以前、図らずも冷害対策を完遂してしまった僕は、皆の「次の収穫も豊作になるんだろうなぁ~…チラッ」といわんばかりの空気感に負けて夜の労働に勤しんでいた。
しかも内容はただ氷元素を吸って、後ろから仙力を畑に流すという極めて単調なもの。転生したばっかりの頃の僕だったら出来なかっただろうが、まぁ今なら余裕で出来る技術だ。
でも、それが何年も続くとなると話は別。
始めてから大体5年経った今、僕の精神は崩壊しかけていた。延々と同じ作業を毎日繰り返していたから当たり前だ。
前世で3億年ボタンとかいうワードが流行っていたけど、あれ絶対ダメだわ。数年でも気が狂うよ。
たまに留雲真君とか帰終様が話し相手になってくれていたんだけど、流石に要人だから毎日お話しできるわけでもない。むしろ二ヶ月に一回ぐらいの頻度である。
そうして徐々に気が狂っていく僕を哀れに思ったのか、帰終様は僕が
人見知りコミュ症の僕からしたら結構絶望的な提案なのだが、相手になってくれる人も徹夜で僕なんかとおしゃべりをしてくれるのだ。文句は言っていられない。
…そう思っていた。
唐突だが、僕はもう転生して大体20年ぐらい経つ。その間のほとんどは、よく草を食べ、よく遊んで働いて、よく寝ていた。
その結果生み出されてしまったのは、ふっくらおっきなお胸、運動のせいかきゅっと引き締まったお腹周り、筋力があるものの女性的な柔らかさを持ち骨盤は広く大きくなってしまったケツ。
まるでpix●vから出てきたかのような甘雨ちゃんとなってしまった。僕は美乳スレンダーの甘雨ちゃんになりたかったのに。
この前戦場を飛び回ってたせいで留雲真君特製タイツが限界を迎えて破け、お尻と太ももがまろび出たときは、細々と「すっげぇ…」とかいう声が聞こえてきたのを覚えている。
そのときはなんかもう羞恥心が限界を迎えて、今の精神年齢も忘れ大泣きしてしまった。恥ずかしいぜ。
おまけに格好はエロタイツだ。体の曲線が強調されてしまうし、横乳が丸見えである。そのせいか、その…歩くと体の各所に視線が集まる。もうやだ。
だが、夜の労働中はそんな自分の格好のエチエチさも忘れて元素を吸い続けないといけない。あんまり吸えなくて気温が下がりっぱなしになったり、その逆に吸い過ぎると適温を過ぎてしまったりするからだ。
でも、運悪く幸運にも僕の話相手に選ばれた町の人はどうやら耐えきれなかったようで。
目を閉じて瞑想していたのをいいことに、僕とお話をしながら視姦して自家発電をするという高度な性癖をもつ輩を誕生させてしまった。
喋っていた僕の柔らかな唇に、粘性のある液体がぶっかけられたときに初めてその行為に気づいた。もう最悪や。気持ちは分からんでもないけどそんなことしたらダメなの分かるだろ。
当然その男は息子とさよならすることになり、この事態を重く見て、性成長が終わった男性達はこの係に抜擢されることはなくなった。これで一安心。
…そう思っていた。
「ち、ちがっ…こんな風になることはたまにあったけど、いつもはほっといたら治るんだ!でも、なんか今日は違くて!甘雨おねぇちゃん、きらわないでぇ…」
目の前にいるのは、あどけない顔を赤くしながら、ある部分を押さえながら必死に謝罪するショタくん。
おいなんだこのシチュエーション、エロ同人かよ。あー、もう、どうすればいいんだ…
流石に子供達を性犯罪者扱いすることも出来ず、「さっ、さあ、私には分からないですねぇ…」とか「お母さんに聞いて下さいね」とかで無難に乗り切ることにした。
僕は絶対におねショタ展開などにはもちこませないぞ。
それでもいっちょまえに性の喜びを知ったガキどもの中は、後日告白してくる子もいた。というか大多数がそれだった。
まぁ僕は、男と恋愛する気なんて毛頭ない。「きっと、貴方にはこれからもっと大切な人が出来ますよ」的な言葉で切り捨てた。
実際見た目は美少女でも中身がこんな冴えない男だって分かったらあの子たちもショックだろう。こんな歪なやつと恋愛するのは、彼らを不幸にさせてしまう。
だが、僕の真意なんて伝わるはずもなく、少年たちは自分がフられたことを理解し泣き出してしまった。あぁ…ごめんよ。
そんな子たちに僕が出来るのは、僕のことを忘れさせること。
泣きじゃくる少年の顔と目線を合わせるためにかがみ込み、ハグをしながらその頭を優しく撫でる。
僕のところに話相手としてやってくる町の人は、なぜだか僕とおしゃべりすることを大変楽しみにしてくれているらしい。それは子供でも同じそうな。なんでそんなに好感度高いんだ…
だから再三寝不足はいけませんよって伝えても子供が来てしまうことが多い。
でもまあ所詮は子供。僕が仕事をするのは夜だから、彼ら彼女らが眠くなるのは当然だ。
僕は基本的に子供とトラブルになったら、ハグを交わしながら頭を撫でる。まるで母親が赤子を寝かしつけるように、優しくゆっくりと。
そうすると…ほら。どんなに泣いちゃった子でも、数分経って胸から引き離してあげれば泣き疲れて夢の中。あとはお家に送り届けるだけ。
目を覚まして家にいることに気づいた子たちは、僕に告白したことなんて夢だったんだと思い込むに違いない。
これで僕のことなんて引きずらずに、今後は健全な恋愛をすることが出来る。…出来るよね、大丈夫だよね?
