童貞社畜が社畜エロ羊となるまで   作:タイツ信者真君

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すみません、結構表現ヤバいかもしれません。この作品の中で一番陰鬱な回です。
R-15の範疇じゃないと思われた方がおられましたら至急お伝え下さい。すぐ差し替えます。












逸俗逡巡

 

 

 

 

 

「えっ・・・」

 

 

足を狙ったつもりだった。少しだけ動けなくして、逃げるだけの時間が稼げればと。

 

 

震えて構えがずれた。頭なんて狙っていない。

 

 

勢いよく血があふれ出る。辺りに濃厚な匂いが満ちる。男が膝から崩れ落ちる。

 

 

「はッ、はぁッ、ああぁ・・・」

 

 

心臓が爆ぜるような早鐘を鳴らし、血流がぞんざいになっていくのを感じる。

べたついた汗が体中から噴き出す。首筋が張る。

 

 

「あああああああ・・・・・・!!!」

 

 

激しい鼓動、荒い呼吸、目がひどく開かれる。

脱力して弓を落としてしまった。地面に落ちる。

 

 

「ッあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

カタカタと歯を打ち鳴らす。声にならない声が漏れる。

 

 

震える足で倒れ伏した男に近づき、仙術をかける・・・治らない。部位損傷が激しすぎる。

 

 

「っあ、はぁー、はぁー、はぁーはぁー」

 

 

虚ろな目の男を抱きかかえ、再度全力で仙術をかける。・・・効果はない。

 

 

「あぁぁ!クソ、畜生、治れよ・・・ああそうかよ、私が、僕が・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も留雲真君の洞天で目を覚ます。天気は嫌になるほど快晴。僕の気も知らずに。

 

「・・・甘雨、もう訓練の時間ではないのか?その・・・えー、外に出ることも大事だ」

 

外に出ろなんて、貴方がいいますか。でも、もう三日も訓練を無断で休んでいる。そろそろ行かないとまずい。

 

これまで僕は、どんな気持ちで外に出てたんだっけ。ああそうか、責任感だ。僕は仙人、甘雨ちゃん、千岩軍旅団の一員。

帝君との『契約』に従って、全ての幸福を守るんだ。元孤児の子供たちだって保護したんだ。僕が、僕が守らないと。

 

「そうですよね、真君。三日間もお騒がせしました。私はもう行きますね」

 

そう、僕は仙人。これぐらいなんともない。なんとも・・・

 

「甘雨・・・」

 

 

 

 

「おっ、甘雨ちゃんじゃないか!ここ数日姿を見なかったけど、何かあったのかい?」

 

いつの間にか仲の良いお姉さんの露店の前を通った。いつもと同じ快活な声で話しかけてくる。眩しいなぁ。

 

「い、いえ・・・少し疲れてただけですよ。これから駐屯地の方へ行きます」

 

うん、良かった。いつも通りの受け答えが出来てる。数日話して無かったから声がどもっちゃうかと思ってたけど大丈夫そう。

 

「すみません、休んでた間子供たちを見てもらってましたよね。今度お礼を・・・・・・ヒッ!」

 

店にある防犯用ナイフが視界に映る。それは、男が持っていたものによく似ていた。

 

あの光景がよみがえる。ナイフを突きつけ、僕に比類の無い悪意を向けてくる男。

 

「うぇ・・・っ、っっひぃ、はぁー、はぁ、はぁ」

 

目が見開かれ、視界がぼやける。息が上手く吸い込めない。

 

「ッ!?どうしたんだい!?具合悪いのかい!?」

「あっ・・・ぐ・・・い、いえ、大丈夫です。すみ、ません、もう失礼しますね」

 

逃げる、逃げないと。あの男から。

 

 

 

 

「甘雨久しぶり!ってあれ、髪もボサボサだしクマもすごいよ?どうしたの?」

 

訓練所には、胡元、ヴォル、風丸がいた。僕が着くなり心配してきてくれる。優しい。

 

