童貞社畜が社畜エロ羊となるまで   作:タイツ信者真君

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元社畜甘雨がパンダっぽい魔神とお料理するまで

少しだけ冷静になってから町に帰ってきた僕は、まず迷惑をかけた相手に死ぬほど謝った。

 

そりゃ当然だ。皆からしたら、数日勝手にバックれた上に戻ったらヒステリックに喚き散らしたように見えただろう。

せっかく仲良くしてくれてる人にも嫌われたかもしれない。

 

僕は、新しく人間関係を作ることが苦手だ。故に、今の友人達に絶縁されることはこの町からの追放を意味する。

どんな手段をとっても許しを請わなければ、僕はこれから一生絶雲の間でひとりぼっち生活を送るはめになるだろう。

 

僕はコミュ症だけど、ぼっちも嫌なのだ。そんなの何としてでも阻止しなければならない。

 

そうして僕は、絶雲の間から沢山採ってきた果物を渡しつつ、泣きながら土下座した。それこそ、この立派な角が地面に着くほど頭を平伏して。

 

幸いにも僕の知り合いには寛容な人が多かったらしく、全力の涙声土下座を見て静かに許してくれた。

なんか謝ってる途中で頬を赤らめて生唾を飲み込む様子が視認できたけど。おそらくそれほどなまでの激情(怒り)を我慢して許してくれたのだろう。皆優しいなぁ。

 

ただ、数人の男は前面のある部分を押さえながら前屈みになっていた。おいやめろ。それは流石に人付き合いが苦手な僕でも何が起きてるのか分かるぞ。

彼らがドSなのかは知らんけど、僕は彼らの性的指向につきあうために謝りに来たんじゃない。

 

変な意味で恐怖を感じた僕は、涙ながらも立ち上がり、にらみつけて「謝っているだけなのに興奮するなんて、ひどいです…」って言い放って逃げた。

そしたらよっぽどショックだったのか、ビクビクしながらその場に膝から倒れ伏してた。ケツだけ上に突き出した無様な格好で。

 

逃げてから物陰で見てたけど、彼らはしばらくうずくまった後心ここにあらずといった様子で川とかトイレの方に行った。多分反省しに行ったのだろう、僕も大体一人になれるところで一日の反省とかするからよく分かる。

 

…まぁ、ちょっと言い過ぎたのかもしれない。僕も友達にこんなこと言われたら傷つく。明日からは、何事もなかったかのように接してあげよ。

 

 

 

 

 

神の目を手に入れたとて、僕の生活は大して変化しなかった。

 

僕は勝手に、いきなり『元素スキル』や『元素爆発』が出来るようになるもんだと思っていたのだ。

でも、実際そんな上手くいくことはないようで。

 

「うぉー!インペリオ!クルーシオ!アバダケダブラ!」

「それはどんな意味のかけ声でござるか?」

「何か嫌な予感がするわね」

「甘雨様のお言葉だ!きっと素晴らしい意味なのだろう!」

 

…だめだ、何にも出ない。せっかく皆につきあってもらってるのに元素スキルすら扱えないぞ。

一応元素で冷気を放出することだけは出来るんだけど、なんかこう、技!って感じにはならないんだよなぁ。

 

千岩軍旅団の皆に聞いても、要約すると「なんかできるようになった!」って返答しかもらえなかったし。

なんなんだよそんな雑な答え!そんな天才気質な返答が一番困る。僕は「感覚で出来るようになる」とか教えられるのが嫌いなんだ。こちとら天才じゃないから分からんわ!

 

こうして練習してても、いまいち掴めないからなぁ。今度仙人の知り合いに聞いてみようかな。

 

「そういえば、今年の冬は一層寒くなると我らが旅団の長が言っていたでござるな」

「へーそうなんだ。なんで分かるんだろうねそんなの」

「ふむ、聞いた限りでは、数年ごとに寒くなる年がやってくるらしい」

 

…こいつら飽きて雑談始めやがったぞ。

 

前は姫プしてるネカマみたいな気分を味わうほどちやほや褒めてくれてたのに、ここ最近めっちゃ扱いが雑になってきた気がする。まあそっちの方が気楽でいいか。

 

それはさておき、気温が低くなる冬というのはこの時代で死を意味すると行っても過言ではない。

 