「第五陣の準備を!急ぎましょう、絶対に間に合わせますッ!」
戦場は、逼迫した空気に包まれていた。炎が揺らぎ、刃物で切られた肉片が宙を舞う。
無数にあったはずの赤い果実も既に切り刻まれ消えていった。残る者達の表情にも著しく陰りが見える。
だが、絶対に諦めてはいけない。幸か不幸か、僕たちは選ばれてしまったのだ。
「甘雨、最後の新人が潰れたでござる!拙者も、もう…」
「諦めてはいけません!ここを乗り切れば持ち場が変わります、あと少しの辛抱です!」
遠くで笑い声が聞こえる。ヤツらは、きっと僕らのことなど眼中にないのだろう。正直、恨めしいという感情が頭に浮かんだ。
しかしそれでいい。彼らが僕らの存在に気づかないということは、しっかりと計画が進んでいるということだ。
このまま、
事は、数週間前へと遡る。
普段通り平和な帰離集に、一通の吉報が舞い込んできたのだ。
内容は、現在の『魔神戦争』の近況を伝えるもの。
曰く、璃沙郊近辺へと戦線を張っていた帝君率いる軍勢が、遁玉の丘周辺での戦闘で勝利し、その上『最強の魔神』にも手痛い一撃を食らわせたとのこと。
遁玉の丘周辺の地域は豊富な鉱山資源が眠っており、ここを押さえたということは、更なる武器や防具の製造が可能となることを意味する。
これでまた、こちら側が一歩有利になったということだ。流石帝君。
そんな帝君たちが、民の士気向上や物資の補給の為にも一度帰離原に帰還することとなった。
これまでも一応小隊が帰ってくることはあったが、今回は戦況を鑑みても余裕があると判断し、大規模な凱旋を行うとのこと。
なんと、帝君やその他重要ポジの仙人とかも戻ってくるらしい。顔見知りの理水畳山真君や削月築陽真君だけでなく、僕が知らない仙人もいるのだとか。
無論我ら帰離集の民たちは大いに沸いた。
息子が戦地に行っていた母親も、恋人と離ればなれになった盲目の少女も、父の帰りを待つロリだって、皆等しく喜びを分かち合ったのだ。
そうして帰終様を筆頭に、壮大な歓迎の宴の準備をすることになった。
凱旋した英雄を迎える歓迎の儀ほど、盛大なものはない。民衆も総出で用意することになったのだが…
「えっ、我々給仕班には料理経験のある者が割り振られていると聞いていたのですが、皆さんそうではないのですか!?」
「も、申し訳ありません…」
千岩軍旅団から僕を含めた数十人が、歓迎の宴で出す料理を作る給仕係に任命された。
…されたは良いものの、なんと人数の内半数近くが料理経験がないのだという。じゃあなんでここ来てんだよ。
旅団全体で班分けを行ったときに、僕が給仕係になったと判明した後すぐにやる気のあるまなざしで立候補してきた人ばっかりだったから、てっきり料理ガチ勢しかいないグループだと思ってたわ。
それに大体が僕より若い子だったし、きっと小さい頃から母親のお手伝いとかやってた良い子なんだなぁ~って、勝手に感心していた。
だが、人員変更をおいそれと行うわけにもいかない。
僕たち給仕班は、食材の調達および量の把握をしなければ作る料理も決められないため、他の会場設営班や警備班と比べて作業の着手が遅かった。
故に、他の班はもう既に計画が進行していて、人員変更など他の班にとっては普通に迷惑となる。それに最初の組み分けで給仕班に来なかった以上、他の班の人も料理経験がないものと見て良いだろう。
あー、もーどうすればいいんだ…
「甘雨、料理が出来ぬというのなら、出来るようにすれば良いだけの話でござる」
不意に、僕の肩に風丸の頼もしく大きな手がのる。
いや、本当にそうか…?凱旋まであと一週間ぐらいしかないんだぞ…
でも、やるっきゃない。ここで料理すら出せませんでした、なんてのが一番どうしようもない。そんなことになっちゃうのなら、残った期間で1からでも教えてやる。
幸いにもこちらには料理上手な風丸がいるし、僕も最近竈神と一緒に料理することもあるから腕は確かなはず。
それに前世の社畜時代は、上司の意味不明で理不尽な仕様変更も乗り越えていたんだ。あのときの絶望感と比べたらまだマシな気がする。よし、やるか!