「いえ、少し夜更かししちゃって。なんでもないですよ・・・」

 

嘘でも良いから笑わなきゃ。大丈夫、笑える。

 

「・・・甘雨は嘘つくとき目をそらすよね。いっつも目を見て話してくれるから分かるよ。何があったの?」

「ッ、本当になんでもないですからッ!」

 

なんでもない。この時代では「普通のこと」があっただけ。

 

「・・・・・・そっか、分かった。ごめんね、変なこと聞いちゃって」

「あっ・・・」

 

胡元が申し訳なさそうな顔をする。気持ちが整理出来ない。感情が揺れ動く。

僕のせいだ。僕はもう大人なのに、子供みたいに癇癪を起こして。

 

「すっ、すみません。ごめんなさい。・・・私、これから合同訓練の救護の仕事があるので失礼します」

 

僕が作った空気に耐えられなくなり、足早に離れる。ごめんなさい・・・

 

 

 

 

訓練場に着いた。訓練終わりの男達が壁に寄りかかって休んでいる。

この人たちは、僕が休んでいる間もこうして平和の為に鍛えてたんだ。僕も頑張らないと。

 

さっきの反省で顔も洗った。髪も整えた。準備は万端だ。

 

「おー、甘雨ちゃん三日ぶりだね。綾がうるさいぐらい心配してたから、はやく会いに行くと良い。もちろん皆気に掛けてたからね」

 

いっつも声をかけてくれるチャラめのキザ男がそう言う。普段はうっとうしかったけど、今日はこのうるささが嬉しく感じた。

 

「おーい、こっちで治療してくれない?訓練で怪我しちゃってさぁ!」

「あっ、はーい。今行きますね・・・」

 

今度は別の人が呼びかけてくる。ここでの僕の仕事は仙術で治療することだ。よし、気持ちを切り替えよう。

 

「ごめんごめん、いつもありがとね。結構激しくやっちゃってさ」

 

そういって突き出してきたのは、鋭い短剣で出来たであろう痛々しい切り傷。傷からは、鮮やかな血と匂いが漏れ出している。

 

その匂いを感じた瞬間脳裏に浮かんだのは、貫かれた矢、噴き出すもの、充満するにおい。

矢を放ったときの感触が残っている。そうだ。僕が殺した。

 

「うぁ・・・う・・・ごめ・・なさ・・い・・・ゆる・・してぇ・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!」

 

最後の顔が忘れられない。生気がなく、目は見開かれ、舌がだらんとたれている顔。

僕は、守るべき命を奪った、人殺し。

 

視線を感じる。あの男が見ている。僕が輝きを奪った、虚ろな目で。

 

「うあああああぁぁ!!!!」

 

僕は自分の役割すら果たせず逃げ出した。

 

 

 

 

「うぇ・・・はぁー、はぁー、えほっ・・・えほっ・・・」

 

向かう当てなんてない。にも関わらず、石門の方角へと足が進んでいた。今はもう、そこにはなんにもないと分かりきっているのに。

 

「ぐ・・・ぁ・・・ごほっ、ごほっ、ぐえっ」

 

虚ろな足で歩いていたから、道ばたの石に躓いた。そのまま、隣にある瑠璃百合の花畑に頭から倒れ伏す。

 

麒麟は仙獣の中の仁獣であり、生きた虫を踏まず、生きた草を折らず、穏やかで寛大。今世の母に何千回と聞かされてきた。

 

だが今の僕はどうだ?僕の心の中は全く穏やかではない。草も花も虫も、命すら軽んじた行いをしている。仙獣失格だ。

情けない。どうして僕が甘雨ちゃんになったんだ。そんなのできっこないのに。

 

涙がこぼれる。この世界(テイワット)に僕の居場所なんてやっぱりどこにもない。

 

「喚くな。ただ悪人を一人殺しただけだろう」

 