転生して分かったけど、この世界(テイワット)にも季節は存在し、この璃月一帯は四季が顕著である。

まあモデルがリアル中国ってのも理由なのかも。季節風っぽいのも吹くこともあるし、気温が下がるエルニーニョ現象的なのが起きても不思議じゃない。あれ、ラニーニャ現象だっけ?・・・まあどっちでもいいか。

 

ここ帰離集と荻花洲はそこそこ海寄りの場所にあるから、夏の湿った季節風が吹く時期にはそこそこ雨が降り作物も育つ。

だから、大体春~秋の湿潤な時期にかけてお米を作るのだ。ちなみにとても美味しい。

 

そして、寒くて米が作れない秋~春の乾燥した時期にかけて畑で小麦を作る。ちなみにとても美味しい。

 

どうでもいいけど、「二毛作は畑の栄養がなくなるよ」って言って骨粉とか撒いたら収穫量増えてめっちゃ感謝された。マイ●ラやってたから常識なのに、そんな感謝されるとは思わんかった。

 

そんな米と小麦、どちらも我ら璃月の民が生きていく上で欠かせない食料だ。

故に、冬が寒くなるのは非常に困る。単純に気温が低くて命に関わるのもあるけど、寒すぎると作物が育たなくなるってのが一番ヤバい。僕のお腹が抗議し始めるのが目に見えている。

 

それに、しっかりと備蓄していないと冬すら越すことが出来ずに子供が飢え死にすることも十分にあり得るのだ。

幸いにも僕らのドン(帰終様)が聡明な方で、食料備蓄とか害獣駆除とかは出来てるからだいたい二回ぐらいは不作でも大丈夫。

 

でも、豊作であれば良いのは間違いない。しかし自然に立ち向かうってのはどうしようもないからなぁ…

 

「…ねぇ、甘雨って仙術で離れた場所の人も治療できるよね。それに、神の目があるから元素力だってもっと扱えるようになったわけだし」

 

ふと、胡元が前髪をいじくりながらこちらに話しかける。横顔がふつくしい。

 

「逆にさ、広い範囲から氷元素を吸い取って、冬の寒さから畑を守ることってできないかな?」

「氷元素の扱いも掴めるやもしれぬから、一石二鳥であるな。でも、畑の前で元素を吸い取る甘雨を想像すると…なんだか案山子みたいで面白いでござる」

「おい風丸、甘雨様を案山子扱いして面白いなどと!」

 

うーん、どうなんだろ。実際、雨やら雪やら、この世界(テイワット)の事象は大体『元素』が関わっている。

故に、神の目を持つ人とか、元素を扱える三眼五顕仙人や魔神は地形すら変えられるほどの強大な力を持つのだ。

 

冬の気温低下だって空気中の氷元素が満ちて起きるものだし、僕が頑張れば少しぐらいは寒さを和らげることが出来たりしないだろうか。

…うん、ちょっと実験してみようかな。まだ冬が来ないうちに出来るか試して、可能なら冬の間やってみよう。

 

もしこれが可能なら、璃月の食糧問題を少し解決することが出来るかも知れない。

冬の間は夜も寝ずに氷元素を吸い続けないといけないかもだけど、安いもんだ、僕の睡眠時間くらい。

 

そうとなったら、早速ドラゴンスパインの冷気を使って実験してみよう!

あそこなら秋でもまるで冬のように寒いし、ドラゴンスパインの近くってなんだか調子が良くなるから実験とか特訓には最適なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして極寒の冬を越え、数ヶ月後…

 

 

 

 

 

 

 

えー、皆さん、緊急事態です!こちらレポーターの甘雨!あっ、お天気キャスター甘雨ちゃんなんてテレビに出てたら絶対見るわ。

・・・すみません、話が逸れました。結果として、なんと!出来ました、氷元素吸って冷害防ぐやつ。

 

冬が来る前に練習でドラスパの冷気吸ってたんだけど、ふとした瞬間に出来るようになったんですよね。それこそ町を一個覆うぐらいの範囲から吸い込めるように。

背中を爽やかな風が撫でたと思ったら、いつの間にか出来た。いやぁ~やっぱり僕も天才肌なのかも。人のこと悪く言えないね。

 

だから、冷え込む冬の夜の間は畑の前でひたすら氷元素を吸い込む案山子と化していた。クソ眠かったけど、まぁ夜勤みたいなもんよ。

しかも見かねた留雲真君が暖房器具的な効果のあるからくりを持たせてくれたし、たまにピンさんとか帰終様も話し相手になってくださって、体も心もぽかぽかだった。

 

