちだったが故に他の人の感情が分からないのが偶に傷だな。どうしても自分準拠で物事を考えてしまう。
仮にもガキどもの保護者になったんだから、もっと気持ちが読み取れるようにお話ししないといけない。ただ、陰キャには厳しいなぁ・・・
「よーし、そろそろ良い時間なので皆で帰りましょうか。こっちに集まってきてくださーい」
太陽が傾き、西の空が綺麗な橙色に染まり始めている。もう帰る時間だろう。
僕のかけ声に応じて子供達がわさわさと集まってきた。まるでピク●ンだ。オリ●ーってこんな気持ちだったのか。
「・・・あれ、二人足りませんよ。皆、ディラフくんと帕拉德くんはどこに行きました?」
呼びかけてからも二人が来なかったので、他の子たちに質問してみる。だが、皆は顔を見合わせてポカンとした表情を浮かべたままだ。
面倒見が良くて賢いディラフくんがいるから変なところには行ってないとは思うんだけど、帕拉德くんは冒険者気質のくせしてうっかりさんだからな。この前なんて寝ぼけて僕を突き飛ばしたうえに(偶然だろうけど)お胸にタッチして来たし。あのときは流石に怒った。
どれどれ、二人の居場所はどこかな・・・っと。
僕はすっかり慣れ親しんだ絶雲の間の空気と仙獣の能力で周囲を確認してみる。
すると、それほど遠くない場所に二人の反応を見つけた。良かった、すぐ行けそうなところだ。
・・・だが、二人の他にも、見知らぬもう一つの反応があることに気づいた。自然たちが、この人間は危険だと伝えてきている。どうして早く気づかなかったんだ。
もしかしたら、いや、かなり不味い状況かも知れない。荷物から急いで武器を取り、残りの子たちに話しかける。
「いいですか、私は二人を探しに行ってきます。すぐ戻ってきますから、間違ってもここから動かないようにしてくださいね」
「帕拉德は早く逃げて!ここは僕がなんとかするから!」
木の枝を飛び移りながら移動して二人がいる場所の様子を把握すると、解体用のナイフを持った男がディラフくんを押さえつけている。足も折られているようだ。
そんな中でもディラフくんは的確に指示を出し、帕拉德くんを逃がした。良い判断だ。
けれど男は一人逃げたのに焦るような様子がない。ディラフくんの首に手を回し、手足での抵抗をさせないような体勢をとっている。
なんだ・・・?このままだと一生硬直状態のままだぞ?まるで誰かの到着を待っているような思惑を感じる。
・・・まっ、いいや。僕には悪人の思考なんて考えても分からん。人質を取られているとはいえここは僕の庭やぞ。
上から奇襲を掛けてちょっと殴ればイチコロだろ。
「おい、見てんだろ女仙人!このままだと、こいつがただじゃすまないぜえ!!」
「ッ!甘雨ママ、来ちゃダメ!」
・・・こいつどうして僕のことに気づいたんだ?今の僕の気配隠蔽能力は、仮に仙人でも気づかないぐらいの練度なのに。
事態は一刻を争うし、バレてるなら奇襲は成功しない。おとなしく降りよう。
「私を探してるみたいですが、何が目的ですか?お金なら残念ながら今はありませんよ」
木から降りて二人の前に姿を現す。もちろん相手の素性が分からないので警戒を忘れない。それに、初めて悪意ある人と対峙したためか先ほどから体の震えが止まってくれない。なんなら妖魔よりも怖いかも。
だが、僕の用心とは裏腹に、男はまぬけに驚いた顔を見せた。
「ほぉー、やっぱりいたのか。流石は仙人サマってとこだなぁ!」
・・・・・・クッソ、こいつ鎌掛けてきただけか。もうちょっと冷静に待機しておけば良かったかも。
けれど後悔しても後の祭だ。今の手札で状況を打開する方法を考えなくてはならない。
僕の所持品は鈴、服、弓、少しばかりのモラ、以上だ。交渉に使えそうなものがない。
矢で足を射って動けなくするか?いや、でもディラフくんを盾にされたらどうしようもない。手詰まりか・・・
・・・いや、かろうじて弓は交渉材料になりそう。せっかく鳴海栖霞真君に貰ったものだけど、命には代えられない。これで交渉をしよう。
「貴方が私に何を期待しているのかは分かりませんが、あいにく手持ちはそんなにありません。なので、この弓を差し上げましょう。これでどうです?」
しかし男は醜悪に顔をゆがめて、僕の提案を切り捨てる。
「はっ、そんなものに興味なんかねぇよ!俺が欲しいのは『
ナイフを突きつけながら、僕を指さして声を荒げる。完全に勝ちを確信している声色だ。
前世でも今世でも、これほどなまでに人から悪意を向けられたことはない。底知れぬ恐怖を感じて泣きそうになる。怖くて息が詰まって、呼吸が上手く出来ない。
・・・でも、どうしようもない。何も抵抗策が思い浮かばない。
これから何をされるか分からないが、二人して嵌められるより僕一人だけの方がマシのはずだ。
もう場の有利なんて完全に向こうのもの。腕を上げて無抵抗の意思を示して顔を下ろす。
「そうだ、そのまま手を上げてこっちに来い。いいぞ・・・・・・ガハァッ!?ゲホッゴホッ」
「今だよ逃げて!」
突如、男が苦しそうな声を上げた。と同時にまだ幼いが強い意志を感じられる声が響く。
見ると、ディラフくんが油断した隙をついて男の鳩尾に鋭い頭突きをかましている。
だが、大した効果は無かったようですぐに立ち上がった。
「このガキィ!孤児のくせにやりやがったなぁ!!」
男がディラフくんを地面に押さえつけ、怒りにまかせて殴る蹴る・・・
目の前で血が噴き出す。土に汚れ、涙とアザでまみれていく。
「やめなさい!」
そうだ、僕が諦めてどうする。僕は仮にも仙人で、大人で、保護者なんだ。僕が守るために武器を取らなきゃいけないのに。
そんな決心とは裏腹に恐怖で手が震える。視界も涙でゆがんでいる。怖い。怖い。怖い・・・
「はっ、震えてんじゃねぇか。そんなんじゃ弓なんて射れらないなぁ!やっぱり噂どおりだなァ、心やさしい
「ッ!う゛わ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
僕が放った矢が、男の頭を貫いた。
確 定 会 心
(殺人)童貞卒業だよ良かったね甘雨(偽)ちゃん
殺すか殺されるかの時代だから許して・・・