ふと、()()()()()()()()()()を耳にした。顔を上げて辺りを見渡すが、誰もいない。

風に声を運ばせているように思える。

 

「だけって、そんな!大切な命です・・・それを、奪ったんです」

「ふん、理解できないな。お前は半端だ。おとなしく、殺戮と生きることだけ考えればいいものを」

 

半端。確かにそうだ。仙人なのに、それらしい振る舞いなんて出来ていない。

この声の通り、仙人らしく殺戮をなんとも思わなければ、こんな思いをしなくてすんだのかも知れない。

 

「・・・でも、私はそんな生き方できません。情けないですが、仙人ですが、こんな時代ですが。絶対に殺しなんてしたくないんです」

 

いやだ。戦争中だからって、それを当たり前だと思うのは僕には出来ない。

僕は人を殺す覚悟なんて出来ていなかった。でも、僕の価値観と勇気ではそんなことこれからも出来ないだろう。

 

僕の言葉から数秒間隔が空いた。

 

「それがお前の本心か。我はそんな慈悲など、とうの昔に諦めたがな」

 

そう声が聞こえたと思えば、それから話しかけてくることはなかった。

 

 

 

 

 

夜の帳が落ちる。ドラゴンスパインからの颪が吹き付ける。

 

犯した罪の重さが背筋を伝う。冷や汗が止まらない。

 

夜と颪の極寒のせいか。それとも自分の行いへの恐怖か。震えは収まらない。

 

体温が落ちていく。でも、もういいか。全部諦めようか。気持ちがどんどん落ちていく。

 

・・・こんな状況になって、以前風の元素精霊に言われたことを思い出した。

『テイワットの星空は貴方の為にある』、だったっけ。導いてくれるなら導いてみろ。

 

星空を見上げる。前と同じで綺麗な満天の星空が存在した。

だが、見えない。前は見つけられた星座が見えない。

 

『仙麟座』は見える。でも、もう一つ見えていた男の子の星座が見えなくなった。

 

 

 

 

 

「こんなところにいたのね。・・・カッツェレインの子から話は聞いたわ」

 

不意に、僕のむき出しの肩に柔らかな暖かい手がのる。

この気配は帰終様だ。わざわざ探しに来てくれたのだろうか。

 

「帰終様。すみません、情けないですよね。人を一人殺しただけなのにこんな・・・」

 

帰終様は穏やかな視線を向けている。優しい目だ。

そしてそのまま、ゆっくりと口を開いて話しかける。

 

「・・・ねぇ甘雨、一つ質問するわ。救いようのない悪党でも変われると思う?努力さえすれば誰でも良い人になれると思う?」

 

いきなりの質問で少し困惑する。性善説を信じるか、ということだろうか。

 

僕はこれまで、前世込みの話だけど、優しい人か無関心の人にしか出会わなかった。だから、どちらかと言うならこの質問には肯定的だ。

 

そう思い首を縦に振った。

 

「うん、ありがとう。やっぱりあなた、優しいわ。今回は辛い思いをさせちゃったわね」

 

髪と角を撫でられる。とても心地よく、心が穏やかになっていく気がした。

 

「これは、私たち帰離原で『帰終の忠告』を作るときにモラクスと話し合ったことなの。」

 

えーっと、『帰終の忠告』っていうのは帰離原の町で知れ渡っている掟のようなものだ。

『帰終四誡』とも呼ばれることもある。

 

内容は、『知で教え、徳で約束し、骨を固く、心を一つ』。

短くも帰終様と帝君の統治方針が理解できるもので、僕も見たときに心打たれた覚えがある。

 

「それで、質問の答えなんだけど・・・私とモラクス、どちらともNoね」

「えっ?」

 

驚いて帰終様の顔を見上げる。正直意外だ。

お二人は、どんな移民も孤児も受け入れる、この辺りの地帯では類を見ないほど優しい魔神。

 

てっきり僕とおんなじ考えだと思っていた。

 