おかげさまで冬季の後半にはすっかり慣れて、目を閉じて瞑想し、氷元素を吸収しつつ僕が治癒で良く使う仙力を畑に垂れ流すという芸当まで出来るようになってしまった。

実質空気清浄機みたいなもんだ。もう甘雨ちゃん天才すぎる。敗北を知りたい。

 

そしたら、収穫量を例年レベルに持って行くどころか過去一の豊作となったらしい。僕の仙術って植物にも効いたのか、やっぱ甘雨ちゃんすごいなぁ。

僕が覚えている限りではゲーム本編で甘雨ちゃんが仙術を使ったのは璃月防衛戦でファデュイを相手にしてたときだけだったけど、頑張ればヒーラーも出来たんじゃないかな。治癒の才能がすげぇもん。

 

でも、こっからが問題だ。僕からしたら『契約』もあるし、「皆が飢餓で苦しんだら困るなぁ~」ぐらいの感覚でやったことだった。

でも、帰終様とか旅団の皆とかが町中で言いふらしたり瓦版に書いてもらったりしちゃってさぁ大変。

 

(ほぼバレていたけど)僕が仮にも仙人ってことが知れ渡ってしまった。

そのせいで皆が急によそよそしくなって悲しくなった。そう伝えたらすぐ戻ってくれたけど。

 

それに、過去に僕が絶雲の間からジャガイモの種芋を持ってきて「やせた土地でも育てやすいかも知れないです」って言ったこととか、「品種改良ってのがあるんですよ。私は詳しくやり方分かんないですけど」ってうろ覚えの知識を披露したことを帰終様は声を大にして言う。後者に関しては概念を伝えただけで後は帰終様が推し進めたことだったから、僕の手柄みたいになって罪悪感が凄い。

 

そうして収穫の季節には、豊穣の女神的な扱いをされるようになった。なんでや!

 

お礼としてかなりの量の小麦を受け取ることになったし、なんかよく分かってない農民の皆様からは「これからは米も麦もよく収穫できるようになるんだろうなぁ。ありがたや」的な声が聞こえる。夏も不眠で働けと申すか。

 

…まぁ、先のことは未来の自分がなんとかしてくれるだろう。まずは、一仕事終えた後の満足感を存分に味わいたい。

今回の場合は、文字通り味わうって意味だ。僕は目の前で重なっている小麦の山に臨む。

 

積み重なった束から、一つ手に取る。黄金を纏ったその穀粒は、僕からすれば実質ビールみたいなものだ。食欲を我慢できません。

 

「いただきまーす。うーん、むぐむぐ…うん、おいしい!つぶつぶで硬くて、健康的な味わいです!そうそう、こういうので良いんですよ!」

「~♪~♪」

「ん?」

 

僕が一人で美食を独り占めしようとしていると、足元に茶色のパンダみたいな謎生物がやってきた。

 

成人男性のちょうど半分の背丈のこの生物は、『竈神』とか『竈の魔神』って呼ばれる、普通に仙人より高位の存在である。この前留雲真君とか鳴海栖霞真君がからくりとお宝どちらがすごいか言い争って(自慢し合って)いたところに、この子が料理を持ってきただけで場が収まっていた。すごい。

 

といっても、一家に一台ぐらいの感覚でその辺にいて、町の人も気楽に接しているので僕も同じように扱っている。もはや野良猫みたいなもんよ。

 

「どうしたんです?欲しいのなら、ちょっとだけあげますよ?」

「?~♪」

「えっ、ちょちょ、持って行かないでください!」

 

こいつ、目の前の小麦の山を持って逃げていきやがった!やめろ、それは僕が独り占めするんだぞ!

てか、こいつ体は小さい割に力が強すぎる。軽自動車ぐらいの大きさの山だったのに、全部器用に持って走っている。

 

あっ、こいつ調理台の方に持っていっている気がする。ははーん、さては料理するつもりだな?

この子は『竈神』との名にふさわしく、料理がとても上手だ。以前、僕の演奏に感動してごちそうを作ってくれたことがある。凄く美味しかった。

 

だがその小麦の山は渡さん!食い意地を原動力に、懸命に走る。

 

「ぐぅ…はぁ、はぁ…は、速い…!」

 

待て!それだけは…小麦の山だけは…!