ひとまず、僕たちは凱旋当日までに少しでも料理が出来る人を増やすことにした。
少しでも触ったことがあるよって人は風丸や他の経験者たちが面倒を見て、ガチのへなちょこ初心者たち数名を僕がジャガイモの皮むきぐらいは出来るように育て上げることになった。
今日指導を担当するのは、おどおどしている金髪イケメンショタの米卡くん。おねショタものの同人誌に出てきてそう(偏見)。
そして僕の足にひっついている柯里ちゃん。緑髪のちょっと陰キャっぽい女の子だ。親近感感じちゃうね。
二人とも若くして神の目を発現した、将来有望な旅団メンバーである。
いやー、こうして後輩が入ってくれるのは素直に嬉しい。
嬉しかったし、両方とも異国からの移民だったみたいで馴染めていなかったから、入隊した当初はかまい倒して甘やかしてあげた。
だが、今回ばかりはのんびりやっていられない。僕も心を鬼にして指導しようと思います。
「てっ、柯里ちゃん手切っちゃってる!治してあげるからじっとしててね……よし!」
前言撤回、やっぱり指導なんて僕にはダメかもしれない。
初めのうちは柯里ちゃんは包丁の扱いが上手だと思ったんだけど、僕が他の子の指導に行くとすぐ指を切ってしまう。
マジで一瞬目を離しただけだったんだけど、いつの間にか大けがを負っていることが多々ある。本当に目が離せない。
「うへへ……これで私のこと見てくれるよね。甘雨様ぁ…」
「…?何か言いましたか?」
仙術を使って治療中、ふと声が聞こえた気がする。とても小さな声だったから聞き取れなかった。
だが、柯里ちゃんからの返答はない。まあ人見知りの子だからな、僕との距離感が掴めないのだろう。
「皮むきは右手の親指で皮と包丁の両方を押さえながら左手でジャガイモを回すようにしてくださいね。ちょっとお手本をみせますよ…」
僕は慣れた手つきで彼に見せつける。まかせろ、自炊した頃に嫌というほど練習したからな。
それに運動神経もよくなっているのか、腕がすいすい動くぞ。どうだ上手だろう。
そう思いつつちらっと横目で見ると、米卡くんはどうにも上手く出来ていない。それどころか、ほんのり涙目になりながらどうしても出来ない自分の不器用さを悔やんでいるように見える。
あぁっ、ごめんよ。ちょっと急ぎすぎて指導が雑になりすぎていたかも知れない。反省反省。
僕も小学校のとき周りの子はちゃんと出来ているのに自分だけ跳び箱が跳べなかったり、家庭科の授業で不器用を極めていて玉結びが出来ずにいたことがあるのだ。
そんなとき僕は、自分の能力の低さがただただ恨めしくて泣きかけていた覚えがある。今の彼は、その時の僕と同じ心境だろう。だから、米卡くんにただお手本を見せるだけでは不十分だ。
「じゃあ、私がお手を握るので一緒にやってみましょう。ほら、包丁を持って下さい」
彼の後ろに回り、手を重ね合わせて握る。背中にちょっとお胸が当たっているけどサービスだ。どうせこの子の歳じゃ興奮もなにもないだろ。
そのまま腕を器用に動かして、彼に感覚を覚えさせる。こうすれば、1から自分だけで真似するよりコツが分かりやすいんじゃないかな。
「ほぉーら、こうです…そうそう、よく出来ました!これで指を切ることはもうありませんね。…ってあれ、どうして鼻血なんて出してるんです?」
まぁそんなこんなあって、凱旋の日当日。
帰離集の中心は豪華に飾り付けられ、戦地から帰ってきた兵士達が割れるような声援を浴びながら町中を闊歩する。
そしてその先頭には、荘厳な衣装を身に纏った帝君の姿が一瞬見えた。ガチでかっこよかった。一人だけ作画が違ったもん。
町の人々も帰還した家族や恋人との再会を喜び合い、浮き足だった雰囲気を感じられる。
…しかし、僕らを除いて。