「民を導くためには、生活に対する「諌め」をつくり、心を正しく導くことが必要と考えたわ。でも、それだけだとどうしても例外は生まれるの」

 

「志を一つに、永久に変わらぬ」

「徳は木の如し、覆い隠し、生生流転」

「筋骨を頑丈にし、時を見極めて動く」

「知恵は水の如し、万物を善く利して、鏡となる」

 

これら四つを定めたものの、守ることが出来ない者は必ず現れる。

 

「民を守り、民と共にこの大地を歩き、前に進む。これが私たちの最終目標なの。これを乱そうとする「異分子」は・・・残念だけど、切り捨てるしかないわ」

 

悲しそうに目を伏せながら、ぽつりとつぶやいた。

為政者とはそういうものだ。帰終様も好きでやっているのではないのだろう。

 

「だから、今回貴方がしたことは以前契約したものに反しているわけではない。扱い的には璃月の民という範疇から逸脱しているもの」

 

そ、そうなんだ・・・

でも、僕が気にしているのはそこじゃない。

 

「分かってるわ。貴方は、命を奪ったことを後悔しているのでしょう。・・・じゃあ、私ともう一個、新しく『契約』しましょうか。いいかしら?」

 

そう言って後ろから頭に手が触れられる。

 

「貴方はこれからも沢山の人に出会う。もちろん悪い人だっているわ。でもね、『貴方の愚直なまでの愛を、塵のように広く贈る』の」

 

周囲に、暖かな力が集まってくるのを感じる。

 

「おそらく、貴方はまだ子供だから人との交流が足りていないのだと思うわ。私ほど生きてるわけじゃないものね」

 

もう40歳なりますけどね。確かにコミュ症で人との交流が足りないのは事実だ。

 

「この契約は、ある種の束縛とも言えるかもしれないし、酷く矛盾したものかも知れない。だってそうでしょう、こんな時代に愛なんてものは塵のようにちっぽけなものにすぎない」

 

「・・・でも、そんな時代がずっと続くわけない。『魔神戦争』は、私とモラクスで終わらせる」

 

帰終様は確固たる意思を携えた瞳でこちらを捉えている。

 

「その後は、きっと貴方の優しさが民を導いてくれる時代よ。仙人と人間、両方の架け橋となるの!」

 

体温が直接伝わる距離。さらに暖かいものを感じる。

 

「それまでは少し辛い戦いになる。美しいものだけじゃなくて、見たくないものも見ないといけないでしょうね。それでも未来を信じて、私たちと歩んでくれたら嬉しいわ」

 

まるで愛しい我が子を抱きしめるかのように、激しく腕を回す。暖かい。

帰終様の気持ちが伝わってくる。幾分か沈んだ気持ちが安らいでいくのを感じた。

 

これで僕がやってしまったことが許されるはずなんてない。でも、帰終様は僕に免罪符(いいわけ)を用意してくれたのだろう。やっぱり優しいお方だ。

今回、そしてこれから人を殺したとしても、会う人全てを幸せにすれば良いんだ。

 

キラリと、僕の視界に映る夜空の星座が二つに戻る。どことなく前に見たときよりも煌めきが強くなっている気がした。

 

そのとき同時に、ポトリと足元の瑠璃百合が花を落とした。まだ季節外れにもかかわらず。

そして落ちた花弁に強い元素力が宿り、ひんやりとした『神の目』がそこに現れた。

 

「あの・・・これって」

 

生まれた神の目をゆっくりと目の前に持ってくる。まるで綺麗な宝石のよう。

氷元素の神の目だ。強い冷気が漏れ出している。

 

「あーあ、()()()()()()()()()()。せっかく私とモラクスの秘蔵っ子にしようと思ってたのに。でも、モラクスも驚くでしょうね。ああ見えて、貴方のことを買ってるのよ」

 

そう言う彼女は、嬉しいのか悲しいのか、僕の浅い人生経験では判断しきれない表情で笑っていた。

 

 

 

 

 

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