それは僕のだぞ!させるものか…!絶対に…絶対に渡すものかッ!

 

すると、進路の先に胡元、風丸、ヴォルが現れた。しめた、彼らに止めて貰おう。

 

「すみませんッ!その子止めて下さい!」

「えっ、わ、分かった!止めるよ!…ってあれ、止まっちゃったよ?」

 

あれ、本当だ。てっきり好き勝手料理するのかと思ったけど、僕ら仲良し四人組がそろったところで立ち止まった。

そして小麦の山を宙に投げたかと思うと、謎パワーでそれを小麦粉に変えて僕ら四人に一つずつ手渡ししてくる。…どゆこと?

 

「これは…一体どういうことだ?」

「竈神殿は拙者達に何をしてほしいのでござろう?」

 

本当にそうだよ。せっかく独り占めしようと思ってたのに。

すると、竈神は僕の服を掴みながら調理台の方を指さす。やめろ、服が伸びるじゃろ。

 

「~~♪」

 

なんかすごくにこにこしながら僕ら四人を見渡してくる。なにさ?

 

「もしかして、私たちに料理してほしいんじゃない?」

「言ってること分かるんです?」

「や、適当言っただけ」

「適当かよ」

 

なんだよびっくりした。まさか本当に竈神の言葉が分かるのかと思ったわ。

だが、その言葉に対して頷きながら嬉しそうに鳴き声をあげる。

 

「♪」

 

「えっ、当ってんじゃない!?やったー!当たったから今度何か奢ってね!」

「いや奢りませんよ」

「くっ、仕方ないでござる…」

「奢るのかよ」

 

えー、でも料理かぁ。僕は基本的に食べるのは好きなんだけど、自分で作るのはなぁ。

 

だが、僕以外の皆は乗る気だ。それどころか、料理の腕前競おうよ!私の料理で皆を昇天させたげる!とか、故郷の料理を作るのは久しぶりでござるとか、ア゛ァ゛^~甘雨様に合法的に僕の手垢を食べさせる機会が来るなんて!とか話している。

 

ここで僕が嫌だなんて言いだしたら興ざめも良いところだ。でも、何作ろうかなぁ。そのまま小麦粉を食べるのじゃダメか?

 

なるべく失敗しにくくて簡単なレシピ…そんなの無くね?うーん、前世で一人暮らししてたときに自炊はしていたけど、小麦粉使う機会なんてめったになかったからな。どうしよ。

 

…まあいいか!なんか良い感じに混ぜて作るか!

 

 

 

 

 

 

 

甘雨(偽)たちは、思い思いに料理を作った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、それぞれ料理を作り終えた僕たちは作ったものを隠しながら食卓に座った。

と同時に、竈神もちょこんと座る。君も食べるのか。

 

「それではッ!僕から発表させていただこう!」

うわっ、何だ!ヴォルのテンション高っ!よっぽどの自信作なのかなぁ。

だが、予想とは裏腹に、出されたものは極めて普通のものだった。僕でも見たことがある料理。

 

「これは何というか…パンですね?」

「そうです甘雨様、パンでございます!僕も故郷の味を皆に振る舞いたくて!」

 

へぇ~。ヴォルの故郷は北西の水の国らしくて、機械仕掛けの洋風な国なんだとか。

ヴォルは故郷に思い入れなんて無いって言ってたけど、やっぱり故郷が恋しいのかな?

 

「で。本音は?」

「パンはよくこねないといけないだろう。甘雨様に最も効率的に僕の体を食べていただける料理だからだ」

「ガチできしょいでござる」

「ほんとドン引き」

 

…?何か内緒話しているな。気になる。

 

麒麟の聴力で無理矢理聞こうと思えば聞けるんだけど、流石にそれはしない。

内緒話ってことは、聞かれたくない話ってことだからな。盗み聞きするのは申し訳ない。

 

でも、やっぱり気になるな。

 

「何の話をしてるんです?仲間はずれにしないで、もし良かったらお聞かせください」

「いや、本当に聞かない方がいいでござる」

「~!」

「あー!竈神様も怒ってるよ!」

「何故だ!僕は甘雨様に食べて欲しいだけなのに!」

 

 

 

 

 

「じゃあ次は拙者の番でござる。熱いのでお気をつけて」

 