時間が足りない、技術が足りない、なにより人手が足りない。柯里ちゃんや米卡くんを初めとした新人達は奮闘してくれたものの、幾度となく押し寄せる注文の嵐に押し負けてダウン。
その分の空きを竈神と僕が気合いで埋めることでなんとか持ちこたえているが、そろそろ僕も疲労で死にそう。塩と砂糖の違いすら分からなくなってきた。
そのくせ宴会の方では飲めや歌えやの大騒ぎ。くそぉ、かくなる上は…
「すみません、少し強引な手段を使わせていただきます」
「そ、それは…」
僕はおもむろに懐から格段に度数の高いお酒を取り出す。そして、会場で騒いでいる野郎どもの杯にこっそりと注いでいった。
名付けて必殺、「アルコールで酔い潰し作戦」!前世で嫌いな上司との飲み会を強引に終わらせたいときによく使った戦法だ。
上司はお酒で酔い潰れてハッピー。僕も早く終われてラッキー。まさにWin-Winな作戦だった。でもよい子は真似しないでね。
給仕班は酒と料理で戦士達を楽しませることを最終目標としていたから、あながち間違った作戦ではない。
こっちは愛しの新人達が疲労でぶっつぶれるまで頑張ったんだ。お酒でつぶすぐらいいいだろ。
「う、こ、ここは…」
「目を覚ましましたか?」
しばらくして、米卡くんと柯里ちゃんがほぼ同時にもぞもぞと動き出した。眠そうに目を擦りながらゆっくり瞼を開く。
そんな二人は今まで自分が寝ていた場所が僕のお膝の上だと気づくと、顔を真っ赤にして飛び起きてしまった。
「わ、すすすすみません!」
「うへへへへへへへへ」
…なにやら多様な反応を見せてくれる。柯里ちゃんは顔を真っ赤にして照れてるようだし、米卡くんの方も慌てて謝罪してくる。
どっちもからかい甲斐があって可愛い後輩だ。…最近は彼らの他にも、僕の後続に沢山の若手が入隊している。
帰終様曰く、ここ数年で食糧供給や道徳と福祉が充実して、帰離集の治安は更に良くなってきているらしい。
そのおかげか、これまでは「復讐」だとか「憤怒」といった負の『願望』を頼りに神の目を手に入れたケースが多かったが、「憧れ」や「夢想」といった前向きな理由の子が増えているとのこと。
前者だと、そもそも心の持ちようが違うために悪用して犯罪に走るケースもあったが、後者ではそんなことはめったにない。
実際、「昔助けて貰った人に恩返しがしたい」とか、「どうしても諦めきれない人がいる」と熱烈に夢を豪語するメンバーも続々加入中だ。彼らには是非頑張って欲しいね。
そんな感じで力ある者が弱き者を守り、格差ない社会が段々と出来上がっている。こんな時代においては、いや、転生前の世界から見ても理想郷と言えるだろう。
そして、帰終様や帝君が思い描いていた町作りの一端でも僕が手助け出来ていると考えると、これまで経験してきたことも無駄じゃなかったのだと思えて光栄だ。
…なーんて達観した年寄りくさい感情を抱きながらも、決して内心をさらけ出すことはしない。
こんな自惚れみたいな考え、冷静に分析すると恥ずかしいな。心の内にとどめておこう。
宴の余韻に包まれた雰囲気の中、膝枕の為に女の子座りをしていた僕に向き合い、殊勝な態度で頭を下げつつ二人はまだ真っ赤な顔色のまま僕に告げる。
「申し訳ありません!結局最後まで対処しきれず甘雨様にご迷惑を掛けてしまいました…」
いやちょっと待て。どうして君たちが謝るんだ。僕は後輩に頭を下げさせるほど器の小さいやつではない。
それに二人は初心者なりにとても頑張っていた。忙しくて良く見る暇がなかったが、他の誰よりも黙々と取り組んでいたように見えたぞ。
だから僕は、二人を労るような優しい口調で、にこやかに微笑みながら口を開く。
「よく頑張ってくれましたね。…でも、私は「ごめんなさい」よりも、「ありがとう」の方が良いと思いますよ。だってそっちの方が、私は言われて嬉しいですから!」