そう言って、風丸は深めのどんぶりを取り出してそれぞれの前に配置した。

それは、僕にとってもなじみ深いもの。つい、懐かしい気持ちになった。

 

「なにこれ?麺?」

「白い麺の上に揚げ物ものっているな」

「うどんです!しかも海老までのっていて美味しそう!」

「やっぱり甘雨は分かってくれると信じていたでござる」

 

しっかりとダシが香る汁と、コシのありそうなもちもちの麺、それにサクサクで揚げたてだと分かるエビ天。

いや、ガチで上手そう。今度から飯は風丸に作ってもらったほうがよくね?やべぇ、時間があったら風丸の故郷に行ってみたいわ。日本っぽいのかな。

 

「風丸の料理はやっぱり外れないですね。…今度風丸の故郷に行っても?」

「もちろん大歓迎でござるよ!」

「おーいヴォル、白目むいてないで戻ってこーい。多分そんな意味じゃないぞー」

「~♪」

 

 

 

 

「よし、次は私だ!じゃーん、私の好物、海老蒸し餃子ぁ~!」

 

と言いながらも、取り出した皿に入っていたのはタコの足やら、ミントやらが餃子の皮からはみ出した物体(ダークマター)

おそらく、ジャイ●ンが作った料理はこんなのなんだろう。生臭い匂いがするし、なかなかな一品だ。

 

「…拙者、用事思い出したでござる」

「あいたたた。ちょ、ちょっと腹痛が」

「えっ、なんで逃げようとするの!行かないで!絶対不味くないから!」

「わ、わぁ…おいしそうですね!」

 

野郎二人が逃げようとしているところを必死に服を掴みダミ声を出しながら引き留めている胡元。かわいいね。

僕はあんな薄情者たちとは違う。こんな美少女が作ったものだと思えば怖くない。怖くないったら怖くない。

 

「~!?」

「わっ、つまみ食いした竈神殿がぶっ倒れたでござる!」

「おい待て、本当に何入れたんだ」

「えーっと、この前皆で行った釣りの戦利品と、商店で安かったもの全部!」

 

…僕、この戦いが終わったら、留雲真君と結婚するんだ。

 

 

 

 

そして順番的に僕の番が回ってきた。しかもよりにもよって大トリだ。

皆の視線を一身に背負う。最悪だ、とっとと出しておけば良かった。

 

「あのー、そんなに期待しないでくださいね。…じゃん、クッキーです」

 

そう言いつつ取り出したのは、形も色もそんなに良くないクッキー。おまけに数もそんなに無い。

半分ぐらい失敗したからだ。途中で竈神が見に来たんだけど、失敗が恥ずかしくて変な形になったのは全部食べちゃった。

 

小麦粉と鳥の卵と、スイートフラワーから作った砂糖と少しのミルクを混ぜて作っただけのもの。

皆の料理と比べると雑だし不格好だし、なんだか情けなくて悲しくなる。

 

「あ、あのっ、絶対美味しくないので下げますね…すみm」

「これすっごい!サクサクで美味しいよ!」

「えっ」

 

泣きそうになったところに、胡元の嬉しそうな大声が響く。

続いて風丸とヴォルも目を輝かせながら口に運んだ。

 

「本当に美味しいです甘雨様!甘さが口に広がって、とても美味しい甘味ですね」

「普通にお金とれるレベルでござるな」

「~♪」

 

み、みんなぁ。

 

僕の料理を、皆笑いながら食べてくれている。

しかも長く一緒にいたから分かる。彼らは本心から言ってくれているんだ。

 

心の中が、暖かい気持ちで満たされた気がした。

 

 

 

 

皆で料理を(なんとか)完食した後、後片付けをし始めるときにこっそりと竈神が近づいてきた。

相変わらず言葉は分からないが、豊かな表情を持つ彼は、まるでしたり顔をニコニコしながら向けてくる。

 

「ありがとうございます、竈の魔神さん。『美食』というのは、その食材の味だけでないことを私に教えたかったのですよね?」

「~♪」

 

そう鳴き声を上げ、彼はこっそり隠していた僕のクッキーを半分に砕き、片方を僕に渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






おまけ

「あの、留雲真君。お菓子を作りましたので、こちらをどうぞ」

「・・・?突っ立ってどうしたんですか?おーい」

「ッ!?し、死んでる!?一体誰がこんなことを!!!」




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